goo

財産形成のための株式投資と「ゲームとしての株式投資」

 現在、10月中に出版する予定の株式投資の本の初稿の校正作業をしている。250ページ分くらい書いたのだが、新書は224ページまでがいい、との編集者の意見に従い、削り中心で、作業中だ。
 削りが中心とはいっても、一箇所、少しまとめて書き足したい項目があったので、3~4ページ分書いてみた。
 株式投資の常識について述べている章の末尾に来る内容で、資産形成のための株式投資と(アクティブ運用の)「ゲームとしての株式投資」の区別、さらに、インデックス・ファンドに対する態度について、簡単に述べてみたのが、以下の内容だ。

=================================
●財産形成のための株式投資と「ゲームとしての株式投資」

 株式投資に配分できる金額の話が出たついでに、財産形成のための株式投資と、本書で取り上げている「ゲームとしての株式投資」の区別について、説明しておこう。
 損失可能額の見当を付けて、そこから逆算される範囲で株式投資を行うという点で、両者は一緒だが、単に財産形成のために株式を持とうというのであれば、インデックス・ファンドなど、手数料(特に信託報酬)の安い、投資信託(ETF:上場型投資信託を含む)を適当な額じっと持っていれば、ほぼ目的は達成される。ついでに付け加えると、われわれの潜在的な負債は円建て(将来の支出の大半は円だろう)だから、日本株での運用が中心でいいが、ある程度、外国の株式を組み入れると、リスクとリターンとの関係を改善することができる。近年、ネット証券でも、海外のETFの取り扱いが増えたので、外国株に対するリスク分散された投資を、何とか許せるコストで、行うことが可能になった(銀行や証券会社の窓口で売っているような、外国株に投資する通常の投資信託は、手数料が高すぎて、話にならない)。
 ただ、年間数十ベイシス(一ベイシスは一〇〇分の一%)のコストを払って、他人に運用して貰うよりも、自分で銘柄を選んで株式投資を行えば、上手くやれば数銘柄単位の投資で、投資信託とそう変わらないリスクの大きさのポートフォリオを作ることが出来る。
 そうしたポートフォリオを作って運用するにあたって、「せっかくなら、他人よりも上手くやりたい」、「市場平均よりも有利な運用をしたい」という目標を設定して、どこかにチャンスを探そうとする努力が、著者のいう「ゲームとしての株式投資」であり、これは、運用資金の大きさや、評価のされ方が、少々違うかも知れないが、プロのファンドマネジャーが仕事として取り組んでいる内容と、本質的に同じだ。
 アクティブ・ファンドを運用するプロのファンドマネジャーが洋の東西を問わず、市場平均になかなか勝てないことから分かるように、このゲームは、簡単なのものではないから、このゲームに取り組んで、必ず結果が改善するとは、とても言えない。失敗することが極度に苦手な人や、ゲームそのものが面倒だという人は、ある程度のコストを我慢して内外の投資信託に投資すればいい。
 あるいは、敢えてゲームを戦わずに「簡易投信」的な株式への分散投資を行ってもいい。具体的に銘柄を挙げると、あれやこれやと面倒なので、中身はお任せするが、(1)業種を分けて、(2)原則として東証一部で、(3)時価総額の大きな銘柄で、(4)市場平均のPER、PBRから大きく離れないもの(少なくとも上方に大きくは離れないこと)、を選んで、(5)なるべく多くの銘柄を持ち、(6)一銘柄に大きく投資しないように、数銘柄以上投資すれば、リスクは、TOPIX(東証株価指数)から、そうかけ離れないポートフォリオを自分で作ることが出来る。そして、新たに投資できるお金が出来たら、投資銘柄を増やすといい。
 もちろん、こんな調子で運用しながら、そのうちに「ゲーム」の世界に移行してくるのも構わない。ゲームとしての株式投資で持つべきポートフォリオも、小さな資金で運用する限り、ここで述べたようなポートフォリオと大きくは変わらないはずだ。
 何らかの狙い、コンセプトを持って銘柄を選び、投資ウェイトを決める点が異なるが、分散投資が有利であることや、余計な売買を減らす方がいいことなどは、「合理性」から自ずとやり方が決まるので、淡々と運用するポートフォリオと、ゲームを追求して運用するポートフォリオとの間で、そう大きな違いがあるわけではない。
 こう考えると、せっかく株式に投資するなら、これをゲームとして楽しむ視点を持って、チャンスを探し、ポートフォリオを作るようにすると楽しいのではないか、と著者は思う。
 尚、インデックス・ファンド(ETFを含めて)は、手数料が安くて、偏りが少なく分散投資されている投資対象として、運用に使っても良いのではないかと考えているだけで、これが、理論的な意味のある特別な投資対象だというのは、間違いだ。本書では詳しくは触れないことにしたが、たとえば「CAPM(資本資産市場モデル)によると、インデックス・ファンドが効率的な投資対象だ」というような誤解が時々あるようだが、インデックス・ファンドは、CAPMで言う「市場ポートフォリオ」とは別物だし、CAPMは現実の資本市場を説明できていないという意味で、全く役に立たない理論なので、二重の意味で、こだわる意味がない。
 また、詳しい説明は省くが、インデックス(株価指数)の銘柄やウェイトの変更時に、インデックス・ファンドがこれを利用されて損をする場合があったり、ETFの場合、分配金を薄められたりするケースがあり、インデックスファンドは、細かな(たまに大きいこともあるが)損をすることがあるので、気をつけて欲しい。
 本当のところは、自分でやる方が安心なのだが、面倒な場合は、インデックス・ファンドでもいい、というくらいのものだと、考えておいて欲しい。
 アクティブ・ファンドでまともなコストのもの(購入時手数料ゼロで、信託報酬が年率〇.五%以下なら、まずまず許せる。投資顧問の手数料なら、十分可能なのだが)が、登場するようになれば、ファンドを選ぶ楽しみも出てくるのだが、日本でそうした状況になるには、もうしばらく時間が掛かりそうだ。
==============================

 結局、全体の章構成は、
(1)ゲームとしての株式投資入門
(2)株式投資の本当の常識
(3)投資家のツールとしての投資理論
(4)ゲームとしての株式投資再論
となっている。

 株式投資がどのような構造のゲームになっているか、という話と、運用業界で言う「運用哲学」について、好きなように語った一冊になる予定だ。
 結論を書いてしまうと、株式投資は、知識や努力で上手くなるものではなく、大事なのは唯一「センス」であり、その内容は「合理的なへそ曲がりの精神」だ、という話で、語りたいことは、これに尽きる。無駄だから、努力は止めておけ、とも書いてある。「センス」と常識を働かせて、ちょっと考えればいいし、それで外れていたら、仕方がないではないか。
 数式は一本も出てこないし(APTの式は、校正段階で丸ごと削除することにした)、難しく書いたつもりはないが、手取り足取り、分かりやすく、読者が納得できるように・・・・、とは書いていない。そのかわり、ある程度の年月の変化に耐えるような内容を、書いたつもりだ。

 問題は、この段階になっても、タイトルが決まらないことだ。仮タイトル「株式投資は不美人投票」で原稿を書き始めたが、どうも印象がネガティブで今一つに思えてきた。これから数日、編集者と悩むことにするが、10月中には、書店に並ぶように、残りの作業を頑張りたい。
コメント ( 71 ) | Trackback ( 0 )
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする