なぜか戦争映画が好きだ。反戦映画も好戦的な映画も、どちらもだ。難しいこと抜きに銃弾が飛び交うシーンは面白い。ただし、血しぶきや肉片が飛ぶ本当の戦争は見たくもないけど。今の世の中でいえば、そうした戦いを中心においたゲームが人気なのと同じなのかもしれない。9月に公開された映画ダンケルクはそのどちらでもない。戦闘というべきものがほとんどない。ほとんど戦う武器も持たず、負けて撤退する軍隊を描いている。ふつうの戦争映画ならとても惨めに扱われる集団。後ろから撃たれ、なぶり殺しにされるシーンもよく登場する。さすがに「名誉の撤退」を映画だけに、そんなシーンは出てこなかった。
連合軍、反転攻勢の原動力
「ダンケルク」は、マッカーサーが「アイシャルリターン」の言葉を残したフィリピン脱出と並び、ドイツと日本が攻勢に立ったことを示す第2次世界大戦前半の象徴的な撤退戦だった。さまざまな戦争映画で「ダンケルクを忘れるな」という言葉が出てきており、この撤退が連合軍にとっていかに悔しく、その後の反転攻勢の原動力となったかよく分かる。
3つのエピソード 時に時間さかのぼる
映画はフランスのダンケルクからイギリスに向け脱出しようとするする若い兵士、撤退作戦を支援する英軍の戦闘機、撤退のため徴用されダンケルクに向かう民間の遊覧船の3つのエピソードが成り立っている。最初バラバラで展開した各エピソードは実は関係があり、そのためには時間も平気で戻しちゃうというなかなかすごいつくり。たとえば、英軍戦闘機がドイツ軍と空中戦を繰り広げるシーンが出てくるが、次のシーンでは遊覧船から見た空中戦のシーンが出てきて、後になって、これってさっき見た空中戦のシーンだったんだあ、と気づく。回想シーンとはまた別なので、ついて行けない人も結構、いそうな感じもする。
格好いい遊覧船の船長
兵士を中心にしたエピソードに関していえば、簡単にいえばロールプレイングゲーム。救援船に潜り込んだから船が沈められるなど、あっちに行ってもこっちに行っても失敗。さらに次のルートを目指すの繰り返し。とりあえず主人公グループの誰も死なないところがとてもゲームっぽい。
遊覧船のエピソードは、軍の徴用をよしとせず自らダンケルクに向かっていく船長が格好いい。「私たちの世代が始めた戦争なのに、若者を巻き込んでしまった」と語り危険を顧みずに救出へと向かっていく。
戦闘機パイロットもなかなか格好いい。ドイツ軍の爆撃機や戦闘機を撃ち落とし、海上地上の友軍から拍手喝采を浴びる。
ワン・ダイレクションほかイケメンそろう
ここからはネタバレ。戦争映画なら一番の売りは、ぐっと来ちゃうところだろう。感動というか、戦争のような極限状態だと、そうしたシーンをつくることはある意味、容易に思える。その1つは何万もの兵士が救出を待つダンケルクの海岸に徴用の民間船団が姿を現すこと。いずれも遊覧船や漁船だ。現実にそうした船が兵士を脱出に導いた。もう一つは燃料を失って滑空中の英軍戦闘機が、海岸の不時着に成功するシーン。墜落させるなよ、と思わず手に汗をかいてしまった。無事着陸して、パイロットは機体に火をつけ、ドイツ軍の捕虜となるのだが。
出演者はどうもイギリスの若手イケメンを集めたらしいが、いつものようによく誰が誰だか分からなくなる。主人公のトミーはフィオン・ホワイトヘッド。同じく英軍兵士でどこかで見た顔がいるなと思ったらハリー・スタイルズといって、人気グループのワン・ダイレクションのメンバーだった。
撤退でも生きてる方がいいよね
それから、ようやくイギリスに戻り、列車でロンドン(多分)に向かう兵士たちが、卑怯者呼ばわりされるのを恐れていたものの、実際には「よく頑張った」と歓待され、列車の窓越しにビールを渡されるシーン。誰でも若者が生きて帰ってきたことは、嬉しいに違いない。日本の旧軍の戦陣訓の「生きて虜囚の辱めは受けず」なんて、やっぱりむちゃくちゃだ。やっぱり生きてるっていいよね。そんな映画だった。
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