ウクライナのゼレンスキー大統領が12月21日、米国の首都ワシントンを電撃訪問し、バイデン米大統領と会談し、米上下両院合同会議で演説もした。
戦闘が激化する中で大統領みずから同盟国でもない米国を訪問すること自体、ウクライナにとって戦況が切羽詰まってきたことの表れだと、元読売新聞政治部デスクで、パシフィック・リサーチ・インスティテュート上級研究員の、高濱賛氏。
ニクソン大統領時代、日本の頭越しに米中関係樹立を成し遂げた、キッシンジャー氏の和平提案論と共に、ロシアのウクライナ侵攻の展望を語っておられます。
バイデン氏は、ウクライナの防衛能力を強化するとして、地上配備型迎撃ミサイル「パトリオット」を含む20億ドル(約2600億円)の追加の軍事支援を約束した。
上下両院議員たちは、ゼレンスキー大統領の演説に惜しみない拍手を送り、スタンディング・オベーションを繰り返したのだそうです。
キッシンジャー氏にとっては「遺言」めいたウクライナ和平に向けた提言とは以下。
「ウクライナ戦争はバランス・オブ・パワーをめぐる戦争の一段階だ。次の段階は内戦だ。この内戦はヨーロッパ的に言えばグローバル戦争に結びつく」
「つまり、この戦争はロシアが欧州との首尾一貫した関係を築き上げられるか、あるいはアジアの辺境的な一部に収まるかの分岐点になる。こうした例は過去にはない」
「ゼレンスキー氏も私の発言後、2週間経って英誌とのインタビューで、ロシア侵攻以前のステータスクォーが取り戻せれば御の字(A great victory)だ。後は外交的に取り返すと言っている」
一連の発言について欧州のメディアは克明に報じた。しかし、米メディアはなぜかあまり報じていない。
世論調査をみても、5月段階でウクライナ情勢に関心があると答えていた米国人は55%だったのが、9月段階では38%に激減。
米国民の関心事はウクライナ情勢よりも物価の高騰やインフレに移っていた。
外国の外交専門家やインテリ層には「キッシンジャー」の名前は依然として「葵の御紋的なご利益」があるが、米国の一般市民にとっては「過去の人」。
そのキッシンジャー氏が、遠く離れた「ダボス会議」や独メディアで何をしゃべろうとインパクトはあまりなかった。
更に12月18日、英保守系誌「ザ・スペクテイター」へ寄稿。
「ロシアとウクライナはすでに達成されている戦略的変化(Strategic change)を土台に交渉による平和の実現に向けた新しい構造に統合する時期が到来している」
「和平のプロセスは、ウクライナをNATOに結び付けるべきである。すでにフィンランドとスウェーデンがNATO加盟を決めた以上、ロシアが抵抗しても無理だ」
「ウクライナを中立的立場に置くという選択肢はもはや意味をなさない」
「侵攻以前の戦線に戦闘でも交渉でも戻すことができないのでれば、国際監視下で民族自決の原則の履行を追求すべきだ」
「和平プロセスには、ウクライナの自由と、中欧・東欧の新たな国際秩序の定義付けを確認し合うという2つの目標がある」
ゼレンスキー氏の米議会演説は迫力があったと、高濱氏。
「パトリオットをください。たくさんください。ウクライナ国民は皆さんから頂いた武器で勝利の日まで戦います」
「皆さんが英国と戦って独立を勝ち取ったようにわれわれは頑張ります」
「これはチャリティではありません。皆さんにとっては、世界平和と民主主義を守るための投資です」
演説の最後には、戦場で戦う兵士から「米国民に渡してください」と託された寄せ書きしたウクライナ国旗をナンシー・ペロシ下院議長に手渡した。
少なくともこの日ばかりはキッシンジャー氏の和平提案は藻屑(もくず)と消えてしまった感すらすると、高濱氏。
米国民は陽気で涙脆い。意気に感じる国民だ。
だがキッシンジャー博士の論ずる「現実的政治」(Real politics)への切り替えも素早い。ベトナムでもアフガンニスタンでもそうだったとも。
下院を共和党が抑えた米国議会。下院では、国内経済対策優先を唱える勢力があることは諸兄がご存知の通り。
バイデン氏は、ウクライナへの支援継続を唱え、予算も通しましたが、下院との逆転がどけだけ今後の展開に影響を及ぼすのか。
そのためにも訪米(米国が招聘)したゼレンスキー氏の、自由主義陣営を護る為の戦いへの支援継続がどれほどにされるのか。要注目です。
サハリン1, 2からの撤退を進める米英に対し、口ではウクライナ支援を唱えながら、プーチンの揺さぶりにも関わらず商工会議所や経団連と共に縋りつく岸田政権の日本。
自由主義陣営と、中露との溝は、来年は、一段と厳しい対立にゆれそうですね。
# 冒頭の画像は、米議会で演説後、ペロシ下院議長にウクライナ国旗を手渡すゼレンスキー大統領
この花の名前は、リュウキュウツツジ 藤万葉
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遊爺さんの写真素材 - PIXTA
戦闘が激化する中で大統領みずから同盟国でもない米国を訪問すること自体、ウクライナにとって戦況が切羽詰まってきたことの表れだと、元読売新聞政治部デスクで、パシフィック・リサーチ・インスティテュート上級研究員の、高濱賛氏。
ニクソン大統領時代、日本の頭越しに米中関係樹立を成し遂げた、キッシンジャー氏の和平提案論と共に、ロシアのウクライナ侵攻の展望を語っておられます。
米議会を虜にした千両役者ゼレンスキー大統領だったが・・・ 米国内ではキッシンジャー博士の提唱する和平論くすぶる | JBpress (ジェイビープレス) 2022.12.23(金) 高濱 賛
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が12月21日、米国の首都ワシントンを電撃訪問し、ジョー・バイデン米大統領と会談した。米上下両院合同会議で演説した。
ロシアがウクライナ侵攻を始めた2月24日以降、ゼレンスキー氏が外国を訪れるのは初めてだ。
しかも計画は超極秘裏に練られ、ポーランド経由、米政府が差し向けた大統領専用機「エア・フォース・ワン」でのワシントン入りだった。
戦闘が激化する中で大統領みずから同盟国でもない米国を訪問すること自体、ウクライナにとって戦況が切羽詰まってきたことの表れだ。
バイデン氏は、ウクライナの防衛能力を強化するとして、地上配備型迎撃ミサイル「パトリオット」を含む20億ドル(約2600億円)の追加の軍事支援を約束した。
米議会は12月23日、ロシアの侵略を踏まえてウクライナや北大西洋条約機構(NATO)加盟国への支援として449億ドル=約6兆円の軍事支援を盛り込んだ2023年会計年度(2022年10月から2023年9月)予算を可決成立させる。
パトリオット導入でウクライナはロシアの短距離弾道ミサイルや巡航ミサイルなどを高い精度で迎撃できる。
米国が米軍の主力防衛システムであるパトリオットを供与してきたのは日本やイスラエル、NATO加盟国といった同盟国のみ。
ウクライナをすでに事実上のNATO加盟国とみなしている。米国にとっては「虎の子」だ。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は12月21日、これに対抗して新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)「サルマト」を近く実戦配備すると公表した。
■首都キーウ再制圧を狙うロシア
ウクライナ軍最高幹部は、ロシアが年明け、早ければ1月にも東部ドンパス、南部へルソン、さらにベラルーシから大規模な攻撃を仕掛けてくると予測している。
さらに首都キーウ(キエフ)を再度、制圧することすら考えていると見ている。
これが達成された時点で停戦、和平交渉に持っていこうという腹づもりなのだろう。
ゼレンスキー氏のワシントン電撃訪問はこれを阻止し、ロシアの反転攻勢に対抗できるだけの兵器を米国に物乞いしに来たのだ。
現状のまま戦線が凍結されるどころか、さらに拡大されて停戦になったのでは身も蓋もないからだ。
それでなくとも米国には「支援疲れ」ムードが漂い始めている。フランスのエマニュエル・マクロン大統領はじめ中国の習近平国家主席も外交的解決に向けて動き始めている。
激戦場に赴いて兵士に国家勲章など渡している場合ではなくなってきた。
そのゼレンスキー氏の頭から離れないのが、米保守派の外交ブレーン、ヘンリー・キッシンジャー博士の言動だ。
(https://www.euronews.com/2022/12/16/ukraine-war-russia-planning-major-new-offensive-in-new-year-says-kyiv)
かつては「泣く子も黙る世界外交の知恵者」であり、米中ソの首脳たちにとっては最後の調整役だったユダヤ系米国人、ヘンリー・キッシンジャー元国務長官(元大統領安全保障担当補佐官)の春以降の行動と発言だ。
当年とって99歳。今なおその頭脳明晰さと国際政治への関心は衰えていない。
リチャード・ニクソン第37代大統領のベトナム和平、米中国交樹立、米ソ冷戦終結など現代史に残る業績は、キッシンジャー氏の理論構成、隠密外交交渉によるところ大だ。
そのキッシンジャー氏が長引くウクライナ戦争の早期終結を目指して渾身の力を絞って動いている。
まさに同氏にとっては「遺言」めいたウクライナ和平に向けた提言といっていい。
同氏が放った「第1の矢」は、今年5月23日、世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(ダボス会議)でのオンライン演説だった。
「理想的には、(ロシアとウクライナの)境界線を戦争前(2月23日時点)の状態に戻す必要がある。今後2か月以内に和平交渉を進め、停戦を実現するべきだ」
この発言は、2014年にロシアが併合したクリミア半島や親ロシア住民が事実上支配している東部ドンバス地方の領土割譲を「容認」するものと受け取られた。
ウクライナは反発。高官の一人は「これは悪魔との合意だ」と声を荒らげた。米国内でも批判を浴びた。
日本の外交評論家の間では、このキッシンジャー発言をめぐって見解が分かれた。
「キッシンジャー氏は、『ウクライナの正義』か、あるいは『一刻も早い和平か』のどちらかを選ぶ『お土産論者』にすぎない」
「キッシンジャー氏の真意は領土分割ではなく、ウクライナを中立的な国家だという同氏のこれまでの認識を修正したのであり、ロシアを排除した欧州の均衡は成立しないという今後の秩序構築に言及したのだ」
参考:キッシンジャーを「お土産論者」に仕立てあげた東郷和彦氏の罪(https://agora-web.jp/archives/220717221427.html)
第2の矢は独「シュピーゲル」インタビュー
キッシンジャー氏は、こうした「お土産論」に憤懣 やるかたなしと感じたのか、今度は独有力誌「シュピーゲル」とのインタビュー(7月15日)で補足発言した。
「第2の矢」だった。キッシンジャー氏は、こう語っている。
「私が言いたいのは、和平交渉をスタートさせるにはロシアがウクライナに侵入する前の戦線をステータスクォー(現状維持凍結)にするのが最善だということだ」
「あの時点でロシアはウクライナの領土の2.5%(ドンバス地方)とクリミア半島を支配していた」
「私はウクライナに領土を割譲せよ、などは言っていない。和平交渉に臨むロジカルな戦線はステータスクォーだと言っているに過ぎない」
ウクライナ戦争はバランス・オブ・パワーをめぐる戦争の一段階だ。次の段階は内戦だ。この内戦はヨーロッパ的に言えばグローバル戦争に結びつく」
「つまり、この戦争はロシアが欧州との首尾一貫した関係を築き上げられるか、あるいはアジアの辺境的な一部に収まるかの分岐点になる。こうした例は過去にはない」
「ゼレンスキー氏も私の発言後、2週間経って英誌とのインタビューで、ロシア侵攻以前のステータスクォーが取り戻せれば御の字(A great victory)だ。後は外交的に取り返すと言っている」
(https://www.spiegel.de/international/world/interview-with-henry-kissinger-for-war-in-ukraine-there-is-no-good-historical-example-a-64b77d41-5b60-497e-8d2f-9041a73b1892)
一連の発言について欧州のメディアは克明に報じた。しかし、米メディアはなぜかあまり報じていない。
世論調査をみても、5月段階でウクライナ情勢に関心があると答えていた米国人は55%だったのが、9月段階では38%に激減。
米国民の関心事はウクライナ情勢よりも物価の高騰やインフレに移っていた。天変地異でもない限り、メディアは読者や視聴者の関心事を敏感にとらえて報道する。報道すれば米国民の関心は高まる。
(https://www.wilsoncenter.org/blog-post/us-perception-russias-invasion-ukraine)
それに外国の外交専門家やインテリ層には「キッシンジャー」の名前は依然として「葵の御紋的なご利益」があるが、米国の一般市民にとっては「過去の人」。
そのキッシンジャー氏が、遠く離れた「ダボス会議」や独メディアで何をしゃべろうとインパクトはあまりなかった。
■第3の矢は英保守系誌への寄稿文
12月18日、キッシンジャー氏は「第3の矢」を放った。
今度は英保守系誌「ザ・スペクテイター」への寄稿だった(同誌は米国内でも発売されており、保守派の人たちが愛読している)。
キッシンジャー氏はこう書いた。
「ロシアとウクライナはすでに達成されている戦略的変化(Strategic change)を土台に交渉による平和の実現に向けた新しい構造に統合する時期が到来している」
「和平のプロセスは、ウクライナをNATOに結び付けるべきである。すでにフィンランドとスウェーデンがNATO加盟を決めた以上、ロシアが抵抗しても無理だ」
「ウクライナを中立的立場に置くという選択肢はもはや意味をなさない」
「侵攻以前の戦線に戦闘でも交渉でも戻すことができないのでれば、国際監視下で民族自決の原則の履行を追求すべきだ」
「和平プロセスには、ウクライナの自由と、中欧・東欧の新たな国際秩序の定義付けを確認し合うという2つの目標がある」
(https://www.spectator.co.uk/article/the-push-for-peace/)
■1914年と2022年に共通項はない
キッシンジャー氏のウクライナ和平案を真っ向から批判したのは、オンラインサイト「スレート」(Slate)のフレッド・カプラン記者(68)。
「ボストン・グロープ」のワシントン、モスクワ特派員時代に米ソ核軍拡競争の実態を暴いた報道でピューリッツァー賞を受賞。
その後「スレート」で毎週軍事・外交コラムを執筆してきた。マサチューセッツ工科大学(MIT)で博士号を取得している。
カプラン氏はこう指摘している。
一、この論文は新しくもなければ、独創的なものでもない。キッシンジャー氏の博士論文の焼き直しに過ぎない。
オーストリアのクレメンス・フォン・メッテルニヒ外相とカールスレイ子爵が創り上げた欧州の新しい秩序は1914年の話。2022年との間には何ら共通項がない。
二、第一、キッシンジャー氏が5月にこの和平案を提示した時、プーチン氏もゼレンスキー氏も全く関心を示さなかったではないか。
プーチン氏は撤退することは敗北と思っており、ゼレンスキー氏は交渉にはロシアがまず撤退するのが前提条件だと主張している。両者とも調停役など期待していない。
三、ウクライナは欧州の主要国、しかも事実上NATOと同盟関係にある。
だから「戦略的変化の土台に交渉による」と言われても、これがどうして「平和の実現」に資するのか明確ではない。全く珍紛漢紛(ちんぷんかんぷん=Gobbledygook)だ。
四、キッシンジャー氏は「平和と秩序の追求には、安全保障の追求と和解のための行動の必要条件という二律背反的なものがある。これが満たされない限り、平和も秩序も達成されない」と主張している。
しかし、プーチン氏は安全保障については奇妙なビジョンを持ち、和解しようとする気は全くない。キッシンジャー和平提案にはこの問題を解決するカギは見いだせない。
(https://slate.com/news-and-politics/2022/12/henry-kissinger-ukraine-peace-plan-vladimir-putin.html)
■これはチャリティじゃない、投資だ
ゼレンスキー氏の米議会演説は迫力があった。
超党派の米上下両院議員たちを前に、軍服シャツでワシントン入りしたゼレンスキー氏は千両役者だった。
かなりお国訛りのある英語での演説に集まった上下両院議員たちは惜しみない拍手を送った。スタンディング・オベーションを繰り返した。
「パトリオットをください。たくさんください。ウクライナ国民は皆さんから頂いた武器で勝利の日まで戦います」
「皆さんが英国と戦って独立を勝ち取ったようにわれわれは頑張ります」
「これはチャリティではありません。皆さんにとっては、世界平和と民主主義を守るための投資です」
演説の最後には、戦場で戦う兵士から「米国民に渡してください」と託された寄せ書きしたウクライナ国旗をナンシー・ペロシ下院議長に手渡した。
少なくともこの日ばかりはキッシンジャー氏の和平提案は藻屑(もくず)と消えてしまった感すらする。
米国民は陽気で涙脆い。意気に感じる国民だ。
だがキッシンジャー博士の論ずる「現実的政治」(Real politics)への切り替えも素早い。ベトナムでもアフガンニスタンでもそうだった。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が12月21日、米国の首都ワシントンを電撃訪問し、ジョー・バイデン米大統領と会談した。米上下両院合同会議で演説した。
ロシアがウクライナ侵攻を始めた2月24日以降、ゼレンスキー氏が外国を訪れるのは初めてだ。
しかも計画は超極秘裏に練られ、ポーランド経由、米政府が差し向けた大統領専用機「エア・フォース・ワン」でのワシントン入りだった。
戦闘が激化する中で大統領みずから同盟国でもない米国を訪問すること自体、ウクライナにとって戦況が切羽詰まってきたことの表れだ。
バイデン氏は、ウクライナの防衛能力を強化するとして、地上配備型迎撃ミサイル「パトリオット」を含む20億ドル(約2600億円)の追加の軍事支援を約束した。
米議会は12月23日、ロシアの侵略を踏まえてウクライナや北大西洋条約機構(NATO)加盟国への支援として449億ドル=約6兆円の軍事支援を盛り込んだ2023年会計年度(2022年10月から2023年9月)予算を可決成立させる。
パトリオット導入でウクライナはロシアの短距離弾道ミサイルや巡航ミサイルなどを高い精度で迎撃できる。
米国が米軍の主力防衛システムであるパトリオットを供与してきたのは日本やイスラエル、NATO加盟国といった同盟国のみ。
ウクライナをすでに事実上のNATO加盟国とみなしている。米国にとっては「虎の子」だ。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は12月21日、これに対抗して新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)「サルマト」を近く実戦配備すると公表した。
■首都キーウ再制圧を狙うロシア
ウクライナ軍最高幹部は、ロシアが年明け、早ければ1月にも東部ドンパス、南部へルソン、さらにベラルーシから大規模な攻撃を仕掛けてくると予測している。
さらに首都キーウ(キエフ)を再度、制圧することすら考えていると見ている。
これが達成された時点で停戦、和平交渉に持っていこうという腹づもりなのだろう。
ゼレンスキー氏のワシントン電撃訪問はこれを阻止し、ロシアの反転攻勢に対抗できるだけの兵器を米国に物乞いしに来たのだ。
現状のまま戦線が凍結されるどころか、さらに拡大されて停戦になったのでは身も蓋もないからだ。
それでなくとも米国には「支援疲れ」ムードが漂い始めている。フランスのエマニュエル・マクロン大統領はじめ中国の習近平国家主席も外交的解決に向けて動き始めている。
激戦場に赴いて兵士に国家勲章など渡している場合ではなくなってきた。
そのゼレンスキー氏の頭から離れないのが、米保守派の外交ブレーン、ヘンリー・キッシンジャー博士の言動だ。
(https://www.euronews.com/2022/12/16/ukraine-war-russia-planning-major-new-offensive-in-new-year-says-kyiv)
かつては「泣く子も黙る世界外交の知恵者」であり、米中ソの首脳たちにとっては最後の調整役だったユダヤ系米国人、ヘンリー・キッシンジャー元国務長官(元大統領安全保障担当補佐官)の春以降の行動と発言だ。
当年とって99歳。今なおその頭脳明晰さと国際政治への関心は衰えていない。
リチャード・ニクソン第37代大統領のベトナム和平、米中国交樹立、米ソ冷戦終結など現代史に残る業績は、キッシンジャー氏の理論構成、隠密外交交渉によるところ大だ。
そのキッシンジャー氏が長引くウクライナ戦争の早期終結を目指して渾身の力を絞って動いている。
まさに同氏にとっては「遺言」めいたウクライナ和平に向けた提言といっていい。
同氏が放った「第1の矢」は、今年5月23日、世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(ダボス会議)でのオンライン演説だった。
「理想的には、(ロシアとウクライナの)境界線を戦争前(2月23日時点)の状態に戻す必要がある。今後2か月以内に和平交渉を進め、停戦を実現するべきだ」
この発言は、2014年にロシアが併合したクリミア半島や親ロシア住民が事実上支配している東部ドンバス地方の領土割譲を「容認」するものと受け取られた。
ウクライナは反発。高官の一人は「これは悪魔との合意だ」と声を荒らげた。米国内でも批判を浴びた。
日本の外交評論家の間では、このキッシンジャー発言をめぐって見解が分かれた。
「キッシンジャー氏は、『ウクライナの正義』か、あるいは『一刻も早い和平か』のどちらかを選ぶ『お土産論者』にすぎない」
「キッシンジャー氏の真意は領土分割ではなく、ウクライナを中立的な国家だという同氏のこれまでの認識を修正したのであり、ロシアを排除した欧州の均衡は成立しないという今後の秩序構築に言及したのだ」
参考:キッシンジャーを「お土産論者」に仕立てあげた東郷和彦氏の罪(https://agora-web.jp/archives/220717221427.html)
第2の矢は独「シュピーゲル」インタビュー
キッシンジャー氏は、こうした「お土産論」に憤懣 やるかたなしと感じたのか、今度は独有力誌「シュピーゲル」とのインタビュー(7月15日)で補足発言した。
「第2の矢」だった。キッシンジャー氏は、こう語っている。
「私が言いたいのは、和平交渉をスタートさせるにはロシアがウクライナに侵入する前の戦線をステータスクォー(現状維持凍結)にするのが最善だということだ」
「あの時点でロシアはウクライナの領土の2.5%(ドンバス地方)とクリミア半島を支配していた」
「私はウクライナに領土を割譲せよ、などは言っていない。和平交渉に臨むロジカルな戦線はステータスクォーだと言っているに過ぎない」
ウクライナ戦争はバランス・オブ・パワーをめぐる戦争の一段階だ。次の段階は内戦だ。この内戦はヨーロッパ的に言えばグローバル戦争に結びつく」
「つまり、この戦争はロシアが欧州との首尾一貫した関係を築き上げられるか、あるいはアジアの辺境的な一部に収まるかの分岐点になる。こうした例は過去にはない」
「ゼレンスキー氏も私の発言後、2週間経って英誌とのインタビューで、ロシア侵攻以前のステータスクォーが取り戻せれば御の字(A great victory)だ。後は外交的に取り返すと言っている」
(https://www.spiegel.de/international/world/interview-with-henry-kissinger-for-war-in-ukraine-there-is-no-good-historical-example-a-64b77d41-5b60-497e-8d2f-9041a73b1892)
一連の発言について欧州のメディアは克明に報じた。しかし、米メディアはなぜかあまり報じていない。
世論調査をみても、5月段階でウクライナ情勢に関心があると答えていた米国人は55%だったのが、9月段階では38%に激減。
米国民の関心事はウクライナ情勢よりも物価の高騰やインフレに移っていた。天変地異でもない限り、メディアは読者や視聴者の関心事を敏感にとらえて報道する。報道すれば米国民の関心は高まる。
(https://www.wilsoncenter.org/blog-post/us-perception-russias-invasion-ukraine)
それに外国の外交専門家やインテリ層には「キッシンジャー」の名前は依然として「葵の御紋的なご利益」があるが、米国の一般市民にとっては「過去の人」。
そのキッシンジャー氏が、遠く離れた「ダボス会議」や独メディアで何をしゃべろうとインパクトはあまりなかった。
■第3の矢は英保守系誌への寄稿文
12月18日、キッシンジャー氏は「第3の矢」を放った。
今度は英保守系誌「ザ・スペクテイター」への寄稿だった(同誌は米国内でも発売されており、保守派の人たちが愛読している)。
キッシンジャー氏はこう書いた。
「ロシアとウクライナはすでに達成されている戦略的変化(Strategic change)を土台に交渉による平和の実現に向けた新しい構造に統合する時期が到来している」
「和平のプロセスは、ウクライナをNATOに結び付けるべきである。すでにフィンランドとスウェーデンがNATO加盟を決めた以上、ロシアが抵抗しても無理だ」
「ウクライナを中立的立場に置くという選択肢はもはや意味をなさない」
「侵攻以前の戦線に戦闘でも交渉でも戻すことができないのでれば、国際監視下で民族自決の原則の履行を追求すべきだ」
「和平プロセスには、ウクライナの自由と、中欧・東欧の新たな国際秩序の定義付けを確認し合うという2つの目標がある」
(https://www.spectator.co.uk/article/the-push-for-peace/)
■1914年と2022年に共通項はない
キッシンジャー氏のウクライナ和平案を真っ向から批判したのは、オンラインサイト「スレート」(Slate)のフレッド・カプラン記者(68)。
「ボストン・グロープ」のワシントン、モスクワ特派員時代に米ソ核軍拡競争の実態を暴いた報道でピューリッツァー賞を受賞。
その後「スレート」で毎週軍事・外交コラムを執筆してきた。マサチューセッツ工科大学(MIT)で博士号を取得している。
カプラン氏はこう指摘している。
一、この論文は新しくもなければ、独創的なものでもない。キッシンジャー氏の博士論文の焼き直しに過ぎない。
オーストリアのクレメンス・フォン・メッテルニヒ外相とカールスレイ子爵が創り上げた欧州の新しい秩序は1914年の話。2022年との間には何ら共通項がない。
二、第一、キッシンジャー氏が5月にこの和平案を提示した時、プーチン氏もゼレンスキー氏も全く関心を示さなかったではないか。
プーチン氏は撤退することは敗北と思っており、ゼレンスキー氏は交渉にはロシアがまず撤退するのが前提条件だと主張している。両者とも調停役など期待していない。
三、ウクライナは欧州の主要国、しかも事実上NATOと同盟関係にある。
だから「戦略的変化の土台に交渉による」と言われても、これがどうして「平和の実現」に資するのか明確ではない。全く珍紛漢紛(ちんぷんかんぷん=Gobbledygook)だ。
四、キッシンジャー氏は「平和と秩序の追求には、安全保障の追求と和解のための行動の必要条件という二律背反的なものがある。これが満たされない限り、平和も秩序も達成されない」と主張している。
しかし、プーチン氏は安全保障については奇妙なビジョンを持ち、和解しようとする気は全くない。キッシンジャー和平提案にはこの問題を解決するカギは見いだせない。
(https://slate.com/news-and-politics/2022/12/henry-kissinger-ukraine-peace-plan-vladimir-putin.html)
■これはチャリティじゃない、投資だ
ゼレンスキー氏の米議会演説は迫力があった。
超党派の米上下両院議員たちを前に、軍服シャツでワシントン入りしたゼレンスキー氏は千両役者だった。
かなりお国訛りのある英語での演説に集まった上下両院議員たちは惜しみない拍手を送った。スタンディング・オベーションを繰り返した。
「パトリオットをください。たくさんください。ウクライナ国民は皆さんから頂いた武器で勝利の日まで戦います」
「皆さんが英国と戦って独立を勝ち取ったようにわれわれは頑張ります」
「これはチャリティではありません。皆さんにとっては、世界平和と民主主義を守るための投資です」
演説の最後には、戦場で戦う兵士から「米国民に渡してください」と託された寄せ書きしたウクライナ国旗をナンシー・ペロシ下院議長に手渡した。
少なくともこの日ばかりはキッシンジャー氏の和平提案は藻屑(もくず)と消えてしまった感すらする。
米国民は陽気で涙脆い。意気に感じる国民だ。
だがキッシンジャー博士の論ずる「現実的政治」(Real politics)への切り替えも素早い。ベトナムでもアフガンニスタンでもそうだった。
バイデン氏は、ウクライナの防衛能力を強化するとして、地上配備型迎撃ミサイル「パトリオット」を含む20億ドル(約2600億円)の追加の軍事支援を約束した。
上下両院議員たちは、ゼレンスキー大統領の演説に惜しみない拍手を送り、スタンディング・オベーションを繰り返したのだそうです。
キッシンジャー氏にとっては「遺言」めいたウクライナ和平に向けた提言とは以下。
「ウクライナ戦争はバランス・オブ・パワーをめぐる戦争の一段階だ。次の段階は内戦だ。この内戦はヨーロッパ的に言えばグローバル戦争に結びつく」
「つまり、この戦争はロシアが欧州との首尾一貫した関係を築き上げられるか、あるいはアジアの辺境的な一部に収まるかの分岐点になる。こうした例は過去にはない」
「ゼレンスキー氏も私の発言後、2週間経って英誌とのインタビューで、ロシア侵攻以前のステータスクォーが取り戻せれば御の字(A great victory)だ。後は外交的に取り返すと言っている」
一連の発言について欧州のメディアは克明に報じた。しかし、米メディアはなぜかあまり報じていない。
世論調査をみても、5月段階でウクライナ情勢に関心があると答えていた米国人は55%だったのが、9月段階では38%に激減。
米国民の関心事はウクライナ情勢よりも物価の高騰やインフレに移っていた。
外国の外交専門家やインテリ層には「キッシンジャー」の名前は依然として「葵の御紋的なご利益」があるが、米国の一般市民にとっては「過去の人」。
そのキッシンジャー氏が、遠く離れた「ダボス会議」や独メディアで何をしゃべろうとインパクトはあまりなかった。
更に12月18日、英保守系誌「ザ・スペクテイター」へ寄稿。
「ロシアとウクライナはすでに達成されている戦略的変化(Strategic change)を土台に交渉による平和の実現に向けた新しい構造に統合する時期が到来している」
「和平のプロセスは、ウクライナをNATOに結び付けるべきである。すでにフィンランドとスウェーデンがNATO加盟を決めた以上、ロシアが抵抗しても無理だ」
「ウクライナを中立的立場に置くという選択肢はもはや意味をなさない」
「侵攻以前の戦線に戦闘でも交渉でも戻すことができないのでれば、国際監視下で民族自決の原則の履行を追求すべきだ」
「和平プロセスには、ウクライナの自由と、中欧・東欧の新たな国際秩序の定義付けを確認し合うという2つの目標がある」
ゼレンスキー氏の米議会演説は迫力があったと、高濱氏。
「パトリオットをください。たくさんください。ウクライナ国民は皆さんから頂いた武器で勝利の日まで戦います」
「皆さんが英国と戦って独立を勝ち取ったようにわれわれは頑張ります」
「これはチャリティではありません。皆さんにとっては、世界平和と民主主義を守るための投資です」
演説の最後には、戦場で戦う兵士から「米国民に渡してください」と託された寄せ書きしたウクライナ国旗をナンシー・ペロシ下院議長に手渡した。
少なくともこの日ばかりはキッシンジャー氏の和平提案は藻屑(もくず)と消えてしまった感すらすると、高濱氏。
米国民は陽気で涙脆い。意気に感じる国民だ。
だがキッシンジャー博士の論ずる「現実的政治」(Real politics)への切り替えも素早い。ベトナムでもアフガンニスタンでもそうだったとも。
下院を共和党が抑えた米国議会。下院では、国内経済対策優先を唱える勢力があることは諸兄がご存知の通り。
バイデン氏は、ウクライナへの支援継続を唱え、予算も通しましたが、下院との逆転がどけだけ今後の展開に影響を及ぼすのか。
そのためにも訪米(米国が招聘)したゼレンスキー氏の、自由主義陣営を護る為の戦いへの支援継続がどれほどにされるのか。要注目です。
サハリン1, 2からの撤退を進める米英に対し、口ではウクライナ支援を唱えながら、プーチンの揺さぶりにも関わらず商工会議所や経団連と共に縋りつく岸田政権の日本。
自由主義陣営と、中露との溝は、来年は、一段と厳しい対立にゆれそうですね。
# 冒頭の画像は、米議会で演説後、ペロシ下院議長にウクライナ国旗を手渡すゼレンスキー大統領
この花の名前は、リュウキュウツツジ 藤万葉
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遊爺さんの写真素材 - PIXTA