goo blog サービス終了のお知らせ 

コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

民主主義と援助

2009-03-26 | Weblog
「ベナンは、民主主義が根付いた国です。」
ヤイ大統領は、挨拶の言葉も終わらないうちに、私にそう述べる。私は、信任状捧呈を終えて、写真撮影を行った後、応接室の長椅子に座って、ヤイ大統領との初の会談を行っている。実は、先週の村落開発案件の起工式で、もう大統領とは言葉を交わしているけれども、あの時は信任状捧呈式を行う前であったから、私はまだ正式の大使として認証されていなかった、ということである。
「各地で政情の落ち着かない西アフリカで、ベナンのように民主主義を築いてきている国があるというのは、重要なことでしょう。ベナンの民主主義は、質の高いものであると自負しているところです。」

大統領が、そのように誇らしく述べることには、十分理由がある。西アフリカの最も東にあるベナンは、1960年に独立したときはダホメーと言った。軍事クーデターが頻発した後に、1972年に政権を取ったケレク大統領は、国名をベナンに変え、マルクス・レーニン主義の国として、安定した政権を維持する。80年代後半の経済危機と共産圏の崩壊をうけて、マルクス・レーニン主義を放棄し、1990年には複数政党制を導入、翌91年に大統領選挙を行って、ソグロ大統領を選出した。このとき、ケレク大統領は選挙に破れて、政権を譲った。それ以来、5年毎の大統領選挙を着実に実施している。選挙結果が、現政権の敗北と出た場合も、円滑な政権交代を行ってきている。

つまり、ベナンはもう20年近く、民主主義のルールに基いた政治を行ってきているということである。過去20年の歴史を振り返ると、残念ながら西アフリカでは、こうしたベナンの民主主義は例外的だ。今日に至るまで、軍幹部がクーデタを起こして政権を取る例が、後を絶たない。ヤイ大統領は続ける。
「マダガスカルでは、軍が政治に介入して、大統領が追い出されてしまった。このようなことは民主主義に反します。ベナンでは、クーデタはありえない。軍は、あくまでも共和国を防衛するための軍であると、よく弁えています。誰かの権力欲のために、軍が動くことはありえません。」

アフリカで、欧米型の民主主義つまり多数決による選挙が、政治プロセスとして適切かどうかというのは、議論のあるところだ。クーデタが頻発するのは、民主主義の未熟というより、アフリカでは民主主義にも難点があるから、という意見にも頷けるところがある。しかしながら、ベナンを見ていると一つ確かなことがある。それは、民主主義が政権に緊張感を与える、ということだ。ヤイ大統領は、2006年の大統領選挙で、75%の得票率という、圧倒的な支持を得て当選した。大統領には、この国民の声に応えなければならないという意識が極めて強い。そして、否応なしに2011年の大統領選挙が来るのである。審判が来るその時までに、実績を作らなければならない。

「ベナンには、国の富を平等に分かち合おうという精神があります。国を建設し、発展させなければならない。私は、教育や保健医療や、それから農業、給水、そうした分野で、国民のために働いてきました。腐敗を撲滅し、国の資源を最大限に活用できるようにして、民主国家を建設していきたいのです。」
そして、私に言葉を挟む余地も与えず、大統領は熱心に語り続ける。
「日本は民主主義の大国だ。私は、日本に対する敬意から、2006年に大統領になって最初の外遊先として、フランスに次いで日本を選び、訪問しました(同年7月)。日本とベナンは、多くの友人を共有する、パートナーの関係です。ベナンの民主国家の建設のため、是非とも引き続き、日本の支援をお願いしたい。」

ベナンのことを、「援助慣れ」している、と批判的に言う人々もいる。しかし、援助する側としては、ベナンのように政治が安定し、着実な民主主義を実践している国には、安心して援助が出来る。90年代にすでに、世銀・IMFの求める構造調整(制度改革や金融再編を含む経済自由化の方針)を受け入れて実践してきている。その経済改革努力に対して、援助国側や国際機関側からの評価は高い。

一方で、ヤイ大統領から直接、ベナンの国家建設を手伝って欲しいという要望を聞いて、私は考えた。民主主義国家だから経済協力が促進されるというのには、援助国側が援助を行いやすいという理由以外に、もう一つ大きな理由があるのではないか。つまり、民主主義を実践していく過程で、政治指導者は国民の期待感や、社会の問題点を意識して仕事をするようになる。しかも、次の大統領選挙までの限られた時間の中で、目に見える実績を示していかなければならない。国内で動員できる資金は限られているから、どうしても援助国の経済協力が確実でありがたい。大統領自ら、経済協力の誘致に熱心になる。

それは悪いことではない。日本にとって、アフリカで民主主義を確立した国が、安定した政権のもとで、活発な経済活動を継続してくれることは、とても心強いことである。日本からの経済協力が、そうした国を支える力として、効果を発揮するというのであれば、是非積極的に取り組もうではないか。明年1月から、ベナンに日本大使館をつくることになっている。大使館開設で利便が格段によくなり、二国間の交流はますます活発になっていくであろう。そのためにも、ベナンにはしっかりした民主主義国家であり続けてほしい。

「大統領が、日本との関係を重視しておられること、さらに開発に情熱を持って取り組んでおられることを、よく理解しました。アフリカの発展のために、アジアとアフリカが協力することは重要です。日本としてベナンとしっかり協力していきたいと考えます。」
私は、ヤイ大統領にそう述べて、最初の会談を終了した。これで私は、コートジボワール、トーゴ、ブルキナファソに次いで、ベナンの大使にもなった。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。