米欧の経済界トップや政治家が懸念する最近の中国による輸出急増は、中国の製造業向け補助金の大盤振る舞いや膨張する工業生産能力が原因だと説明されることが多い。
しかし、別の要因もある。中国の通貨・人民元の相場と、インフレ(の不在)だと、WSJ・シンガポールのジェイソンダグラス氏。
チャイナ・ショック2.0の背後に「元安とデフレ」 - WSJ
人民元の実質ベースの弱さが、他の輸出国を犠牲にする形で中国の輸出を加速させている ジェイソンダグラス 2024年5月7日
【シンガポール】米欧の経済界トップや政治家が懸念する最近の中国による輸出急増は、中国の製造業向け補助金の大盤振る舞いや膨張する工業生産能力が原因だと説明されることが多い。
しかし、別の要因もある。中国の通貨・人民元の相場と、インフレ(の不在)だ。
中国の実質実効為替レート(他国との貿易関係およびインフレ率の差で調整したレート)は、2014年の水準に戻っており、ここ10年間の上昇を打ち消している。
人民元のこうした実質ベースの弱さが、他の輸出国を犠牲にする形で中国の輸出を加速させている。
中国通貨安は、とりわけ米ドル高の影響を同時に受けているアジア諸国の経済や通貨を一段と圧迫している。
米国は過去に人民元を巡って中国と対立してきた。米国にとって、インフレ調整後の元安は中国で製造される製品がこれまでよりさらに割安になるということであり、この傾向は輸入物価の低さに反映されている。米国民にとって中国製品が魅力的になるため、中国への依存度を低下させるという米当局の目標達成は遠のく。
「中国のサプライチェーン(供給網)を使うインセンティブは、依然として非常に大きい」と米外交問題評議会のシニアフェロー、ブラッド・セッツァー氏は言う。「この為替レートだと中国の競争力は極めて高くなる」
各国の中央銀行で構成される国際決済銀行(BIS)のデータによると、人民元は主要貿易相手国の通貨バスケットに対して、2022年3月に付けた直近のピークから6%下落している。この下落は、長引く不動産危機と消費支出の低迷に苦しむ中国経済の鈍い成長を反映している。
デフレの隠れたメリット
人民元の実質実効為替レートは同時期に14%下落した。中国はデフレの寸前にある。大半のエコノミストは、消費が圧迫され借り入れが難しくなるとの理由から、デフレが悪いことだと考えている。しかし、デフレには隠れたメリットがある。とりわけ米国などでインフレ率が高いときには、世界市場で中国の輸出品の競争力が一層高まるのだ。
人民元の名目と実質の為替レートの差は、BISが統計を取り始めた1994年以降で最も大きくなっている。一方、米国の実質為替レートは、2022年初め以降6%上昇している。
国際通貨基金(IMF)アジア太平洋局長を務めるクリシュナ・スリニバーサン氏は、元の実質ベースでの価値低下について、「明らかに(中国からの)輸出増に貢献している」と言う。
中国の今年2月の輸出量は、2022年3月の水準を約10%上回った。オランダ経済政策分析局(CPB)のデータによると、この間の世界の輸出量の増加幅は1.4%にとどまっている。
諸外国の当局者らは、2000年代初頭の「チャイナ・ショック」が再現されるのではないかと懸念している。当時は中国の市場経済重視の改革と世界貿易機関(WTO)加盟を受けて、同国の輸出が急増した。それは米国などの消費者に大きな恩恵をもたらす一方で、中国と競合する産業に大打撃を与えた。
ジャネット・イエレン米財務長官は今年4月、中国に対し、国家主導の投資に支えられた製造業の生産能力の急拡大が、他国の雇用を脅かしていることへの懸念を伝えた。中国側はこうした批判について、保護主義政策の口実だと非難している。
他のアジア諸国に打撃
中国の輸出の伸びは、主として近隣のアジア諸国の犠牲の上に成り立っている。これら諸国の多くは、電子機器、鉄鋼、汎用(はんよう)半導体、家具などの製品分野で中国と直接的な競合関係にある。
CPBのデータによれば、中国の輸出量が10%増加した2022年3月~24年2月の間に、他のアジア新興諸国の輸出量は2%近く減少した。円相場の急落にもかかわらず、日本の輸出にさえも打撃が及んでいる。自動車産業で中国が力を伸ばしていることが一因だ。
こうした状況は、中国以外のアジア諸国での目先の成長鈍化や対ドルでの通貨価値の下落につながる可能性があり、通貨安の圧力がさらに強まりかねない。
韓国ウォンの対ドル相場は年初来で5%下落し、マレーシア・リンギは同3%、ベトナム・ドンは同4.5%それぞれ下げている。
インドネシア中央銀行は4月、ルピア安とインフレ再加速のリスクを理由に、予想外の利上げを実施した。日本は急落する円を防衛するために数百億ドルの外貨準備を使っている。
人民元に競争力をもたらしている要因の大半がインフレ率の差であるため、外国が元安を反転させようとする取り組みは複雑になる。2019年、ドナルド・トランプ政権下の米国は中国を為替操作国に認定し、中国当局者に為替介入をやめ、元高を容認するよう求めた。
だが現在、中国当局者は元安ではなく元高に誘導しているか、少なくとも元安のスピードを緩めて制御可能にするように動いていると多くのアナリストは指摘する。急激な元安が資本逃避の引き金となり、石油など主要輸入品のコストが上がることを当局は懸念している。
従来の解決策が効かない理由
つまり、中国政府に対して再び為替管理を緩めるよう求めれば、一層の元安につながり、他国の輸出や通貨への圧力が強まることにもなりかねない。
HSBCのアジア部門チーフエコノミスト、フレデリック・ニューマン氏は「そうなれば世界は中国との競争において、さらに大きな課題を抱えることになるだろう」と言う。
実質ベースの元安の反転は、中国のインフレ率を上昇させることで可能かもしれないが、それには、より積極的な財政刺激策が必要になる公算が大きい。中国政府は多額の債務がさらに増えることなどを懸念し、そうした刺激策には抵抗感を示してきた。米国などの国々で利上げなどのより思い切ったインフレ抑制策を取ることも有効かもしれないが、目先では元相場の下押し圧力をさらに強めることになるだろう。
「今のところ、中国と米国は元の対ドル相場が下がり過ぎないことを望んでいるという点では一致しているのかもしれない」。コーネル大学のエスワー・プラサド教授(経済学・貿易政策)はこう述べている。
------------------------------------------
ジェイソンダグラスは、ウォールストリートジャーナルのシンガポール支局からアジアの経済学について報告しています。彼は中国経済の動向と発展、そして世界で最も人口の多い大陸を再形成する経済力について書いています。
彼は以前、ジャーナルのロンドン支局から英国とヨーロッパの経済学と公共政策を取り上げました
人民元の実質ベースの弱さが、他の輸出国を犠牲にする形で中国の輸出を加速させている ジェイソンダグラス 2024年5月7日
【シンガポール】米欧の経済界トップや政治家が懸念する最近の中国による輸出急増は、中国の製造業向け補助金の大盤振る舞いや膨張する工業生産能力が原因だと説明されることが多い。
しかし、別の要因もある。中国の通貨・人民元の相場と、インフレ(の不在)だ。
中国の実質実効為替レート(他国との貿易関係およびインフレ率の差で調整したレート)は、2014年の水準に戻っており、ここ10年間の上昇を打ち消している。
人民元のこうした実質ベースの弱さが、他の輸出国を犠牲にする形で中国の輸出を加速させている。
中国通貨安は、とりわけ米ドル高の影響を同時に受けているアジア諸国の経済や通貨を一段と圧迫している。
米国は過去に人民元を巡って中国と対立してきた。米国にとって、インフレ調整後の元安は中国で製造される製品がこれまでよりさらに割安になるということであり、この傾向は輸入物価の低さに反映されている。米国民にとって中国製品が魅力的になるため、中国への依存度を低下させるという米当局の目標達成は遠のく。
「中国のサプライチェーン(供給網)を使うインセンティブは、依然として非常に大きい」と米外交問題評議会のシニアフェロー、ブラッド・セッツァー氏は言う。「この為替レートだと中国の競争力は極めて高くなる」
各国の中央銀行で構成される国際決済銀行(BIS)のデータによると、人民元は主要貿易相手国の通貨バスケットに対して、2022年3月に付けた直近のピークから6%下落している。この下落は、長引く不動産危機と消費支出の低迷に苦しむ中国経済の鈍い成長を反映している。
デフレの隠れたメリット
人民元の実質実効為替レートは同時期に14%下落した。中国はデフレの寸前にある。大半のエコノミストは、消費が圧迫され借り入れが難しくなるとの理由から、デフレが悪いことだと考えている。しかし、デフレには隠れたメリットがある。とりわけ米国などでインフレ率が高いときには、世界市場で中国の輸出品の競争力が一層高まるのだ。
人民元の名目と実質の為替レートの差は、BISが統計を取り始めた1994年以降で最も大きくなっている。一方、米国の実質為替レートは、2022年初め以降6%上昇している。
国際通貨基金(IMF)アジア太平洋局長を務めるクリシュナ・スリニバーサン氏は、元の実質ベースでの価値低下について、「明らかに(中国からの)輸出増に貢献している」と言う。
中国の今年2月の輸出量は、2022年3月の水準を約10%上回った。オランダ経済政策分析局(CPB)のデータによると、この間の世界の輸出量の増加幅は1.4%にとどまっている。
諸外国の当局者らは、2000年代初頭の「チャイナ・ショック」が再現されるのではないかと懸念している。当時は中国の市場経済重視の改革と世界貿易機関(WTO)加盟を受けて、同国の輸出が急増した。それは米国などの消費者に大きな恩恵をもたらす一方で、中国と競合する産業に大打撃を与えた。
ジャネット・イエレン米財務長官は今年4月、中国に対し、国家主導の投資に支えられた製造業の生産能力の急拡大が、他国の雇用を脅かしていることへの懸念を伝えた。中国側はこうした批判について、保護主義政策の口実だと非難している。
他のアジア諸国に打撃
中国の輸出の伸びは、主として近隣のアジア諸国の犠牲の上に成り立っている。これら諸国の多くは、電子機器、鉄鋼、汎用(はんよう)半導体、家具などの製品分野で中国と直接的な競合関係にある。
CPBのデータによれば、中国の輸出量が10%増加した2022年3月~24年2月の間に、他のアジア新興諸国の輸出量は2%近く減少した。円相場の急落にもかかわらず、日本の輸出にさえも打撃が及んでいる。自動車産業で中国が力を伸ばしていることが一因だ。
こうした状況は、中国以外のアジア諸国での目先の成長鈍化や対ドルでの通貨価値の下落につながる可能性があり、通貨安の圧力がさらに強まりかねない。
韓国ウォンの対ドル相場は年初来で5%下落し、マレーシア・リンギは同3%、ベトナム・ドンは同4.5%それぞれ下げている。
インドネシア中央銀行は4月、ルピア安とインフレ再加速のリスクを理由に、予想外の利上げを実施した。日本は急落する円を防衛するために数百億ドルの外貨準備を使っている。
人民元に競争力をもたらしている要因の大半がインフレ率の差であるため、外国が元安を反転させようとする取り組みは複雑になる。2019年、ドナルド・トランプ政権下の米国は中国を為替操作国に認定し、中国当局者に為替介入をやめ、元高を容認するよう求めた。
だが現在、中国当局者は元安ではなく元高に誘導しているか、少なくとも元安のスピードを緩めて制御可能にするように動いていると多くのアナリストは指摘する。急激な元安が資本逃避の引き金となり、石油など主要輸入品のコストが上がることを当局は懸念している。
従来の解決策が効かない理由
つまり、中国政府に対して再び為替管理を緩めるよう求めれば、一層の元安につながり、他国の輸出や通貨への圧力が強まることにもなりかねない。
HSBCのアジア部門チーフエコノミスト、フレデリック・ニューマン氏は「そうなれば世界は中国との競争において、さらに大きな課題を抱えることになるだろう」と言う。
実質ベースの元安の反転は、中国のインフレ率を上昇させることで可能かもしれないが、それには、より積極的な財政刺激策が必要になる公算が大きい。中国政府は多額の債務がさらに増えることなどを懸念し、そうした刺激策には抵抗感を示してきた。米国などの国々で利上げなどのより思い切ったインフレ抑制策を取ることも有効かもしれないが、目先では元相場の下押し圧力をさらに強めることになるだろう。
「今のところ、中国と米国は元の対ドル相場が下がり過ぎないことを望んでいるという点では一致しているのかもしれない」。コーネル大学のエスワー・プラサド教授(経済学・貿易政策)はこう述べている。
------------------------------------------
ジェイソンダグラスは、ウォールストリートジャーナルのシンガポール支局からアジアの経済学について報告しています。彼は中国経済の動向と発展、そして世界で最も人口の多い大陸を再形成する経済力について書いています。
彼は以前、ジャーナルのロンドン支局から英国とヨーロッパの経済学と公共政策を取り上げました
中国の実質実効為替レート(他国との貿易関係およびインフレ率の差で調整したレート)は、2014年の水準に戻っており、ここ10年間の上昇を打ち消している。
人民元のこうした実質ベースの弱さが、他の輸出国を犠牲にする形で中国の輸出を加速させている。
中国通貨安は、とりわけ米ドル高の影響を同時に受けているアジア諸国の経済や通貨を一段と圧迫していると、WSJ・ジェイソンダグラス氏。
米国は過去に人民元を巡って中国と対立してきた。
元安は中国で製造される製品がこれまでよりさらに割安になるということであり、この傾向は輸入物価の低さに反映されている。米国民にとって中国製品が魅力的になるため、中国への依存度を低下させるという米当局の目標達成は遠のく。
人民元は主要貿易相手国の通貨バスケットに対して、2022年3月に付けた直近のピークから6%下落。この下落は、長引く不動産危機と消費支出の低迷に苦しむ中国経済の鈍い成長を反映したものだと、WSJ・ジェイソンダグラス氏。
人民元の実質実効為替レートは同時期に14%下落した。中国はデフレの寸前にある。
しかし、デフレには隠れたメリットがある。とりわけ米国などでインフレ率が高いときには、世界市場で中国の輸出品の競争力が一層高まると、WSJ・ジェイソンダグラス氏。
国際通貨基金(IMF)アジア太平洋局長を務めるクリシュナ・スリニバーサン氏は、元の実質ベースでの価値低下について、「明らかに(中国からの)輸出増に貢献している」と言う。
中国の今年2月の輸出量は、2022年3月の水準を約10%上回った。
諸外国の当局者らは、2000年代初頭の「チャイナ・ショック」が再現されるのではないかと懸念している。
当時中国の輸出が急増した。それは米国などの消費者に大きな恩恵をもたらす一方で、中国と競合する産業に大打撃を与えた。
イエレン米財務長官は今年4月、中国に対し、国家主導の投資に支えられた製造業の生産能力の急拡大が、他国の雇用を脅かしていることへの懸念を伝えた。中国側はこうした批判について、保護主義政策の口実だと非難。
中国の輸出の伸びは、主として近隣のアジア諸国の犠牲の上に成り立っている。
電子機器、鉄鋼、汎用(はんよう)半導体、家具などの製品分野で中国と直接的な競合関係にあると、WSJ・ジェイソンダグラス氏。
オランダ経済政策分析局(CPB)のデータによると、中国の輸出量が10%増加した2022年3月~24年2月の間に、他のアジア新興諸国の輸出量は2%近く減少した。円相場の急落にもかかわらず、日本の輸出にさえも打撃が及んでいる。自動車産業で中国が力を伸ばしていることが一因だと、WSJ・ジェイソンダグラス氏。
こうした状況は、中国以外のアジア諸国での目先の成長鈍化や対ドルでの通貨価値の下落につながる可能性があり、通貨安の圧力がさらに強まりかねない。
韓国ウォンの対ドル相場は年初来で5%下落し、マレーシア・リンギは同3%、ベトナム・ドンは同4.5%それぞれ下げている。
インドネシア中央銀行は4月、ルピア安とインフレ再加速のリスクを理由に、予想外の利上げを実施した。日本は急落する円を防衛するために数百億ドルの外貨準備を使っていると、WSJ・ジェイソンダグラス氏。
外国が元安を反転させようとする取り組みは複雑になる。2019年、ドナルド・トランプ政権下の米国は中国を為替操作国に認定し、中国当局者に為替介入をやめ、元高を容認するよう求めた。
だが現在、中国当局者は元安ではなく元高に誘導しているか、少なくとも元安のスピードを緩めて制御可能にするように動いていると多くのアナリストは指摘する。急激な元安が資本逃避の引き金となり、石油など主要輸入品のコストが上がることを当局は懸念しているのだそうです。
中国政府に対して再び為替管理を緩めるよう求めれば、一層の元安につながり、他国の輸出や通貨への圧力が強まることにもなりかねない。
コーネル大学のエスワー・プラサド教授は、「今のところ、中国と米国は元の対ドル相場が下がり過ぎないことを望んでいるという点では一致しているのかもしれない」と。
円安も止まらないですね。
この花の名前は、ダイリントキワソウ
↓よろしかったら、お願いします。
遊爺さんの写真素材 - PIXTA