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渓流詩人の徒然日記

知恵の浅い僕らは僕らの所有でないところの時の中を迷う(パンセ) 渓流詩人の徒然日記 ~since May, 2003~

おばちゃん 〜新宿「古茶」〜

2022年06月29日 | open
 
 
おばちゃん。
新宿の飲み屋「古茶(こちゃ)」
ママはそう呼ばれていた。
戦後、北海道から東京に出て
来た。
苦労して店を持った。
飲み屋だが、飯を食わせる店。
いわば「深夜食堂」のような
店だ。
ドラマ『深夜食堂』の「ビー
ル3
本まで」という貼り紙は、
あれは
古茶をモデルにしたも
のだ。
おばちゃんは、いつしか、戦
後の
新宿にあって、新宿の顔
のような
本当の意味での新
宿の母となった。
新宿を愛した人々は皆彼女を
「おば
ちゃん」と呼んで愛し
た。
 
古茶には職場の同僚に連れて
行か
れた。
ハマった。
毎晩古茶でメシを食うように
なっ
た。おばちゃんの卵焼き
は絶品だ
った。米は鍋で炊く。
おこげもで
きるが最高に美味
かった。
いつしか私は「いつでも行け
ばそこ
にいる」という第一級
常連になって
いた。
一度、たわけた女が古茶につ
いて
店内で舐めた事を言っ
ので、嗜
めたら連れの男が
文句
言うのでどやしつけた。
その語気が荒すぎるとの事で
一度
私は出禁になった。
暫くすると出禁解除で、また
いつも
のように一番の常連と
なって、古茶で
私は飯を食っ
て飲んでいた。
おばちゃんには「あなた、早
く奥様
をもらいなさい」と言
われた。
唐十郎さんも馴染みでよく来
ていた。
 
これはネット上で10年以上前
に偶然みつけた古茶
紹介画
像だ。
銀色のスーツを着て、いつも
のよ
うにシャツの袖のボタン
を外して
いる私が写っている。
これは1990年だ。私が座る席
はいつもここ。客がいない時
間でもここに座っていた。
毎日のように(というかほぼ毎
日)
いつもいるのだから、いつ
誰が撮影し
ても私は写った事
だろう。
カウンター7席だけの狭い店だ。

 
これは新宿「古茶」のおばち
ゃん
直伝のたまご焼き。
かみさんが直におばちゃんに
習っ
た。
 
めちゃくちゃ美味い。
これは古茶のおばちゃんの
卵焼き
だ。直伝だけある。
 
冒頭のおばちゃんの写真は、
娘さん
が私にくれたものだ。
「この写真は貴方が持って
いて」
と。
おばちゃんが亡くなった事
を知ら
ず、岡山に転勤後に
会議で東京に
出た時、新宿
の古茶に寄ったら店名が変
っていて、そこには娘さん
がいた。
おばちゃんが他界した事を
その時
初めて知った。
残念ながら、古茶の店は飯
を食わ
せる「深夜食堂」に
そっくりの古茶
ではなく、
スナックになっていた。
それでも、娘さんはおばち
ゃんの
写真を一葉私にくれ
た。
 
古茶のおばちゃんが作って
くれた
卵焼きは、今でも生
きている。
それを私は懐かしみながら
今も
新宿から遠く離れた地
で食べてい
る。


  

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