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雇用のルールをどうすればいいか

 2月17日付の「読売新聞」(朝刊)の「はたらく」という連載欄に「転職しやすい社会に」という見出しでインタビュー記事を載せて貰った。
 正社員の解雇の仕組みを整えるべきだということと、転職の際に不利や障害のない仕組みにした方がいいということの二点を意見として取り上げて貰ったが、雇用に関する制度設計では複数のルールをセットで考える必要があるし、紙面も限られていたので、現時点で、雇用のルールがどのようであれば望ましいと考えているのかについて、列挙してみる。ごく大雑把なもので、まだまだ変化の余地があるが、備忘のメモ代わりだ。

(1)正社員の指名解雇が出来る仕組みが必要

 会社にとって望ましい人的資源配分をなるべく低コストで且つ予想できるコストで達成できるようにするためには、正社員であっても、会社が任意に選んだ社員を解雇できることを手続きと補償を含めて明確にルール化することが必要だ。
 企業に利益の追求と(社員個人の)福祉の両方を求める中途半端な仕組みは、上手く行かない。企業は利益の追求に徹し(その中で社員への福祉提供が合理的な場合はあるだろう)、個人の救済は政府の仕事だと整理したい(原則として、政府は、企業単位、業界単位の補助や救済は行わない)。
 
(2)解雇の際の手続きと最低補償額を明確に定める

 会社は予想可能なコストで社員を解雇できる方が経営計画が立てやすいし、解雇される社員の側も解雇の予告期限や最低幾ら貰えるのか権利が明確である方が不利を受けにくい。手続きや補償額を明確化することで、労使双方が交渉コストを節約できる。
 現状では、社員はしばしば自己都合退社に「追い込まれて」不利な条件を甘受する事が起こっている。
 指名解雇の最低補償額を幾らにするのがいいかは難しい問題だが、期待年収の3ヶ月分から半年分位をイメージしている(額の多寡、条件の定め方には諸説あるだろう)。もちろん、これは、社内制度的にも、税制的にも退職金や年金とは別のものにすべきだ(妙な節税の余地を残すべきでない)。
 
(3)退職金に対する税制上の優遇を廃止する

 給与の後払いの形式として「退職金」を制度化することは企業の勝手でいいが、これに税制上の優遇を与える必要はない。税制上の優遇を無くすると、退職金は、多くの場合、縮小・廃止に向かうだろう。
 尚、現在の退職金に対する税制上の優遇を最も有利に使っているのは、たぶん複数回の「渡り」を繰り返す官僚(OB)だろう。官僚OBが退官後に何度も就職することがあっていいが、この際の収入に対して税制上の優遇を与える必要はない。
 また、ついでに言っておくと、通勤費や家賃を経費として認める必要はない。社員個人は、自分の収入の中から、通勤時間や住み心地などを考えて、自分の所得の中から住居や通勤手段を考えるといい。
(注;退職金への税制優遇や、経費を認めないことによる税収の増加分は、所得税の減税でバランスを取ってくれるといい)

(4)退職金・年金の勤続年数による差別を禁止

 会社に社員を縛り付けるためのインセンティブとして退職金や年金の制度を、会社がかなりの程度勝手にデザインできる(たとえば勤続15年以上ないと企業年金加算部分ゼロなど)現在の仕組みは、働く側にとって不利だ。
 退職金や年金は給与の後払いだと考える方がスッキリする。

(5)退職理由による退職金(あるいは年金)の差別を禁止

 社員が、自分に合った会社を選ぶことが出来るようにするためにも、自己都合と会社都合の退職に差を設けるべきではない。両者の差は(2)の補償のありなしで十分だ。

(6)官僚の解雇も多額の収入も可能に

 (ほぼ)絶対に解雇がない、長期的にメンバーが固定された利益集団である官僚の、自らの権益を目指す結束は堅い。この点に関する官僚の結束には、民間人も政治家も凡そ対抗できる感じがしない。
 また、人材の入れ替えが可能である方が、有能な人物を要職に登用できるし、政治の(時の政権の)意思を政策に実現しやすい。
 幹部職員(課長以上?)の任用と処遇は、実質的にすべて担当大臣の裁量とし、解雇も可能にする代わりに、多額の報酬も可能にする。加えて、こうした幹部職員の人事評価と処遇(年収の明細)は全て情報公開の対象とする(「お手盛り」がやりにくいように)。

(7)「天下り」も「天上がり」もあり。但し、不正には厳罰

 この点については、過去と考え方を変えた。官界で民間人材の登用を考える以上、官界から民間への移動を厳しく制限するのは対称性を欠く
 天下りを規制しても不正はあるし、癒着は生じうる。不正や癒着に対する監督と罰則を強化することで問題に対処すべきだろう。

(8)労務管理の責任は実質的な業務指示者が負うことを明確化

 製造業の派遣は禁止する必要はないが(禁止すると就労機会が減ってしまう)、就労者の安全や健康管理に対する責任は十分に責任を持って守られなければならない。

(9)副業の原則自由を明確化

 就業規則で副業を禁じることを原則として禁じる。副業は個人の権利であり、会社ごときが特別の事情無くこれを原則禁止する就業規則を設けることは不適当だ。
 「同業他社での副業」など、特別に不都合なケースについては、個別列挙的にその禁止を社員と契約する。
 現在の判例でも本業の(?)会社の業務に支障のない副業はOKらしいが、原則禁止されている副業の権利を社員個人が裁判で勝ち取るというのは馬鹿げている(裁判に勝っても会社員としては殆ど「終わり」だろう)。
 
(10)企業年金は確定拠出年金に一本化する

 確定給付の企業年金(DB)は企業にとって本業でない余計なリスク要因であり、不要だ(投資家にとっては普通株を買うのにDB部分の投資信託のようなものをセット販売されるようなものだ)。公的年金(サラリーマンの厚生年金と公務員の共済年金は同条件に「一元化」されることになっている)プラス、個人の自助努力支援の仕組みとしてのDCがあればいい。今後、官民の人材交流が必要であることも考えると、共済年金の三階部分はDCに移行することが望ましい。
 将来の理想型としては、公的年金の二階部分を廃止すると共に(どうして自営業者にはないのだろうか?)年金制度をベーシック・インカムに改変して、国民全てが「ベーシック・インカム&確定拠出年金(DC)」という共通の制度を利用するように整理したいところだ。
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「かんぽの宿」は何が問題なのだろうか?

 鳩山邦夫総務相が、オリックスが落札したかんぽの宿の入札に関して、「出来レースではないかと疑われる」と発言して待ったを掛けた際には、正直に言って、民間の取引に対して政治家が余計な横槍を入れたのかという印象の方を強くを持った。
 しかし、何となく引っかかりを感じたのも事実だ。鳩山氏は(かつては大秀才だったらしい)、傾向として、考えと言葉が常識の先を行くようなところがある。また、彼は総務相の前が法務相だし、何か報道されていない情報を掴んでいるのではないか、という可能性が捨てきれなかった。
 そうこうしているうちに、今回の売却案件が「ラフレさいたま」や都内の社宅用地など、非常に大きな経済価値を持つ資産を含むものであることや、これまでに郵政公社が行ってきたいわゆる一万円売却なども含めて、日本郵政が、資産の意図的な安売りをしているのではないかと思えるような報道が出始めた。
 当然ながら、これは少なくとも日本郵政には何らかの問題がありそうだと思うようになったし、まだまだ解明されなければならない問題があるのではないかと気になり始めた。

 この件については、問題の出始めにあまり関心が湧かなかったので、ニュースを十分フォローしていないのだが、たまたまダイヤモンド・オンラインで、両論を比較できる記事を見つけた。
 岸博幸さんの「『かんぽの宿』への政治対応はモラルハザードの塊」(2月6日付:http://diamond.jp/series/kishi/)は、大まかにいって鳩山大臣の方を批判している。今回の問題の本質は郵政民営化の後退であり、政権の対応はひどいと言う。
 他方、町田徹さんの「『かんぽの宿』情報開示拒む郵政に、メルパルクや宅配でも不透明の指摘」(2月6日付:http://diamond.jp/series/machida/)では、日本郵政が頑なに情報公開を拒んでいることや、メルパルクの入札でも不適切な事例があったのではないかと「日本郵政がおかしい」との心証を持つ事実を紹介している。

 鳩山大臣の対応についていうと、総務相として必要な調査を行うために待ったを掛けることは適切であり何ら問題ないが、「出来レース」というような、買い手のオリックス側にも問題があったのではないかと臭わせるような台詞は、あの段階では「言い過ぎ」だったといえるのではないか。今後の事実関係の解明を待たなければならないが、何か知っているなら、早く出して欲しいものだ。大きな問題を掴んでいて言ったなら、これは、鳩山大臣としては大ヒットだ。褒めてあげてもいい。
 他方、日本郵政に関しては、日本政府、つまり国民が株主で、その資産は適切に処分しなければならないわけだし、その際の説明責任があるのは当然だから、「民間会社」であることを楯にとって、情報開示を拒むことはおかしい。入札の経緯についても、国民に説明できるような形を取る必要がある。この入札について方々に「守秘義務」を作ることは、不適切だ。それに、日本郵政は、まだ十分に信用できる会社とはいえない。
 また、入札について、説明が出来ない、公開できないという状況は、不適切な処理があったのではないかという疑いを喚起する。

 売却される施設に関する雇用の確保が大事なのかも知れないが、それなら、事業売却までの期限をたったの2年に限定したことが不可解だし、損得の上では、個別に資産を高く売って、雇用は日本郵政が面倒を見る方が安く付きそうだ。それに、それこそ民間会社なのだから、法律に「雇用に配慮すること」とあるとしても、現在の雇用を今の形のままで絶対的に守ろうとすることはおかしい。
 それにしても、最大の問題点であり、まだスッキリしないポイントは、日本郵政(あるいは旧郵政公社)が、民間企業であれ、公社であれ、どうして資産を安く売りたがるのかだ。たとえば、オリックス・グループに、官庁も含めて郵政OBが雇用されているような事例があれば、事情がスッキリ分かるが、今のところそのような報道はない。

 売り手(日本郵政株式会社)・買い手それぞれのメリットは何で、実際にどのようなことが行われたのか、今後の事実の解明に期待したい。
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