ものぐさ日記

ひとり遊びが好きな中年童女の日常

『食魔』 岡本かの子

2009年04月12日 | 
 講談社文芸文庫から岡本かの子の『食魔』が出ていたので購入。講談社文芸文庫は、文庫になかなかならない本や絶版を発行するらしくて、300ページ足らずの文庫本なのに、1,400円と高めです。岡本かの子は歌人ですが、この本は、食にまつわる小説を随筆集。

 小説はどれもこれも、ちょっと恐いような寂しいような話。かの子は、仏教研究家でもあったので、「食べるということは、他のものの命をもらうこと」だという意識が働いているような気がします。表題作の「食魔」は、若い頃の北大路魯山人がモデルです。魯山人は一時、岡本可亭に師事していたことがあり、かの子は、舅(可亭)や夫(岡本一平)からよく魯山人の話を聞いていたようです。

 随筆は、2年あまりの外遊(ヨーロッパ、アメリカ)の食事についてが半分と、季節の素材を生かした和食についてが半分。旅行中に食べた各国の食事の方が、詳しく書いてあって断然おもしろい。


 でも一番おもしろいのは、巻末についているかの子の年譜です。かの子は当世一の売れっ子漫画家だった岡本一平の妻となり、「爆発だ!」の岡本太郎の母ですが、誰々の妻とか母とか、そういうカテゴリーに収まらない個性。大学で近代短歌の講座を受けたとき、岡本かの子を研究テーマに選んだまゆこちゃんが、「こわい~」と言っていたのを思い出しました。まゆこちゃんの反応を見て、瀬戸内寂聴の『かの子繚乱』を読みました。今読み返すと、昔よりさらにかの子のエネルギーが恐ろしく思えます。

 ・裕福な家庭に育ち、少女時代は学業は優秀だけど、実生活ではボーッとしていて、よく食べこぼしたりしていた。そうかと思えば神経過敏で、気持ちが高ぶると視力が衰えて目が見えなくなるほど。

 ・娘時代はブスで厚化粧だったが、文学青年の兄に溺愛され、兄の文学仲間の谷崎潤一郎たちを紹介される。そのうちの1人の公家の青年と恋愛をするが、身分が違うと青年の実家から反対され、駆け落ちするも連れ戻される。

 ・強度のヒステリー症治療のために静養していた軽井沢で知り合った東京美術学校の生徒から、岡本一平を紹介される。かの子の母は、「家事向きにしこんでいないから」と、縁談を断るが、妊娠していたこともあり結婚。翌年太郎が生まれる。

 ・一平の仕事が増え、浮気するようになると、かの子の精神状態は荒れ、大学生と恋愛に陥る。妊娠・出産した子は、彼の子供といわれるが、生後数カ月で死亡。夫一平の許可を得て、大学を留年した彼を同居させる。その後身ごもり、出産した子供も、恋人の子だといわれている(子供は生後数カ月で死亡)。数年間の同居ののち、恋人と別れ、神経過敏と胃酸過多でやせ細る。

 ・宗教に救いを求め、最初はキリスト教、次に仏教研究に没頭し、一切の家事・子育てを放棄。

 ・痔の手術を受け、担当医と恋に落ちる。医師はかの子との恋愛が噂になり辞職するが、北海道までかの子が連れ戻しに行き、岡本家に同居させる。

 ・岡本太郎の外遊に、かの子やかの子の恋人の医師もついていく。ヨーロッパとアメリカを2年ちょっとかけて旅行。旅行中に結核に感染した恋人は医師をやめ、以後かの子が亡くなるまで、かの子の秘書的存在となる。


 …などなど。
 岡本かの子は48歳で亡くなるまで、ずーっと精力的な女性…かの子の妹のことばによると、「タイラント(暴君/専制君主)」だったそうです。


 瀬戸内寂聴の「かの子繚乱」はそれでもかなり、かの子に好意的な小説です。読んだことはありませんが、円地文子の「かの子変相」では、もっと批判的に書かれているようです。


 和食に関する随筆で、かの子は、日本の四季の味、素材を生かした単純な調理を好むように書いていますが、年譜を追った後では、そんなあっさりした食事であのパワーが維持できるものなのか疑問です。

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2 コメント

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Unknown (鯉三)
2009-04-21 01:04:30
この記事のタイトルを見た時は驚きました。岡本かの子の短編はほとんど読んでいるのですが、この作品と「鮨」は特に気に入っている作品です。

読書の習慣を再び取り戻したい気持ちでいっぱいになりました。
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食は生なり (とーこ)
2009-04-21 21:54:35
岡本かの子は若くして(48歳)で亡くなったので、最後まで枯れなかったようですね。スシは、寿司とも鮓とも書きますが、この作品には「鮨」以外の字は当てはまらないような感じがします。「家霊」も「女体開顕(抄)も味わい深かったです。」
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