渓流詩人の徒然日記

知恵の浅い僕らは僕らの所有でないところの時の中を迷う(パンセ) 渓流詩人の徒然日記 ~since May, 2003~

銘木の楽しさ

2022年08月18日 | open
 

ローズウッドとマザーオブパール
=白蝶貝(シロチョウガイ)のイン
レイ。

チューリップウッドと本黒檀に
本象牙のインレイ。


ブラジリアン・ローズウッド=
ハカランダ。


ハカランダとメープル(北米サトウ
カエデ)


メープルと本黒檀に白蝶貝の
インレイ。


メープル。
メープルは北米産サトウカエデだが、
模様により呼称が変わる。
これはバーズアイ、キルティング、
カーリーが混ざる珍しい杢目。


銘木の木工品は観ているだけでも
目の保養になる。
キューを眺めているだけで酒が
進む事もある。
特に常温か冷たい酒がいい。
日本酒の銘酒の冷酒かウイスキー
のロックあたりが鑑賞飲みには
合う。
ウイスキーは、意外な事に、バー
ボンよりもスコッチが合う。
普段は私はストレートがメインだ
が、この時は冷たい酒が合う。
 
銘木のうち、トーンウッドは中南
米や東南アジア、アフリカ等に多
く生息する。
残念ながら、日本産の銘木には
トーンウッドは多くない。
あっても、肌色や杢目が家具調度
品や木製競技具には向かない。
カシやビワが木刀に、タモが道具
の柄に適する程度だ。あとは柔ら
かい木が日本には多い。
だがスギやマツやヒノキやキリで
は硬質弾力性を求められる道具
材料にはならない。
ビリヤードキューの場合、銘木は
杢目の美しさから使われるの
では
なく、頑丈さや反発特性
から選ば
れて使われる。
同系統の性質の材ならば、色合い
や杢目により種類が選択されてい
く。
 
そして、木材は、完成後にニスを
塗られる事で、木部の保護と同時
に光を反射させて杢目を浮き立た
せる。ニスには透明な物からやや
色がついた物までさまざまある。
ニスにも、東南アジアが原産の
虫から作ったシュラック(近世〜
現代の高級弦楽器等で使用)、
ラッカー、アクリル、ウレタン等
がある。各相性もあるので注意。
日本で発達した外塗り保護剤には
ウルシがある。漆器はかなり優秀
だが、前後左右に動く棒状の道具
の保護には適していない。ウルシ
自体が固まると固形物となって
木部を硬直させるからだ。
ギター等の弦楽器、特に撥弦楽器
には極薄のラッカー塗りが優れて
いる。
 
ただラッカーには塗膜に目に見
えない微細な穴が空いているた
め木部の呼吸を妨げず、木の特
性を最大限に引き出せるのだが、
完全保護のみの観点からはウレ
タンのほうが勝る。
これはウルシと同方向の目的を
つが、柔軟性があるために、
さほど木の特性は妨げない。
そのため、廉価ラインの弦楽器
ビリヤードキューではウレ
タン
使われて来た。
 
ビリヤードキューの最近のアメリ
カンビルダーのクリアコートの
趨勢は、CA(シアノアクリレート)
を塗る事が流行している。
これはバラブシュカやTADたちの
製作者とは真逆の発想で、キュー
自体を固めてしまう手法だ。
シアノは瞬間接着剤でもある。
ガラスコートなどもこれに近い
狙いの方向性であり、硬質な外皮
で覆って固めてしまう。最近では
自動車の塗装コートなどでも流行
しているようだ。
理由は、超硬質クリアにより、
と同時に飛び抜けた輝き
を得る
ためだ。
 
しかし、これらをしなりや踏ん
張りや弾き返しの動きを必要と
するビリヤードのキューに使う
のは、果たしてどうだろう。
1982年、ロバート・ランデは
その後のブランド「ショーン」
において硬質クリアコートで
固める手法を用いた。
ショーンキューが軒並み甲高い
音を発するのは、その特殊コー
ティングの影響もあるかと思われ
る。
 
ただ、硬質クリアが高音の要因と
だけはできない。
それは、あくまでニスの薄塗り
こだわり続けたTADなどで
打球音
がスキューン音がする
物ばかりで
ある事の説明が
つかな
いからだ。
音の要素は、あくまでも木材の
質こそが最大要素を構成すると
思われる。
 
銘木は面白い。
私は自分のキューを自主リペア
する際には、ウレタンではなく、
別なクリアにこだわっている。
ある個体で、ウレタンを完璧に
綺麗に塗ってリペアしたが、
見た目は新品なのに、全く動き
がそのキュー本来の動きではな
く、撞球性能が著しく低下した
からだ。撞球性能10のうち6位
になってしまった。
直ぐに剥がした。
すると、完全復活。10/10だ。
ただし、剥がしっぱなしでは
木部
の保護ができないので、
次の塗りは本職に極薄塗り
をし
て貰ってみた。
撞球性能は10のうち9まで戻った。
木との付き合いは楽しくも
難しい。

 
半世紀以上前の時代に作られた
このキューの自主リペアでは、
私はあえてアクリルを使用
した。
ボロボロで投げ捨てられたよう
な状態からここまで戻した。
極めて良質なメイプル(カーリー)
とローズウッド(ハギからスリー
ブまで一本木)で作られている。
ハンドル部は、糸巻きで隠れるの
が勿体ないほどの良材ローズウッ
ドが下部スリーブまで突き通って
いる。私が持っているどのキュー
よりも良質のローズ材をふんだん
に使用している。


撞球性能はかなり良い。
曲がりはシャフトもバットも
ゼロである。
恐るべし、昔の職人の仕事。






この記事についてブログを書く
« 前の記事へ | トップ | 解明できていない不思議な事 »