「俺、卒業式が終わったら涼宮に告白するんだ」
『ある平行世界での可能性① どうしても、お前を諦められなかったんだ』
・卒業式前日の三年五組の教室
卒業式の前日、最終練習が終わってからのHR前に、突然こう切り出してきた谷口。
自発的に死亡フラグを立てたのかよ谷口。そしてこれで何回目の告白なんだよ谷口。
いい加減…諦めたんじゃなかったのか?それとも、最後に壮大に打ち上げ花火を打って散るつもりか?
俺はただただ、コイツの某政党の元代表のキャッチフレーズだった「日本を、あきらめない。」を実践するような真剣そうな顔に半ば呆れそうだったな。
「谷口、君は本気かよ?ハルヒへの想いはよく分かるけど、…まぁ、いいと思うけどね。やるべきことをやって、潔く散ればいいと思うよ」
「それって…ひょっとしてギャグでi」
「ギャグなんかじゃないけどね。まぁ、僕もそれなりに応援するつもりだから。…頑張れよ」
俺の友達(と言っても、強引に仲間の輪になれと誘っただけだが)の稲葉も、『はいはい無理無理』とさじを投げやがった。
そんなに俺の高校時代最後のイベント(勝手に定義)が、「間違いなく失敗する」と勝手に決めつけるんだよ!?
俺は覚悟は決めたんだ。涼宮に告白して…、ダメならダメだった、良かったら良かったでいいじゃねーか!
だからよ、せめて涼宮に誰か、一言かけて……
「…涼宮さんには僕が伝えておくから。『最後のHRが終わったら、校庭に来てください。谷口君から話があるそうです』って。あとはお前次第だけどな」
「稲葉、お前もハルヒが好きだったんだな?真面目に言っても顔にはそう書かれてるぞ」
「確かに好きだったけど、…他に想っている人がいそうから、遠慮した。それだけだよ。というかキョンとハルヒはお似合い」ガッ
「俺は阪中さんと付き合っているのに、何頓珍漢なことを言ってるんだよ?浮気なんて御法度だし、『不倫は文化だ』と言ってた人と同じだと思われたくないしな」
「…とにかく、涼宮さんには伝えておくから。…だからさ、だからs」ガッ
「稲葉、お前には夢があるんだろ?遠慮するようじゃ夢は(略」
あー、稲葉とキョンが口喧嘩してるぜ。まぁ真面目すぎるアイツとキョンの間では「よくあること」で済まされるけどな。
…でもよ、伝えてくれるってだけでも本当にありがたいぜ!稲葉!お前と友達になれて本当に嬉しい!…本当は嫌々だったかもな。すまん。
だけどな稲葉、お前も早く正攻法で彼女を作れyo…
「ところで谷口、涼宮さんに伝えておくと言ったけど、ちょっと条件がある」
「何だよ稲葉?」
「一つ、もし告白が成功したら浮気を絶対にしない。二つ、失敗してもこれからは絶対にナンパしない。そして三つ目…」
「WAWAWA、あ、当たり前じゃねーか!俺は…俺は、一年の頃に見事にフラれまくってからナンパしなくなったじゃんか。それに、無言で学校を後にするよりかは、何か一つ、好きな人に告白して、潔く散って高校生活を終わらせた方が…いいに決まってるじゃないか」
「ふぅ、谷口もあれ以降何かキャラが変わったように真面目になったよなぁ。本当に革命的だったよ、真剣に物事に取り組んで、真面目に授業を受けていた。…二学期はじめはいつも居眠りすることが多かったけどね」
「バレンタインデーのチョコの数はあんまし増えなかったけどな。とにかく条件、全部受け入れておくぜ。あとな、稲葉」
「何だよ」
「俺も告白するんだから、お前も早く彼女を作れよな?生徒会長という地位だったのに、お前のユーモアぶりの無さは歴代生徒会長一と呼ばれてたくらいだし。昨年の生徒会長はいつも隣に喜緑とかいう女の子がいて噂には困らなかったよな…」
「…朝倉さんが好きだったけどね。あの人はカナダに留学しているそうだけど、もう帰ってきてもいい頃だと思うんだ。少しだけど『逢いたい』と思うし。だけど…あんまり夢想するのもアレだと思うし、忘れてしまおうとしているけどね…」
「稲葉…」
「とにかく、僕から伝えておくから。…頑張れよ」
…まぁ、俺は谷口の最後の告白を、生暖かく見守っておくことにするかな。ほどほどに頑張ってくれ。
それにしても、生徒会長の稲葉は本当に生真面目だったな。スポーツ系部活動費の増加の実現とか、SOS団擁護とかいろいろと生徒達のために頑張ってたという印象があったけど。
俺だってお前に感謝しているさ。
・その日の夜
トゥルルルルルル トゥルルルルルル
「はい。涼宮です」
「同じクラスの稲葉ですが、涼宮ハルヒ様はおらっしゃれru」
「こんばんは稲葉。あたしに何の用?いたずらだったりしたらすぐに切るからね!!」
「…あの、言いにくいとは思いますが、谷口君から連絡があって」
「そう?じゃあてきぱきと言いなさい」
「…『明日の卒業式終了後のHRが終わったら、校庭に来てください』以上です」
「…ありがと。ところであんた、好きな人はいるの?それとも、明日、告白する人はいるの?」
「…いないですよ。いないというか、学校の外に、告白したい対象はいるけど」
「ふーん。誰かは聞かないけどね。…あと、卒業前に一つ言っておくわね。SOS団の存続に力を貸してくれてありがとうね、稲葉。あんたがいなければ文芸部室を没収されて、あたしも世界に絶望するところだったわ」
「ありがとうございます。僕としても一年の時の奇行というか…涼宮さんの行動力には驚いたよ。結成されてから数回ぐらい部室を訪問して、PCで県議会のネット中継も見てたしね」
「そういや、あんたの父は県議会議員だったわね。その生真面目ぶりと機転の効かせ方は父親譲りだよね。あんたに投票して本当に良かったわよ。普通の人間だけど、何となく普通じゃない感じがして」
「…どうも。涼宮さんにこんな事を言われて嬉しいなと。でも、…突然だけど、ちょっと言っておく事がある」
「なによ」
「…僕は、その、あの、…涼宮さんが、…好きでした。変な人だと入学当初は思っていたけど、時間が経つ内に恋心が芽生えてきてしまって……。涼宮さんの笑顔で、僕はそれなりに幸せになれたときもあるし…。もっと涼宮さんの事が知りたかった。だかra」
「(何よその過去形に丁寧な言葉使い…)大丈夫よ、あたしはあんたの事、感謝はしてるけど、個人としては好きでも嫌いでもないから。…ごめんね。だけど、あんただけに言っておくけど、逆に明日、告白されたい(したい)人はいるんだよね…」
「わ、分かってるよ!(ちょっとというか、結構ショック…)…じゃ、じゃあ、涼宮さんの親にも迷惑をかけますからもう切りますね」
「ふふふ、あのね、まだ切らないで。…あたしにちょっと嫌われてショックだった?それともa」
「(ふぅ…)…明日の谷口君の主張というか、思い、しっかり聞いてくださいな。全て聞いてから、拒否するなり、受け入れるなりしてくださいな。じゃあ」
「…ち、ちょっと!あたしの好きna」ガチャ
…稲葉、あたしの想い、既に気づいちゃってたのかな?
確かに谷口は昔はナンパばっかりして、ズボンのチャックは閉めていたと思ったら瞬間的に開いてたり(凄く謎だったわ…)、周辺の女生徒からは結構嫌われていたわね。
けど、二年生になったあたりから結構真面目になってナンパをキッパリやめちゃったり、目標の大学に入学するために勉強も頑張るようになっていった。でもチャックの件は直らなかったけど…
ある意味稲葉が少し軟派になってるような気もした。ネタ候補だと思われていた生徒会長選挙でもそこそこ健闘したしね。とりあえず谷口君、あんたの「主張」、聞いてあげるわ。
…そして、高校生活も明日で最後か。学校のみんなに(多大な)迷惑をかけ続けて、本当にごめんなさい。
それと稲葉君、三年間ありがとう。けど…、あんたは真面目すぎるのよ。だから付き合いたいとは思ったけど、あまりにも真面目でユーモアがないから、あたしには似合ってないと思ったのよ。…でも、あたしはあんたの事は応援してるから。夢を実現させるために頑張ってよね…うん。
……そう、明日は髪型、どうしようかな…。高校最後の日だし、ポニーテールでもいいかな。
「……キョン、僕、生徒会長としての一年、そして、いろいろと面白くも恐ろしい高校生活がようやく終わったかな」
「稲葉、お疲れ。お前の生真面目ぶりと成績の優秀ぶりはちょっと呆れたけど、生徒会長としての手腕は凄かったな」
「北高を兵庫上位のスポーツ優秀校にしたかったからだし、奇跡的に鶴屋家の支援もあったからね。それと、SOS団も教師達が黙認してくれたし、生徒達にも会誌でアピールできたのが大きいかなと。…そして涼宮さんへの電話が終わって、一息が付けたと」
「そうか。…だけどな、まさか、稲葉、俺が好きだとか?…だから『アッー!』だけはやめてくれ、本気で」
「はははははははは、僕にその気はないですよ!僕にその気があったら女子生徒からチョコは来てませんし『キモい』の連呼で鬱になりますよ!…でもですね、別に成績なんかに嫉妬する必要はないと思うけどね」
「俺も大学に入るために、ハルヒに家庭教師まがいに手伝って貰ったし、補習も結構受けたんだぞ?そりゃ少しは嫉妬したくもなるさ」
「ところでキョン、僕、涼宮さんに告白しちゃった。駄目だったけど」
「あは、ははははは(やっぱりなのか、これ?)」
「じゃあ、また明日学校で」
「明日、思わず号泣するなよ、稲葉」
「キョンもな。じゃ」ガチャ
…恋は卒業前日で散ってしまった。けど、涼宮さんの滅多に聞けない優しそうな声が聞けたのと、明日への道筋を一応開けただけで、自分はもうどうでも良くなってきた。
本当は朝倉さんがいれば、思いっきり告白したかったけど、…いつか適うはずだからもういい…訳ないか。でも何となく逢いたい。もう一度、朝倉さんの笑顔に逢いたい。
明日も早いことだし、おまけに答辞もする事になっているし。僕としちゃ、答辞の本文はうまく書けたかなと思ってるけど…。
そう考えながら、僕…いや、自分は、眠りの世界の入り口へと入り込んでいった。
「親父、卒業式を迎えたときはどんな感じだった?」
「まぁ…思わず号泣しちまってな……。卒業式後も泣きしゃくってしまい、おかげで想いを伝えるつもりだった今の嫁に一言もかけられなかったな。今思うと、『チャンスを逃せば、回り道をしなければならない』のを具現化している様だったがね」
「うわぁ…結構モテモテだった父さんらしくねぇエピソードだな」
「人生チャンスばかりじゃないぞ。というかお前はいつもピンチどころか風に流されっぱなし、おまけに17歳の誕生日まで女にナンパばっかして、勉強も真面目に出来ず、危うく未来に絶望しているところだったぞ」
「そ、それは……ごめん。だけどさ、クラスメイトのみんなのおかげで俺も大学受験できるとこまでできたし、ほのかに想いを持っている女の子もできた。…その子、学校に入った頃は奇行ばっかりで興味を失ってたし、そっちから話しかけられても素っ気なくスルーしたり、傷つけるようなことを言ってたりしていた。…それらの事も明日、まとめて謝っておきたいと思うんだ」
「お前が誰に惹かれているかどうかは知らんが、まぁ、適当に頑張って大学に受かっていれば、俺は嬉しいんだがね。…そろそろ寝る時間だが、明日は感極まって号泣なんて、馬鹿げたことはするなよ。あと、想いを告げるときは、勇気を振り絞れ」
「はーい…おやすみなさーい」
俺、もう覚悟は出来たぜ。どんなことがあっても涼宮に想いを告げるってさ。
キョンが(呆れながらも)応援してくれるし、稲葉だって(少し嫌々ながらも)涼宮に声をかけてくれ…たと思う。親友ってもんがいて、本当に良かったと思える…はずだ。
…あの頭に付けている黄色いカチューシャとリボンを見るたび、何となくだが生きる勇気や壁に立ち向かう力を与えてくれた気がする。
…お前が人差し指を向けて、100ワットの微笑みで何かを言ってお前の友達をからかっている姿が、何となく魅力的に思えてくる。
確かに俺は普通の人間だ。超能力者を否定する気はないし、くしてや宇宙人や未来人というのはいると分かっているし。
かと言ってそんなに腕っ節は強くない。喧嘩なんかされたら一方的に殴られ続けるかも知れない。それでもいいのなら……
…その明るさを、その勇気を、俺だけに与えて欲しいんだ…。中学時代に突然電話でナンパしたこと、失礼なことを言ったのは本当にすまないと思っている。
ましてや高校時代も、いろいろとお前を遠ざけようとした発言ばかりして心を傷つけたかも知れない。だけどこれからは、お前とは優しく接していくからさ。
…とにかく涼宮、お前が好きなんだ!付き合って欲しいとは言わない、俺の想いを聞いて欲しい……
WAWAWA、というかキャラが若干丸くなってる気がする!恋というのはキャラまで変えてしまうのか!?
『兵庫県南部の明日は、東の風やや強く、後に西の風となり、くもり、昼前から雪、所により一時的に強く降るでしょう。沿岸の波の高さは……』
つづく
その2へ
『ある平行世界での可能性① どうしても、お前を諦められなかったんだ』
・卒業式前日の三年五組の教室
卒業式の前日、最終練習が終わってからのHR前に、突然こう切り出してきた谷口。
自発的に死亡フラグを立てたのかよ谷口。そしてこれで何回目の告白なんだよ谷口。
いい加減…諦めたんじゃなかったのか?それとも、最後に壮大に打ち上げ花火を打って散るつもりか?
俺はただただ、コイツの某政党の元代表のキャッチフレーズだった「日本を、あきらめない。」を実践するような真剣そうな顔に半ば呆れそうだったな。
「谷口、君は本気かよ?ハルヒへの想いはよく分かるけど、…まぁ、いいと思うけどね。やるべきことをやって、潔く散ればいいと思うよ」
「それって…ひょっとしてギャグでi」
「ギャグなんかじゃないけどね。まぁ、僕もそれなりに応援するつもりだから。…頑張れよ」
俺の友達(と言っても、強引に仲間の輪になれと誘っただけだが)の稲葉も、『はいはい無理無理』とさじを投げやがった。
そんなに俺の高校時代最後のイベント(勝手に定義)が、「間違いなく失敗する」と勝手に決めつけるんだよ!?
俺は覚悟は決めたんだ。涼宮に告白して…、ダメならダメだった、良かったら良かったでいいじゃねーか!
だからよ、せめて涼宮に誰か、一言かけて……
「…涼宮さんには僕が伝えておくから。『最後のHRが終わったら、校庭に来てください。谷口君から話があるそうです』って。あとはお前次第だけどな」
「稲葉、お前もハルヒが好きだったんだな?真面目に言っても顔にはそう書かれてるぞ」
「確かに好きだったけど、…他に想っている人がいそうから、遠慮した。それだけだよ。というかキョンとハルヒはお似合い」ガッ
「俺は阪中さんと付き合っているのに、何頓珍漢なことを言ってるんだよ?浮気なんて御法度だし、『不倫は文化だ』と言ってた人と同じだと思われたくないしな」
「…とにかく、涼宮さんには伝えておくから。…だからさ、だからs」ガッ
「稲葉、お前には夢があるんだろ?遠慮するようじゃ夢は(略」
あー、稲葉とキョンが口喧嘩してるぜ。まぁ真面目すぎるアイツとキョンの間では「よくあること」で済まされるけどな。
…でもよ、伝えてくれるってだけでも本当にありがたいぜ!稲葉!お前と友達になれて本当に嬉しい!…本当は嫌々だったかもな。すまん。
だけどな稲葉、お前も早く正攻法で彼女を作れyo…
「ところで谷口、涼宮さんに伝えておくと言ったけど、ちょっと条件がある」
「何だよ稲葉?」
「一つ、もし告白が成功したら浮気を絶対にしない。二つ、失敗してもこれからは絶対にナンパしない。そして三つ目…」
「WAWAWA、あ、当たり前じゃねーか!俺は…俺は、一年の頃に見事にフラれまくってからナンパしなくなったじゃんか。それに、無言で学校を後にするよりかは、何か一つ、好きな人に告白して、潔く散って高校生活を終わらせた方が…いいに決まってるじゃないか」
「ふぅ、谷口もあれ以降何かキャラが変わったように真面目になったよなぁ。本当に革命的だったよ、真剣に物事に取り組んで、真面目に授業を受けていた。…二学期はじめはいつも居眠りすることが多かったけどね」
「バレンタインデーのチョコの数はあんまし増えなかったけどな。とにかく条件、全部受け入れておくぜ。あとな、稲葉」
「何だよ」
「俺も告白するんだから、お前も早く彼女を作れよな?生徒会長という地位だったのに、お前のユーモアぶりの無さは歴代生徒会長一と呼ばれてたくらいだし。昨年の生徒会長はいつも隣に喜緑とかいう女の子がいて噂には困らなかったよな…」
「…朝倉さんが好きだったけどね。あの人はカナダに留学しているそうだけど、もう帰ってきてもいい頃だと思うんだ。少しだけど『逢いたい』と思うし。だけど…あんまり夢想するのもアレだと思うし、忘れてしまおうとしているけどね…」
「稲葉…」
「とにかく、僕から伝えておくから。…頑張れよ」
…まぁ、俺は谷口の最後の告白を、生暖かく見守っておくことにするかな。ほどほどに頑張ってくれ。
それにしても、生徒会長の稲葉は本当に生真面目だったな。スポーツ系部活動費の増加の実現とか、SOS団擁護とかいろいろと生徒達のために頑張ってたという印象があったけど。
俺だってお前に感謝しているさ。
・その日の夜
トゥルルルルルル トゥルルルルルル
「はい。涼宮です」
「同じクラスの稲葉ですが、涼宮ハルヒ様はおらっしゃれru」
「こんばんは稲葉。あたしに何の用?いたずらだったりしたらすぐに切るからね!!」
「…あの、言いにくいとは思いますが、谷口君から連絡があって」
「そう?じゃあてきぱきと言いなさい」
「…『明日の卒業式終了後のHRが終わったら、校庭に来てください』以上です」
「…ありがと。ところであんた、好きな人はいるの?それとも、明日、告白する人はいるの?」
「…いないですよ。いないというか、学校の外に、告白したい対象はいるけど」
「ふーん。誰かは聞かないけどね。…あと、卒業前に一つ言っておくわね。SOS団の存続に力を貸してくれてありがとうね、稲葉。あんたがいなければ文芸部室を没収されて、あたしも世界に絶望するところだったわ」
「ありがとうございます。僕としても一年の時の奇行というか…涼宮さんの行動力には驚いたよ。結成されてから数回ぐらい部室を訪問して、PCで県議会のネット中継も見てたしね」
「そういや、あんたの父は県議会議員だったわね。その生真面目ぶりと機転の効かせ方は父親譲りだよね。あんたに投票して本当に良かったわよ。普通の人間だけど、何となく普通じゃない感じがして」
「…どうも。涼宮さんにこんな事を言われて嬉しいなと。でも、…突然だけど、ちょっと言っておく事がある」
「なによ」
「…僕は、その、あの、…涼宮さんが、…好きでした。変な人だと入学当初は思っていたけど、時間が経つ内に恋心が芽生えてきてしまって……。涼宮さんの笑顔で、僕はそれなりに幸せになれたときもあるし…。もっと涼宮さんの事が知りたかった。だかra」
「(何よその過去形に丁寧な言葉使い…)大丈夫よ、あたしはあんたの事、感謝はしてるけど、個人としては好きでも嫌いでもないから。…ごめんね。だけど、あんただけに言っておくけど、逆に明日、告白されたい(したい)人はいるんだよね…」
「わ、分かってるよ!(ちょっとというか、結構ショック…)…じゃ、じゃあ、涼宮さんの親にも迷惑をかけますからもう切りますね」
「ふふふ、あのね、まだ切らないで。…あたしにちょっと嫌われてショックだった?それともa」
「(ふぅ…)…明日の谷口君の主張というか、思い、しっかり聞いてくださいな。全て聞いてから、拒否するなり、受け入れるなりしてくださいな。じゃあ」
「…ち、ちょっと!あたしの好きna」ガチャ
…稲葉、あたしの想い、既に気づいちゃってたのかな?
確かに谷口は昔はナンパばっかりして、ズボンのチャックは閉めていたと思ったら瞬間的に開いてたり(凄く謎だったわ…)、周辺の女生徒からは結構嫌われていたわね。
けど、二年生になったあたりから結構真面目になってナンパをキッパリやめちゃったり、目標の大学に入学するために勉強も頑張るようになっていった。でもチャックの件は直らなかったけど…
ある意味稲葉が少し軟派になってるような気もした。ネタ候補だと思われていた生徒会長選挙でもそこそこ健闘したしね。とりあえず谷口君、あんたの「主張」、聞いてあげるわ。
…そして、高校生活も明日で最後か。学校のみんなに(多大な)迷惑をかけ続けて、本当にごめんなさい。
それと稲葉君、三年間ありがとう。けど…、あんたは真面目すぎるのよ。だから付き合いたいとは思ったけど、あまりにも真面目でユーモアがないから、あたしには似合ってないと思ったのよ。…でも、あたしはあんたの事は応援してるから。夢を実現させるために頑張ってよね…うん。
……そう、明日は髪型、どうしようかな…。高校最後の日だし、ポニーテールでもいいかな。
「……キョン、僕、生徒会長としての一年、そして、いろいろと面白くも恐ろしい高校生活がようやく終わったかな」
「稲葉、お疲れ。お前の生真面目ぶりと成績の優秀ぶりはちょっと呆れたけど、生徒会長としての手腕は凄かったな」
「北高を兵庫上位のスポーツ優秀校にしたかったからだし、奇跡的に鶴屋家の支援もあったからね。それと、SOS団も教師達が黙認してくれたし、生徒達にも会誌でアピールできたのが大きいかなと。…そして涼宮さんへの電話が終わって、一息が付けたと」
「そうか。…だけどな、まさか、稲葉、俺が好きだとか?…だから『アッー!』だけはやめてくれ、本気で」
「はははははははは、僕にその気はないですよ!僕にその気があったら女子生徒からチョコは来てませんし『キモい』の連呼で鬱になりますよ!…でもですね、別に成績なんかに嫉妬する必要はないと思うけどね」
「俺も大学に入るために、ハルヒに家庭教師まがいに手伝って貰ったし、補習も結構受けたんだぞ?そりゃ少しは嫉妬したくもなるさ」
「ところでキョン、僕、涼宮さんに告白しちゃった。駄目だったけど」
「あは、ははははは(やっぱりなのか、これ?)」
「じゃあ、また明日学校で」
「明日、思わず号泣するなよ、稲葉」
「キョンもな。じゃ」ガチャ
…恋は卒業前日で散ってしまった。けど、涼宮さんの滅多に聞けない優しそうな声が聞けたのと、明日への道筋を一応開けただけで、自分はもうどうでも良くなってきた。
本当は朝倉さんがいれば、思いっきり告白したかったけど、…いつか適うはずだからもういい…訳ないか。でも何となく逢いたい。もう一度、朝倉さんの笑顔に逢いたい。
明日も早いことだし、おまけに答辞もする事になっているし。僕としちゃ、答辞の本文はうまく書けたかなと思ってるけど…。
そう考えながら、僕…いや、自分は、眠りの世界の入り口へと入り込んでいった。
「親父、卒業式を迎えたときはどんな感じだった?」
「まぁ…思わず号泣しちまってな……。卒業式後も泣きしゃくってしまい、おかげで想いを伝えるつもりだった今の嫁に一言もかけられなかったな。今思うと、『チャンスを逃せば、回り道をしなければならない』のを具現化している様だったがね」
「うわぁ…結構モテモテだった父さんらしくねぇエピソードだな」
「人生チャンスばかりじゃないぞ。というかお前はいつもピンチどころか風に流されっぱなし、おまけに17歳の誕生日まで女にナンパばっかして、勉強も真面目に出来ず、危うく未来に絶望しているところだったぞ」
「そ、それは……ごめん。だけどさ、クラスメイトのみんなのおかげで俺も大学受験できるとこまでできたし、ほのかに想いを持っている女の子もできた。…その子、学校に入った頃は奇行ばっかりで興味を失ってたし、そっちから話しかけられても素っ気なくスルーしたり、傷つけるようなことを言ってたりしていた。…それらの事も明日、まとめて謝っておきたいと思うんだ」
「お前が誰に惹かれているかどうかは知らんが、まぁ、適当に頑張って大学に受かっていれば、俺は嬉しいんだがね。…そろそろ寝る時間だが、明日は感極まって号泣なんて、馬鹿げたことはするなよ。あと、想いを告げるときは、勇気を振り絞れ」
「はーい…おやすみなさーい」
俺、もう覚悟は出来たぜ。どんなことがあっても涼宮に想いを告げるってさ。
キョンが(呆れながらも)応援してくれるし、稲葉だって(少し嫌々ながらも)涼宮に声をかけてくれ…たと思う。親友ってもんがいて、本当に良かったと思える…はずだ。
…あの頭に付けている黄色いカチューシャとリボンを見るたび、何となくだが生きる勇気や壁に立ち向かう力を与えてくれた気がする。
…お前が人差し指を向けて、100ワットの微笑みで何かを言ってお前の友達をからかっている姿が、何となく魅力的に思えてくる。
確かに俺は普通の人間だ。超能力者を否定する気はないし、くしてや宇宙人や未来人というのはいると分かっているし。
かと言ってそんなに腕っ節は強くない。喧嘩なんかされたら一方的に殴られ続けるかも知れない。それでもいいのなら……
…その明るさを、その勇気を、俺だけに与えて欲しいんだ…。中学時代に突然電話でナンパしたこと、失礼なことを言ったのは本当にすまないと思っている。
ましてや高校時代も、いろいろとお前を遠ざけようとした発言ばかりして心を傷つけたかも知れない。だけどこれからは、お前とは優しく接していくからさ。
…とにかく涼宮、お前が好きなんだ!付き合って欲しいとは言わない、俺の想いを聞いて欲しい……
WAWAWA、というかキャラが若干丸くなってる気がする!恋というのはキャラまで変えてしまうのか!?
『兵庫県南部の明日は、東の風やや強く、後に西の風となり、くもり、昼前から雪、所により一時的に強く降るでしょう。沿岸の波の高さは……』
つづく
その2へ