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コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

軍楽隊と対仏関係

2010-07-28 | Weblog

アビジャンに戻って来たらすぐに7月14日、フランスの革命記念日であった。221年前のこの日にバスティーユ監獄が解放され、自由・平等・友愛の新しいフランスへの歩みが始まった。だから、フランスの国祭日となっている。コートジボワールで行われる、各国の国祭日のなかでは、このフランスの国祭日が一番盛大である。何といっても、この国では、フランスおよびフランス人社会の存在が他を圧倒しているから。

私は大使として、いくつかの行事に出席する。まず初めに、朝8時から、フランス軍の式典に臨む。フランス軍の「リコルヌ部隊」が、国連の平和維持軍(UNOCI)の一部として、アビジャン空港のすぐ脇に陣地を構えて駐留している。そこで、軍事パレードがあるのは、昨年と同じである。

両国国歌演奏と国旗掲揚があり、司令官による閲兵があり、殉職者への追悼があり、勲章授与があり、そして軍事パレードがあるところまで、昨年と同じである。ちょっと違うのは、今年は昨年と比べて式典がずいぶん引き締まっている。何が違うかというと、軍楽隊が来ている。昨年は、ぜんぶ録音で済ませて、少しみすぼらしかった。今年は、立派な軍楽隊が、威厳を以って器楽を奏でている。

以前はここアビジャンに1万人近くが駐留していたフランス軍も、800人の規模に縮小されて、もちろん軍楽隊を抱える余裕はない。だから、昨年の式典が、録音の音楽で行われたのも仕方ないと思っていた。今年はどういう風の吹きまわしであろうか、とよく見ると、この軍楽隊、皆アフリカ人である。大太鼓の前に垂らされた旗には、「G・R」と記されている。「G・R」つまり「Gardes Republicains」で、大統領警護隊である。コートジボワール軍の軍楽隊なのだ。

「ほら、この意味は深長だね。」
隣に座っているドイツ大使が私に言う。えっ、どういう意味ですか。
「つまり、バグボ大統領が、フランス軍に軍楽隊を提供したということですよ。これは、コートジボワールがフランスのことを決して嫌ってはいないんだという、一つのシグナルに違いないですよ。」
なるほど、軍楽隊が奏でているのは、行進曲だけではない。フランスとの親密度を奏でている。

さて、午前中の軍事パレードを参観したあと、今度は夕刻から、フランス大使公邸で行われる、祝賀レセプションに出席する。私は、車に日本の国旗を立てて、フランス大使公邸に向かうも、来賓の車が多数つかえて動けない。膨大な人数の客が来ているのだ。聞くと、コートジボワール在住のすべてのフランス人が、招待を受けているのだという。みな盛装している。フランス人社会にとって、あの豪壮広大なフランス大使公邸に足を踏み入れることができる、年に一度の華やかな機会なのである。

会場にようやく入ると、もう立錐の余地もないほど、人々でごった返している。大量のおつまみや料理が出ている。お酒も一流のワインか、と頼んでみたら、ロワールの安手の赤ワインだった。さすがにこの人数を招待するわけだから、こういうところは、フランス大使も面子よりも節約に重きを置かざるを得ないのだろう。そして軍楽隊が、会場のど真ん中に堂々と控えている。朝の軍事式典のときと同じ「G・R」と記されたバグボ大統領の軍楽隊である。

案内があって、フランス大使が演台に立った。ひととおりの挨拶の後、フランス大使からコートジボワールの人々に対するメッセージである。
「コートジボワールが、政治危機から完全に立ち直り、正常化を果たすために、大統領選挙の実施が強く期待されていることは言うまでもありません。今年の年末までに、大統領選挙が行われるものであると、私は信じております。」
そう、それはきちんと言っておかなければならない。

「この国には、この国の人々の心の中には、平和が戻ってきています。そして、経済は再び繁栄を取り戻しつつあります。」
フランス大使は前向きの話題に移る。
「ここにお集まりの在留フランス人の皆さん、あなたがたは、2004年の出来事以来の艱難辛苦にもかかわらず、この国に残ることを選択された。あるいは、この国に再び戻ってこられた。それは極めて正しい選択です。なぜなら、コートジボワールは間違いなく、これから大きく発展するからです。大いに繁栄するからです。」

そして、大使は続ける。フランスとコートジボワールは、長く手に手を携えて、国造りに協力して来た。今年は独立50周年の節目である。コートジボワールは、あの1970年代の繁栄を取り戻すことができるだろう。そのためにフランスもコートジボワールも友好の過去にもう一度立ち返ろうではないか、と呼びかけた。

コートジボワールの紛争の間、バグボ大統領とその支持者たちは、フランスに憤慨してきた。フランスが、バグボ大統領の政治に不満があるので、クーデタや内戦を起して政府を覆そうとしたのだ、という解釈さえ公言する人もいた。最近でもフランスは、バグボ大統領がなかなか大統領選挙に乗り出さないことに、厳しい目を向け、バグボ大統領はこれに反発をしてきた。何となく冷ややかな関係は、最近のいくつかの事例に表れている。今年の5月末にサルコジ大統領が、ニースに全アフリカ諸国の首脳を呼んで国際会議を開催したのに、バグボ大統領は出席しなかった。そして、まさに今日7月14日に、サルコジ大統領は、今年独立50周年を迎える仏語圏アフリカ諸国の軍隊を、シャンゼリゼ通りでの軍事パレードに参加するように招待した。これにも、コートジボワールは応じなかった。

フランスとコートジボワールの関係が緊張している、と人々に思われている。そうした受け止め方が行きすぎにならないよう軌道修正することに、フランス大使も、バグボ大統領も、共通の利益を感じているのであろうか。革命記念日の機会に、バグボ大統領が大統領警護隊の軍楽隊を手伝いに差し向けたことには、そういう関係修復への、重要なメッセージが込められている。

フランス大使は、軍楽隊に目を向けた。
「本日、この革命記念日の祝賀のため、大統領警護隊の軍楽隊を私たちのところに派遣することを、特例で認めてくれた、バグボ大統領に感謝いたします。」
フランスとコートジボワールの友好万歳と述べて、演説を締めくくった。満場の拍手。
指揮棒が振り上げられた。軍楽隊が、両国国歌の演奏を始めた。

 リコルヌ部隊の司令部

 両国の国旗を掲揚する

 リコルヌ司令官による閲兵

 大統領警護隊から派遣された、コートジボワールの軍楽隊

 パレードが始まった

 最初は憲兵隊の装甲車

 兵員輸送車がやってきた

 目の前を通り過ぎていく

 高機動車が続く

 その後には、砲を構えた装甲車

 パラシュートが降りてくる

 無事に着地


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