goo blog サービス終了のお知らせ 

コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

醒めた独立半世紀

2010-08-04 | Weblog
50年つまり半世紀というのは、やはり一つの区切りであろう。アフリカ諸国が次々に独立を果たし、「アフリカの年」といわれた1960年から、ちょうど半世紀が経った。私はコートジボワール、トーゴ、ニジェールと3ヶ国を管轄し、3ヶ国とも独立が1960年である。今年は3ヶ国の独立50周年記念式典に、順番に出ることになるだろう。軍事パレードや、盛大な晩餐会や、民俗音楽や踊りなど、それぞれにお国柄を反映した、華やかな行事がありそうだ。私は、結構期待をしたのである。

ところが、その期待は、見事に裏切られた。独立50周年だといって、何か大きなお祭りらしいことをしようという機運には、全然ならない。まずトーゴは4月27日の独立50周年を、国内の関係者だけできわめて質素に行った。外国の賓客や外交団は、全く招待されなかった。そのかわり、ニヤシンベ大統領が無事に、つまり民主的な手続きを経て2選を決めた後、大統領の就任式を5月3日に、周辺の各国大統領を招待してちゃんと行った。独立50周年記念行事と、大統領就任式と、立て続けに2つの大きな行事を行う余裕はない、という実際的考慮もあっただろう。

さて、次にニジェールの独立50周年、8月3日はどうなるだろうか。ニジェールは、問題だらけの3選を強引に進めたタンジャ大統領が、今年2月にクーデタでひっくり返された。だから、むしろ国家の体制を立て直すことで手一杯、こっちも独立50周年を祝うような余裕はない。それでも、何か記念行事があるのではないか。もし記念行事がある場合には、ここでちょっと、私には問題がある。

日本は、国際法上、政府承認制度というのを採用している。つまり、クーデタなどの憲法手続きに反するやり方で政権が変わった場合、その政権を改めてきちんと承認する手続きをとらない限り、まともな政権としては付き合わないという原則である。もちろん、そのクーデタは、「民主主義を守るためのクーデタ」であった。それにサル・ジボ議長が率いる軍事政権は、来年に大統領選挙を行って、民選大統領に政権を移管する用意を進めている。でも、制度は制度、クーデタはクーデタだ。私は大使としては、現ニジェール政府の公式な行事には出席できないのである。

欧州はじめ各国とも、日本のような「政府承認制度」はとっていない。とくにその政権の成り立ちに大きな問題あったり、国がその政権のもとでは統一がとれていないというような実情がない限り、正統な政府としてつきあいを続ける。ましてや、ニジェールの場合は、クーデタで出来た政権だけれど、民主主義を取り戻すための「いい政権」である。だから、正式な二国間関係を継続している。

私は、東京の本省にお伺いをたてた。欧米諸国は、この政権は軍事政権だけれど、民主主義回復の政権であるということもあって、どんどん関係を進めている。日本が、クーデタで出来た政権は軍事政権があるからといって、形式的に付き合いを閉ざし、来年の大統領選挙まですべてをお預けにしてしまうなら、二国間関係の維持・増進に、大きく出遅れてしまう。私の考えでは、国が内紛に陥ったわけでもないのに、「政府承認制度」を律儀に適用して先方政府との関係を停滞させるのは、はっきりいって世界の潮流に乗り遅れている。

そうお伺いを立てたら、本省は柔軟であった。ああいいですよ、とニジェール政府と公式に付き合うことを、あっさり認めてくれた。大使つまり私は、ニジェール政府が独立50周年の行事を行う場合に、日本を代表して出席して良い、というのだ。私は安心し、原則を重んじながらも臨機応変に対応する本省に安堵した。そして、記念行事の案内を待った。

ところが、ニジェール政府は、独立50周年記念行事をしないという。ニジェールまで出かけていくということはないにしても、せめて、アビジャンでは、ここのニジェール大使が国祭日の祝賀会を盛大に行うのであろう。私は、本省の許可をとっているし、これには出席して、ニジェール大使におめでとうと言ってやろうと思っていた。それなのに、アビジャンのニジェール大使館での国祭日祝賀会さえ行わない、と言う。まったく、ニジェールも独立50周年については、醒めている。

さて、最後は8月7日、コートジボワールの独立50周年記念である。コートジボワールこそ、西アフリカの基軸国として、盛大に記念行事を行うだろうと思っていた。ところが、いつまでたっても、8月7日にむけて、どういう行事を行うのかはっきりしない。そういえば、今年の1月、独立50周年の記念行事の開始式において、バグボ大統領は何だか興醒めなことを言っていた。50年経って、何が祝うことがあろうか、というようなことである。

独立を勝ち得て半世紀、アフリカ諸国の国民には、さぞかし感慨深いものがあるだろう、と私たちは考える。ところが、当のアフリカ諸国にとっては、どうもそうでもないようで、ずいぶん醒めている。私の知る限り、仏語圏アフリカで今年独立50周年を盛大に祝ったのは、セネガルとカメルーンだけである。なぜそういうことなのだろうか。バグボ大統領が言ったように、半世紀たっても、自分たちが本当に独立し、自力で順調に国家建設を進めてきたというだけの自信がない、ということなのかもしれない。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。