[提供:共立出版] 本書は,老化が個々の細胞レベルで始まり,それらの細胞が複製し,生物全体の老化と密接な関係をもつ過程を,わかりやすく説明している.加齢の起源と進化,がんやアルツハイマー病との類似点,加齢の症状に良く似た早老症などの遺伝病の研究によって得られた最新の知識についても,簡潔,明快な解説で専門家以外の読者にも理解しやすい…これ1冊で,生化学,免疫学はもちろん,分子遺伝学や腫瘍生化学,年金経済学にいたるまで,広範な知識を得ることができる――. |
古来より,人間の最大の関心は生と死をめぐる葛藤であった.“死”という概念に恐怖し,不老不死を求めて長い旅に出るシュメールの都市国家ウルク(紀元前2600年頃)を治めていたギルガメシュ王(Gilgamesh)の叙事詩.あるいは寓話を語る“器”としてのSF映画の強みを発揮し,不老不死さえ可能になった未来世界の機械的な冷徹性よりも,生々しい人間性が結局は勝利することを物語の基本とした「未来惑星ザルドス」(1974).
生命の誕生に次ぐ進化の「神解け」は,個体発生と系統発生,雌雄分化による生物の連続性などが考えられる.その反面,細胞分裂の回数に応じて反復配列が減少し,老化を招いて真核生物は確実に死に向かうリミット・プログラムの「発明」こそ,種の分化の類縁関係を示す系統樹が多様に繁った進化史の配剤とも考えられる.細胞の核にある染色体の末端領域テロメアの分裂回数は50~60回という制限があり,アポトーシスとして死に,脳細胞や心筋細胞など再生分裂できない細胞は,アポビオーシスとしての死を迎える.いずれにせよ真核生物は無限に生き続けることはできない.この当然と思われる事実は,地球に原始生命が発生してから約20億年の間,死ぬことなく増殖を続けた生命の不可思議に反している.
本書は,老化や加齢との関係が推測される新しい事実が続々と発見された時期に刊行されている.生化学,免疫学はもちろん,分子遺伝学や腫瘍生化学,年金経済学まで広範な知識を得ることができる,という売り文句を鵜呑みにはできないが,老化と加齢の科学がゲノム創薬から経済政策まで,広範に影響を及ぼすことを述べる.細胞性免疫反応研究の国際的評価を受けてきたウィリアム・R・クラーク(William R. Clark)の楽天性には,一つの明るさがある.それは,「ヒトの寿命の量と質」に関する分子医学への期待である.ただし,死の本質論で論じられるべきバイオエシックスの問題は,本書ではまったくといっていいほど触れられていない.
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Title: A MEANS TO AN END : THE BIOLOGICAL BASIS OF AGING AND DEATH
Author: William R. Clark
ISBN: 4320056000
『生命はどのようにして死を獲得したか―老化と加齢のサイエンス』ウィリアム・R・クラーク ; 小浪悠紀子訳
--共立出版 ,2003.10, , xiii, 348p, 19cm
(C) 1999 Oxford University Press,Inc.
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