アラゴンのマルケス
満を辞してホンダの2ストローク市販
ロードーレーサーRS250は1984年に
発表された。
ホンダ系250ライダーはそれまでやむ
なくヤマハTZ250に乗っていたが、
待ってましたとRSに乗り換えた。
125クラスでは逆で、ホンダMT125
時代からヤマハTZ125は発売された
りやめたりだったので、ワークス以
外のヤマハ系のライダーたちはホン
ダの125レーサーで戦っていたとい
う現象があった。
ワークスも片山敬済氏などはWGP
においてあまりに4ストホンダが走
らないので、一時ワークスマシンを
降りてスズキのRG500でGPを走っ
ていたりした。2ストのNS500が出
てからようやくレースができるよう
になったのだが、時すでに遅しで、
片山選手は世界グランプリライダー
としてのピークは過ぎていた。
1983年のオランダGPが片山敬済
氏の最高にして最後の走りだった。
RSの話に戻すと、そうした流れが
あった80年代初期を経て中半にさ
しかかる時に250市販レーサーの
RS250が発売された。
ホンダ系の250ライダーは全員ヤマ
ハTZから乗り換えた。
そして、レーシングライダーの手に
行き渡った後、最初の頃の事。
ある時、富士スピードウェイに練習
走行に行った。レーサーのスポーツ
走行だ。
朝一番にオフィシャルから場内放送
があった。
「ホンダRS250のユーザーの方は
充分に走行にはご注意ください。
繰り返します。ホンダRS250のユー
ザーの方は充分に走行に気をつけて
ください」
異常事態を感じた。
特定メーカーの特定車種を個別指摘
してコースオフィシャルが放送をす
るなどというのは、16の時からサー
キットに行っているが私は初めての
経験だったからだ。
「なんだこれ?」と思った。
やがて自分の時間割にコースインし
た。ピット作業で手間取りがあって
7分程時間枠開始からの即インを無駄
にしてからのコースインだった。
すると、富士スピードウェイのコー
ナーというコーナーの外側のいたる
場所に、まだカラーリングしていな
い真っ白い新品のホンダRS250が転
がっていた。
まるで、白いオートバイの墓場のよ
うだった。異様な光景。
レッカー車などは間に合わない。
もうFISCOは累々たる白いホンダ
RS250の墓場と化していた。
時間枠走行が終わり、次の走行割ま
で時間があったので情報を集めた。
すると、新規RSユーザーのライダー
たちは、それまでのTZ250のつも
りでコーナーに入って行ったら、
全員がフロントにいきなり足払いを
食ったようになりすっ転んだ、とい
う。いわゆる本間氏が言う「タタ」
(この表現は大昔からあり、やはり
「フロントがタタっと来たら」と
いう表現をしていた。一種のチャタ
リングにも似た現象だが、サスと
タイヤとフレームに要因があるケー
スが多かった)
はあったのだが、あったらその瞬間
に転んでいるのだ、という。対処は
不能。
かくして、それが事実であり、富士
以前に多分鈴鹿だろうか、他のコー
スでも同現象が発生して転倒車続出
だったから、富士のオフィシャルに
はコース運営関係者通達が回って
ホンダRS250ユーザーに注意を促す
放送をしたのではと推測する。
注意してもどうしようもないんです
けどね。タタの瞬間にフロント足払
いなのだから対処のしようがない。
乗っているのはど素人ではない。
それまでレーサーでずっとMFJの全
日本やMCFAJのレースをやって来た
運転手が乗っている。ど玄人が。
それでもいきなり足払いでは誰も乗
れはしない。
でもホンダ系のライダーはホンダの
車があるならホンダに乗る。
結局、苦労して折り合いをつけて乗
る事をせざるを得なかった。
あの時期、ヤマハTZ250との動体能
力の差は歴然としていた。ホンダの
RSは危険過ぎて乗れたもんじゃなか
ったのだが、なんとか乗りこなせる
ようになったライダーたちは大した
もんだと私は思った。
数年後にはだいぶ改良はされたが、
ホンダのオートバイが一般市販車を
含めて「曲がらない危険な二輪」の
系譜を後年ずっと後まで継承したと
いう事実は確かにある。
このRSが出る前に、ホンダが出して
いたある公道市販車の広告に出てい
たライダーの裏の言を私は関係者から
聞いていた。
「あんなもん乗ったら死ぬよ」
耳を疑ったが、私が実際に他人のそ
の車種を走らせてみて「危ない特性
だなあ」と感じた事をたまたまある
レーシングコンダクターのところで
話している時に聞かされた話だ。
それでもCMにニコニコして出ていい
事しか言わないのは、やはりメーカ
ーの紐付きになるとそうせざるを得
ないのかあ、と斯界の歪みを感じた。
市販車MC16をある時筑波で走らせ
てみた。F3仕様だ。外装のみRSみ
たいにしてあった。
最終でタタ出まくりだった。危険。
それを伝えた。抜本的に大改編しな
いと少なくとも私には乗れない。
注意して、と伝えたが、対処の仕方
などは分からない。
ブレーキ時はいいのだが、リリース
しかけたらタタタと来る。
次に乗った人は最終で飛んだ。本当
に身体も車も宙に飛んでいた。
死ななくてよかった。
泥だらけのMC16と無傷のヤマハを
トランポに積んで男女4人で帰途に
ついた。
本間さんの今回の話から、80年代
のある時期を思い出した。
ホンダのライダーでいきなり足払い
を経験していない人はいないのでは
なかろうか。
その傾向は今でもあるのかなあと
ふと思った。ワークスでさえも。
ワークスマシンは市販レーサー(競技
専用車)とは全くの別物、別次元の
世界なので、ワークスの事は知らな
いのですけどね。
聞きかじったか何かで読んで雑知識
をつけたかの猿が、ワークスライダー
だった本間さんに難癖つけて粘着し
てるのをYouTubeで見ると、なんて
視野の狭いアホかと思うのだけど、
ネット時代は見境無いのがやたらと
表に出て来て粘着していちゃもんを
つける。
身の程を知らない。
心の病気なんだろうなあ。
