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日本版ISAでの正しい運用法

 来年1月から、英国の制度を参考にした「日本版ISA」と呼ばれる、投資優遇税制が始まる予定だ。これは、一人年間1百万円までの投資について、5年間、運用益に掛かる税金が免除される制度で、残高ベースで最大5百万円が非課税で運用できる。
 それでは日本版ISAは、個人にとって、どのように使うのが、最も賢いやり方なのだろうか?
 意外に思われるかもしれないが、この問いの答は、論理的に前提条件を追うだけで明快に導き出せる。
 以下に、日本版ISAでの正しい運用方法を四原則の形でまとめてみた。

 尚、以下の内容は、楽天証券ホームページの連載、「山崎元のホンネの投資教室」の第196回 日本版ISAでの正しい運用法(2013年5月10日)の一部と重複するが、最近、日本版ISAの運用法について、適切でないと思われる説明も出回っているようであり、正しい(と私が考える)説明をなるべく早く広く普及したいので、当ブログにも載せておく。

【日本版ISA投資の四原則】
一、日本版ISA枠を最大限に使う
二、日本版ISAではリターンの高い資産の運用に利用する
三、日本版ISAではバランス良く分散投資した商品を選ぶ
四、日本版ISAは低コストで運用する

★一、日本版ISA枠を最大限に使う
 日本版ISAの導入は、現在、株式や株式投信などへの投資に適用されている優遇税率(10%)が本則の税率(20%)に戻ることに伴う、税制上の、いわばバーター取引的な措置でもある。個人の資金量や運用内容にもよるが、運用金額が大きな投資家にとっては、損になるだろう。

 既に発生が決まっており、この「損」はもう取り戻せないのだから、投資家に出来ることは、確定している「損」に別の「得」をあわせて、少しでも最適化することだけだ。そして、将来に向けて利用可能な条件を前提に、今後の損得を最適化すると考えると、何はともあれ、日本版ISAで使える税制上の優遇枠を使わないのは「もったいない」という結論になる。
「日本版ISAは、ご利用されないと、もったいないですよ」という金融機関のセールス・トークは、顧客の立場から見ても正しいアドバイスだ。

 日本版ISAの枠を「最大限」に使うという意味では、通貨選択型を含めた毎月分配型投信など高分配の商品は、高分配によって元本の成長が阻害され、その分、税制優遇された形で運用ができないので不適切だということになる。
 また、投資できる資金が既に十分にある場合は、積立投資も、優遇期間をフルに使えなくなるので、同じく不適切だ。それ以前に、ドルコスト平均法が有利だという見解は、誤解であり、「気休め」以上の意味はないことも付け加えておく(ドルコスト平均法の誤解については、「山崎元「ホンネの投資教室」ドルコスト平均法について整理する」をお読みいただきたい)。

★二、日本版ISAはリターンの高い資産の運用に利用する

 日本版ISAは、運用益に対する課税を免除する優遇措置だ。従って、自分の運用資産全体の中で、リターンが高い、つまり、高い運用益を得られると思う資産の運用を、日本版ISAの運用に割り当てるのが正しい。

 例えば、株式で500万円、債券・預金で500万円運用しようとしている投資家がいるとして、株式の方が期待されるリターンが高いと思うなら、日本版ISAの口座には、債券や預金の運用を割り当てず、株式の運用に集中させるべきだ。よって、株式や債券など複数のアセット・クラスに投資するバランス・ファンドも、日本版ISAの運用にあっては、適切な選択肢ではない。

★三、日本版ISAではバランス良く分散投資した商品を選ぶ

 現在の制度設計によると、日本版ISAでは、いったん売却してしまった資金を再投資しても、再び税制優遇の対象にして貰うことができない。
したがって、税制優遇される5年の間に売却することなく、長期間持ち続けることが可能なものを投資対象に選ぶことが望ましい。

 仮に、株式の個別銘柄に投資しているとすると、5年の間には、株価の大幅な上昇や業績見通しの悪化など、「売りたい」と思う機会が訪れる可能性は大きいだろう。また、同様な理由で、株式に投資する投資信託でも、特定の業種やテーマなどに特化したもの、外貨預金や外国債券も、適切な運用対象ではない。

★四、日本版ISAは低コストで運用しよう
 原則の四番目は、日本版ISAに限らないが、投資家から見て手数料は「確実な(リスク・ゼロの)マイナス・リターン」だ。
 日本版ISAの場合は、長期で持ち続ける投資を行うべきなので、継続的に掛かる手数料が大きい運用商品は、はっきり損だ。株式投信でもアクティブ・ファンドは手数料が高すぎてだめだし、個人年金保険も実質的な手数料が高いので避けた方がいい。

 日本版ISAの口座は、運用商品に必要十分な選択肢があって、手数料コストが小さな金融機関で開くのがいい。

<日本版ISAでの正しい運用例>

 以上の四原則から、日本版ISAにあって、多くのケースでベストな運用は、内外の株式のインデックス・ファンドだろう。長期的に持ち続けるに際して少しでもリスクを落とすためには、日本株だけでなく、外国株のインデックス・ファンドにも分散投資する方がいい。

 例えば、一年間に100万円の日本版ISA投資枠を、日本株のインデックス・ファンド(TOPIXに連動するもの)に50万円、先進国株のインデックス・ファンド(MSCI-KOKUSAI)に25万円、新興国のインデックス・ファンド(MSCI-EM)に25万円投資する、といった運用が、利用者側から見るとベストなものになる可能性が大きい。特に日本株では信託報酬が安いETF(上場型投資信託)を使う運用が最適だろう。

 最後に、日本版ISAでの投資以外の資産運用の内容は、投資家一人ひとり異なるだろうが、あくまでも日本版ISAは「自分の運用の一部分」として位置づけて、「自分の運用の全体が最適になるように運用を調整する」という考え方が、最適な運用への道であることを付け加えておく。
 日本版ISAにおいては不適切であるとした個別株への投資や、儲けを狙った外貨投資などを行いたい場合は、日本版ISA以外の口座に置いた資金で投資すればいい。その場合でも、「自分の運用資産の合計」を最適化するという考え方が大切だ。
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