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コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

パリとの間の渡し船

2009-12-29 | Weblog
大使会議を終えて、東京からパリ経由でアビジャンに戻ることになる。さて私は、乗り継ぎのパリのシャルル・ドゴール空港にて、飛行機に向かう前に、まずネクタイを締める。アビジャン行きに搭乗したら、もう機内から、大使の格好と心構えに戻らなければならない。案の定、ゲートまで来ると、やぁと声をかけられる。見ると、マンベ選挙管理委員長である。

「休暇から戻られるところですか。」
と彼が訊くから、私は答える。いや、大使会議というのがありましてね、東京に出張して来た帰りですよ。マンベ委員長は、どちらまで。
「在外選挙の関係で、パリまで打ち合わせに出たのです。」

ちょうどこの間から、大統領選挙を前にして、日本の提供した資機材を、正式に引き渡す式典でもやったらどうか、という提案をしていたところだ。選挙管理委員会として、国民に選挙の重要性を啓発する、いい機会となるだろう。マンベ委員長に、その件について触れる。一般客と一緒の立ち話だから、込み入った話はできないけれど、懸案山積の彼の頭に、日本の式典の話を思い起こさせるためには、これで十分だ。

一緒に飛行機に乗り込む。それぞれのビジネス・クラスの座席に落ち着いたら、周りを見回す。知り合いが一人か二人、必ずいる。私が知らなくても、向こうが知っている。
「日本大使ですよね。」
と握手を求めてきた紳士がいる。初等教育省の某局長で、先日、ブル・レネ初等教育相のところを私が訪ねたときに、同席していたのでお目に罹っています、と自己紹介がある。そういえば、何となく顔を覚えている。学校建設の案件などがありましたね、などと一言二言話をする。

前のファースト・クラスからひょっこり現れたのは、なんとバカヨコ外相である。マンベ選挙管理委員長が乗っていると聞いて、挨拶しに来たらしい。私と目があったら、向こうも破顔一笑で、会釈が返ってきた。私は席から立ちあがって、言葉を交わす。
「コペンハーゲンへの出張の帰りですよ。先週行われた、国連気候変動枠組条約の締約国会合です。たいへんな会議でしたよ。近々、またゆっくりお話ししましょう。」
バカヨコ外相は、そう私に言って、席に戻った。

アビジャンとパリの間を往復する、エール・フランスの定期便。コートジボワールの紛争以降、ヨーロッパとの間を結んでいた航空会社各社は殆ど撤退して、この便だけが残っている。だから、パリに出張や休暇で出る人々は、ほぼ必ずこのAF便を利用することになる。毎日、パリを昼1時半に出発し、アビジャンでまたお客を乗せて、夜10時に飛び立ってパリに戻る。パリとアビジャンの間の、渡し船である。

だから、このAF便のビジネス・クラスはいつも、コートジボワールの著名人たちの、社交の場と化している。ビジネスの経済・財界人、政府関係者、政治家、報道人などが乗ってくる。同僚の大使連中にも、良く出会う。出張のときに、フライトの中くらいは、一人でゆっくり寛ぎたいものである。残念ながら、このフライトでは誰もが無名ではいられない。皆が皆、背広にネクタイを締めている。

というより、こちらも外交官である。そういうフライトが、情報収集の格好な機会となることがある。普通、例えば成田から出る便で、ビジネス・クラスにたまたま隣り合わせる人が、自分の仕事に直接関係する人であるなどという確率は極めて小さい。しかし、この便については、その確率は相当高い。

5時間のフライトの間、他にすることもないから、うまく話がはずめば、いろいろな情報をじっくり聞き出すことが出来る。先日も、隣同士になったヨーロッパ人のビジネスマンが、石油関係の仕事をしているという。それで、機内食が出されている間中、コートジボワールの石油開発事情について、貴重な情報を聞き出すことができた。

さて、今日隣り合わせになった人は、コートジボワールのテレコム事業の許認可官庁の局長だ、と名乗った。しめしめ、テレコム関係とはこれまた、私にとって関心が高い分野の一つである。コートジボワールで、携帯電話のシェアをめぐって、外資企業がしのぎを削っている事情などを話したあと、私は聞く。
「そうですか、それで日本のテレコム企業が、コートジボワールの情報通信に参入しようと思ったら、まだ余地はありますかね。」
問いに対して、その局長が私に教えてくれたことは、ひょっとしたら、とても貴重な示唆なのかもしれないので、ここでは秘して、もうすこし調査を続けてみよう。

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