鉄道に惹かれるのは、乗れば自分の知らない場所に行かれるから。
じっくり途中の風景を見られるから。
駅や、その内部のシステムについては
マニアでもなければ知らないことが多くて、なんとなく謎めいているから。
わたしは電車通勤で、ことさらにそれを好きだと思ったことはないけど
あの電車が揺れるリズムは気持ちが良いものだ。
本当はいけないことだけど、
子供のころは連結部分の鉄板(?)に乗るのも好きだった。
こんなことを思い出したのは、最近この本を読んだから。
池澤夏樹『キップをなくして』
この本を読んでいると、初めて一人で電車に乗ったときの
どきどきする感じ、心細さ、子供の目線から見える駅の広さなんかが
記憶の底からわーっと浮かんでくる。
読みはじめるとあっという間に子供に戻って、
目の前に大きな鉄道が姿を現す。
前半の灰色のトーンから後半のみずみずしい色彩の対比が面白い。
物語が進んでいく、電車がぐんぐんスピードを上げるみたいに。
物語の中で“死”が大きく取り上げられるところは
宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』や梨木果歩『西の魔女が死んだ』を思い起こさせる。
はじめて直面する、恐ろしくて得体のしれないもの。
子供たちは息をのんで、それと対峙する。
ところで、池澤夏樹の描くこどもたちはすがすがしい。
この物語に出てくるこどもたちも、『南の島のティオ』に出てくるこどもたちも。
わたしの子供たちも、こんな風にのびのびと育ってくれたらいいなあ。
それから、個人的なことだけど
主人公のイタルくんはわたしと同年代(年がばれる・笑)。
もしもなれるものなら、私も“駅の子”になってみたかった。