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「死刑廃止論」に訪れた幻のチャンス

 野村のインサイダー事件が発覚した22日は、光市の母子殺人事件の差し戻し審の判決があった日だった。インサイダー問題の報道は時間的に丁度この件と重なるので、新聞を繰ると、死刑判決のニュースと被害者のご遺族である本村氏の顔写真が大量に目に入った。
 この話題の中で似たもの探しは不謹慎かも知れないが、本村氏は、「木村剛氏に弟がいればこんな顔か」と思えるような、いかにも真面目そうで意志の強そうなお顔立ちだ。また、メディアへの対応も木村氏に負けないくらい堂々としている。たいしたものだと思う。
 本村氏は、たぶん、死刑という刑罰が現に存在するならこの犯行が間違いなくそれに該当するという確信と、今の日本には死刑が必要だというお考えがあって、死刑判決を求め、これを肯定的に評価したのだろう。事件にごく近い当事者である彼の判断について、良し悪しを言う積もりはない。
 ただ、「生きたい、生きたい」と言っている人間(犯人)を、社会が寄ってたかって死刑にした今回の展開は、正直なところ気持ちのいいものではなかった(本論ではないが、本事件の弁護団の戦術も気持ちのいいものではなかった)。
 個人的には、まだ確信を持つまでには至らないが、「死刑廃止論」に一歩近づいた。考え方としても、死刑廃止は戦争反対と平仄が合っているような気がして、好感が持てる。(あとは、死刑が無い場合に凶悪犯罪の発生率が有意にちがうのかどうかが判断上大きな問題だろう)
 この立場から考えると、仮に今回、本村氏が「考えに考えた結果、私は犯人の死を望まない」とでもメディアに対して発言していれば、日本の歴史が変わったかも知れないという点が、少し残念だ。市井の一個人の発言が、世論を動かし、歴史に影響するチャンスは、そうあるものではない。
 ただ、本村氏ご本人に対しては、心から「お気の毒」という意外に言葉がない。
 死刑廃止論者は、別の説得材料を探さなければならない。
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野村のインサイダー取引事件の新聞報道を見て思ったこと

 この件については、テレビでもコメントしたし、これから複数の媒体に原稿を書くことになると思うが、新聞を見ていて気付いたことを幾つかメモしておく。

(1)この事件の報道は「読売新聞」が抜いた。同日朝の遅い版では「日本経済新聞」にも記事が出ているが、一面トップに概容を載せただけの、明らかに後追いの記事だった。競馬で言うと、一馬身まで差が付かなかったが、半馬身程度は明確な差があった。読売の情報ソースは分からないが、その後の「逮捕へ」という見出しが早い点などから見て、地検筋だろうか。

(2)事実の概容はほぼ報じられている印象なので、必然的に、野村證券の経営責任に注目が集まる。これは当然だ。
 報道によると、元野村社員だった容疑者の担当外の王子・北越のTOB問題でもインサイダー取引があったという。野村の組織的な情報管理体制に不足があったことは、ほぼ間違いない。しかし、この件に対する追及の厳しさは、新聞によってちがう(各紙とも概して甘いが)。

(3)上記の点が明らかなのに、野村證券の渡辺賢一社長が22日の記者会見で「個人の犯罪」を強調したことは、全く不適切だった。
 渡辺氏が、どんな方なのか全く存じ上げないが、しょせんサラリーマンとしての命が惜しい「小物」だという印象を持った。会見で対策として、倫理・教育以外に具体策が出てこない点でも危機管理能力に乏しい(これでは「しょせん精神論で、信用できない」と世間が思うだろうから)。記者会見の発言から見る限り凡そ「野村の社長の器」ではない。どうするのが会社のためにいいのかは、もはや明白だろう。

(4)渡辺社長は会見で、この件を知ったのは22日の早朝と答えているが、これは正しいのか。或いは、これで、大丈夫なのか。
 23日付の「東京新聞」(3面)によると、証券取引等監視委員会は、容疑者が香港法人勤務のため、「事情聴取を行うため、野村に協力を要請。出張で来日させるという手の込んだ手法で、22日の朝、身柄の確保に成功」した、とある。監視委員会から野村への要請が何日の何時に行われたかが問題になるが、22日の朝に問題を知ったことが嘘であるか、要請があったのに社長まで報告が行っていなかったかのどちらかではないのだろうか。前者なら「社長の嘘」、後者なら「危機管理(報告)体制不十分」ということだ。細かな点だが、この点の事実関係にも注目したい。

(5)元社員だった容疑者及び逮捕された協力者(2人)は何れも中国人だったという。一見、外国人だったから起こった問題であるようにも見えるが、彼らが外国人であることと、本件は安易に関連づけるべきではないだろう。その点を論じるなら、そう考える理由なり、外国人の方がインサイダー取引が多いといったデータが必要だろう。単に、「グローバル化時代の人材管理が問われる・・・」というような言いっぱなしの指摘や問いかけには、外国人就労者にとって根拠無き不利益となりかねない無神経さがある。この点でも、新聞各紙で差があった。

 それにしても、たかだか野村證券に大きな期待を持つべきではないのだが、何ともお粗末な今回の事件に、私は同社の株主でも社員でもないのだが、がっかりした。
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