一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『いのちの停車場』……広瀬すずと松坂桃李の演技が秀逸な成島出監督作品……

2021年06月01日 | 映画


吉永小百合主演の映画を見なくなったのは、いつ頃からだろう……
年相応の役を演じていた頃はまだ良かったが、
年老いて、
実際の年齢よりもはるかに年下の役を演じるようになってからは、
ほとんど見なくなったような気がする。
私は、このブログで、
「若く見えても、若いわけではない」
という、(何かで読んだ)警句をよく使うが、
顔は若く見えても、
顔以外の指や首などの体の部位、皮膚の艶、声、体の姿勢、動作などで、
本来の年齢が見えてしまう。
吉永小百合ファンには申し訳ないが、
彼女が年齢よりもはるかに年下の役を演じていると、
違和感ありありなのである。

それでも、
『長崎ぶらぶら節』(2000年)
『まぼろしの邪馬台国』(2008年)
『おとうと』(2010年)
『北のカナリアたち』(2012年)
『母と暮せば』(2015年)
などは、
「私の好きな女優が共演者として出演している」等の理由で見ているし、
レビューも書いている。

本日紹介する吉永小百合主演作『いのちの停車場』も、
「私の好きな女優が共演者として出演している」
という理由で見た。
その女優とは、広瀬すず。
『海街diary』(2015年)
で、広瀬すずと出逢って以来、
〈広瀬すずの出演作はすべて見る〉
と決めているので、
『いのちの停車場』も見ないわけにはいかなかったのである。
この作品には、広瀬すず以外にも、
石田ゆり子、小池栄子、森口瑤子、中山忍など、
私が贔屓にしてる女優も多く出演しており、
逢えるのを楽しみに映画館に駆けつけたのだった。



東京の救命救急センターで働いていた医師・白石咲和子(吉永小百合)は、
ある事件の責任をとって退職し、実家の金沢に帰郷する。


これまでひたむきに仕事に取り組んできた咲和子にとっては人生の分岐点。
久々に再会した父(田中泯)と暮らし、


「まほろば診療所」で在宅医として再出発をする。
「まほろば」で出会った院長の仙川徹(西田敏行)は、
いつも陽気な人柄で患者たちから慕われており、
訪問看護師の星野麻世(広瀬すず)は、
亡くなった姉の子を育てながら、自分を救ってくれた仙川の元下で働いている。


ふたりは、近隣に住むたった5名の患者を中心に、
患者の生き方を尊重する治療を行っており、
これまで「命を救う」現場で戦ってきた咲和子は、考え方の違いに困惑する。


そこへ東京から咲和子を追いかけてきた医大卒業生の野呂聖二(松坂桃李)も加わり、
「まほろば」のメンバーになる。


野呂は医師になるか悩んでおり、
そして麻世もまた、あるトラウマに苦しんでいた。
様々な事情から在宅医療を選択し、
治療が困難な患者たちと出会っていく中で、
咲和子は「まほろば」の一員として、
その人らしい生き方を、
患者やその家族とともに考えるようになっていく……




吉永小百合は、最初、
東京の救命救急センターで働いている医師という役で登場するが、
命の現場の最先端で働いているような現役バリバリの医師には見えず、
冒頭から違和感ありありであった。
吉永小百合は1945年3月13日生まれなので、76歳。(2021年6月現在)
50歳くらいでこの役を演じていたら、まったく違和感なく見られたと思うが、
76歳で救命救急センターの医師というのは、いくらなんでも無理がある。

実家のある金沢に帰郷し、
「まほろば診療所」で在宅医として働くようになってからは、
違和感は減少するが、
白石咲和子(吉永小百合)の父親として田中泯が登場するのだが、
田中泯も1945年3月10日生まれなので、76歳。(2021年6月現在)
吉永小百合と同い年で、生まれも3日しか違わないのに、父親役とは、
なんとも可哀想であった。(コラコラ)


まあ、吉永小百合の話はこのくらいにして、
本来の目的の広瀬すずの話に移ろう。


訪問看護師の星野麻世を演じた広瀬すず。


本作『いのちの停車場』を見て感じたのは、
感情を抑えた演技の素晴らしさと、
広瀬すずという女優の目の輝き、眼差しの美しさであった。
広瀬すずといえば、「動」のイメージがあり、
感情ほとばしる演技や、くるくると変化する表情が魅力であったが、
成島出監督は、広瀬すずの隠された「静」の魅力を引き出していると思った。


監督には、とにかく「動かないで!」と。「できれば、瞬きもしないで」と言われるくらいでした。私は動くことで感情を濁すというか、そういう芝居をやるつもりで現場に行ったら、「動かないで!」と(笑)。とにかく無駄なことをしないでほしいと言われていました。でも、映像を観たら私、想像以上に瞬きしていて、ちょっと反省しています(笑)。(「SPICE」インタビューより)

広瀬すずはこう語っていたが、
大人の演技をしている広瀬すずが新鮮であったし、
「静」の彼女をじっくり見ることができたお蔭で、
〈こんなにも美しい目をしていたのか……〉
と再認識させられた。


広瀬すずは1998年6月19日生まれなので、22歳。(2021年6月1日現在)
ベテラン俳優ばかりだと、スクリーン全体がくすんで見えるが、
広瀬すずという若い女優が一人交じるだけで、俄然、輝き出す。


彼女自身の肉体が、命の輝きそのものであり、
広瀬すずという存在が、この映画の主旋律をなしていると思った。


そういう意味では、本作の真の主役は彼女であったのかもしれない。(オイオイ)



東京から咲和子を追いかけてきた医大卒業生の野呂聖二を演じた松坂桃李。


本作を見るまでは、それほど大きい役だとは思っていなかったのであるが、
かなり重要な役で、広瀬すずの次に強く印象に残った。
医大を卒業してはいるが、
医師国家試験に何度か落ちて、自信をなくしている男の役であったが、
「まほろば診療所」のスタッフや、患者やその家族との触れ合う内に、
再び医師になる決意を固め、
星野麻世(広瀬すず)との関係も好い感じになる。(笑)
本作が、野呂聖二という青年の成長譚とも言える作品になっているのは、
松坂桃李という男優の秀逸な演技あってこそと思わせた。


松坂桃李のここ数年の充実ぶりはすさまじく、
映画では、
『彼女がその名を知らない鳥たち』(2017年)
『不能犯』(2018)
『娼年』(2018年)
『孤狼の血』(2018年)
『居眠り磐音』(2019年)
『新聞記者』(2019年)
『蜜蜂と遠雷』(2019年)
『あの頃。』(2021年)
など、殺人犯、娼夫、刑事、侍、新聞記者、ピアニスト、オタク等、
いろんな役柄を演じ分け、
TVドラマでも、数日前に終了した、
「今ここにある危機とぼくの好感度について」(2021年4月24日~5月29日、NHK)
が好評であったし、(私も毎回録画して観ていたし、鈴木杏に惚れた)


現在放送中の、
「あのときキスしておけば」(2021年4月30日~、テレビ朝日)
でも、コミカルな演技が高評価されている。(孫娘に薦められ、こちらも毎回観ており、麻生久美子に惚れた)


女優偏重の私であるが、
松坂桃李の出演作は見逃せないと思っている。



ここからは、出演シーンは少ないものの、
私の好きな俳優について語る。


宮嶋一義(柳葉敏郎)の妻・宮嶋友里恵を演じた森口瑤子。


まず、彼女の顔が好きで、(コラコラ)
私が毎週観ている「プレバト!!」の俳句の冬麗戦で、
唯一の特待生として参戦し、
並居る名人たちを押さえて女性初優勝を成し遂げる下剋上を成し遂げたことで、
益々好きになった。


夫は、「大豆田とわ子と三人の元夫」(2021年4月~、関西テレビ)の脚本家の坂元裕二。
本作『いのちの停車場』では、
末期の膵臓癌である夫を献身的に支えながら、
高校卒業後に家出をした息子を夫に会わせたいと思っている妻を演じているのだが、


その健気で、清潔感あふれる佇まいに惹かれた。


やつれた表情にも、そこはかとない色気が漂い、魅了された。



プロの女流囲碁棋士・中川朋子を演じた石田ゆり子。


森口瑤子と同様、
まず、彼女の顔が好きで、(コラコラ)
森口瑤子と同様、
その文学的才能も愛している。


本作『いのちの停車場』では、
癌を患い、5年前に手術をしたが、転移が見つかり、
幼馴染の咲和子を頼って「まほろば診療所」にやってくるという役であったが、
朋子(石田ゆり子)が、
「先生、私あとどれぐらい生きられますか?」
と問い、
「永遠に……」
と、咲和子(吉永小百合)が力強く答え、
笑顔で共に写真に写るシーンが、特に素晴らしかったと思う。



「BAR STATION」のマスター・柳瀬尚也を演じたみなみらんぼう。


世界中を旅し、金沢に辿り着いた吟遊詩人で、
現在は、バーのマスターをしており、
日々様々な患者と向き合う「まほろば診療所」のスタッフに、
打ち合わせや休息の場を提供している男性という役。

【みなみらんぼう】
ラジオ台本作家を経て、
1971年「酔いどれ女の流れ唄」で作詞・作曲家としてデビューし、
1973年に「ウイスキーの小瓶」で歌手デビュー。
1976年に「NHKみんなのうた」で発表した「山口さんちのツトム君」はミリオンセラーを記録。
シンガーソングライターとしてコンサート活動の他、
テレビのリポーター、ラジオパーソナリティー、執筆活動と多方面に亘り活動を続けている。


若い人はあまり知らないと思うが、
昔はかなり有名で、
私事ではあるが、
私は編集記者時代に、一度だけではあるが、直接会って取材したことがある。
指定された喫茶店に、彼は幼い子供を伴って現れ、
どんな質問にも気さくに何でも答えてくれたことを憶えている。
みなみらんぼうの曲では、
私は個人的に「コートにスミレを」という曲が好きであった。


登山好きの方なら、「登山家・みなみらんぼう」としての顔もご存じだと思う。
山に関する著書も多く、誰しも一作くらいは目にしているのではなかろうか。


映画には、一度、
『-北村透谷- わが冬の歌』(1977年)という作品で主演しており、
本作『いのちの停車場』が二度目の映画出演。
映画では、ギターを弾きながら歌も披露しており、
60代以上の方なら感涙ものかもしれない。
だが、登山を盛んに行っていた時期に比べれば、老いた印象は否めず、
月日の流れを感じられずにはいられなかった。
本作『いのちの停車場』舞台あいさつで、
みなみらんぼうが「ちょっと体調がおかしいみたい」と不調を訴え、
降壇するアクシデントがあったが、
調べてみると、
みなみらんぼうは1944年12月13日生まれの76歳。(2021年6月現在)
吉永小百合や田中泯と同学年であり、同い年であったのだ。
そう考えると、(田中泯やみなみらんぼうの見た目もあるが)
やはり吉永小百合は、やはり「若い」ということであろう。



咲和子の幼き頃の母を演じた中山忍。


森口瑤子や石田ゆり子と同じく、
まず、彼女の顔が好きで、(コラコラ)
姉の中山美穂よりも好きである。
なので、TVドラマのキャストに彼女の名があると、つい観てしまう。

中山忍は、自身のインスタグラムで、

記憶の中のお母さんです
映画「いのちの停車場」にて
吉永小百合さん演ずる
主人公・咲和子が幼い頃を思い出すシーン
思い出の停車場で
咲和子の幼少期を演じた
元気いっぱい天真爛漫な
鈴木咲ちゃんと
南杏子先生の原作では
咲和子のお母さんは
料理上手でシルクのスカーフを
たくさん持っていたおしゃれな人
衣装合わせのときにリクエストして
スカーフを合わせることになりました
その瞬間が愛おしい
私の中で忘れられない作品となりました


と、記していたが、
「吉永小百合の母ならさもありなん」という美しさで、
出演シーンは短いものの、見る者に強い印象を残した。



その他、
「まほろば診療所」の三代目院長・仙川徹を演じた西田敏行、


末期の肺がんを患う芸者・寺田智恵子を演じた小池栄子、


在宅治療を強く望む胃瘻患者の夫・並木徳三郎を演じた泉谷しげる、


末期の膵臓癌を患う元高級官僚・宮嶋一義を演じた柳葉敏郎、


8歳で小児癌を患う子供の母親・若林祐子を演じた南野陽子、


咲和子の父親・白石達郎を演じた田中泯などが、
ベテランらしい確かな演技で作品を支えていた。



舞台となった金沢の風景も素晴らしく、




『八日目の蟬』(2011年)
『ソロモンの偽証』(前篇・事件 / 後篇・裁判)(2015年)
などの作品で高い評価を得ている成島出監督らしい品格のある作品で、
広瀬すずを目当てに見に行った映画ではあったが、
いろんな意味で、収穫の多い作品であった。
コロナ禍での勇気ある公開にも拍手を送りたい。

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