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第一話「単車仮面登場」

 1939年5月、ここ関東軍司令部では満蒙国境ハルハ河でおきたモンゴル軍との武力衝突を期に、おそるべき陰謀が実行にうつされようとしていた。
 眼鏡を掛けた、いかにも秀才然とした参謀が弁舌をふるっている。
「内地はでは事態不拡大などと弱腰だが、現場のわれわれは違う。皇軍は戦術において優れ、士気において優れ、訓練において優れ、装備において優れ、なによりも大和魂において優れている事を知っている。これに対し、敵軍は全てにおいて劣っている事も知っている。今が大日本帝国の威信をソ連に知らしめる絶好の機会である」
「しかし、二十三師団は編成されたばかりだが」
一人の参謀の言葉に、眼鏡を掛けた参謀はいきりたった。
「編成されたばかりだろうとなんだろうと、師団は師団、皇軍は皇軍であり、皇軍である以上不敗である」
 その場が、眼鏡を掛けた参謀に押し切られようとしたその時。

 ブオォォォォォーン

 作戦室に単車の爆音が響き渡った。
「やかましい!」
 青筋を立てて、眼鏡を掛けた参謀がドアを開け絶句した。ドアの外即ち廊下には、陸王に跨り不敵に笑う謎の帝国陸軍軍人が。
 憲兵が三八式歩兵銃を構えて、遠巻きにしている。
「貴様!ここをどこだと思っている!」
「関東軍司令部」
「なに!憲兵!こいつを逮捕しろ!」
顔面蒼白になりながら、眼鏡を掛けた参謀、辻正信中佐が叫んだ。
 殺到する憲兵、その時。
「トォァーッ!」
謎の掛け声とともに、謎の帝国陸軍軍人が陸王の座席から垂直に飛び上がった。次の瞬間、床の上には、長靴に手袋をはめ、黒緑の仮面、黒緑の上下、全身黒緑ずくめの人影が立っていた。それは舶来品の防毒面を付けた人のようであり、赤く鈍く輝く目は昆虫の複眼のようでもあった。その異形はまぎれもなく凶凶しさを、全身から発散していた。
「ば、化け物。」
参謀の一人がうめいた。帝国陸軍は人間が一瞬で怪人に変化する状況など、公式には想定していない。辻正信中佐参謀が叫んだ。                                                     
「貴様!我が結社の七三一研究所から脱走した、バッタの能力を掛け合わされた飛蝗男!」
「その通り、東亜の平和を守るため、単車仮面として蘇ったのだ。日満蒙ソの民草に塗炭の苦しみを舐めさせようとするお前のたくらみ、大元帥陛下が許してもこの自分が許さん。辻参謀中佐いや、悪の秘密結社サンボのツジボー!」
「ぬう…殺れ!」
 いつのまにか、憲兵まで黒覆面、黒い全身タイツを着た怪人に早変わりしている。黒襟だけが憲兵のままであった、さしずめ憲兵怪人であろう。
「キキーッ!」
 奇声をあげ、憲兵怪人が単車仮面に襲い掛かる。
「トォァーッ!」
 謎の掛け声とともに、憲兵怪人を次々に殴り、蹴り倒していく単車仮面。またたくまに倒される憲兵怪人。
「残るはお前だけだ、ツジボー!」
息も上げず、単車仮面は辻正信参謀中佐を指差した。
「なかなかやるな飛蝗男…ツジボー!」
 怪しい掛け声とともに、参謀肩章を引っ張る辻正信参謀中佐。一瞬、辻正信参謀中佐もまた目と口元だけが空いた黒マスク、黒いマント、全身黒ずくめの怪人に変化していた。黒マスクの頭には、角か耳のような突起が二つある。こちらは単車仮面に比べて、いくらか洗練された印象があった。革帯には蝙蝠を図案化した金具までつけている。が、全体から右肩の参謀肩章が浮いている。
「お前の正体は、蝙蝠男だったのか!」
「ある、ふれっどぉぉぉっ!」
 謎の掛け声と共に、単車仮面に襲い掛かる辻正信参謀中佐改めツジボー改め蝙蝠男。辛うじてかわす単車仮面。
「ろびんっ!じょぉかぁっ!ぺんぎんっ!」
 次々に炸裂する、蝙蝠男の連続攻撃。受け一方の単車仮面。
「これで終わりだ、飛蝗男!ぽいっずん、あいびぃぃぃぃぃ」
「単車キィィィック!」
蝙蝠男の長ったらしい決め台詞の隙を突き、単車仮面が飛び蹴りを放った。
「きゃっとうぅまん」
 最後の言葉を残し、蝙蝠男は爆発した。爆風で書類が舞い、窓ガラスが砕け散る。

 ブオォォォォォーン

 満州の平野を陸王がゆく、単車仮面の正体は筆者もまだ考えていない。
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