・以下「空間と言うものについての考察」となります。
そうしてアインシュタインの特殊相対論においては「空間というもの」は直接的には扱われてはいないのです。(注1)
というのも「空間の代わりに慣性系」であり「その慣性系の具体的な姿は剛体でできた物差しと時計」なのであります。
さて「解読・運動物体の電気力学について(1905年)」の「その7」から『“静止している”空間』を引用します。
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6,§3. 静止系から、これに対して一様な並進運動をしている座標系への座標および時間の変換理論 : https://archive.md/hjDby#selection-3509.0-3509.8 :
あるいは「ローレンツ変換の導出」
ちなみに静止系はK系とかかれ運動系はk系と書かれています。
で、わかりにくいので「運動系のk系」を赤色表示とし「静止系のK系」を青色表示します。
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6-1:『“静止している”空間の中に二つの座標系があるとしよう。ここで座標系とは、どちらも、それぞれ一点から突き出した、互いに直交する三本の剛体製の棒からできていると考える。(注5)
X 軸は一致しているとする。また両系の Y 軸、並びに Z 軸は、それぞれ相手の対応する軸に平行とする。それぞれの系には、一個の剛体の物差しと多数の時計が備え付けてあるとする。
両系の物差し、及びすべての時計はそれぞれ、厳密に同じ性能のものとする。
さて両系のうちの一方の座標系(k)の原点が、他の静止している系(K)の X 軸の正の向き(x 座標の増加する方向)に、K に対して一定の速さ v をもって走っているとする。k系の座標軸や、それに設置された物差し、及び時計も、同じように速さ v で走っている。
静止系 K の任意の時刻 t には、運動系の座標軸のある決まった位置が対応する。
その際、対称性を根拠に次のことを仮定してよい。すなわち、いかなる時刻 t(”t”は常に“静止系の時間”を表すものとする)においても、運動系 k の座標軸が常に、静止系 K の対応する座標軸に、それぞれ平行となるように、運動系の運動を特定することができるということである。
・・・
注5:アインシュタインは『“静止している”空間』と言っています。
さてこれは一体何のことでしょうか?
アインシュタインは定義を与えていませんが、これはまことに「興味深い空間」=「興味深い存在」であります。』
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さて皆さん『“静止している”空間』とは一体なんでしょうか?
なぜアインシュタインは単に「空間」とは言わずに『“静止している”空間』と言ったのでしょうか?
「静止」と対になるコトバは相対論においては「運動」です。
さてそうであればアインシュタインのアタマの中では『“運動している”空間』という存在がある様に見えます。
つまり空間には『“静止している”空間』と『“運動している”空間』の2種類がある、そう思っているようですね、アインシュタインは。
それで「静止系については物差しが慣性系を示していて、その物差しの上には”私が立つ事が出来る”のでそれを静止系と定義した」のでした。
しかしながらどう考えても「空間の上には」あるいは「中には」”私が立つ事が出来る”とは思えません。
なんとなれば「私が立つべき足場がないから」です。
そうすると”私”は空間の中にぷかぷかと浮かんでいる以外に方法はありません。
さあそうなると「”私”が空間の中にぷかぷかと浮かんでいる」そういう空間を『“静止している”空間』と定義するのでしょうか?
いやいや、その様な定義ではダメでしょう。
「ぷかぷかと浮かんでいる”私”」はあっちにいったりこっちに来たりで少しも安定していないからです。
さてそうであれば「静止系を定義した様には『“静止している”空間』は定義できない」という事になります。
これは逆に言いますと「静止系」と『“静止している”空間』はリンクできない、結び付ける事ができないのです。
ところでアインシュタインは「運動している汽車の例」を用いて相対性原理を説明しました。
この時その列車のなかの窓の無い車両の中に置かれた実験室がある空間は『“運動している”空間』だったのでしょうか?
アインシュタインはそのように考えていたフシがあります。
さてそれでこれも「その7」から序文の部分の引用ですが「絶対静止の否定」を取り上げます。
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論文の構成についてのここまでの考察を原典から引用してまとめておきます。: https://archive.md/hjDby#selection-2127.0-2131.8 :
ただし序文の要約の部分はチャットGPTにお任せ。
1、序文の要約 by チャットGPTo
『1、現象の説明の違い
マックスウェルの電気力学では、磁石と導体の相対運動によって発生する現象(導体内の電流)を説明する際に、磁石が動いている場合と導体が動いている場合で説明が異なる。しかし、相対運動が同じであれば、結果(発生する電流)は同一である。
2、絶対静止の否定
力学や電気力学において、「絶対静止」という概念に対応する現象は存在しないことが、多くの実験や現象から示唆される。
・・・』
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この絶対静止という表現はもちろんニュートンの『絶対空間のこと』をいっていますね。
ういきによれば: https://archive.md/iDzli :
『” 絶対空間とは、外部と一切かかわりなく、本質として不変不動を保つものである。相対空間とは絶対空間の中を動く一つの座標軸もしくは物差しである。われわれの知覚は諸物体に対する位置として相対空間を作り上げる。そして図々しくもそれを不動の空間とみなすのである。 ... 絶対運動とはある絶対座標から他への物体の移動、相対運動とはある相対座標から他への移動である。”
この考え方が意味しているのは、絶対空間と絶対時間は物理的な事象に規定されるものではなく、物理現象が起きる舞台の背景幕やセットだということである。したがって、あらゆる物体には絶対空間を基準とするただ一つの絶対的な運動状態が与えられる。物体は絶対静止状態にあるか、もしくはある絶対速度で運動しているかのどちらかである。』
さてそれで「空間が運動するのか、それとも止まっているのか?」という問題は興味深いものです。
特殊相対論はそれについては答えていない様です。
とはいえアインシュタインは「絶対空間は認めない立場」でしたから「絶対静止している空間はない」となります。
さてそうなりますと冒頭で紹介した『“静止している”空間』とは一体何?という事になるのです。
ここでスタンスを少し上にあげてこの問題を俯瞰して見ます。
§ レベル1・この宇宙の空間は3次元である。:幾何学的な構造
・これは数学的な定義であってこの空間の中を満たしているものには何も言及していません。
・つまり「からっぽの空間」なのです。
・しかしながら超弦理論は「空間は10次元だ」と言います。(7つの空間次元はコンパクト化され残り3つのみを我々が認識している。)
・このレベルにニュートンの絶対空間はある様にみえます。
・アインシュタインの空間に対する認識もこのレベルであった様に見えます。
§ レベル2・からっぽの3次元空間を満たすもの:物理現象をになう実質的なもの
・かつてはエーテルと言われていたもの
・ローレンツやポアンカレ、あるいはそれ以外の19世紀末~20世紀初頭の物理学者が「悪戦苦闘していたテーマ」
・今は「真空」と呼ばれているもの
・そうして「真空」と言うのは「相当に物質的なものである」ということ(注2)
・量子力学はこのレベルを扱っている、あるいは「ここが量子力学の舞台」です
§ レベル3・観測可能な物理現象が起きている現象レベル:慣性系あるいは座標系あるいは静止系、運動系
・このレベルで初めて物質が登場する。(CMBが登場するのもこのレベル)
・それは又3本の直交する物さしと時計で出来上がった観測系のこと
・そうして剛体の物差しも時計もフェルミオン:つまり「物質」でできている
・特殊相対論はこのレベルで物理現象を記述している
・さてそうであればこそ「ニュートンの絶対空間」も「エーテル=真空」も特殊相対論には不要であったのです。(注3)
・ちなみにニュートンはこのレベルを「相対空間」と呼んだ
『相対空間とは絶対空間の中を動く一つの座標軸もしくは物差しである。われわれの知覚は諸物体に対する位置として相対空間を作り上げる。そして図々しくもそれを不動の空間とみなすのである。』by ニュートン
注1:空間について語ったのは「一般相対論」ですね。
注2:「アインシュタインの思考をたどる」: https://www.bun.kyoto-u.ac.jp/archive/jp/projects/projects_completed/hmn/pasta/newsletter04_sugano.pdf :より以下引用。
『13・真空の物質性
特殊相対性理論は真空のエーテルを追放し、空の空間を電磁波が伝わる「物理的場」としたとよく言われる。
しかし、空の空間がどうして物理的場となりうるのか、その疑問に対する答えはなかった。一般相対性理論では、真空、すなわち物理的空間は「場」であり、電磁場や重力場の担い手として、単なる空虚な空間ではない。
空間はその歪みによってエネルギー・運動量を有する存在であるから、物質的存在である。
さらに、場の量子論では、真空の物質性は一層強くなる。特殊相対性理論は真空からエーテルを追放して空にしたが、量子論と結合して真空を粒子・反粒子対で埋め尽くし、真空に物質性を与えた。このような真空は、電磁波を伝える物理的場となりうるだろう。
また、相互作用の統一理論では、真空をヒグス場の縮退した空間 真空の相転移 とした。このように、相対性理論は、真空概念にも革命的変化をもたらした。真空概念の発展史は、物理学理論の発展史でもある。』
注3:「使わなくて物理現象を説明できた」ので「ニュートンの絶対空間」も「エーテル=真空」も存在しない、という「通説の主張は誤り」である、というのが「当方の見立て」です。
追記:「真空」と言うもの
通常は空気がない空間を言います。
しかしながらここでいう「真空」とは「空気があろうがなかろうがそんな事には関係がない」「空間が持っている性質の事」ですね。
そうであれば「酸素原子の原子核と電子の間の空間」は真空なのです。
あるいは「原子核そのもののなか」でさえ「ほとんどが真空」でしょう。
その真空の中をクォークが動き回って原子核をつくっているのです。
さあそうであれば「真空にとっては物質などはスカスカ」なのですよ。
さてそうなりますと「ロケットの中の空間を満たしている真空」ははたしてロケットと一緒の速度で宇宙を進むのでしょうか?
つまりは「19世紀末~20世紀初頭の物理学者が『エーテルははたして物質の運動と一緒にうごくのか?』という事を問題にした、その回答は実はまだ出てはいない」のです。
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