赤毛のアン(原名 Anne of Green Gables)の第37章に次の文がある。
アン「髪の毛も今じゃみんな金褐色だっていってくれるわ。もっともジョーシー・パイは別だけど。」
マリラ「ん?」
アン「お葬式の日にね、ジョーシーったら私の髪が前よりもっと赤くなったみたいだっていうの。少なくとも喪服を着ると赤さが目立つんですって。
マリラ、ジョーシーを好きになろうとすることなんかもうやめようと思うの。これまで、そのために涙ぐましいほどの努力をしてきたつもりだけど、どうしてもジョーシーを好きにはなれないわ。」
マリラ「ジョーシーはパイ家の一人だからね。気に障るようなことばかり言うはめになるのさ。
あの手の人間でも社会に役立つことがまるっきりないとは思わないけど、せいぜいアザミの効用といったところだろうね。」
「アザミの効用」とはいったいなんだろう?アザミとは参考[1]のような紫色のトゲのある花である。アザミは花だから、一般的な効用は飾るなどして楽しむことだろう。昆虫にとっては蜜を集める対象でもある。
しかし、この場合の「アザミの効用」とはそのようなものではない。アザミは昔スコットランドに偵察に来た敵兵がアザミのトゲを踏んで悲鳴を上げて捕まったことから戦に勝ち、以来スコットランド救国の花とされている。そのためスコットランドではアザミが国花となった。
アザミは周りが味方ばかりでなく敵もいることを知らせる役目を果したわけだ。赤毛のアンの第37章で出てくる「アザミの効用」とはその意味の効用であり、マリラは「ジョーシー・パイやパイ家の人たちは、周りの人たちに世の中には味方ばかりでなく敵もいるんだということを知らせるくらいの役目は果すだろう。」といっているわけだ。
こんなのスコットランドでのアザミの意味を知らなければわからない。
赤毛のアンを読んだことのない人のために少し解説をすると、アンは自分の赤い髪をとても気にしている。11歳の時にギルバートがアンの赤い髪を「にんじん」といってからかい、彼女の逆鱗にふれ石盤で頭を叩かれたほどだ。そのアンに対して「髪の毛が以前より赤くなった。」というのは、アンを怒らせる発言である。
アンが「ジョーシーを好きになるために、これまで涙ぐましいほどの努力をしてきた。」と言うくらい、アンはジョーシーのことが嫌いである。嫌いな人を無理に好きになろうとするのは涙ぐましいほどの苦痛なんだろう。
嫌いな人をそこまでして好きになろうと長年努力してきたなら、なぜギルバード・ブライスを5年も許さず無視し続けたんだろう。アンはそういう努力をギルバートにこそ向けるべきであった。
参考
[1]アザミの写真