妻のスクーターはこれだった。
通勤の山手線の電車から見える
ベスパ屋さんのウインドウに
飾られているのが毎日気になっ
て、そしてその個体を買ったの
だという。ちょっきり100cc。
ところが。
買ったはいいが、クラッチが
重すぎてうまく切れない(笑
結局、何度も乗らずにいた。
私が乗ってみたら、なるほど
重い。整備しても重い。
それまで妻が乗っていたオート
バイはクラッチが軽いので何て
事はないのだが、妻が気に入っ
て買ったセカンドバイクは彼女
には乗りにくかったようだ。
二人乗りで後ろに乗せて「こう
やるんだよ」と言いながら走ら
せたが、本人がクラッチを切り
きれないので仕方ない。
やむなく、暫く私が通勤とチョイ
乗りでそのベスパに乗っていた。
エンジン、足回り等は頗る快調
だった。とても面白い二輪だ。
設計が古いので、走行能力は
国産スクーターのほうが遥かに
上だが、なんとも言えない味が
あった。
転居に伴い、私の二輪、妻の二輪、
そしてベスパと3台を置けない環
境となったので、相談して妻の
ベスパは職場の後輩のバイク乗り
にあげる事にした。
店や人に売ればいくらかの金に
はなったのだろうが、そんなの
はくだらない。
後輩はNS250乗りだったが、丁度
そいつのバイクが「消えて」し
まった直後だった。
バイクが消えるのは都内横浜で
はよくあった。
職場の弁護士は田園調布に住んで
いたが、自宅のフェンス内に駐車
していた89NSR-SPロスマンズが
買ってほどなく盗まれた。セキュリ
ティもカットしてクレーンで盗ん
だのだろう。
私も今までオートバイは3台丸ごと
盗まれた経験がある。
ノーマルチャンバーやスペシャル
チャンバーも何度も盗まれた。
首都圏は非常に車両盗難が多い。
後輩は「本当にいいんですか?」
と何度も訊いたが、いいのよ~、
乗ってちょ、と譲渡証とキーと
ベスパを渡した。
その後、喜んで乗っていてくれた
ようで、よかったよかった。
ベスパ君もそいつも笑顔な感じ。
置ける環境があるなら、死ぬまでに
ベスパはまた持ちたい。
それも、最新型ではなく、オールド
ライクの2ストのベスパの車両を。
そして二人で走りたい。
だが、我々にはその残された時間は
あまりない。
20代の頃からはもう40年も過ぎて
いるからだ。
だが、いつか故郷に出会う日を
きっと信じてドアを出る。