渓流詩人の徒然日記

知恵の浅い僕らは僕らの所有でないところの時の中を迷う(パンセ) 渓流詩人の徒然日記 ~since May, 2003~

必要は発明の母

2022年03月01日 | open


1980年代。
試合中にブレイクでシャフトを折っ
た。
たまたま、別なキューを持って
いたので試合は続行できた。
折れたシャフトはリングだけを移植
して淡路亭で新シャフトを作った。
(このシャフトが殊の外良かった)

まだハイテクシャフトはおろか、
世の中にはブレイク専用キューなど
という物が存在しなかった頃だ。
だが、プロたちはブレイクにより
キューが音鳴りがするようになっ
たり、先角やシャフトにトラブル
が出る事を知っていた為か、古い
プレーキューをブレイク用に使う
ようにだんだん移行していた。
三浦陽子さんなどは以前使って
いたショーンをブレイクキューに
したりしていた。
ブレイク専用キューが登場するの
その頃から約20年後だ。

私はブレイクでキューを壊した事
から一計を案じた。
やはりプロたちと同じように古い
キュー(賞品で貰ったキュー)をブレ
イク専用にした。
だが、ある時、先角の先端部に
クラックが入った。
思い切ってピラニアソーで切断し
て、締めたタップを取り付けた。
ブレイク用なのだが、試しにプレー
で撞いてみた。
衝撃的なある事に気づいた。
ほんの8ミリだけ先角を短くした
だけで、トビが大幅に減ったのだ。
驚いた。

ある時、国内トッププロのキューを
まじまじと間近で見る機会があった。
なんと、先角は全て短くカットして
あった。とうの昔に気づいていたの
だろう。
これも、まだハイテクシャフトと
いう物が世に登場する遥かン十年
以前だ。

思うに、メウチなどがベナンベナン
のヤジロベエのようなキュー先の
動きをして玉が一つも真っ直ぐに
進まなかったのは、3センチオー
バーという長い重い先角を使って
いたからではなかろうか。
他の象牙先角を使っているキュー
もトビが多く出ていた。

私は思った。
トビはキュー先の重量による振動
収束性の悪さに起因がある、と。
そして、プレーキューではなく、
このトビ減少の効果は短い先角に
よるブレイク専用キューに使える、
と。
実行した。
そして、さらに高反発を得る為に
思いつきで、締めタップにシアノ
を含浸させてカチカチにさせた。
そのブレイク用のシャフトをブレ
イクに使ったらとても快調だった。
80年代からそれをずっと使って
いた。

今世紀開始の3年前、仕事の出張
で四国に行った。キューを持って。
土日前なので、休日には地方の現
地で撞こうと思っていた。
街道沿いの玉屋を見つけて撞いて
いたら、撞ける人が寄って来て、
相撞きをする事になった。
そのゲーム中に、私が立てかけて
いた昔のブレイク専用キューを見て、
四国のA級の人が二人で話してい
る。
標準語にすると、「なんだこれ?
何か先が短いぞ」「ほんとだ。
変わってるなあ。なんだろ」と。
「なぜ短いんですか?」と訊かれ
た。
「あー。割れたから切ったんです」
とだけ答えた。これは間違っては
いないし嘘でもない。

まだ世の中にはハイテクシャフト
もプール用の短先角も無い時代だ。
しかし、プールでも東京のプロは
トビ減らしの為に80年代には既に
短先角にしていたし、そもそも
キャロムは全部先角は極度に短い。
プールで従来長めの重い先角が
作られたのは、独自のシャフト
のテーパーと動態現象をプール用
の質量も低い小さなボールに適正
化させる為だ。スヌーカーとは
別な理論で。
キャロムも短先角であるのには
意味がある。

20世紀末期にはシャフト材の良材
原木が枯渇しかけて来た。
あるメーカーが、無垢のソリッド
材ではなく、張り合わせベニア
構造の新機軸のシャフトを作った。
ハイテクシャフト第1号だった。
ハイテクとは呼ばない。314と
いう円周率から取った名称で自
称した。
これは当初ブレイク用に作られた。
だが。
ブレイク用に作られたそのシャフト
は極端にトビが少ない事が知られる
ようになった。
すぐにプレー用の同構造シャフト
も併売された。
爆発的なヒットとなった。
多くの人たちがトビの少ない見越し
を多く取らなくてもよい新構造の
シャフトを求めた。
めざとい企業は、その現象を見逃
さず、全世界のマスプロメーカー
が新構造でトビを軽減させる複合
構造の新シャフトを開発した。
そして製品化した物をウルトラ高額
で販売した。
だが、それらは空前絶後の爆発的
ヒットとなった。

世の中の多くの人たちは、「ハイ
テク」という名称イメージと販売
戦略に丸乗りになり、ハイテク
シャフト=良い物、という固定概念
に固まった。
そして、ソリッド良材の無垢のシ
ャフトをあたかも時代遅れの良く
ない物かと見下す傾向が日本限定
で大蔓延した。
それらの傾向を冷ややかに見てい
たのは、アメリカンカスタムキュー
の質性の良さを知悉するごく一部
の人たちだけだった。
私も、試しにハイテクシャフトを
自分で購入して撞いてみた。
あー、とすぐ判った。
手玉直進性のみに振った性能に
特化し、縦には割れるが、それ
はキュー切れからではなく、先の
振幅収束速度からだ、と。
そして、このハイテクシャフトと
いう物は、幅広いテクニックを
カバーするのではなく、撞き方を
限定する狭いビリヤードにさせる
物だ、と確信した。
それに、手玉が直進しようとも、
イングリッシュを入れたら歯車
作用で先玉には回転がかかって
薄くなったり厚くなったりして
軌道がずれる。結局、別なタイプ
の見越しが必要になる。
それに即気づいた。
世の中はハイテクシャフト一色で、
私のようにカスタムキューのソリ
ッドシャフトを使い続ける人間は
ごく一部に変わっていた。
そして多くの人たちはソリッド
シャフトに対して「ノーマルシャ
フト」という新規登場の呼称を
使った。軽く侮蔑感を伴って。
私は、そいつぁお門違いだね、と
思っていた。
ソリッド良材シャフトをノーマルと
か言ってるなら、ハイテクシャフト
という物はその論理で行くと「ア
ブノーマルシャフト」になるだろ
うに、と。
現在「ノーマルシャフト」と呼称
されているソリッドシャフトは、
概念識別で言うならば、論理的に
は「スタンダードシャフト」と
呼ぶのが正しい。
ノーマルの対置はアブノーマルで
あるからだ。
そして、ハイテクの対置としては
ローテクがあるが、ソリッドシャ
フトをローテクだと思うとしたら、
それはビリヤードもキューもなんた
るかを知らない暗愚だ。
ソリッド無垢のシャフトは「スタ
ンダード」と呼称するのが厳密に
は整合性を厳然と有している。

今。
短先角が流行り始めた(笑
そして、猫も杓子も飛びついてる。

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