注目記事 解説

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H23.11月の注目記事【裁量労働制・専門業務型】

2011-11-30 11:47:21 | 今月の注目記事
栄えある、第1回目の注目記事はこれです。

裁量否定、残業代認める/要件満たさずと京都地裁

この記事を取り上げる背景から説明します。

現在、労務環境において、長時間労働やそれに伴う残業代は、ホットスポットと言えます。
従来以上に、高熱になっているという言い方が正しいかもしれません。
これまでも重要なスポットの一つでしたから。

それではなぜ、「従来以上に高熱になっている」か?

それは2つのアプローチがともに重視されているためです。

一つは労働基準監督行政からのアプローチ。
つまり、監督署の重点課題なのです。
もちろん、残業代の不払いという法違反という要請もありますが、
それに加えて、過重労働と労災事故の関連という要請も強くなっています。

もう一つは、労働トラブルからのアプローチ。
残業代が適切に支払われているかどうかは、タイムカードと給与明細を見れば、簡単に決着します。
この簡便さに、昨年一昨年までクレサラ問題で稼いでいた弁護士・司法書士が
新たなビジネスの種として注目し、問題の掘り起こしをしていると巷間言われております。

このような事情で従来以上にホットスポットになっている
長時間労働や残業代にまつわる判例の記事を取り上げたため、
さらに、その内容についても、解説する必要があることから、今月はこの記事を取り上げました。


それでは、この記事を読む前の前知識から説明を始めます。

まず労働基準法の原則からです。
労働基準法の原則は、時給で成り立っていると言っていいかもしれません。
つまり、1時間働いたら決められた賃金を支払いなさい。
残業をしたら、その1.25倍の時給を支払いなさい、と。

製造工場のように、時間と成果が概ね比例する職場ではこの考え方は問題ありませんが、そのような職場ばかりではありません。
代表的なものが営業職です。
時間と成果に比例的な関係が成立しにくく、
また労働しているかという把握も、外勤ということであれば特にし辛い職種に
労働基準法の原則だけを当てはめようとするのは差支えがあります。
このため、「事業場外のみなし労働時間制」という例外措置を設け、
所定労働時間あるいは必要な時間、労働したものとみなすという形で整合を取れるようにしています。

この事業場外のみなし労働時間制の発展型?として、裁量労働制という例外措置が用意されています。
「事業場外」が会社の外であるため、労働時間の把握ができないという理由で「みなす」のに対し、
裁量労働制では、その業務の時間配分や業務遂行の手段が労働者に委ねられており、会社が指揮監督できる余地が少ないことから、労使協定で合意した時間働いたものと「みなす」という制度です。
このため、あらかじめ労使協定で合意した時間が労働時間となることから、残業代についても事前に決定され、また不払いは起こりえないものと考えるのが常識的です。

関連情報を少し入れます。
この裁量労働制は、設計・開発などの専門業務型(労基法第38条の3)と経営企画室などの企画管理型(労基法第38条の4)に分かれ、専門業務型では過半数代表者との労使協定が、企画管理型では労使委員会での4/5以上の多数決による議決が必要です。

話を戻します。
前述のように、裁量労働型では理論上残業代の不払いは起こりえないものですが、この記事の判例では、この当事者である労働者の業務が裁量労働の範囲外の業務を行なっていたと判断し、その部分で残業代が生じ不払いが起きていたとしているようです。

元々、中小企業においては企画管理型は尚更のこと、専門業務型であっても、裁量労働制の適用を受けることはハードルが高いことから、詳しく見てみないといけないという余地は残しつつ、この判例は更にハードルを高く押し上げたものと考えられます。
会社側の弁護士の「SEの職務の実態を裁判所が理解していない」というコメントから、上告されれば高裁・最高裁がどんな判断をするかも見ものです。

私が購読している労働経済判例速報でも取り上げるのは半年後かなぁ?

なお、比較的導入しやすい専門業務型裁量労働制についてはこちらから