ぶどう館

このブログは今世紀最大の巨匠と全国八百屋団体の間で噂のぶどうによる奇妙奇天烈なブログである・・

あの話のサイドストーリー③

2005-06-28 23:02:18 | よた話
気が付くと、電話機からは無機質な発信音がしていた。

・・・・・・・・・・・


えっと・・・・・


芳子はしばらく呆けていたようだ。




受話器越しではあるが、本当に久しぶりに聞いた 加藤君の声・・・・


彼と電話で話をするのは よく考えてみれば初めての事だった。

機会越しの声 というのは 何故か違和感があって・・・・・


少しくぐもった 彼の声が


近くにいるようで・・・・


けれど・・・


どこか 現実味を帯びていないようで



『・・・・・会いたい』


芳子の中で それは確固たる形を形成していた。


すぐさま 芳子は美和子へ連絡をとった。



加藤君から誘われた・・・・・


その事が今の芳子を呆けさせる原因となっているのだろうか


彼がいうには、働いている居酒屋は 小洒落ていて
女性がも入り易いとの事で


『そうだ。今度 芳子さんも飲みに来て下さいよ。目いっぱいおもてなししますから!!!』


舞い上がりそうな心持ちだったが
そうは行っても 流石に一人で行く勇気は持てず
美和子について来てもらおうと考えた。

下戸だった芳子は進んで飲みに出ることなど皆無であった。
独身時代は、つきあいで行ったことは勿論あるのだが
いつも 気持ちよさそうに酔っている友人を見るのが苦痛だった。

自分もああいう風に酔ってみたいな・・・

常にはがゆい気分にさせられた。

結婚して 酒が飲めるようになってからも
家で和則と飲むくらいなもので
外へ飲みに出ることなどなかった・・・・

何を着ていこう・・・
何を話そう・・・・


考えながら、居間のカレンダーに○をつける。
芳子の心は既にその日へと向かっていた。

・・・・・
・・・・・
・・・・・


突然の誘いに美和子はかなり驚いていたようだ。

それも当然か・・。

パートしていた時は職場で話すくらいのもので
二人で遊びに行った事などなかったのだから・・・。

まして、芳子は3年も前にパートを辞めている身だ。

しかし、加藤和也の名を出すと、美和子は「あ~」と大きな声で言って
受話器の向こうで笑った・・・・・・ような気がした。

そして、快く承諾してくれた美和子
ひょっとして美和子も加藤君のことを・・・・・??
加藤君の話を初めてしてくれたのも美和子だったし・・・


いや・・・・ 美和子に限って そんな馬鹿なことがある筈がない。

自分と違って美和子は良妻なのだ。
子供はいないが、ご主人とまるで恋人時代のようなアツアツぶりだと
専らの評判であった事を思い出した。

やっぱり どうかしてるわ・・・・


こんな不安な気持ちでたまらなくなるのは
やはり加藤君の存在が大きいから?
今の生活がたまらなく嫌だから?

あたしは彼に会って・・・・どうしたいの?


あれから3年。

ただ無意味に歳だけを重ねてきた・・・・。
そんなあたしと・・・彼が・・・・

やめよう・・・もうやめよう。

彼とは本当に久しぶりに会ってみたいだけ
ただ・・・それだけ。

そうしないと 
そうしないと・・・・

きっとあたし このままじゃ・・・・・


芳子の伸びた手が戸棚の焼酎を掴んだ。

カレンダーの○印・・・

あの人が見たら どう思うかしらね?


今日も帰ってこない亭主の事が ふと芳子の脳裏を掠めたのと
ほぼ同時に、彼女の口には焼酎が注がれた。




続く・・・・・

あの話のサイドストーリー②

2005-06-25 09:56:49 | よた話
加藤君との唯一の繋がり・・・

彼の携帯番号

なんどもかけようと思った・・・。

けれど 結局発信されることはなかった。


・・・・・・・・・・・・


そうしているうちに 1年はあっという間に過ぎていった。


・・・・・・・・

あれ以来
芳子は何度かスーパーに立ち寄った

加藤君の事をどうこうという訳ではなく
以前の同僚に会う為である。
そうしているだけでも、少しは気も紛れる。
近藤には顔をあわせたくなかったので
生鮮食料品のコーナーには極力 近寄らないようにした。


「そうそう この前 加藤君が来てたわよ。凄く久しぶりに見ちゃった」

と 言ったのは 一緒にパートで働いていた美和子だ。
当時は特別に仲の良かったという訳ではないが
入れ替わりの激しいパート人員の中では、
今となっては芳子を知る者は少なく、その中では美和子が一番 親しいと呼べる存在だった。

うる覚えだが、美和子の話によると
彼は今、居酒屋で働いているという
聞いたが 芳子の知らない名の居酒屋だった。
生鮮食料品売り場の人たちは何度か行った事があるらしい・・・・・・・。


・・・・・・・・・・・


第三者から聞く、彼の名前・・・。


不思議なもので、たったそれだけで
心の奥にしまった筈の気持ちが再び顔を覗かせた・・・。


・・・・・・どうしてだろう?

気持ちに整理をつけたと思っていたのに
心の海に深く沈めた筈なのに・・・

あの時以上に自分が自分でないみたいなのは どうして?


・・・・・・・・

・・・・


『今』の彼を知ってしまったから??


あたしの中に居る彼は、3年前からずっと 止まったまま。

だけど

今日 あたしは 今を生きる彼を知ってしまった。

彼は今・・・・ どんな男になっているのかしら

スポーツ狩りの頭に・・・・
まだあどけない瞳・・・・
小麦色に日焼けした肌・・


あたしの中の彼・・・



でも 今の彼は・・・・・・・どうなのかしら


いい男になっているのだろう
まっすぐと、夢にむかって 進んでいるのだろう

あたしは・・・・


あたしは・・・・???



あたしは 今 何をしているの?

この1年・・・・


ううん。パートを辞めて3年


あたしは 一体 何をしてきたの??



和則・・・・今日も遅いみたいね。

最近じゃあ 遅く帰る  っていう連絡すらなくなったわね・
いつからだったかしら・・・。

悟・・・

ああ そろそろ 晩御飯食べ終わってる頃だわ
お膳を下げに行こうかしら

今日はちゃんと残さず食べているのかしら??
最近 買い食いでもしているのか
ご飯 あまり食べなくなったわね。あの子


このテーブル・・・・・・・


結婚した時 和則と一緒に買ったテーブル。
当時のアパートには少し大きかったけど

《子供はたくさん作るからな~ この大きさじゃ足らないかもな~》

なんていってたっけ・・・・・・。


和則・・・・・

悟・・・・・・



このテーブル・・・・


あたし一人じゃあ 広すぎるよ・・・。




続く・・・・・

あの話のサイドストーリー

2005-06-24 00:04:40 | よた話
あの話を知らない方は

ciel-bleuのFREE BBS
を ご覧下さい



実は芳子は1年前に以前パートで働いていたスーパーに立ち寄った。
パートを辞めて以来、そのスーパーに寄った事は一度もなかった。
毎日の買い物も近所の別のスーパーで済ませていた。

何故・・・・ 足が遠のいてしまったのか・・・・

これといった理由があるわけではないけど やっぱり加藤君のことかしら・・・

芳子はそう思った。

今買い物に行っているスーパーの方が品揃えも豊富で安い。
しかし、そんなのは只の建前だということは芳子自身にも判っていた。

別に彼とは何でもないし、気にする事は何ひとつない

だから・・・・・
だから、行く必要もない

しかし 意固地になればなるほど、彼の存在が気になるのも確かだった・・。


・・・・・・

そんな日がしばらく続いて・・
あたしは 意を決してスーパーに行った。

何か特別な出来事があった訳じゃない
何があたしの引き金をひいたかはわからないけど
気がついたら そうなっていた。

当日は朝から落ち着かず、努めて平静に振舞った・・・つもりだ。
それでも普段と様子が違う事を和則に悟られるのではないか・・・??

・・・・しかし それならそれでも仕方ないとも考えていた

でも・・・あの人は・・ あの人はもう あたしの事なんて見ていなかった・・。

以前パートしていたスーパーに遊びに行くと告げた時も
和則の反応はいつもと同じだった。

『そんなとこに行くのやめろよ』

どちらにしても 反対などされる事ではないのだが
心の何処かではそう言って反対してくれる事を願う自分も居た・・・・・・。



しかし  すべては徒労に終わった・・・・


彼は・・・加藤君は もう あのスーパーには居なかったのだ。
芳子の辞めた半年後に、彼も 辞めてしまったらしい。

懐かしい顔にもたくさん会えた
それだけでも行ってよかったと思った。


だが 加藤君は もう あそこには居ない・・・・

会えない と分かった時の落胆は、芳子自身 想像していた以上のものがあった。

結局 やはり自分はこの為に来たんだ。
なんだかんだ理由をつけてみても・・・。


彼と同じ生鮮食料品売り場に居た近藤。
彼があたしに加藤君の携帯の電話を教えてきた。

この人の事は 正直 あまり好きではない

この人と加藤君と同期で、二人はそこそこ親しいようにしていた感があるが
決して心を許していた訳ではないだろう。

人の噂話とかが好きな・・・・言うなれば妙子さんと同じ人種なのだ。

あたしを見るなり

「あれ!芳子さん久しぶり。でも 智也はいないよ」

智也とは加藤君の事だ。

さも あたしが 加藤君と会いたいが為に此処へやってきたように言う。
他のパートや社員も居るっていうのに・・・・
この人の こういう無神経な所が昔から気に入らない。


そして恩着せかましく連絡先を教えてきた。

前から人に余計なおせっかいを焼くのが好きな人だ・・・・。

彼の汗ばんだ手から加藤君の携帯電話番号がメモしてある切れ端が
手渡された。

『智也

 080-XXXX-XXXX
 
    頑張ってね~』

ふざけた一言までついていた。


絶たれたと思った加藤君との繋がり・・・


この紙切れさえもらわなければ、あたしはいつも通りと退屈な日常に戻っていた筈だった。


此処へくるだけでも それなりに勇気をふりしぼった


でも 今度はそれ以上の勇気がいる。

スーパーなら フラッと寄っただけ・・・ そんな言い訳もできるだろう


だけど 今度はそうはいかない

『加藤君』そのものにコンタクトをとるのだ。
一体 どんな理由なら自分を想いを欺くことができるのだろう?
一体 どんな理由なら自分の言い訳にできるのだろう


・・・・・・・・・・

できはしない。


この切れ端さえなければ・・・・

でも それを捨てることも 今のあたしにはできない

これが・・・これだけが 加藤君へと続く今のあたしの希望なのだから。 





続く・・・・・・