トランプ氏は米大統領に再選されたら、米国の対ウクライナ支援を打ち切るのだろうか。同氏の発言は確かに、あたかもそうするかのように聞こえる。トランプ氏は選挙遊説でいつも決まって、ウクライナのことを米国にとってのお荷物だと表現し、戦争の終結に意欲を示している。
大統領に返り咲いた場合、トランプ氏がロシアのウクライナ支配の取り組みを暗に、あるいは直接的に容認するだろうと懸念するウオッチャーは多い。
しかし、米国の対ウクライナ支援の継続性と、惨めな敗北は受け入れ難いという考えから、第2次トランプ政権がたどるシナリオは、単にこれまでと同じような形で戦争が続くというシナリオと、米国の関与が大幅に強まりかねないというシナリオだと、WSJ・マイケル・キンメイジ氏。
ウクライナでの戦争は、外交政策面でトランプ氏が長年抱いてきた不満の一つを裏付ける材料を提供した。つまり、欧州の安全保障への米国の貢献はあまりにも大きく、欧州の貢献はあまりにも小さいというものだ。トランプ氏は、北大西洋条約機構(NATO)のために自らの務め(軍事費の相応負担)を果たしていない加盟国を米国は守らないとさえほのめかしている。
民主党がウクライナを支持し、ロシアを非難していることから、トランプ氏の周辺には、ロシアを強いリーダーシップと同義と見なし、ウクライナの腐敗やたかり体質を非難するという正反対の行動に出ている者もいる。
こうした背景から、ロシアとウクライナに関するトランプ氏の実際の言動履歴を精査することは示唆に富むと、WSJ・マイケル・キンメイジ氏。
2017年から21年までの間、トランプ氏はウクライナの領土に関して一切譲歩をしなかった。ロシアのウクライナ領クリミア半島併合も、ロシア軍がウクライナ東部に駐留することも是認しなかった。また、オバマ政権の政策を覆し、対戦車ミサイルのジャベリンなど、殺傷能力のある兵器を送る軍事支援を行った。これらの兵器は22年にロシアの侵攻を受けた当初、ウクライナの防衛において重要な役割を果たしたと。
トランプ氏が本当にウクライナを見捨てるつもりだとしても、共和党内の反対勢力との衝突は避けられないとみられる。
ロシアとウクライナに関しては、共和党議員から反発を食らうことがしばしばだった。2017年には、ホワイトハウスが望まなかったにもかかわらず、共和党主導の連邦議会がロシアに制裁を科した。現在も、共和党議員と同党を支持する有権者の間にウクライナを支持する強い傾向が残っている。
こうした動きにとても敏感なトランプ氏はそのことを理解していると、WSJ・マイケル・キンメイジ氏。
バイデン大統領のウクライナ支援予算を、議会で共和党が承認せず枯渇しかけましたが?
共和党のマイク・ジョンソン下院議長は4月、党内の大半の声を無視して対ウクライナ支援パッケージを推し進めたが、これより前にトランプ氏の邸宅「マールアラーゴ」を訪れ、同氏から承認を得ていたとみられていると、WSJ・マイケル・キンメイジ氏。
米国の対ウクライナ支援の継続性と、前述のような惨めな敗北は受け入れ難いという考えから、第2次トランプ政権がたどるシナリオは、次に挙げる二つのうちのどちらかになる可能性が高いだろう。それは、単にこれまでと同じような形で戦争が続くというシナリオと、米国の関与が大幅に強まりかねないというシナリオだと、WSJ・マイケル・キンメイジ氏。
第1のシナリオの特徴は継続。敗北を強く恐れるトランプ氏は、バイデン政権の対ウクライナ政策を継続する可能性がある。それは、ウクライナへの各種軍事支援の提供を続けるという政策。支援には、兵器のほか、機密情報の共有や、標的に関する情報提供も含まれる。
トランプ氏は東欧諸国に好意を持つ傾向があり、再び大統領に就任すれば、リスクを避けたがるドイツと不和になる一方で、ロシアを敵視するポーランドとの間で共通点を見いだすかもしれないと、WSJ・マイケル・キンメイジ氏。
第2のシナリオは、第2次トランプ政権下で、事態が着実にエスカレートしていくというもの。
トランプ氏は、戦況に応じて米国の判断を変え、バイデン政権がウクライナへの供与に難色を示してきたような兵器システムの提供に踏み切るかもしれない。米国が供与した兵器を使ってウクライナがロシア領内へ攻撃することも容認するかもしれないと。
戦術核兵器についても、トランプ氏は核戦争という問題に、慎重かつ正統的な慣行ではなく、誰にも分からない彼自身のルールに従って対処する可能性があるとも。
トランプ氏は、さまざまな専門スタッフとの作業で粛々と戦略を策定した上で、規律をもって実行するということをしない。
トランプ氏とプーチン氏はそれぞれ、自身の対立を望む姿勢にとらわれてしまう可能性がある。第1次世界大戦は、どこかの大国がそれを望んだから世界大戦になったのではなかった。どの大国もオーストリア・ハンガリー帝国の皇位継承者フランツ・フェルディナント大公の暗殺をきっかけに起きた軍事行動を制御できなかったために世界大戦になったと、WSJ・マイケル・キンメイジ氏。
ウクライナでの戦争に関して、米国の有権者は今年、ウクライナを支持するか否か、現路線を維持するかやめるかといった単純な二者択一ではない選択を迫られている。
ウクライナを支援する二つの異なる方法から選ぶことになる可能性が高い。一つは、予測可能で、慎重な想定に従って行動する方法、もう一つは場当たり的なためエスカレートする危険性が高い方法だと、WSJ・マイケル・キンメイジ氏。
11月の大統領選で誰が選ばれようが、この先数カ月、数年の間にこの戦争が終結する可能性はほとんどない。だが今回の選挙によって、来年1月末から戦争が全く新たな局面に入る可能性はあるとも。
# 冒頭の画像は、トランプ前大統領とゼレンスキー大統領
この花の名前は、イモカタバミ
↓よろしかったら、お願いします。
遊爺さんの写真素材 - PIXTA
大統領に返り咲いた場合、トランプ氏がロシアのウクライナ支配の取り組みを暗に、あるいは直接的に容認するだろうと懸念するウオッチャーは多い。
しかし、米国の対ウクライナ支援の継続性と、惨めな敗北は受け入れ難いという考えから、第2次トランプ政権がたどるシナリオは、単にこれまでと同じような形で戦争が続くというシナリオと、米国の関与が大幅に強まりかねないというシナリオだと、WSJ・マイケル・キンメイジ氏。
【エッセー】トランプ氏はウクライナを見捨てるか - WSJ
米大統領に返り咲くならウクライナ戦争がエスカレートする恐れも
by マイケル・キンメイジ 2024年5月13日
ドナルド・トランプ氏は米大統領に再選されたら、米国の対ウクライナ支援を打ち切るのだろうか。同氏の発言は確かに、あたかもそうするかのように聞こえる。トランプ氏は選挙遊説でいつも決まって、ウクライナのことを米国にとってのお荷物だと表現し、ロシアとウクライナの戦争の終結に意欲を示している。同氏は交渉を通じてわずか24時間で戦争終結を実現させると約束している。また、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領への称賛と、欧州連合(EU)への否定的な態度を明確にしてきた。大統領に返り咲いた場合、トランプ氏がロシアのウクライナ支配の取り組みを暗に、あるいは直接的に容認するだろうと懸念するウオッチャーは多い。
しかしトランプ氏にとって、それは簡単ではないだろう。同氏のウクライナに関する発言は、行動計画というよりも、政治的な大言壮語というべきものだと考える根拠がある。
トランプ氏のウクライナ嫌いには多くの理由がある。その一つは、2019年に行われた同氏にとって最初の弾劾裁判だ。トランプ氏は当時、ジョー・バイデン氏の調査を行うようウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領に圧力をかけ、20年の米大統領選に不当な影響を及ぼそうとしたとして弾劾訴追された。その後に起きたウクライナでの戦争は、外交政策面でトランプ氏が長年抱いてきた不満の一つを裏付ける材料を提供した。つまり、欧州の安全保障への米国の貢献はあまりにも大きく、欧州の貢献はあまりにも小さいというものだ。トランプ氏は、北大西洋条約機構(NATO)のために自らの務め(軍事費の相応負担)を果たしていない加盟国を米国は守らないとさえほのめかしている。ウクライナ支援を巡る政治的駆け引きも、もちろんある。民主党がウクライナを支持し、ロシアを非難していることから、トランプ氏の周辺には、ロシアを強いリーダーシップと同義と見なし、ウクライナの腐敗やたかり体質を非難するという正反対の行動に出ている者もいる。
こうした背景から、ロシアとウクライナに関するトランプ氏の実際の言動履歴を精査することは示唆に富む。2016年米大統領選の選挙活動中に同氏が両国について述べたことの大半と、大統領として取った行動との関係はほとんど、もしくは全くない。言葉と行動で米国の政策を変更した対中姿勢とは異なり、ロシアとウクライナに関してはやや強硬派の共和党大統領のように振る舞った。
2017年から21年までの間、トランプ氏はウクライナの領土に関して一切譲歩をしなかった。ロシアのウクライナ領クリミア半島併合も、ロシア軍がウクライナ東部に駐留することも是認しなかった。また、オバマ政権の政策を覆し、対戦車ミサイルのジャベリンなど、殺傷能力のある兵器を送る軍事支援を行った。これらの兵器は22年にロシアの侵攻を受けた当初、ウクライナの防衛において重要な役割を果たした。トランプ政権はモンテネグロと北マケドニアのNATO加盟を支持した。シリアでは18年、米国がロシアに対して軍事行動を取り、数百人のロシアの傭兵(ようへい)を殺害した。
たとえトランプ氏が本当にウクライナを見捨てるつもりだとしても、共和党内の反対勢力との衝突は避けられないとみられる。同氏がこの8年間に共和党の外交政策を修正してきたのは確かだが、ロシアとウクライナに関しては、共和党議員から反発を食らうことがしばしばだった。2017年には、ホワイトハウスが望まなかったにもかかわらず、共和党主導の連邦議会がロシアに制裁を科した。現在も、共和党議員と同党を支持する有権者の間にウクライナを支持する強い傾向が残っている。
こうした動きにとても敏感なトランプ氏はそのことを理解している。また、アフガニスタンからの撤退がバイデン氏の支持率に多大なダメージを与えたことを認識している。共和党のマイク・ジョンソン下院議長は4月、党内の大半の声を無視して対ウクライナ支援パッケージを推し進めたが、これより前にトランプ氏の邸宅「マールアラーゴ」を訪れ、同氏から承認を得ていたとみられている。
トランプ氏がウクライナを見捨てるのを難しくする要因は、もう一つある。それは戦争という事象そのものだ。トランプ氏はこれまで、大統領として戦争と直接関わる必要がなかった。2017~21年には、ロシアはウクライナに本格的に侵攻していなかった。25年の早い段階までに、ウクライナ、そして同国を支援してきた米国は、欧州での1945年以来の大きな戦争で、敗北への道の入口に差しかかっているかもしれない。その敗北はウクライナの人々、ひいては欧州の安全保障にも悲惨な状況をもたらす。それはまた、世界における米国の地位にも深刻な打撃を与えるだろう。そうした惨状の責任をこれまでの政権に追わせることには限界がある。トランプ氏が大統領の座にある時にこうした状況になれば、政治的、個人的に非常に恐れている事態に直面せざるを得なくなる。「負け犬(loser)」と見なされることだ。
米国の対ウクライナ支援の継続性と、前述のような惨めな敗北は受け入れ難いという考えから、第2次トランプ政権がたどるシナリオは、次に挙げる二つのうちのどちらかになる可能性が高いだろう。それは、単にこれまでと同じような形で戦争が続くというシナリオと、米国の関与が大幅に強まりかねないというシナリオだ。
第1のシナリオの特徴は継続だ。敗北を強く恐れるトランプ氏は、バイデン政権の対ウクライナ政策を継続する可能性がある。それは、ロシアとの交渉をウクライナに強いることを避け、ウクライナへの各種軍事支援の提供を続けるという政策だ。こうした支援には、兵器のほか、機密情報の共有や、標的に関する情報提供も含まれる。第2次トランプ政権での同氏と西欧諸国との関係は、間違いなく第1次政権時と同じくらい劣悪になるだろう。しかしトランプ氏の欧州への嫌悪感は決して、ウクライナやロシアを要因としたものではなかった。トランプ氏は東欧諸国に好意を持つ傾向があり、大統領就任後に欧州で行った最初の演説の場にワルシャワを選んだ。同氏が2025年に再び大統領に就任すれば、リスクを避けたがるドイツと不和になる一方で、ロシアを敵視するポーランドとの間で共通点を見いだすかもしれない。
第2のシナリオは、第2次トランプ政権下で、事態が着実にエスカレートしていくというものだ。トランプ氏は、戦況に応じて米国の判断を変え、バイデン政権がウクライナへの供与に難色を示してきたような兵器システムの提供に踏み切るかもしれない。米国が供与した兵器を使ってウクライナがロシア領内へ攻撃することも容認するかもしれない。
プーチン氏と同様に、トランプ氏もウクライナにおける戦術核使用はあり得ないと表明することを拒否するかもしれない。トランプ氏は交渉の際の手札を強化するため、こうした行動に出かねない。それはブラフとして、あるいはただ自分が歴代大統領とは違うことを示すためだ。トランプ氏は核戦争という問題に、慎重かつ正統的な慣行ではなく、誰にも分からない彼自身のルールに従って対処する可能性がある。
そうでなくても、トランプ氏は意図せず事態を悪化させかねない。同氏の無秩序なコミュニケーションスタイルはリスクを引き起こす。さまざまな専門スタッフとの作業で粛々と戦略を策定した上で、規律をもって実行するということをしない。同氏の発言は思い付きで、ソーシャルメディアを介することが多い。24時間以内に戦争を終わらせることができなければ、トランプ氏は関与を強める可能性があり、プーチン氏も同様の行動で応じる恐れがある。
トランプ氏とプーチン氏はそれぞれ、自身の対立を望む姿勢にとらわれてしまう可能性がある。第1次世界大戦は、どこかの大国がそれを望んだから世界大戦になったのではなかった。どの大国もオーストリア・ハンガリー帝国の皇位継承者フランツ・フェルディナント大公の暗殺をきっかけに起きた軍事行動を制御できなかったために世界大戦になったのだ。各国首脳は、当初誰も想像できなかったような規模の戦争に巻き込まれた。
ウクライナでの戦争に関して、米国の有権者は今年、ウクライナを支持するか否か、現路線を維持するかやめるかといった単純な二者択一ではない選択を迫られている。恐らくはウクライナを支援する二つの異なる方法から選ぶことになる可能性が高い。一つは、予測可能で、慎重な想定に従って行動する方法、もう一つは場当たり的なためエスカレートする危険性が高い方法だ。
11月の大統領選で誰が選ばれようが、この先数カ月、数年の間にこの戦争が終結する可能性はほとんどない。だが今回の選挙によって、来年1月末から戦争が全く新たな局面に入る可能性はある。
***
――筆者のマイケル・キンメイジ氏は米カトリック大学の教授(歴史学)で、2014~16年に米国務省の政策企画スタッフとしてロシア・ウクライナ問題を担当した。近著に「Collisions: The War in Ukraine and the Origins of the New Global Instability」がある。
米大統領に返り咲くならウクライナ戦争がエスカレートする恐れも
by マイケル・キンメイジ 2024年5月13日
ドナルド・トランプ氏は米大統領に再選されたら、米国の対ウクライナ支援を打ち切るのだろうか。同氏の発言は確かに、あたかもそうするかのように聞こえる。トランプ氏は選挙遊説でいつも決まって、ウクライナのことを米国にとってのお荷物だと表現し、ロシアとウクライナの戦争の終結に意欲を示している。同氏は交渉を通じてわずか24時間で戦争終結を実現させると約束している。また、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領への称賛と、欧州連合(EU)への否定的な態度を明確にしてきた。大統領に返り咲いた場合、トランプ氏がロシアのウクライナ支配の取り組みを暗に、あるいは直接的に容認するだろうと懸念するウオッチャーは多い。
しかしトランプ氏にとって、それは簡単ではないだろう。同氏のウクライナに関する発言は、行動計画というよりも、政治的な大言壮語というべきものだと考える根拠がある。
トランプ氏のウクライナ嫌いには多くの理由がある。その一つは、2019年に行われた同氏にとって最初の弾劾裁判だ。トランプ氏は当時、ジョー・バイデン氏の調査を行うようウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領に圧力をかけ、20年の米大統領選に不当な影響を及ぼそうとしたとして弾劾訴追された。その後に起きたウクライナでの戦争は、外交政策面でトランプ氏が長年抱いてきた不満の一つを裏付ける材料を提供した。つまり、欧州の安全保障への米国の貢献はあまりにも大きく、欧州の貢献はあまりにも小さいというものだ。トランプ氏は、北大西洋条約機構(NATO)のために自らの務め(軍事費の相応負担)を果たしていない加盟国を米国は守らないとさえほのめかしている。ウクライナ支援を巡る政治的駆け引きも、もちろんある。民主党がウクライナを支持し、ロシアを非難していることから、トランプ氏の周辺には、ロシアを強いリーダーシップと同義と見なし、ウクライナの腐敗やたかり体質を非難するという正反対の行動に出ている者もいる。
こうした背景から、ロシアとウクライナに関するトランプ氏の実際の言動履歴を精査することは示唆に富む。2016年米大統領選の選挙活動中に同氏が両国について述べたことの大半と、大統領として取った行動との関係はほとんど、もしくは全くない。言葉と行動で米国の政策を変更した対中姿勢とは異なり、ロシアとウクライナに関してはやや強硬派の共和党大統領のように振る舞った。
2017年から21年までの間、トランプ氏はウクライナの領土に関して一切譲歩をしなかった。ロシアのウクライナ領クリミア半島併合も、ロシア軍がウクライナ東部に駐留することも是認しなかった。また、オバマ政権の政策を覆し、対戦車ミサイルのジャベリンなど、殺傷能力のある兵器を送る軍事支援を行った。これらの兵器は22年にロシアの侵攻を受けた当初、ウクライナの防衛において重要な役割を果たした。トランプ政権はモンテネグロと北マケドニアのNATO加盟を支持した。シリアでは18年、米国がロシアに対して軍事行動を取り、数百人のロシアの傭兵(ようへい)を殺害した。
たとえトランプ氏が本当にウクライナを見捨てるつもりだとしても、共和党内の反対勢力との衝突は避けられないとみられる。同氏がこの8年間に共和党の外交政策を修正してきたのは確かだが、ロシアとウクライナに関しては、共和党議員から反発を食らうことがしばしばだった。2017年には、ホワイトハウスが望まなかったにもかかわらず、共和党主導の連邦議会がロシアに制裁を科した。現在も、共和党議員と同党を支持する有権者の間にウクライナを支持する強い傾向が残っている。
こうした動きにとても敏感なトランプ氏はそのことを理解している。また、アフガニスタンからの撤退がバイデン氏の支持率に多大なダメージを与えたことを認識している。共和党のマイク・ジョンソン下院議長は4月、党内の大半の声を無視して対ウクライナ支援パッケージを推し進めたが、これより前にトランプ氏の邸宅「マールアラーゴ」を訪れ、同氏から承認を得ていたとみられている。
トランプ氏がウクライナを見捨てるのを難しくする要因は、もう一つある。それは戦争という事象そのものだ。トランプ氏はこれまで、大統領として戦争と直接関わる必要がなかった。2017~21年には、ロシアはウクライナに本格的に侵攻していなかった。25年の早い段階までに、ウクライナ、そして同国を支援してきた米国は、欧州での1945年以来の大きな戦争で、敗北への道の入口に差しかかっているかもしれない。その敗北はウクライナの人々、ひいては欧州の安全保障にも悲惨な状況をもたらす。それはまた、世界における米国の地位にも深刻な打撃を与えるだろう。そうした惨状の責任をこれまでの政権に追わせることには限界がある。トランプ氏が大統領の座にある時にこうした状況になれば、政治的、個人的に非常に恐れている事態に直面せざるを得なくなる。「負け犬(loser)」と見なされることだ。
米国の対ウクライナ支援の継続性と、前述のような惨めな敗北は受け入れ難いという考えから、第2次トランプ政権がたどるシナリオは、次に挙げる二つのうちのどちらかになる可能性が高いだろう。それは、単にこれまでと同じような形で戦争が続くというシナリオと、米国の関与が大幅に強まりかねないというシナリオだ。
第1のシナリオの特徴は継続だ。敗北を強く恐れるトランプ氏は、バイデン政権の対ウクライナ政策を継続する可能性がある。それは、ロシアとの交渉をウクライナに強いることを避け、ウクライナへの各種軍事支援の提供を続けるという政策だ。こうした支援には、兵器のほか、機密情報の共有や、標的に関する情報提供も含まれる。第2次トランプ政権での同氏と西欧諸国との関係は、間違いなく第1次政権時と同じくらい劣悪になるだろう。しかしトランプ氏の欧州への嫌悪感は決して、ウクライナやロシアを要因としたものではなかった。トランプ氏は東欧諸国に好意を持つ傾向があり、大統領就任後に欧州で行った最初の演説の場にワルシャワを選んだ。同氏が2025年に再び大統領に就任すれば、リスクを避けたがるドイツと不和になる一方で、ロシアを敵視するポーランドとの間で共通点を見いだすかもしれない。
第2のシナリオは、第2次トランプ政権下で、事態が着実にエスカレートしていくというものだ。トランプ氏は、戦況に応じて米国の判断を変え、バイデン政権がウクライナへの供与に難色を示してきたような兵器システムの提供に踏み切るかもしれない。米国が供与した兵器を使ってウクライナがロシア領内へ攻撃することも容認するかもしれない。
プーチン氏と同様に、トランプ氏もウクライナにおける戦術核使用はあり得ないと表明することを拒否するかもしれない。トランプ氏は交渉の際の手札を強化するため、こうした行動に出かねない。それはブラフとして、あるいはただ自分が歴代大統領とは違うことを示すためだ。トランプ氏は核戦争という問題に、慎重かつ正統的な慣行ではなく、誰にも分からない彼自身のルールに従って対処する可能性がある。
そうでなくても、トランプ氏は意図せず事態を悪化させかねない。同氏の無秩序なコミュニケーションスタイルはリスクを引き起こす。さまざまな専門スタッフとの作業で粛々と戦略を策定した上で、規律をもって実行するということをしない。同氏の発言は思い付きで、ソーシャルメディアを介することが多い。24時間以内に戦争を終わらせることができなければ、トランプ氏は関与を強める可能性があり、プーチン氏も同様の行動で応じる恐れがある。
トランプ氏とプーチン氏はそれぞれ、自身の対立を望む姿勢にとらわれてしまう可能性がある。第1次世界大戦は、どこかの大国がそれを望んだから世界大戦になったのではなかった。どの大国もオーストリア・ハンガリー帝国の皇位継承者フランツ・フェルディナント大公の暗殺をきっかけに起きた軍事行動を制御できなかったために世界大戦になったのだ。各国首脳は、当初誰も想像できなかったような規模の戦争に巻き込まれた。
ウクライナでの戦争に関して、米国の有権者は今年、ウクライナを支持するか否か、現路線を維持するかやめるかといった単純な二者択一ではない選択を迫られている。恐らくはウクライナを支援する二つの異なる方法から選ぶことになる可能性が高い。一つは、予測可能で、慎重な想定に従って行動する方法、もう一つは場当たり的なためエスカレートする危険性が高い方法だ。
11月の大統領選で誰が選ばれようが、この先数カ月、数年の間にこの戦争が終結する可能性はほとんどない。だが今回の選挙によって、来年1月末から戦争が全く新たな局面に入る可能性はある。
***
――筆者のマイケル・キンメイジ氏は米カトリック大学の教授(歴史学)で、2014~16年に米国務省の政策企画スタッフとしてロシア・ウクライナ問題を担当した。近著に「Collisions: The War in Ukraine and the Origins of the New Global Instability」がある。
ウクライナでの戦争は、外交政策面でトランプ氏が長年抱いてきた不満の一つを裏付ける材料を提供した。つまり、欧州の安全保障への米国の貢献はあまりにも大きく、欧州の貢献はあまりにも小さいというものだ。トランプ氏は、北大西洋条約機構(NATO)のために自らの務め(軍事費の相応負担)を果たしていない加盟国を米国は守らないとさえほのめかしている。
民主党がウクライナを支持し、ロシアを非難していることから、トランプ氏の周辺には、ロシアを強いリーダーシップと同義と見なし、ウクライナの腐敗やたかり体質を非難するという正反対の行動に出ている者もいる。
こうした背景から、ロシアとウクライナに関するトランプ氏の実際の言動履歴を精査することは示唆に富むと、WSJ・マイケル・キンメイジ氏。
2017年から21年までの間、トランプ氏はウクライナの領土に関して一切譲歩をしなかった。ロシアのウクライナ領クリミア半島併合も、ロシア軍がウクライナ東部に駐留することも是認しなかった。また、オバマ政権の政策を覆し、対戦車ミサイルのジャベリンなど、殺傷能力のある兵器を送る軍事支援を行った。これらの兵器は22年にロシアの侵攻を受けた当初、ウクライナの防衛において重要な役割を果たしたと。
トランプ氏が本当にウクライナを見捨てるつもりだとしても、共和党内の反対勢力との衝突は避けられないとみられる。
ロシアとウクライナに関しては、共和党議員から反発を食らうことがしばしばだった。2017年には、ホワイトハウスが望まなかったにもかかわらず、共和党主導の連邦議会がロシアに制裁を科した。現在も、共和党議員と同党を支持する有権者の間にウクライナを支持する強い傾向が残っている。
こうした動きにとても敏感なトランプ氏はそのことを理解していると、WSJ・マイケル・キンメイジ氏。
バイデン大統領のウクライナ支援予算を、議会で共和党が承認せず枯渇しかけましたが?
共和党のマイク・ジョンソン下院議長は4月、党内の大半の声を無視して対ウクライナ支援パッケージを推し進めたが、これより前にトランプ氏の邸宅「マールアラーゴ」を訪れ、同氏から承認を得ていたとみられていると、WSJ・マイケル・キンメイジ氏。
米国の対ウクライナ支援の継続性と、前述のような惨めな敗北は受け入れ難いという考えから、第2次トランプ政権がたどるシナリオは、次に挙げる二つのうちのどちらかになる可能性が高いだろう。それは、単にこれまでと同じような形で戦争が続くというシナリオと、米国の関与が大幅に強まりかねないというシナリオだと、WSJ・マイケル・キンメイジ氏。
第1のシナリオの特徴は継続。敗北を強く恐れるトランプ氏は、バイデン政権の対ウクライナ政策を継続する可能性がある。それは、ウクライナへの各種軍事支援の提供を続けるという政策。支援には、兵器のほか、機密情報の共有や、標的に関する情報提供も含まれる。
トランプ氏は東欧諸国に好意を持つ傾向があり、再び大統領に就任すれば、リスクを避けたがるドイツと不和になる一方で、ロシアを敵視するポーランドとの間で共通点を見いだすかもしれないと、WSJ・マイケル・キンメイジ氏。
第2のシナリオは、第2次トランプ政権下で、事態が着実にエスカレートしていくというもの。
トランプ氏は、戦況に応じて米国の判断を変え、バイデン政権がウクライナへの供与に難色を示してきたような兵器システムの提供に踏み切るかもしれない。米国が供与した兵器を使ってウクライナがロシア領内へ攻撃することも容認するかもしれないと。
戦術核兵器についても、トランプ氏は核戦争という問題に、慎重かつ正統的な慣行ではなく、誰にも分からない彼自身のルールに従って対処する可能性があるとも。
トランプ氏は、さまざまな専門スタッフとの作業で粛々と戦略を策定した上で、規律をもって実行するということをしない。
トランプ氏とプーチン氏はそれぞれ、自身の対立を望む姿勢にとらわれてしまう可能性がある。第1次世界大戦は、どこかの大国がそれを望んだから世界大戦になったのではなかった。どの大国もオーストリア・ハンガリー帝国の皇位継承者フランツ・フェルディナント大公の暗殺をきっかけに起きた軍事行動を制御できなかったために世界大戦になったと、WSJ・マイケル・キンメイジ氏。
ウクライナでの戦争に関して、米国の有権者は今年、ウクライナを支持するか否か、現路線を維持するかやめるかといった単純な二者択一ではない選択を迫られている。
ウクライナを支援する二つの異なる方法から選ぶことになる可能性が高い。一つは、予測可能で、慎重な想定に従って行動する方法、もう一つは場当たり的なためエスカレートする危険性が高い方法だと、WSJ・マイケル・キンメイジ氏。
11月の大統領選で誰が選ばれようが、この先数カ月、数年の間にこの戦争が終結する可能性はほとんどない。だが今回の選挙によって、来年1月末から戦争が全く新たな局面に入る可能性はあるとも。
# 冒頭の画像は、トランプ前大統領とゼレンスキー大統領
この花の名前は、イモカタバミ
↓よろしかったら、お願いします。
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