一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『ばしゃ馬さんとビッグマウス』 ……夢とどう向き合うかを描いた秀作……

2013年11月27日 | 映画
映画館に映画を見に行って、
今年(2013年)は傑作に出会う回数が多いような気がする。
特に、今年後半は、
見る作品、見る作品、
レビューを書きたくなる作品ばかり。
多忙な私としては、「嬉しい悲鳴」状態。(笑)

映画『ばしゃ馬さんとビッグマウス』は、
麻生久美子主演映画だったので、見に行った一作。
麻生久美子は、実に魅力的な女優だ。
男性で、麻生久美子が嫌いな人はいないんじゃないか……
と思うくらい、男性に人気のある女優。

本作の監督は、吉田恵輔。
吉田恵輔監督と麻生久美子といえば、
『純喫茶磯辺』(2008年)を思い出すが、
あの作品で、麻生久美子のコスプレ姿に悩殺された男性も多いハズ。(オイオイ)
仲里依紗も可愛かった~(コラコラ)


麻生久美子に逢いたいという不純な動機で見に行った作品であったし、
映画のタイトルからして、それほど期待してはいなかったのだが、
これまた傑作と呼んでいいほどの秀作であったのだ。

学生時代からシナリオライターを目指しているが、
なかなか芽の出ない34歳の馬淵みち代(麻生久美子)は、
友人のマツモトキヨコ(山田真歩)を誘って、
社会人コースのシナリオスクールに通うことにする。


そこで出会ったのは、
自分のことを天才脚本家と名乗る、
超自信過剰な“ビッグマウス野郎”こと天童義美(安田章大)・28歳。
そんな天童を毛嫌いするみち代だったが、
天童は“ばしゃ馬”のようにシナリオを書き続けるみち代にひと目ぼれ。
なにかとみち代につきまとう。


しかし、みち代の頭の中はシナリオのことばかり。
お洒落も恋愛もそっちのけで、ただひたすらストイックにシナリオ書きに打ち込む毎日。


そんなある日、みち代は、
シナリオスクールの講師として来ていた映画監督の何気ない一言をきっかけに、
老人ホームを舞台にした介護の話を書くことにする。
アイデア作りのため、
介護士として働く元恋人・松尾健志(岡田義徳)に頼み込み、
老人ホームでボランティアをさせてもらうことにするが……


この映画は、
「努力すれば夢叶う」的な、
どこにでもあるような、ありきたりなサクセスストーリーではない。
どの世界でもそうだが、
才能のある人は、ほんの一握り。
「その他大勢」の人々は、夢破れて消えていくしかない。
夢を見るのは簡単だが、
それを叶えるのは難しい。
そして、夢をあきらめるのは、もっと難しいのかも……
本作は、
「一度抱いてしまった夢と、どう向き合っていけばいいのか?」
をテーマとした映画であり、
これまで、ありそうでなかった、「その他大勢」の側に身を置いた作品なのだ。


馬淵みち代を演じた麻生久美子。
30代半ばの、アカ抜けない女性の役で、
ファッションもそれなりのものなのだが、
どういうワケか、麻生久美子が演じると、
なんだか格好良く見えてしまうところが不思議。
サクセスストーリーではないので、
本当は、重く、暗くなってしまいがちなのだが、
そうならないのは、やはり麻生久美子に華があるからだろう。


天童義美を演じた安田章大。
関ジャニ∞のメンバーで、
<またジャニーズ系かよ>
と正直思ったが、
演技を見てみると、これが、なかなかのもので、
喋りも動作も自然で、とても良かった。
この作品が傑作になりえている大きな要因のひとつに、
彼の存在が挙げられると思った。
麻生久美子によると、
安田章大はセリフ覚えも良く、
長ゼリフのときでも、ほとんどNGを出さなかったとか。
みち代と天童の喧嘩のシーンなどが見どころのひとつになっているのは、
安田章大の演技力に由るところ大である。


みち代の元恋人・松尾健志を演じた岡田義徳。
かつてTVドラマ『イグアナの娘』(1996年)などに出ていた頃は、
若手人気女優の相手役といったイメージだったが、
30代半ばとなり、味のある役者になってきた感がある。
緒方明監督作品『のんちゃんのり弁』(2009年)のときにも感じたが、
ちょっと情けない男を演じさせたら実に巧い。
本作では、
かつて俳優を目指していたが、
夢をあきらめて介護士として働いているという役であったが、
挫折を味わったことのあるやや暗めの男を巧みに演じていた。


天童義美の母・天童育子を演じた秋野暢子。
ストーリー展開上、あまり詳しくは書けないのだが、
秋野暢子の存在感が抜群であった。
いろんな意味で驚かされる……とだけ言っておこう。


その他、山田真歩、清水優、松金よね子などが、
素晴らしい演技をしていた。


サクセスストーリーではないし、
盛り上がりに欠ける作品なのではあるが、
シナリオ通りにいかない若き頃を描いた傑作として、
長く、見る者の記憶に残ることであろう。

TVで毎日宣伝しているような巨費を投じた大作よりも、
『ばしゃ馬さんとビッグマウス』のような優れた小品が、
私に日本映画の良き未来を感じさせてくれる。
これからも、こういった作品に、より注目していこうと思う。

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