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コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

国民の歴史の絵巻物

2010-08-19 | Weblog

コートジボワールの独立50周年は、半世紀の節目だからといってとくに盛大に祝われることはなかった、と記したけれども、それは、大統領が行った公式の独立50周年式典の話である。一方で、街には国旗がたくさん掲げられ、看板広告には「50歳おめでとう」というメッセージが立ち並んだ。大使館の近くの公園では、アビジャン市が主催するお祭りが1週間の間毎日続けられ、賑やかな音楽が流れていた。

そうした周辺行事のひとつとして、独立50周年記念式典の前日、8月6日夜に、芸術の祭典を行うという。私宛にも招待状が来た。「舞踊の絵巻物(Fresque Chorégrahphique)」という標題が何を意味するのかはともかく、国立競技場で行うのだという。5万人収容のサッカー競技場である。そんな大きな舞台で、どんな祭典が可能なのだろう。例えば、踊り手が舞台の真ん中でどんな上手な踊りを見せても、あの競技場では米粒程度にしか見えないはずだ。

いったい何をどうやって見せるつもりなのか、好奇心もあったのである。私は招待状を携えて、国立競技場に赴いた。芸術の祭典は、予定時間を2時間半ほど遅れて、夜10時から始まった。私は1時間半遅れて、9時に会場に入ったけれど、さらに1時間待たされた。祭典が終わったのは、ほぼ12時に近かった。それでも行っただけの意義があった。私はコートジボワールの人々の舞台芸術のセンスに、たいへん感心したのだ。広大な舞台を生かした、みごとな演出を見せてくれた。

主題は、コートジボワールの国の歴史であった。最初に、緑の服を着て、大きな木の枝のようなものを頭に被った人々が大勢出てきて、てんでに会場に広がった。そして、いろんな格好をした人々が、奥のテントから飛び出してきた。猿や、豹や、ライオンや、鹿や、水牛や、そうした格好をして、ジャングルの間を、好き勝手に飛びまわっている。鰐の格好で、這いまわっている人もいる。象も登場した。二人がかりで象の着ぐるみを着て、花を揺らしながらのっしのっしと歩いている。もう分った。これは、太古からコートジボワールの地に広がっていた密林、という意味である。

そのうちに、民族音楽の太鼓が打ち鳴らされる中に、さまざまな色の服を着た人々が現れた。どうも、人々が住み始めたということらしい。色とりどりなのは、様々な部族がいるという意味と伺える。その色とりどりの人々が、ジャングルの間に混じって踊っている。そして、皆がこっちにむかって、鎌を左右に振り始めた。マシェットと言われるアフリカ特有の鎌である。森の開墾が始まったのだと分る。

ジャングルの中で、ばらばらに立っていた木々が、整列をした。開墾が進んで、畑がだいぶんと作られたということだろうか。動物たちはいつのまにかいなくなっていて、そのかわりに村人たちとおぼしき一群の人々が登場する。村の生活を演技しながら、あちらこちらで集まり、一ヶ所に纏まっては広がるという踊りを繰り返す。収穫ということを表しているようである。その間を、部族長の格好をした人々の祭列が練り歩いている。こうして、部族社会が成立したということであろう。

いつのまにか、サッカー場全体を、一列に並んだ白い服が四角く取り囲む。真っ白の服を着た人々は、ゆっくりゆっくりその輪を窄めていく。白い服、そう白人だ。そのうち、白い服の何人かが村々に入って行き、色とりどりの服を着た人々、つまりコートジボワールの村人たちを引きずり出し、叩いたりしはじめた。村人たちは、どこからいつのまに取り出したのか、おおきな穀物袋のようなものを背負い、白人たちにこき使われているという仕草を繰り返す。悲しい調子の音楽が流れる。

しかし大丈夫。そこに現れた、大きなコートジボワールの三色旗。会場から大きな歓声が上がる。コートジボワール国歌をもとに編曲した音楽が流れる中を、三色旗は周りを人々に支えられ、高く掲げられて練り歩く。三色旗が会場を通り抜けると、白人たちは、一列に並んで後ろに下がり、色とりどりのコートジボワールの人々が前に出て踊り始めた。その後に何百人を数えようか、赤い上着に白のズボンをはいた人々が陣列を組んでやってきた。これは国の秩序が築かれ、国家建設が進んでいるということなのだろう。長方形に整然と並んで、一糸乱れず軽快な踊りを披露する。

赤白の長方形の間を、何やら人形の列がゆっくり歩んできた。大きな頭がついて、背広の着ぐるみを着た人たちだ。会場から歓声が上がったのは、近づいて来た4体の人形の顔が、歴代大統領だからである。ウフエボワニ大統領、ベディエ大統領、ゲイ大統領、バグボ大統領の4人だ。ウフエボワニ初代大統領だけが、観客席に向かって大きく手を振る。その仕草が、大統領を彷彿させる真似なのだろうか、観客一同が、大笑いである。

そして、三色旗の3つの色の服を着た人々がやってきて、「50年」と人文字を作ったので、会場から大きな拍手が沸いた。その後は、頭の上に水がめを乗せた女性たちの踊り、ドラム缶を台にして男たちによる仕事の踊り、いろいろな踊りが続いた。そして最後に、これまで登場した人々が、皆会場に戻って来て、サッカー場全体にあふれるように入り乱れて、これで最終幕になった。皆が音楽に合わせて、手を振ったり踊ったりしている。空には、花火も上がり始めた。

こんな大きな競技場を舞台にして、どんな演出が可能なのだろうか、どうやってメッセージを伝えるのだろうかと疑問であったけれど、祭典を見て、こちらの人々の表現力はさすがだと思った。言葉による説明が何もなくても、はっきりと言いたいことが分る。国を造り、国を築くことの、喜びと誇りである。人々の間には、やはり50周年という月日を振り返り、華やかに祝いたいという気持ちがあったに違いない。遥かに来し国の歴史を誇る、そうした国民の素直な気持ちを、この舞踊の絵巻物は語っていた。

 「舞踊の絵巻物」入場券

 ジャングルの様子

 開墾が進んで、畑に出る人々

 白人に囲まれる。

 独立で、新しい秩序が到来した。

 国家の建設

 4人の大統領が登場

 ドラム缶の上で踊る。

 女性たちがお盆を抱えて洗濯の踊り

 50周年の人文字

 最後にみんな出てきた。

 花火も上がって終演


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