記録等を基礎に最強横綱、最弱横綱を判断すると私は、
最強横綱 谷風梶之助(2代) - 第4代横綱
最弱横綱 大錦大五郎 - 第28代横綱
だと思う。理由は後述するが、その前によく最強横綱、最弱横綱を議論する場合の一般的な傾向として、多くの人が最強横綱は双葉山以降の戦中・戦後の横綱、最弱横綱は千代の富士が活躍した1980年代以降の横綱ばかりを候補にあげる。
具体的にいうと、
最強横綱 双葉山、大鵬、北の湖、千代の富士、貴乃花、朝青龍
最弱横綱 双羽黒、大乃国、若乃花(3代)
といった横綱ばかりをあげる。双葉山を除けばすべて戦後の横綱である。特に、最弱横綱の候補は1980年代以降の比較的新しい横綱ばかりである。
これはおそらく判断する側の現代人が他にも強い横綱や弱い横綱がいるにもかかわらず、自分たちが他の横綱を知らないために候補にあがっているにすぎない。特に典型的なのは最弱横綱の議論で、過去に双羽黒、大乃国、若乃花(3代)よりも弱く活躍していない横綱がいるにも関わらず、他に弱い横綱を知らないだけで彼らの名前があがっている。
確かに双羽黒、大乃国、若乃花(3代)は横綱として活躍したとはいえない。しかし、もっと活躍せず弱いと思わせる横綱はいる。
例えば、大乃国、若乃花(3代)を最弱横綱にあげる人の多くは、彼ら2人が横綱皆勤負け越しの不名誉記録を作ったことを理由にするだろう。しかし、皆勤負け越しの横綱は15日制定着以前にも、鳳、宮城山、男女ノ川、安藝ノ海らが達成しており、特に宮城山は3回も皆勤負け越しを記録している。横綱皆勤負け越しを理由として最弱横綱というなら大乃国、若乃花(3代)より皆勤負け越しの数が多い宮城山の方が弱いと評価すべきである。
しかし、私は横綱皆勤負け越しはそれほど悪い要素ではないと思う。確かに横綱の皆勤負け越しが不名誉記録であることは否定しないし、これまで負け越した横綱が少なかったのは事実だ。
しかし、皆勤負け越しの横綱が少なかった一番の理由は多くの横綱が負け越ししそうになると休場して皆勤負け越しを回避してきたからである。いわば最高の相撲を提供しなければならない責務を負った横綱が逃げた結果として皆勤負け越しの横綱が少なくなっているに過ぎない。
平成に入って大横綱といわれる貴乃花や朝青龍でも大関以下の力士同様に「成績が悪くても休場は許されません」という条件で相撲をとっていたら、おそらく皆勤負け越しを達成していたただろう。
横綱が逃げずにきちんと戦っていれば、皆勤負け越しを記録した横綱は今よりもずっと多かったに違いない。
双羽黒を最弱横綱という人の多くは、彼が一度も優勝経験がない横綱ということを理由に挙げるだろう。確かに彼は前代未聞の廃業によって横綱の地位を追われ、若くして相撲界を去った。そのため横綱在位は短かった。
しかし、双羽黒は2場所連続で12勝3敗(次点) 14勝1敗(優勝同点)という成績をあげ、大関昇進からわずか4場所のスピード記録で横綱に昇進した。横綱昇進時22歳。横綱昇進年齢22歳といえば、平成に入ってからは貴乃花、朝青龍、白鵬といった活躍した横綱ばかりである。双羽黒の時代は現在よりも横綱昇進の基準が甘かったという感は否めないが、22歳というとても若い横綱昇進年齢を考えれば弱い横綱という感はしない。優勝31回を達成した千代の富士も「双羽黒が廃業せず相撲を続けていたら、自分はこんなに優勝できなかっただろう。」といっていた。双羽黒はそれくらい才能を認められた横綱だったといえる。
それに優勝経験がない横綱という点では上述の大錦大五郎、大木戸森右衛門も同じである。私は弱い横綱としては大錦大五郎、宮城山、武蔵山、男女ノ川といった横綱の方が双羽黒、大乃国、若乃花(3代)より弱いと思う。
特に大錦大五郎が最弱横綱だと思う理由は彼が一度も優勝経験がないということもそうだが、東京相撲の横綱や大関にほとんど勝てなかったからだ。そもそも彼は横綱昇進理由自体が力量とは関係なく、品位抜群という理由で横綱免許を与えられたにすぎない。
現在の大相撲である東京相撲の番付で大錦大五郎の力量を表せば、明らかに大関より格下で、小結や関脇にすら力量がとどいているのか怪しい。参考[1]では「大錦大五郎の実力は三役以下」とすら言っている。
およそ大錦大五郎以外の横綱は大関の中で実力が抜群だったからこそ横綱に推挙された。大錦大五郎は実力が大関にすら達していないのだから、最弱である。それが私が大錦大五郎を最弱横綱とする理由である。
では、最強横綱はというと、記録を純粋に判断すれば谷風と答えるしかない。年2場所制の時代で優勝相当21回、63連勝、生涯の通算勝率94.9%という記録を考えたら全ての横綱の中で谷風がずば抜けて実績があるというしかないからだ。そして、今後もこの記録を超える横綱は決して現れないだろう。現代以降の大相撲で生涯勝率94.9%を実現するのはほとんど不可能だからだ。
多くの人が最強横綱にあげる双葉山、大鵬ですら横綱の通算勝率8割5分程度で、谷風の成績には遠く及ばない。彼らは優勝回数こそ多いがそこそこ負けるし、谷風のように無敵に近い圧倒的な強さ示さなかったといえる。
もっとも、谷風の時代と戦後は相撲の質が違うし、単純比較できないのは否定できないが、記録以外の確かなものがない以上それで判断するしかない。
最強横綱の議論にしろ、上にも書いたが多くの人は戦後の横綱ばかりをあげる。おそらく明治、大正、昭和初期の時代を生きて横綱を見てきた人なら、現代で最強横綱候補にあがる双葉山より常陸山、太刀山といった横綱の方が強いと答えた人も多かっただろう。先にも述べたが双葉山は69連勝、優勝12回、全勝優勝8回といった記録から確かに強いが常陸山、太刀山に比べればそこそこ負け数が多い横綱である。常陸山、太刀山はほとんど負けない横綱で、おそらく彼らの相撲を見ていた人は双葉山以上に圧倒的な強さを目の当たりにしていただろう。
要するに最強横綱、最弱横綱を論じる場合、知らないという理由で自分たちの知っている横綱の範囲で議論するのは不十分であり、きちんと調査すれば双葉山、大鵬より強い横綱はいるし、双羽黒、大乃国より弱い横綱はいるのである。
参考
[1]大錦大五郎の
紹介