一澤帆布製のバッグを使っていることは以前にも書いたが、開け閉めにベルトを二本使っているオールドスタイルなバッグのため、頻繁な開閉がさすがに面倒くさくなってきた。そろそろ普通のビジネスバッグに切り替えようかなーと思っていた矢先の昨夜、マンションのエレベーターに乗り合わせた女性に声をかけられた。
「あ、お揃いのバッグですね」
振り返ると僕と同い年くらいの女性。手には最寄りの99円ショップのビニール袋と一澤帆布製のタグが付いた山吹色のトートバッグ。
思わず声をかけてしまってから恥ずかしさが追いついてきたのか、はにかんだ笑顔を浮かべている、その表情が可愛い。短めの髪と大きな瞳が印象的な美人さんだ。
「あ、ほんとですね」
と言ってから、年甲斐も無くその表情にちょっとどぎまぎ。「えー、でもこれ買うの大変ですよね、平日昼間しかお店が開いてないし、京都の本店しか売ってないし」。そんなこと言ってどうする俺。
「ほんとですね」とにっこりする彼女。「わたし、京都の出身なんです」
「あ、そうなんですか」
言葉を継ごうとさらに口を開けた時エレベーターが上昇をやめ扉が開いた。8階。
「いきなり声かけちゃってすみません」
と言いながらもう一度にこりとして、彼女はエレベーターを降りていった。
ぽわん。
何よこのどきどきは。
多分ぼろぼろになるまで今のバッグを使い続けると思う。
男とはそういう生き物です。