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「一流会社の二流社員」か、「二流会社の一流社員」か?

 一流会社の二流社員になるのと、二流会社の一流社員になるのとではどちらがいいか。これは、現実的には難しい比較だ。

 正直に言うと、私は、就職問題を考えていた学生の頃、会社のランクを落としてそこで出世しようとする戦略の持ち主に対して、過剰に現実的で卑屈だというような、好ましくないイメージを持っていた。
 勤務先の会社にプライドの根拠を持っている人はまだ少なくないので、具体的な会社名はあげないことにするが、例えば、銀行のような会社間の相対的なランキングがハッキリした業界で、二流行を就職の第一志望にする同級生の話を聞いて、何だか夢が無くて、せせこましいなあ、という印象を持ったのを覚えている。彼は、「一流の銀行に行くと、優秀な奴が一杯いて、仮に入社できても出世は難しいだろうが、○○銀行くらいまでランクを落とすと、出世競争が楽になって、自分でも何とかなる確率が大きいのではないか」というようなことを言った(彼がその後どうなったかは知らない)。
 また、当時の(注:筆者の卒業・就職は1981年だった)東大生にありがちな就職傾向の一つとして、「カテゴリーのナンバーワン」を目指す、という傾向があった。
 たとえば、当時人気があった総合商社や銀行で人気上位の会社への就職が難しいと考えた学生の相当数は、当時人気が乏しかった製造業や公共産業の会社の業種のトップ企業に就職しようとするのだ。同一業種の企業間に明らかな上下関係がある場合、二番手以下の企業に就職することをよしとしない気分があるようだった。たぶん、身近な同級生が一番手の会社に就職して、自分が二番手以下の会社に入ると、明らかな差が付くように感じるのが嫌なのだろうと思えたが、当人達に直接聞いた訳ではないので、よく分からない。
 上記の二つの就職傾向何れに対しても、学生時代の私の意見は、
(1)そもそも、自分の好きな業種・仕事を選ぶのが大事だし、
(2)一流の会社の方がより出来る人材が周囲に居て環境として面白いだろうし、
(3)働いてもみないうちから自分が一流会社では競争力がないと思うのは悲観的且つ消極的に過ぎる、
(4)本人の人格に変わりがないなら、生涯収入の期待値も対外的なイメージも、「一流会社の二流社員」の方が「二流会社の一流社員」よりもいいことが多いのではないか、
というようなものだった。
 いざ就職して、数年働いてみると、(3)については、当人は分からなくても採用する側など第三者はかなりの程度早くから分かるものだという事を知ったが、(1)、(2)、(4)については、まあ、概ねそういうことではないか、と思っていた。

 ところが、近年、世間を見て、上記の考えが揺らいでいる。
 先ず、「会社」よりも「職種」の重要性が増している。外資系の金融の世界で言う「フロント」(収益に直接影響する仕事)と「バック」(フロントを支える主に事務やサポートなどの仕事)の区別が典型的だが、報酬制度が、成果主義的、成功報酬的になるにつれて、会社自体は相対的に一流でなくても、チャンスのある「職種」に就くことの経済価値が高まった。
 上記の(1)の観点も加えて考えるなら、たとえば、一流の会社に就職しても何を担当するか分からない場合、自分の好きな職種に就かせてくれることをコミットしてくれる同業で二流の会社に就職する方が、職業選択として、チャンスが多く、リスクが小さい(たとえば自分が身につけたいスキルを早い時点で確実に学習できそうだ)就職が出来る可能性がある。
 もう一つ、世の中の動きとして見過ごせないのは、経営層と一般社員の報酬の格差が拡大傾向にあることだ。
 一部上場の大企業でも、ほんの十年くらい前までは、「せいぜい4、5千万円の年収で、責任が重く、行動が制約されるし、ウチの会社の社長になっても面白くない」と社員が言うような感じだったが、ここのところ、大企業トップの年収が上昇傾向にあり、株主がちょっと油断すると(?)、社長の年収が一億円を超えることが珍しくなくなった。
 この傾向は、大企業だけにとどまらない。ベンチャー企業を含めて、中堅クラスの企業でも、自社株式やストックオプションの仕組みなどで、経営者とこれに近い層がかなりの報酬を手にするケースが増えてきた。
 今までの日本の社長は、まさに「社員の長」であって、その報酬も社員の報酬体系の延長線上に位置付けられていたが、経営者の利害を株主寄りに近づけようとする世間の風潮を追い風に、現在、着々と報酬を増やしているように見える。正確な数字が手元にないが、ここ数年の日本企業の業績回復にもかかわらず、社員レベルの報酬はさほど増えていないが、上場企業の経営者の報酬は数割増えていたはずだ(しかも、自社株関連の報酬や退職金は別だったかも知れない)。
 円換算すると数十億円、場合によってはもう一桁上のお金を分捕るアメリカのCEOの報酬は、株主の利害にとってのCEOの影響を考えると正当化できる側面があるが、彼らの能力や同様の人材の供給可能性から考えると、「CEOバブル」と呼んでいいレベルに来たような気がする。しかし、日本の企業が数歩遅れてアメリカの真似をしていることを思うと、日本のCEO達の報酬は、これからしばらく上昇傾向を辿るだろう。
 トップの収入が上がるということは、社長にならないまでも、幹部社員(まあヒラの執行役員かその上くらいの立場)の報酬も上がるだろうし、「社内間の収入の上下の差」と「(同業の)会社間の収入の上下の差」を比較した場合に、前者の方が大きくなる可能性が大いにある。
 つまり、期待生涯所得の観点から見て、就職先は、たとえ二流、三流の会社であっても、社内でいいポジションを取る可能性が大きいことの価値が高まりつつのあるではないか、ということだ。
 前記の条件の(1)と(2)を考えると(個人の気分としては、(2)が大きいが)、やはり一流会社がいいことが多いのではないかとも思うが、(4)の状況がハッキリ変わるのだとすると、会社の優劣比較は一層微妙なものになる。

 尚、「それなら、ボクは、二流会社で、一流社員を目指そうか」と思う若者には、業種・職種・会社にもよるが二流に見える会社にも簡単には勝てない社内競争があり、あたかも偏差値の低い学校に入ってトップを取るほどには、サラリーマンの競争は簡単ではないということと、相対的に二流以下の会社は吸収合併されるリスクが大きいという点をご注意申し上げておこう(見かけは対等であっても、主導権を取っていない合併では、かなり惨めなことがある)。
 結局、遠い将来のことは定かには分からないので、若い人に対して確かに言えそうなことは、自分が好きだと思える仕事をすることと、なるべく早く自分の仕事のスキル・レベルを上げて自分の人材価値を作ることの二点が肝心だ、ということだろう。
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超々シンプルな個人のマネー運用術

 なるべく広い範囲の個人に適用できて、最も簡単なマネー運用法とはどのようなものだろうか、というようなことを最近考える機会があった(単行本の企画書を書いたので)。

 投資理論から風呂敷を広げるのは気が引けるが、投資の本では、リスクとリターン、有効フロンティアと説明が進み、リスク資産の有効フロンティアと資金の借り入れ・運用が自由に出来る場合に、最も効用の高いポートフォリオが一つだけ選択されて(要はリスク当たりの超過リターンが最大になるポートフォリオだ)、リスクをたくさん取る人も取らない人も、このポートフォリオとリスクフリー資産の組み合わせ(レバレッジを利かせることもあり得る)を持てばよい、といった順番で話が進む。この後、市場の均衡からCAPMと進むと、急に現実感が乏しくなって、論理は大丈夫でも、市場を説明する理論としては「使い物にならない」と感じるようになるが、リスク資産のポートフォリオが一つ定まるという、個人の投資判断のところまでは、それほど現実離れしていない頑健な議論だと思う。
 これは、要は、リスク資産の組み合わせとして概ね「ベスト」と思われるものが一つあれば、ほぼ誰でも、リスク資産運用はそれでいい、ということだ。金融界にとっては不都合かも知れないが、投資家にとっては「好都合な真実」である。

 厳密に「ベスト」というものは決めようがないから、この組み合わせは、大雑把で、単純なものでいいだろう。具体的には、TOPIXに連動するETFとMSCI-KOKUSAIに連動するETFの組み合わせあたりでいいだろう。これらで、こと株式に関する限り、GPIF並みの運用が出来る。比率は、これも大雑把に4:6でどうか(計算の根拠は、楽天証券のホームページの拙稿をご参照下さい。
http://www.rakuten-sec.co.jp/ITS/investment/yamazaki/in05_report_yamazaki_20080118.html
簡単に言うと、両者を同じ期待リターンとして、リスクを最小化する組み合わせが「42%と58%」だった)。
 「外債」というアセット・クラスをどうするかを少々考えたが、個人には不要だろう。取引時の為替手数料や債券価格を考えると不利な商品(債券)が多く、外貨預金も同様に気が進まず、外債に投資する投信は手数料が高い。また、外株に投資したいので、外債でも為替リスクを取ると、個人にとって為替リスクが過大になる公算が大きい。「為替リスク枠」は外株に割り当てたい。ちなみに、私が運用委員を務めている国家公務員共済組合連合会(通称「KKR」)の基本ポートフォリオにも現在外債が無い。KKRの資産の規模から言って、将来は、外債というアセット・クラスを持つようになるのではないかと思うが、現在は無い(基本ポートフォリオの計算をする際に、外債を加えても、大きな改善が見られなかったからだと記憶している)。こちらも、為替リスク枠を外株で使っているイメージだ。
 TOPIX連動のETFは、日興アセットの「上場インデックスファンドTOPIX」(コード番号1308。信託報酬0.0924%)が信託報酬が安くていいが、最小投資単位が少し大きいので、運用金額によっては野村アセットの「TOPIX連動型上場投資信託」(コードは1306。信託報酬は現在0.1155%)を選んでもいいかも知れない。MSCI-KOKUSAIのETFは、バークレイズのi-Sharesでこの指数に連動するものを選ぶといい(ティッカー・コードはTOK。信託報酬は約0.25%)。

 問題は、リスク資産を幾ら買うかというアセット・アロケーションだ。個人の場合、収入の変動もあれば、借り入れや、本人の健康や家族の条件変化もあるから、アセット・アロケーションは真面目に取り組むと、年金基金のような機関投資家の場合よりも難しい。
 私が過去に書いた本や原稿では、平均マイナス2標準偏差くらいのイベントで「最悪の場合」の損失額を求めて、許容できる範囲の中で、「期待リターン」と「最悪の場合」の組み合わせの中から、本人にとって最も好ましく思えるものを選ぶというアプローチを取っていた。一種の簡便法だが、目標運用利回りを先決めしてリスクを見ずに運用商品の組み合わせを決めるような(旧式のファイナンシャル・プランニングにそのようなものが多い)やり方よりは、「無難」(最大損失を意識しているから)で、「良心的」(本人に組み合わせを選ばせているから)な方法だとは思う。
 しかし、超初心者も含めて、一般向けに説明するとなると、以下のような難点がある。
(1)「標準偏差」を説明しなければならない
(2)株式などの「期待リターン」は決め方が難しく誤解される恐れが多々ある
(3)複数の選択肢を見せられても自分で決められない人が多い
(4)損から先に考えるという手順に気が進まない人がいる

 運用で幾ら損をすることがあり得るのか、という点は、何れにせよ確認しなければならないのだが、もっと単純な方法はないものか、と考えてみた。
 
 現在、私が考えている「超々簡便法」は以下のようなものだ。
 先ず、一定の手元資金(たとえば普通預金に生活費の3ヶ月分くらい)を除いて、「気持ちが許す限り」全てを例の「リスク資産の組み合わせ」に投資する。というものだ。基本はこれだけだ。
 その代わり、必要があれば、基準価額に関係なく部分的に取り崩しを躊躇しないこと、という条件が付く。カードローンや消費者金融は使わない方がいいし、リボルビング払いも金利がばかばかしいので利用しないことが肝心だ。必要があってお金を使うときには、自分の買値はもちろん、その時のETFの基準価額に関係なく、投資を取り崩していいのだ、という精神的な自己教育が必要な人がいるかも知れないが、こうするのがいい。
 他方で、自分のお金をリスクに晒すことが気の進まない人は、無理をする必要はないし、安全運用したいお金が1000万円を超える人は、ペイオフ対策も兼ねて、ある程度のお金を個人向け国債に振り向けるといい、という程度の補足説明も付ける方が親切かも知れない。
 リスク管理面では、健康保険に加入することと、ドライバーは自動車保険に入ること、若くて貧乏で子供が居る場合に限り掛け捨ての死亡保険に少々入ること(保険会社は、今のところライフネット生命で決まりだろう。http://www.lifenet-seimei.co.jp/)、それ以外の保険には勿体ないから「入らない」ことが肝心だ。

 これくらい単純だと、かなりものぐさな人(たとえば、個人としての山崎元)でも実行できるだろう。

 これで何か不都合はあるだろうか。
 もちろん、株価が下がった場合に「結果的に」損が出る。方法の有難味を増すためには、株価の益利回り、経済成長率、景気判断(内閣府)くらいを組み合わせて、投資額の増減を行うフォーミュラを作ってもいいが、「株価のタイミングは良く分からない」というのがこの超々簡便法の前提だし、運用業界にとっての現実でもあるので、小細工はしない方がいいだろう。「最悪の場合、一年間に投資額の三割くらい損をすることがある」と覚悟を決めて、あとは運を天に任せる。明らかかつ大幅にこの方法を上回る運用方法を考えるのはなかなか大変だ。厳密に「ベスト」ではないかも知れないが、大まかに「ベストに近い」なら、それでいいではないか。
 ちなみに、GPIFの昨年度の対ベンチマークの運用成績は、国内株が+0.08%、外国株が-0.30%だから、前記のETFの信託報酬は、腹の立たない範囲だろう。証券会社には有り難くないことだが、もちろん、この投資は、お金が必要で取り崩すまで、30年でも40年でもずっと続ける長期運用が原則だ。
 生命保険はいらない。特に、医療保険は不要だ。高額療養費制度まで含めると日本の健康保険はかなりのリスクまでカバーしているし、貯蓄(この場合ETFへの投資だが)は、「無駄にならない保険」として機能する。
 年金を受給して生活している人の場合はどうか。この場合、生活に必要な最低限の金融資産の見当を付ける必要があるかも知れないが、純然たる余裕金の運用は、二つのETFでいいだろう。年金生活期間もそれなりに長くなりがちだから、期間を味方に付けて、金融資産に働いて貰うことを考えていい。
 住宅には人によって各種のこだわりや考え方があるので、本来は「一体で」考えなければならないのだが、面倒なので、今回は別に考えることにした。ただし、余裕があって不動産を購入した人に関しても、金融資産部分の運用は、大きな修正が必要な感じはしない。
 結局、大きな不都合があるとすれば、親戚に金融マンや保険屋さんがいる人の場合、親戚付合が気まずくなることぐらいか。
 
 ある雑誌を見ていたら、運用会社の社員が、たぶん投資信託の手数料水準を「高くない」と言い張る為なのだと思われたが、投信が投資顧問よりも高いことが不満なら「100万円を持って」投資顧問会社に行ってみるといい、といった趣旨のことを発言されていた。まあ、そんな意地悪を言わずに、上記のようなことを教えてあげたらいいのに、と思ったことであった。
 それに、実質的に大幅に節約できるなら、その手数料はやっぱり高い。外国の投信の手数料が高い(厳密には高い手数料の投信が多数ある)のは、「外国にもダメな投信がある」と素直に理解すればいいことで、日本の投信手数料が投資家のために十分低いことの説明にはなっていない。
 何はともあれ、投資顧問になど行かなくても、この程度のことはタダで分かるいい世の中なのだ。
 個人の投資対象は手数料の安いETFのようなもので十分だし、個別の資産配分などは、お金に詳しい人(たとえば、正しい知識を持った退職後の金融マンのような人)がブログでも開いて、相談に乗ってあげたら済む話だ。価値の殆ど無いサービスに高いお金を払うのは勿体ない。

(注)野村のTOPIX連動型ETFの信託報酬の数字を訂正しました。ponzouさん、ご指摘ありがとうございました。(7/12)
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