地球破壊爆弾No.V-7

とあるパロロワ書き手の一人が徒然と思うままに何かしらを書き綴っていきます。

再起動

2000-01-01 | パロロワ
海沿いに大きく広がる遊園地――その東端。
案内所、そして待合所を兼ねたその建物の中に劉鳳はいた。


この不愉快なゲームが始まってからすでに一日の三分の一が過ぎようとしている。
だが自分はまだこの遊園地からすら一歩も外に出ていられないでいる。
すでに十九人――またはそれ以上の犠牲者が出ているのにも関わらず、自分は一切正義と
言える行動を取れていない。
闇雲に破壊を撒き散らしこの園内を右往左往しているだけだ。これじゃあまるで……

「クソッ!」

組んだ指に力がこもる。
やはり、あの観覧車を破壊してしまったのがそもそもの間違いだったのだろう。
ギガゾンビに対する憤りを、……感情を抑え切れなかった。
自分が守るべき対象――力なくただ危機に晒されている者達。
それらはアレのせいで遠ざかってしまっただろう。そして、初めてこの舞台で出会えた
人形にしか見えなかったあの少女。彼女もそのせいで自分から逃げていってしまった……

ギガゾンビも勿論許せない。必ず断罪すべき存在だ。だが、今は自分に対する不甲斐無さに
対する憤りの方が強かった。
すぐにでも此処を飛び出し、外に蔓延る悪共に正義の存在を知らしめてやりたい――だが。

部屋の端、毛布の上に寝ているのは先程出あった少女、”長門有希”だ。
先程の観覧車の下での戦闘を検分の後、食事を取っている最中に急に熱を出して寝込んでしまった。
おそらく原因は頭部の傷だ。記憶のこともある。脳内で出血が起きているのかもしれない。
すぐに病院へと考えたが、思い直した。病院の機器もこの遊園地同様、正常に稼働しているとしても
医者は居るはずがない。ならば無理をして出向いても意味はない。

そして、それから一時間程だ。
すでに新しい犠牲者が出ているかもしれない。今まさに悪が正義を踏みにじろうとしているかも
知れない。だが、此処に彼女を置き去りにするわけにもいかない……

絶影の触鞭で叩かれた受付カウンターが真っ二つに割れる。

「何をしているんだ……俺は……っ!!」


劉鳳の中で高まる悪への怒りの炎は、その身を焦がさんばかりに高まっている。
だがそれでも、ただただ無為に時間は過ぎ去るばかりであった。


<--再起動-->

<--構成情報に深刻な障害が発生-->
<--直前の情報の取得に失敗-->
<--情報統合思念体のバックアップより取得を試みます-->
<--情報統合思念体へのアクセスに失敗-->

<--情報の復元を試みます-->
<--有機インターフェイス用模擬人格を再構築-->
<--表層人格を再構築-->
<--有機インターフェイス内に蓄積された情報を復元します-->

<--復元された情報からコマンドを発見-->
<--実行します-->

”そう、生贄だ!キサマらにはこれから殺し合いをしてもらう!”

<--ERROR-->
<--権限がありません-->

<--復元された情報からコマンドを発見-->
<--実行します-->

”そう、生贄だ!キサマらにはこれから殺し合いをしてもらう!”

<--ERROR-->
<--復元された情報内に当有機インターフェイス内で発行された権限を確認-->
<--実行します-->
<--ERROR-->
<--実行に適した状態ではありません-->

<--有機インターフェイスを自己保全モードに移行します-->
<--表層人格を適応擬態モードに移行-->
<--空間に負荷を確認-->
<--自閉症モードに移行-->

<--ERROR-->

”そう、生贄だ!キサマらにはこれから殺し合いをしてもらう!”

<--ERROR-->
<--コマンドが正しくありません-->
<--ERROR-->

”そう、生贄だ!キサマらにはこれから殺し合いをしてもらう!”

<--ERROR-->
<--ERROR-->
<--ERROR-->

<--空間に負荷を確認-->
<--自己保全を最優先-->
<--ERROR-->

<--深刻な障害が発生しています-->


「……なんだ?」

気がつけば寝かせた"長門有希"の体が淡い光を帯びている。
そして、全身を包む燐粉のような――
突然、上から引っ張り上げられたように彼女の身体が立ち上がる。そして、全身を包んでいた
光が両手に収束すると大きさを増して二つの刃となった。

「アルター能力ッ!?――だが」

周囲から物質を取り込んだ様子がない――いや違う!あの彼女の身体から零れ落ちる光。

「自分の身体を分解してアルターに……?」

何故だ?彼女はアルター能力者だったのか?何故突然発動を……、しかもこんな形で。
起き上がった彼女に表情はない――無意識なのか?だとすれば……

「……アルター能力の暴走」

そうだとしか考えられない。無意識で発動しているアルター能力が彼女を取り込もうとしているのだ。
自身を再構成するアルター……、このままでは彼女は存在の崩壊を起こす。

「長門有希っ!」

彼女に呼びかける。このまま意識が戻らなければ――アルター能力を抑制できなければ彼女は
いなくなってしまう。見捨てるわけにはいかない。
……だがしかし、呼びかける以上のことができない。自身の絶影にあるのは絶大なる破壊の力。
これは今彼女を救える力ではない。

「長門有希っ!目を覚ませっ!」

少しでも声が届くようにと彼女に近づく。歯痒さに焦燥が募るがこうする以外にない。
現在の不安定な状態な彼女に物理的衝撃を与えれば、衝撃で崩壊していまうことも考えられる。
一歩、二歩……近づくと光の粒子が――彼女の体の欠片がサラサラと零れ落ちるのが確認できる。

「長門有希っ!目を覚ますんっ――!?」


「残念。おしかったね」

朝倉涼子の手首から伸びた光の刃が劉鳳の胸元に伸びている。

「……なんのつもりだ。長門有希」

その光の刃が身体を貫くのを直前で止めたは絶影の触鞭だ。

「私を介抱してくれたことには感謝するわ。おかげでこのように再起動することができた」

二人が出合った時とは違う明るい顔だ。

「アルター能力者だったのか……?」


――アルター能力。彼の目の前に居るあの戦闘用デバイスのことか。
なるほど。高次元の存在へのチャンネルにアクセスしているのが確認できる。
構成情報をダウンロードし、脳内で処理を施し物理現象として投影する。
過程は多少異なるが――

「確かに私の持つ能力と似ているわね。興味深いわ」
「解った。……ではコレはどういうつもりだ。君が悪だったとしたら」
「……したら?」

光の刃に力をこめる――次の瞬間吹き飛ばされた。


薄い壁を突き破り朝倉涼子が光の尾を引いて飛び出してくる。更にそれを追って絶影が飛び出し
二本の触鞭で彼女を襲う。それを彼女は一本を跳躍して避け、もう一本を光の刃で弾いた。
避けられた触鞭が敷き詰められたレンガを派手に抉り、弾かれた方が案内所の屋根を吹き飛ばす。


すごいパワーとスピードね。こちらの制限されている能力に比べると遥かに上回っているわ。
力押しではかないそうにないわね。


朝倉涼子に降り注ぐレンガの欠片が突如その動きを変え、飛礫の嵐となって劉鳳を襲う。
劉鳳は片方の触鞭だけでそれを全部掃うと、もう一本を大きく振り下ろす。朝倉涼子に再び避けられた
触鞭は海賊船を支える支柱を真っ二つに叩き折った。軸から外れて地面に滑り落ちた海賊船が
朝倉涼子の力で劉鳳の方へと突進する。が、それはたちまち絶影の手によってバラバラに解体される。
破壊の渦を巻き起こし二人は遊園地内を駆ける。


所詮は有機生命体ね。どれだけチャンネルを開放して攻勢情報を得ても、処理の限界は低く
性質は非常に単純だわ。


朝倉涼子は隠し持ち時間を掛けて構成情報に細工を施した鎖鎌を劉鳳へと放つ。


機関銃のように打ち込まれてくる飛礫の大外。大きな弧を描いて鎖鎌が飛来してくる。
飛礫は目くらまし?だが、この程度絶影の力を持ってすれば捌くのはわけない。
絶影の触鞭を一本伸ばして鎖鎌を弾――!?


触鞭に弾かれると思われた鎖鎌だったが、結果はそうはならず餅のように粘り絶影に絡みついた。
不可思議な現象に虚を突かれた劉鳳が一瞬の間を置いて振りほどこうとするが、それは致命的な
一瞬だった。


今まで防戦一方だった朝倉涼子が一直線に突っ込んでくる。絶影はその後だ。
間に合わないと悟った。そして、一直線突進してくる彼女の姿は……まるで――……

(……カズマ)


次の瞬間、朝倉涼子の光の刃が劉鳳の胸を貫いた。さらに半瞬後、もう一本の刃が彼の首を刎ねる。
刎ねられた首は放物線を描いて地面に落ち、それと同時に首の上に乗った首輪が小さく爆発して
血の噴水を巻き上げた。
朝倉涼子が刃を引くと残された身体がゆっくりと地面に崩れ落ちた。


数分後、刎ねられた劉鳳の首は朝倉涼子の胸の中に抱えられていた。


高次元の存在にアクセスして情報を受け取りそれを処理する脳組織。
自らが情報を生み出す涼宮ハルヒほどではないけど、非常に貴重な物だわ。これを持ち帰れば
大きな成果になる。でも……

朝倉涼子の目は充血し、鼻からは血が零れ、心臓は早鐘のようになっていた。

意図しない暴走の結果、一時的に自己保全のためのリミットを解除することができたが、かなり
インターフェースを酷使してしまった。
それにいくらかの構成情報を攻勢情報に変換して使ってしまった。
たかだか0.04%だが、構成情報の剥離は少しずつだが続いておりこのまま1%を越えれば自己の
形を維持できなくなってしまう可能性がある……


そうなれば……消滅……してしまう。
統合情報思念体とのアクセスが制限されている今、消滅してしまうとこの成果が無に帰してしまう。



「……そうか」

そうだったんだ。
このゲームが始まってからの不安定な感情。
痛みに対する過剰な反応。
自己保全機能が発したエラー……

「わたし……、死ぬんだ」

この有機生命体用インターフェイス。これが死を迎えることが、今の”私の死”なんだ。
情報統合思念体による回収は無い。ただ失われるだけ――それが死。
わかっていたんだ――わたし。最初からそれに気付いてた。

高揚感だと思ったのは――不安。
痛みを受けて感じたのは――恐怖。

「……キョンくん」

正確ではないかもしれないけど、今理解したわ――有機生命体の死の概念。
これが……、これがそう。……これがそうなのね。

「……死ぬのってイヤ?……殺されたくない?」

うん。イヤ。殺されたくない。全てが無為になり、ただ情報が欠損されるだけなんてそんなのはイヤ。
……命を惜しむ。これがその気持ち。

「……涙?」

わたしは死ぬのが怖い。

どうしよう?この損耗度だとあまり長く存在できそうにない。近い将来、死は――免れ得ない。
胸に抱えた貴重な脳組織。それにギガゾンビの存在や不思議な道具の数々……どれもこれを
情報統合思念体に伝える前に死ぬわけにはいかない。

キョンくん。わたし、死ぬのが怖いよ。

「……アハ。アハハハ」

コレが死ぬのが怖いってことなんだぁ……


数十分後、朝倉涼子は遊園地の東門の外にいた。
肩から提げられたデイバッグには劉鳳の首が収まっている。

この空間で収集したい貴重な情報はたくさんある。涼宮ハルヒのこともある。
だが、今最も優先すべきなのは――長門有希。彼女との接触。

成さなければならないのは収集した情報を情報統合思念体に伝えること。
それが成さなければ存在の消滅は自身の死となる。
逆に言えば、わたしか彼女のどちらかがこの空間から脱出し、情報統合思念体とコンタクトが
取れればそれは互いが生き残ることになる。

彼女もわたしと同じように今既に窮地に立たされているかも知れない。
それでも……いや、それなら。
それならばわたしが彼女を援護する。わたしは彼女のバックアップなのだから。

「うふふ……」

自然と笑みがこぼれる。
死の概念――存在が有限だということがこれほど自身に影響を与えるとは。


「これが”生きている”ってことなのね」


そう呟くと彼女はゆっくりと歩き出した。
情報の粒子を少しずつ零しながら……




 【G-5/遊園地/1日目-午前】


 【朝倉涼子@涼宮ハルヒの憂鬱】

 [状態]:高揚/非常に疲労している/存在の0.04%を損失
 [装備]:SOS団腕章『団長』
 [道具]:デイバッグ/支給品一式(×2/食料×1)/ターザンロープの切れ端/輸血用血液(×3p)
      斬鉄剣/真紅似のビスクドール
 [思考]:長門有希と合流し協力し合う/涼宮ハルヒ及びキョンを探し観察
      それ以外の参加者は殺害/貴重な人、物は収集する

 [備考]
  自身を構成する情報が崩壊を始めており、それをばら撒きながら歩いています。
  これは長門有希、または魔術や第六感に長けた者だと気付く可能性があります。
  平静にしていれば少し、戦闘などを行なうと激しく消費してしまい損失率が1%を越えると
  崩壊を起こし死んでしまいます。


 【劉鳳@スクライド  死亡】

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