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持ち家か、賃貸か その2

持ち家と賃貸の問題は、ご関心が高いようですね。両論共に参考になります。(雑誌のコラムなどを書く時の参考にもできそうです)

ご意見が多いので(嬉しいことに、コメントの総数だけではなく、参加者が多い)、エントリーをもう一度立て直すことにします。

議論がアツクなりすぎないうちに、ご説明しておきますが、「~派」という立場を作ってディベートする方が時に面白く、また、活発な論者が集まると、議論が深まりやすいと思うので、私は、今回、実生活と同じ、「賃貸派」の側から立論していますが、エントリーをよくお読みいただければ分かると思いますが、「賃貸か、持ち家か」は、不動産の価格による、と言っているのであって、常に賃貸が良い、と言っているのではありません。

この点は、お忘れなきように!

また、たまたま良い(悪い)時に買った話や、値下がりしない物件を選べばよい、という話は、インチキな株式評論家(個別の推奨銘柄まで出すタイプ)の株式投資話のようなものであり、ここで論じようとしていることとは、別次元の話だと思います。

たとえば、都心で駅近の物件でも、高すぎる状態になることもあるでしょうし、その状態で買えば、損をします。後講釈を言うのは簡単ですが、「いい銘柄」を自分だけ選べる、というような前提の議論は、価値がありません。(いい投信を事前に選ぶことが出来る、という前提の投信弁護論と一緒です)

話の収斂先は、不動産投資には、どのくらいのリスク・プレミアムが適切か、という辺りなのでしょう。

自分で住もうが住むまいが、リスクを取って資産を持っていることは同じなので、単純に「賃貸」にかかるコストと、「持ち家」の取得・ローンの総コストとを較べるアプローチは、ファイナンス的には、債券と株式のリターンをリスクの違いを考慮せずに較べるような、間違いです。

高い価格で不動産を買ってしまった人は、たとえば日経平均連動投信を、日経平均が1万6千円の時に2万円で買ってしまったようなものでしょう。長期的には、2万円を上回る可能性がありますが、その場合でも、意志決定自体をその時点に戻して考えると、少なくとも相当の、「損」だった、ということになりますし、後から見て、たとえば、もっと使えるはずのお金を使えなかったという結果になっています。(注:この種の意志決定を、結果が儲けであったことから、「損ではない」と強弁する癖が付くと、金融機関にとことん騙されやすい体質になります)

ただし、持ち家の投資利回りが悪い時でも、賃貸派が必ずしも、経済的に成功しているかというと、そうでもなく、投資するお金を作らずに無駄遣いでもしていれば、持ち家派の方が、利回りが悪くても不動産の価値の形で貯蓄したことになっている、という点は、自戒と共に、指摘しておきましょう。

あと、大家さんを事業として行っておられる方は、リスクを取って、また、あれやこれやと手間を掛けておられる訳ですから、そのリターンはあっていいでしょう。但し、それなりに大きな事業リスクを負っているのだ、という理解が必要でしょうし、簡単ではないと思います。

結局、大まかな市場原理が働けば、平均的な嗜好をお持ちの方にとって、賃貸と持ち家のリスクを考えたコスト比較は、「いい勝負」に落ち着くはずです。

賃貸で住んでいると大家さんの利益部分の家賃もしばしば払わなければならないし、賃貸の場合でも将来の家賃上昇や契約更新のリスクがありますし、持ち家の場合にも各種の損とリスクがあって、いい加減、ということでしょう(たぶん橘玲さんがお考えなのも、こういうことでしょう)。

すると、ここから先は、
(1)個人のライフスタイルにあって、賃貸の自由度・身軽さを取るか、持ち家の安定感・使い勝手を取るか、
(2)ファイナンシャル・プランニングの問題として考えて、「持ち家」が(ことにローンまで背負う場合に)適切なのか、
という問題になります。

この点で、今回の朝日新聞のインタビューで、私は、(1)の点のメリットを強調したわけですが、(2)の点についても、もっと注意が払われるべきだろうと思っています。この点に関しては、現在のファイナンシャル・プランニングのテキストは、「家は買うもの(買ってもいいもの)」という前提で考えられているようであり、結果として、無用に窮屈な家計を多産している面があるように思えます。

また、もちろん、不動産にも「相場」があるので、全体感としても、個別にも(たとえば「マンション」というのは不利な投資対象ではないか、など)、高いか・安いか、これから上がるか・下がるか、は、精一杯考えてみるべきでしょう。

たとえば、バブルの時期に、不動産を買ったファンドマネジャーを何人も知っていますが、あの利回りでどうして買えたのか、不思議でもあり、「土地神話」なるものの怖さを思い出します。

結局、最終的に私が是非とも言っておきたいことは、家の購入という重大な経済的意志決定にあって、「自分で住む家は特別だ」、とか、「家は、買うのが普通だ」、とか、「家の投資利回りは普通の投資と同じように考えてはいけない」といった、不動産業界と、過去に持ち家を景気対策に何度も使って来た政府が半ば作った先入観を解体して、通常の経済的意志決定の一つとして、特別扱いせずに、シビアに考えよう、ということなのだろうと、思います。

 この点については、結局、「賃貸派」でも「持ち家派」でもない、ということになります。
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