水俣病公害と福島原発事故
水俣と福島は多くの共通性があると指摘されています。
水俣訴訟などに携わった弁護士や関係者の発言や資料から水俣や福島の真相に迫り、水俣から福島が学ぶべき点などを以下に書き抜いてみました。
1.水俣病は国策による軍事工場から排出され続けた有機水銀中毒による公害病である。
・50年経って昨年国は因果関係などをほぼ認めたが、害者救済などは抜本解決に至っておらず
今も戦い(裁判論争)は続いている。
・福島原発事故も水俣病と全く同じような構図である。
人の命よりも経済活動を優先させる姿勢が続いている。
原発も背景に核戦略が見え隠れする国策である。
2. 水俣病でも急性症状と慢性症状(微量長期摂取の場合)では症状も異なる。
・かねみ油症、炭鉱じん肺についても、長期間にわたる診療治療記録が不足している。
本来は、国が健康追跡調査、悉皆調査をすべきなのだが、していない
・放射能健康被害は水俣以上に結果が現れるのに時間がかかるであろう。今の今も被ばくが続いている。30年、50年後の被害を明らかにしていく事も視野に入れておかねばならない。(水俣病も長期低濃度汚染があり現在も進行中である)
・水俣では汚染状況および被害状況(病気の認定基準も被害者に寄り添う姿勢に遠い)を原因企業、国は過小評価してきたが、原発事故でも同様な動きがみられる。
・汚染状況、被害状況そして被爆者を支援する独立した調査機関、医療者集団が必要である。
・汚染はナノやピコという微量単位が問題になってきている。
長期間の微量汚染‥低線量長期被曝‥に曝されるリスクをしっかり見据えることが大事
現在公害病原因物質(有機水銀やダイオキシン等々)のとらえ方はマクロ(100万分の1)からナノ(10億分の1)さらにピコ(1兆分の1)の単位で、しかも長期的に見ていかねばならない。(水俣病は半世紀を超えて今まだ患者がでている。放射能に至ってはその半減期が人間の寿命をはるかに超えるばかりでなく、遺伝子に悪影響を及ぼし子々孫々にわたり禍根を残すことを思い起こさねばならない)
3. 福島で今やるべき事
・被害・汚染状況を記録しておく(へその緒、乳歯、髪の毛などの保存も役立つであろう)。
・損害賠償を臆せずしっかり請求する(数は力、同志を募って)。
・地域の再生を図る
・2011年8月に成立した原子力損害賠償支援機構法は、チッソ金属支援の仕組みと瓜二つ。
・原因企業である東電の責任を軽減して電気料金を通して国民に負担を強いるものだ。
・チッソも分社化をしたが、それは国が企業を破綻させず、背後に回って金融支援をしながら責任逃れをする構図にもなっている。
・原発事故の賠償に充てる財源は、東電の資産ばかりでなく、歴代社長、担当大臣、官僚の個人資産、そして、銀行や株主、社債引き受け手も優先的に吐き出させるべきであり、電気料金や税金を充てるのは最後の最後であるべきだ。
・損害賠償請求をするという事は、法的にも正当な権利であり、無責任な企業や国に対する最も有効な手段でもある。社会正義を実現し、真の民主主義を守ることにも通じる。
4. 公害病について
・加害者(企業、国、環境省、通産省)は、公害被害者を切り捨ててきた歴史がある。
・倫理性を欠いた市場原理主義に委ねる科学技術の発展、利潤の追求は、多くの人々の生命・健康・暮らしを揺るがし、自然と人間の営みを破壊する。
・公害を作り出す構造には多くの場合「国の基準を守ればよい」という考えがあるが、公害病をもたらす化学物質や環境ホルモンや放射性物質は、多くの場合基準・規制値は企業寄りの急性症のみ意識した数値にとどまっている。
・公害裁判は未来を勝ち取る被害者、市民の100年戦争という自覚と覚悟を持って取り組んでいきたい。
さらに、これ以上被害者をつくらず、過ちを繰り返さない為にも公害裁判は意義がある。
5.情報について
・情報という観点では、水俣病の初期に「ネコ400号」の実験結果の公表が10年遅れたり、毛髪水銀調査の結果が活かされなかった。つまり、チッソだけ、或いは国と県だけが情報を握り市民、国民には知らされなかった歴史がある。
・それは、福島事故でもスピーデーはじめ被曝の実態など各種情報が市民国民に知らされなかった事実と重なる。(メディアにも責任の一端はあろう)
6.国際的原子力関連機関について
・放射線の健康リスクに関して、国際的な影響を持つ組織の性格を確認しておく必要がある。
(主だった二つの組織があるが、どちらにも批判がある)
① ICRP(国際放射線防護委員会)=原子力産業寄り。(IAEA.WHOもこのグループ)
チェルノブイリ事故による健康障害の評価、原発周辺の小児白血病、劣化ウラン弾の健康影響などについての評価をしていない。基準が緩すぎるとの批判がある。
低線量放射線の健康影響を評価するために、致死性のがん、遺伝性疾患、IQ低下などの項目のみを対象とした。
非致死性のがん、幼児死亡、低出生体重児、原爆ぶらぶら病などの異常は無視している。
② ECRR(ヨーロッパ放射線リスク委員会)=市民寄りの市民団体
2010年ECRR勧告では、軍用の核兵器開発、核実験による放射能汚染を人道に対する罪とみなすべき、とした。
7.原発の存在について〈原発は存在するだけでも次のような問題がある。〉
・原発立地地域では、健全な民主主義、投票の自由なども制限されている現実がある
・原発現場で、作業員は高放射線量を浴びている
・原発から温水を流すことも公害。(水産資源にも悪影響をもたらす)
* 以上の文は、ブックレット「水俣の教訓を福島へ」①、②(編著者:原爆症認定訴訟熊本弁護団。
たんぽぽ法律事務所;TEL0963522523) 及び水俣訴訟などに携わった馬奈木昭雄弁護士の
講演などを参考にしてまとめたものです。(ブックレットをお読みになることをお勧めします)
水俣訴訟に携わった弁護士たちの応援も得て、今次のような裁判に取り組みがあるので紹介します。
「生業訴訟(なりわいそしょう)」について
スローガン 「生業を返せ、地域を返せ!福島原発訴訟」
① 2013年3月に原告団結成。
・原告は福島県を中心にして2014年6月には全国に約2600人になっている。
(事故当時、福島県、宮城県、山形県、栃木県、茨城県に居住していた人たちはだれでも参加できる)
・弁護団は全国の公害訴訟などの取り組んできた約70人の弁護士が結集
・日本では現在17の原発裁判を闘っているが、その中で原告数最大の訴訟団
・2014年6月までに福島地裁で6回の口頭弁論が開かれた。
② この裁判は、国と東電の責任を問う民事裁判である。
そのねらいは イ)原発のない元の地域にもどす(それまで月5万円の慰謝料を求める)
ロ)②それぞれの被害に見合った被災者救済を求める
ハ)③被害を繰り返さないために脱原発を求める
・「人の命より経済活動を優先させる国や企業の在り方」を問う
・この事件は公害である。二度と公害を起こさない社会をつくる
③ 2014年9月の最終提訴に向けてさらに原告を募り、裁判所が動くという原告5000人を越して
1万人に迫る活動を目指して取り組んでいる
・避難した人たちの為にも、地元(福島)が危ない環境であることを認めさせる。
④ 現在2014年9月の最終提訴に向けて仲間(原告)募集中。(連絡先は下記の通り)
「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発事故被害弁護団連絡先
代々木総合法律事務所 TEL 03―3379―6770
安田法律事務所 TEL 024―534―0009
* ネットでは「生業訴訟」などのキーワードで知ることができる。