タブー

2023-06-09 20:10:00 | 日記

たった一言がもとで炎上といわれる状態が巻き起こったりしているが、

それを目にするたびに「なぜだ?」と思うことがあったりする。

口にはしないだけで、実は同じことを思ってる人間は多数いるのではないかと

そんな風に感じるのだが、やはりそれを表に出してはいけないのだろう。

 

ある男の話を書こう。

その男を仮に鈴木とする。

 

鈴木は周囲から羨ましがられるほどあたたかい家庭を築いていた。

年の離れた若く美人な妻と、妻に似たかわいい娘。

鈴木と妻は仕事を介して知り合い、一目惚れした鈴木の猛烈なアプローチで

結婚へとこぎつけた。

ふたりはまだ世に出ていない物書きだったのだが、結婚後に妻の方に小さな仕事が舞い込み、

いつしか大手から話がきた。

結婚後は生活のため、東京を離れ地方都市に転居していたのだが、妻に

「東京へ出て、再度本格的に仕事をしないか」という誘いがあった。

妻は、この小さなしあわせを壊したくないとそれを断った。

鈴木もそれに安堵していたのだが、その数年後ちょっとした口論で

鈴木は言ってはならないことを口にしてしまったのだった。

 

「こんなちっぽけな暮らしの何がおもしろいんだ。

お前に持ち上がった仕事の話を聞いた時、俺だったら全て捨てて

東京にいってたさ」

 

家庭とチャンスを天秤にかけた時、妻が捨てたキャリアの方が

鈴木にとっては重たいという発言だった。

「しまった!」

そう思っても時すでに遅しだ。口から出たものは引っ込められるはずもない。

 

この言葉に対して鈴木は謝罪をしたものの、妻の中では大きなしこりとなり

妻は物書きの仕事を本格的に再開させ、

「私もあなたと同じ価値観になりましたので、離婚させて頂きく思います。

このつまらない生活にピリオドを打って、羽ばたかせて頂きます。」

そう三行半を突きつけ、妻は娘と共に出て行った。

 

言ってはいけない一言だった。

例えそれが本心であってもだ。

本心であったなら尚更隠し通しておくべきだった。

 

男の本心なんぞより、女の覚悟は重たい。

 

炎上はぽろりと出た本心の中に火種があるものなのだろう。

その後に謝罪をしたところで、それを真に受け止める人間などきっといない。

 

言わぬが仏。

 

 


振り返り

2023-06-09 17:56:02 | 日記

自分の考えていることを客観視した時、

他人は何を考えて生きているのだろうと気になってくる。

 

あれはいつだったか。

六本木の交差点手前で人目をはばかることなくおいおい泣いてた若い女がいた。

歩行者はチラッと見た後、すぐさま真っ直ぐ前を向いて交差点を渡っていった。

声をかけてもあげないなんて、都会の人間は冷たいという人もいるだろうが

これはこれでやさしさな気がする。

「どうしました」なんて声をかけられたところで、女にしたら「放っておいて」といったところだろう。

有様から見て、男にフラれたという雰囲気だ。

それを「どうしました」と聞くのは野暮であって親切ではない。

自分は、都会のそういう親切が嫌いではない。

 

友人タツヤがある時、道端で号泣したことがあった。

突然にだ。

理由を聞きはしなかった。

きっとタツヤ自身も明確な理由なんてわからなかったのかもしれない。

ただ声をあげて泣きたい気持ちだったのだろう。

もう戻らない情熱への叫びだったのかもしれない。

 

六本木交差点の女もタツヤもわかりやすくて自分は好きだ。

 

他人は何を考えて生きているのだろう。

思い出に押しつぶされそうになることはないのだろうか?

 


曖昧

2023-06-07 18:48:38 | 日記

 

曖昧な季節だ。

寒くもなく暑くもなく、程よいといえば聞こえはいいものの

実に曖昧で身体も感覚も気だるさを増してくる。

この季節はあまり得意ではないな。そう初めて気づいた。

 

コロナ禍も曖昧さを含み始めて、この数年で染み着いた常識を

また元に戻すことにしどろもどろしてる。

ステイホームが一変して今度は「さーさーみなさんお出かけして経済回しましょう」と

そう言わんばかりの過剰なアピールがTVから雪崩みたいに押し寄せてきてるの目にすると、

さらにだるさが増してくる。

自分たちはコマなのだと痛感する。

 

 

相変わらず真夜中からしか動かない脳味噌に少々刺激を与えるために

YouTubeなんぞを始めてみた。

誰かに何かを伝えたいとかそんなご親切ではなく

自分に言い聞かせるみたいに綴り出した言葉たち。

海の香りだけが時折鼻の奥をツンとさせるだけのこの町にいながら

頭の中ではギラギラとネオンが輝き続けてるのだから、架空は甘美な空間だと思う。

この際、架空の世界で生き延びられたらと願ったりしている。

 

しかし、コロナで尻すぼみになった世の中は、マイナーな世界をメジャーに変えて

これまでとは違った世界観を美と仰ぐようになりつつあって

これまた気だるい。

覇気はどこへ行った!

この言葉、まるごと自分に吐いてるような、今日はそんな夕暮れだ。

 

曖昧な季節なくせに、やたら暑かった今日がやんなっちまう。

 

あのYouTubeを見る人間は果たしているのか?

 

 

 


夜に繋いだ言葉たち

2023-06-07 10:41:22 | ショートストーリー

 

ミッドナイト千夜一夜

ミッドナイト千夜一夜

自分の中にある想いや迷いを言葉にしていったり、物語を綴るチャンネル。架空の世界で、ほんの少し息抜き。

YouTube

 

 


初秋

2022-08-22 19:10:29 | 日記

ひぐらしが鳴きだすと秋を感じると言った人に、

ひぐらしは秋の季語として使われるが、

実は夏になって一番乗りで鳴きだすのはひぐらしなのだと

そう伝えたことがある。

なのに、やはりひぐらしの鳴き声はどこか淋しげで

秋を感じさせずにいられない。

 

ここのところ日暮れも早くなり、今日なんかは涼しさも極まり

8月とは思えない天候だったせいか

意識せずとも朝の目覚めの一杯はホットコーヒーだ。

同居のバカ猫は、マグカップから立ち上る湯気を大きな瞳で追いかけていた。

秋か。

秋なのか。

特別なことがないまま夏が終わり、ただひたすら季節が変わる。

自然はむごいもんだ。

こっちの気持ちなんぞお構いなしに流れていく。

一体このまま流れてどこで自分は塞き止められるのだろうかと

終わりを推測し始める。

夏とは真逆の季節は冬ではなく秋なのだと思う。

冬は冬でなにかしらの覚悟を持てる季節なのだけれど

秋はどうにもこの中途半端がいけない。

涼しくて過ごしやすいわね~なんてことを言う人もいるけれど

ひとり者の身にはあまり喜ばしい季節でもない。

それを言ったら、どの季節もそうなんだが。

そう思った瞬間に、家庭を持った友達の顔を思い浮かべて、

さびしさはひとり身だけのものでもないような気もしてきた。

今年は盆休みに実家に顔を出そうと嫁に言ってへそを曲げられ、

実家に付き合う代わりに海外旅行を約束させられた友人は

タイムマシーンがあったら過去に戻って、一生独身を貫くぞと

そう言っていた。

ひとりでもふたりでも、人数は関係ないのだろう。

何が正解かなんてわからんなー、と

正解のない問答を繰り返しながら

秋が始まった。