「六角沙代子、そのままでいいじゃない」
直の進言で、芸名を本名と同じにした。
レッスンは厳しかった。
発声の基本から正され、音程が狂うと怒鳴られた。
鷹揚な外見と違い、歌については職人のような厳しさを持っていた。
沙代子は涙まじりの目で、問いかける。
「こんな歌が下手なのに、なぜ歌手になれるのですか?」
「それは心だよ。君は歌の心を知っている。どんなに技巧が優れていても、心が無い歌は一文の価値もない」
答える直の顔がひどく澄んで可愛いく見えた。
その瞬間から沙代子は遠山直を深く愛する様になったのである。
遠山は家庭持ちで、モデル出身の妻と可愛い女の子がいた。
もちろん、沙代子はそれを知っていた。
それでもときめく思いは抑えられなかった。
皮肉な事に恋をした時から、歌唱力は格段に上がった。
声に艶と張りが出て、音程はスムーズである。
こうした過程を経て、デビュー作「あなただけのメロディ」は生まれたのである。
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