風 生ギターライブ(北国列車)
私は人と人との出会いについ
て不思議な体験が異様に多い。
不思議な出会いというか、何
か目に見えない力で操られて
いるかのような。
たまたま知り合った人が、実
は以前から深い関係にあった
事が出会ってしばらく後に発
覚する、というパターンだ。
30数例ある。異様だ。
それとは別に、不思議な再会
というのも時々ある。
高校の時の文化祭のステージ
で、フォークデュオ風(かぜ)の
この「北国列車」を歌った。
その日は体育館ではなく教室
ステージだった。
その時はたまたま自分の番で
はなく飛び入りだったので自
分のギターは持っていない。
すると、遊び仲間の同級生の
友人が「俺のを使え」と立て
かけてあった自分のマーティン
D-35を貸してくれた。クラス
のギターの奴と音だけ合わせ
て歌い始めた。
すると、教室は満員だったが、
ステージ演台の真ん前に女子校
生二人組がいる。握手できる程
の距離に。
歌う前、そのうちの一人を「ど
こかで見た事ある子だなぁ」と
思った。
歌っていたら、その子が目に涙
を浮かべて食い入るように私を
見る。
そこで歌詞が「君を忘れる為
長い旅に出て 旅の終わりに
この街を選んだ」のところに
来た。
その時、歌いながらだが「あ!」
となった。
「君、どうしてここにいるの?!」
と思ったからだ。
小5の3学期、横浜の小学校から
埼玉県に転校する時、クラスの
お別れ会で泣きじゃくっていた
子だった。名前も勿論フルネー
ムで覚えている。かわいい子だ
った。
高校生になっても顔が変わって
いない。
遠い時が過ぎたように感じた
が、たった5年程しか経って
いない。
どうして横浜の子が文京区の
ここに?とは思ったが、私に
しても横浜の奴がここにいる
訳だし、不思議はない。
思わぬところで偶然の小学校
時代のクラスの子との再会だ。
しかも、私の高校は男子校だが、
学園には私が通う普通科男子校、
同じ敷地内同校舎内に商業高校
の男女共学校、少し離れた敷地
に女子高の3校があり、目の前
の小5の時の同級生の子はうち
の同じ学園の女子高校生だった
のだ。
そんな事ってあるの?と思った
が、現実にあったのだから黙る
ほかない。
歌い終わって、しばらく見つめ
合った。
その時、その子は涙を流し出し
て、隣りの子に「どうしたの?
ねえ、どうしたの?」と言われ
ていた。
私はシャイではない性格だった
が、その時には声を掛けられな
かった。2曲だけ歌ってステージ
を下りた。
2曲目はやはり風の「あいつ」だ
った。
その子は本格的に泣き始めた。
参った。
私の男仲間も「なんだ?なんだ?」
というようなざわつきがあった。
そして、教室を出たその後も、
その子を女子高まで尋ねて行っ
て話しかけたり連絡を取る事は
しなかった。
女子高には同級生で私と生年月
日が同じとても気の合う子がい
たが、その子を通して探しても
らう事もしなかった(その気の
合う子は、そのうち有名なアイ
スクリームのCMに出演し、タ
レントとなってあまり高校に
来なくなった)。
自分から連絡をあえて取ろうと
しなかったのはなぜだかは自分
でも分からない。
横浜時代はとても仲の良かった
子だった。女子では当時珍しく
理科ができた子。私は学級委員
だった。私が小学4年の時に書
いた脚本が全校学芸会の演目に
採用された年の学年のクラスの
子だった。私のホンは反戦テー
マのタイムスリップ物だった。
後年、今井雅之さんの「ザ・ウ
インズ・オブ・ゴッド」が非常
によく似たストーリーだった。
ただ、私の書いた物語のラスト
は、核戦争で白い幕が下りて世
界が終焉を迎えるシーンで終わ
った。
その5年ぶりの再会のその子とは
連絡は取らずとも、同じ学園の
隣り同士の男子校、女子高にいる
というだけで、不思議な安堵感
に包まれたのを今でも昨日のよ
うによく覚えている。
遠くに転校するので二度と会う
事は無いかもとは思っていたが、
今偶然にも同じ空の下の近い所
にいるのだ、と。
身近に感じて、あえて連絡を
取る事はしなかったのだろう。
手を延ばせばそこにいるよう
な感じがして。
風の「北国列車」にはそんな
10代の思い出がある。
私がその時演った演奏は、こ
の動画?の風のラジオスタジオ
ライブバージョンのフル完コピ
だった。
リードギターは私が弾いた。
D-35がまたスリーピースバック
のメロウな音を優しく響かせて
鳴いてくれた。弦は伊勢正三
さんと同じ神保町カワセの弦だ。
友人も私もアコースティック
ギターにはカワセを使っていた。
学校帰りによく買いに行った。
思わぬ所で思わぬ偶然の再会。
嘘みたいな現実ってあるんだな、
と思ったミドルティーンの秋だ
った。
その頃。鎌倉鶴岡八幡宮参道にて。
同日。北鎌倉(コートが私)。
髪はこの日は洗いっぱで下して
いた。髪を下すと風の大久保君
に似てるとかよく言われていた。
あいつ