というわけで、今回は「ウォッチメン」世界における第二世代のヒーローたちについて書いてみたいと思います。第一世代のヒーローたち、いわゆる「ミニッツメン」はすべて肉体的には普通の人たちで漫画「スーパーマン」の影響を受けてコスチュームに身を包んだ人たちです。それぞれ内面に問題を抱え、多くは決して幸福とはいえない最後を遂げます。
とはいえ、彼らは歴史に大きな影響を与えたわけではありません。ところが第二世代のヒーローの登場によってウォッチメン世界は我々の世界と異なる道をたどることになります。
なお、知っている人は知っていると思いますが、元々「ウォッチメン」のキャラはチャールトン・コミックスという出版社のキャラがモデルとなっています。原作者アラン・ムーアはチャールトン・コミックスがDCコミックスに買収された際、それらのキャラクターを使って「ウォッチメン」の物語を語ろうと考えていました。しかし、一大クロスオーバー・イベントでの使用を考えていたDC側はこれを拒否、オリジナルのキャラクターでいくことになります。しかし、これらのキャラクターにはチャールトン・コミックス(以下CC)の影響が見て取れます。
ちなみに映画では特に語られませんが1977年にキーン条例が制定されます。これは自警行為の禁止、要はヒーロー行為の禁止で政府の管理下に入ったものだけが活動を許される、というものです。この条例の元であるものは政府の管理下に入り、あるものは引退し、そしてまたあるものは法を犯してもヒーローを続ける。こういった背景の下で1985年を迎えます。
左からロールシャッハ、オジマンディアス、コメディアン、二代目ナイトオウル、二代目シルク・スペクター、そして後ろの青いのがドクター・マンハッタン。
「おめぇらには、マンガの主人公がお似合いだぜ」
コメディアン
ミニッツメンに引き続き活躍。ベトナムや暴動鎮圧などで功をなした。前回も書いたがとにかく最低なくせにやたらと魅力的な人物で、映画でナイトオウルとともに、暴動を鎮圧するシーンはしびれるほど格好良い。
こういう「粗野で、下品で遠慮せず言いたい事を言うオヤジヒーロー」というのはアメリカでは結構見かけるが(「ウルヴァリン」「ロボ」「”ストーン・コールド”スティーヴ・オースティン」など)日本で思い当たるものは無い。まあ、大抵彼らは反体制派でその点はコメディアンとは異なるが。「ワンピース」の黒髭ティーチがヒーローを務めるようなものかな。まあ、あれは実在の海賊「黒髭」をモデルにしてますが。
CCのピース・メーカーがモデル。「平和のためなら戦争も辞さない」という矛盾の塊のようなヴァイオレンスヒーローらしい。コメディアンはおそらくそこまで思想的に突き詰めてないと思うが(むしろすべてを笑い飛ばす人だし)。
「ベトナムじゃガキだって容赦なく撃ったさ・・・だがよ・・・俺はあんな真似だけは・・・あんな・・・」
「スーパーマンは実在します。しかも彼はアメリカ人です」
DR.マンハッタン
本名ジョン・オスターマン「ウォッチメン」の物語で最も重要な人物。年齢的にはミニッツメンの面々と近いが、もはや年齢とかを超越した存在。作中唯一の超人。
放射能実験のチェンバーに閉じ込められるという事故でいったん死亡するが、肉体を再構成し超人となる。彼がいたおかげでアメリカはベトナム戦争に勝ち、ニクソンは五期目の大統領を務め、ソ連との核戦争の危機が我々の歴史より緊迫化しているのだ。
2ちゃんねるでは全裸ブルーマンって呼ばれてた。ちなみに彼の人間性と比例して身体をまとう布の表面積は減っていく。物語の背景、テーマ、結末、すべての面で重要な人物なのに、日本の予告編ではいらない子扱いされた不遇のキャラ。
モデルはCCのキャプテン・アトム。
「訂正します。神は存在しました。しかも彼はアメリカ人です」
「でも・・・でも・・・私、他に誰も知らないの・・・私の知り合いは・・・スーパーヒーローだけなのよ!」
2代目シルク・スペクター
本名ローレル・ジェーン・ジュスペクツィク。母親のサリー(初代シルク・スペクター)に小さい頃からヒーローになるべく訓練させられ、10代でデビュー。
まあ、いやな女なのだが映画では原作ほどいやな女では無くなっている。
しかしよくよく考えれば初代シルク姐さんと・・・の間の子供なのだから血統書付きのヒーローかつ嫌な奴でもしょうがあるまい。
「午前3時に出歩いて馬鹿な真似をするのには慣れてるわ」
「あの頃は楽しかったよな、ロールシャッハ。どうしてこんなことに・・・」
2代目ナイトオウル
銀行家の裕福な家に生まれ、鳥が大好きなダニエル・ドライバーグ青年は自分の子供の頃のヒーローナイトオウルが引退すると聞いて連絡を取り、初代公認の下二代目ナイトオウルとなった。境遇や機能的なコスチュームという点などナイトオウルよりむしろモスマンと共通点が多く、鳥好きでなく、虫好きだったら二代目モスマンになってたかも。
多機能飛行機のアーチーや環境別のコスチューム(原作の寒冷地仕様のコスチュームの可愛さは最高)などを発明し、どう見ても凄い天才なのだが、劇中ではジョンとオジーに隠れてそれほど天才ぶりは際立たない。良くも悪くも善良な人物で劇中では最も観客に近い視点を持つ人物である。
キーン条例で引退した後は仕事らしい仕事をしておらず初代の茶飲み友達として無為な日々を過ごしていた。インポだったがコスチュームを着ることで克服、この辺のヒーローとコスチュームの関係というのは色々と思うところがあるのでいずれゆっくり別に書いてみたいと思う。
実はもしものときのために複数、別の身分を確保してるなど抜け目ない人物。
モデルはCCの3代目ブルービートル。発明品を駆使するバットマンとスパイダーマンを足して二で割ったような常人ヒーローで、「キングダム・カム」ではグリーンアローなんかと一緒に常人ヒーローチームとしてバットマンの味方をしてた。
演じたパトリック・ウィルソンって「オペラ座の怪人」でラウル役をやってた人だったのね。あの時は美青年だったのに今回は見事に崩れた中年を演じている。
「僕は・・・その・・・すまない、ロールシャッハ。言い過ぎた」
「俺に必要なのは・・・この顔だけだ」
ロールシャッハ
本名はウォルター・コバックス。孤高の奮闘振りが素晴しい漢の中の漢。物語の探偵役。捜査の基本は酒場でチンピラの指を折ること。普段は「終末は近い」と書いた看板を掲げて街をうろついてるが、これが仕事なのかどうかは不明。
育った環境があまり良くなく、物事を極端な善と悪に分けがちだがそれでも当初は仲間達とうまくやっていた。特にナイトオウルとは名コンビだった。だがとある事件をきっかけに犯罪者の殺害も辞さなくなる。キーン条例以降もマスクを脱がず、自警行為を続けている。
日本語版予告では「事件を追う<顔の無い謎の男>」と紹介されるが厳密にはこれも間違い。あのマスクこそが彼の「本当の顔」なのだ。
モデルはCCのザ・クエスチョン。詳細は知らないがマスクの模様を除けばルックス的にはほぼ一緒。
僕はよく、批評として「感情移入しづらいと」か「共感できない」などということがあるが、これは決して「平々凡々な一般人を主役に据えろ」ということでは決して無い(もちろんそういう話があってもかまわない)。演出や描写によってロールシャッハのような現実にいたら多分厄介者(&チビで臭い)以外の何者でもない人物に感情移入させることが可能なのだ。おそらく僕も含めてこの映画のファンの多くはナイトオウルではなくロールシャッハに感情移入してるはずである。演じたジャッキー・アール・ヘイリーは見事としか言いようが無い。
「外にでてチンピラの小指を折れば情報は手に入る。コンピューターは不要だ」
「35分前に実行したよ」
オジマンディアス
本名エイドリアン・ヴェイト。通称「世界一賢い男」。アレキサンドロス大王やラムセス2世の後継者を自称し(オジマンディアスはラムセス2世のギリシア名)、卓越した知能と身体能力で活躍した。映画で「ウォッチメン(原作のクライム・バスターズ)」を結成しようとしたのは彼だ。ちなみにヒーローデビューしたての頃にコメディアンとやり合って負けてます。本人はわざと負けたと言っているが・・・
キーン条例の制定を見越して早々にヒーローを引退、企業経営に乗り出し大金持ちとなる。南極でなにやら独自の研究をしているが・・・昔の仲間や仇敵をフィギュアにして儲けているが、本人たちは分け前は渡っていなさそう。
個人的には演じた役者が少し細すぎる気がする。また彼のカリスマ性を上映時間内で表現するには彼だけいわゆるスターを起用しても良かったのではないかなあと思う。原作ではモデルがロバート・レッドフォードだと思うが、今ならさしずめブラッド・ピットか(この話題を「2ちゃんねる」でだしたら総スカンをくらったけどね)。
「玩具部に連絡して、オジマンディアス・シリーズの新キャラはキャンセルだと伝えろ。
理由を聞かれたら、私に敵はいないからだと答えておけ」
最初に原作を読んだとき僕は10代の終わりごろだったが主要人物が皆40歳前後だったので(日本の10代が主人公の漫画を読みなれてる身としては)違和感があったのだが30を越えた今では全く違和感が無く以前よりも物語にのめり込めた。
さて、「ウォッチメン」には当然ヒーローたち以外にも登場人物が存在します。次はそんな人たちの解説を。
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