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高原の別荘地は静かだった。
お昼過ぎから、曇り空に変わったが風は優しい。
野沢美世子は夫の部下である山崎モヨに冷たいジュースを勧めた。
「とても美味しいです!」
モヨは無邪気な笑顔を見せた。
多分夫の克己はこの子どもの様な笑顔に惹かれたのだろうな、と美世子は冷めた眼差しで見た。
どうせ後一時間もすれば、可愛い笑顔は醜く歪むのだから、ここは抑えてと鷹揚な笑顔を見せた。
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野沢克己は大手商社の部長職にある。
次期役員の呼び声も高い。
目黒区にある邸宅と避暑地として名高い別荘地に小体な別荘を持つ。
美世子は何不自由のない暮らしを営み、アートフラワー教室に通っている。
一人息子は高校からアメリカに留学している
つまり、昔でいう有閑マダムの典型の様なものだった。
仕事の鬼で上昇志向の強い克己が、まるで恋する高校生の様な目つきをし出したのは一年前からだった。
それまでも女の問題が無かった訳ではない。
利口な夫は決して家庭を壊そうとしなかったし、関係の出来た女と綺麗に別れた。
美世子はかなり嫉妬深い女で、夫の浮気に敏感に気づき、素知らぬ振りして防いだ。
なのに今回は全く気がつかなかった。
何故なら夫の帰宅時間は以前より早いし、かなり真面目な生活をし出したからだ。
第一、それらしき女からのメールや電話がバタッと途絶えたのである。
それでも、夫は山崎モヨを恋してると確信したのは訳がある。