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地方自治法改正(指示権)案は岸田自公政権版「国家総動員法」

2024-06-01 17:56:13 | 自治体

 2024年5月14日岸田自公内閣は、「非常事態」に政府が「自治体」に対応を「指示(指示権)」(法的拘束力を有する)する事ができる地方自治法「改正案」(=改悪案)を衆議院議長に提出し衆院総務委員会が審議を始めた。この「改悪案」は一言でいえば、戦前、第1次近衛文麿内閣が1938年4月1日に公布し5月5日に施行した「国家総動員法」の岸田自公政権版であると言ってよい。「国家総動員法」第1条には「本法に於て国家総動員とは戦時(戦争に準ずべき事変の場合を含む以下之に同じ)に際し、国防目的達成の為国の全力を最も有効に発揮せしむる様人的及び物的資源を統制運用するを謂う」とある。内容は、➀戦時における「人的及び物的資源」に対する統制運用権政府に付与した事、➁戦時規定として臣民の徴用、総動員業務への協力、労務の需給調整、労働争議の防止、物資の需給調整、輸出入の統制、総動員物資の使用もしくは収用、資金の需給調整、施設・土地工作物・鉱業権等の使用・収用、事業設備の統制、統制協定、統制組合の結成、物価統制、出版の制限又は禁止などを列挙、③平戦時規定として職業能力調査、技能者養成、物資保有、業務の計画、試験研究、事業の助成、報告徴収及び臨検検査を列挙、④政府の命令に違反した者を3年以下の懲役又は禁錮、1万円以下の罰金又は拘留もしくは科料に処すとの厳しい罰則規定を定めた。国家の全力を最大限発揮できるよう人的・物的資源を統制運用する事を目的としたものであった。国民経済国民生活のすべてを官僚の統制下におき、その国民の諸権利の統制に大幅な権限を政府に委任する事を定めるものであった。これらを必要に応じ議会の議決を必要としない勅令を以て政府が発動し得るものとした。そのため政府は、帝国議会政党軽視し、政府の権限は増強した。

 近衛内閣は当初日中戦争には「勅令」を発動しないと明言したが法施行と同時に発動し、1939年以降各種の勅令を乱発し、第2次近衛内閣では「改正案」(=改悪案)を1941年の第76回帝国議会で通過させ、統制制限を撤廃し事業統制の権限拡大等を定め、統制を社会の隅々にまで行き渡らせ、政府権力は国民の日常生活の細部に至るまで統制監視を行うようになった。

 現在は「戦時」ではないが、岸田自公政権が「非常事態」に対応するためという「改正案」(=改悪案)の「指示権」は、「総動員法」にある「戦時」を「非常事態」と読み変えれば、この「国家総動員法」とまったく同様の効力効果を有し発揮するものである事は明らかである。

 第1次近衛内閣は、1937年11月9日の閣議で立案着手を決定し、企画院(国家総動員の中枢機関で、内閣直属の総合国策企画立案機関、革新官僚親軍的ファッショ官僚の拠点)を中心に関係各省、特に陸軍省と密接に連絡を取りながら審議を進め、1938年1月に成案、2月24日第73回帝国議会に法案を提出した。内容は、国民経済と国民生活のすべてを官僚による統制とし、その統制に関する大幅な権限を政府に委任する事を定めていた。そのため憲法論からも問題があるとして斎藤隆夫(民政党)らが批判反対した。批判の第1は、「戦時又は国家事変」の際における臣民の権利の制限又は停止天皇の非常大権であるにもかかわらず、それをあらかじめ法律で決めておく事は違憲である。第2は、法律によって個々になすべき臣民の権利の制限又は停止一括して政府の自由に委ねている事は違憲である、とするものであった。これに対し近衛内閣は「日中戦争には適用しない」と明言しただけで、近衛内閣と繋がった右翼は法案反対議員に圧力を加えたり、防共護国団が反対政党本部を占拠する脅迫行為を行った。帝国議会審議過程では3月3日に佐藤賢了陸軍中佐軍務課長が、質問した議員に対し「黙れ」と怒鳴り一喝して脅す「黙れ事件」などを起こしたため、唯一の無産政党であった社会大衆党も法案に積極的に賛成し、帝国議会は軍部の圧力に屈し、3月24日には無修正で可決に至り、第1次近衛内閣は4月1日公布し、5月5日施行した。ちなみに「黙れ事件」の収拾は杉山元陸相が陳謝しただけであった。佐藤は処罰されず、1942年陸軍省軍務局長、45年陸軍中将と順調に昇進したが、敗戦後、戦犯として訴追され、極東国際軍事裁判では「終身禁固」の判決を下された。

 国家総動員法の成立は、神聖天皇主権大日本帝国政府にとって、強力な「高度国防国家」=ファッショ的行政国家に再編成し戦時体制を確立する決定的な画期であった国民にとっては神聖天皇主権大日本帝国憲法が定めていた立憲主義的側面は事実上否定され、政府の統制が隅々まで行き渡り、政府権力は国民の日常生活の細部に至るまで統制監視を行うようになったのである。

(2024年5月18日投稿)

 

 

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