見もの・読みもの日記

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民事警察の人びと/中華ドラマ『警察栄誉』

2024-05-06 21:58:08 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『警察栄誉』全38集(愛奇藝他、2022年)

 中国の視聴者レビューサイト「豆瓣」で、2022年ドラマの最高得点を獲得した作品だが、なんとなく自分の好みでないような気がして手を出さずにいた。今年4月、『甘くないボクらの日常~警察栄誉~』のタイトルで日本向けのDVD-BOXが発売されたが、ラブコメ路線を想像させる宣伝ビジュアルに対して、いや、そういうドラマじゃないし、という不満のコメントをSNSで見かけた。それで、逆に興味が湧いて、視聴を始めたのである。

 舞台は架空の都市・平陵市(ロケ地は青島)、ほどほどに発展した地方の中級都市の設定である。八里河派出所に4人の新人警察官が実習生として配属された(日本でいう派出所より規模が大きく、食堂もあり、おそらく20~30人が勤務している)。王守一所長は、警察の伝統に従い、4人の新人の師父を定める。北京大学の修士を卒業した秀才の楊樹には、頭脳より武闘派の曹健軍。農村育ちの趙継偉には、地域コミュニティの御用聞き担当・張志傑。殉職した警官を父親に持つ夏潔(女性)には、かつて夏潔の父親を師父としていた程浩。何かと目端の利く李大為(張若昀)には、出世と無縁の老警察・陳新城(寧理)。

 新人たちは、人情の機微が分からず、四角四面に対応して住民の不興を買ったり、逆に住民の個人生活に深入りし過ぎたり、功名心に駆られて危険を犯したり、はじめは失敗の連続。そのたびに所長は、上司の命令に必ず従い、規律ある行動を取るのが警察の本分であることを繰り返し言明する。夏潔の母親は、夫の殉職を苦い思い出として、娘が危険な現場に出ることを恐れており、師父の程浩も王所長も、夏潔の扱いに慎重にならざるを得ない。夏潔自身はそれが不満。李大為も母親と二人暮らしで、自由人の父親は、李大為が幼い頃に家出していたが、なぜかその父親が戻ってくる。夏潔と李大為は、仕事だけでなく、家庭(親子関係)の悩みにも直面することになる。

 こうして若者の悩みと成長を描いて最終話まで行くのかと思ったら、全然違った。新人たちは、比較的早い段階で警察の一員らしい行動を身につける(親子関係の解決はもう少し先)。そこから、むしろ師父たちの「仕事と家庭」に焦点が移ってゆく。李大為の師父・陳新城は単身生活。妻は一人娘の佳佳を連れて離婚し、資産家と再婚していた。しかし佳佳が義理の父親から性的ハラスメントを受けていることが分かり、陳新城は佳佳を引き取って、父娘水入らずの生活を始める。この過程では、年齢的に佳佳に近い李大為が、悩みの多い師父にアドバイスする立場になっていて、愉快だった。

 楊樹の師父・曹健軍と妻・周慧の家庭生活は円満だったが、周慧の母親は、二人の娘のうち、稼ぎのよい妹婿を贔屓にしていた。妹婿が買春容疑で摘発されても、それを揉み消す力のない曹健軍を軽蔑するばかり。妻と自分の面子を立てるため、なんとか仕事上で大きな功績を上げ、栄誉を得ようとする曹健軍。だが、酒席の後、レストランの駐車場で車を移動させようとして接触事故を起こしてしまう。飲酒運転の罪が確定し、警察は免職に。派出所の同僚たちは、寛大な措置を願い出るが、王所長は、警察は法を執行する立場であるからこそ、原則を曲げてはならないと説く。そして曹健軍には、過去を忘れて生きろと諭し、民間の警備員の職を紹介する。しかし警察の日々を忘れることができない曹健軍。

 【ネタバレ】その頃、八里河派出所では、陳新城と李大為がずっと追ってきた連続女性強姦殺人犯の証拠が整い、いよいよ隠れ家に踏み込むことになった。そこに武器もなく防具もない一民間人の身で、一緒に参加させてほしいとやってくる曹健軍。断り切れずに許してしまう陳新城。結果、李大為の命を守って凶弾に倒れたのは曹健軍だった。そして、曹健軍の棺は八里河派出所に迎えられ、同僚の敬礼に送られて墓地へ出発していった。

 この結末は、予想できたが辛かった。曹健軍は、警察官としても、ひとりの人間としても理想から程遠い、ダメなやつなのだが、それだけに愛おしい存在だった。八里河派出所の面々は、いずれも現実世界の隣人のような人間味があり、味わい深い登場人物が多かった。王所長は、いつもテキトーなことを言っているようで、部下をよく見て最適な指導法を考えている。教導員の葉葦(女性)が、一時、父親の介護で離職を考えるのも、いかにもありそうな話だった。ベテランの警察官も、ふつうに仕事と家庭の間で、悩みながら生活しているのである。

 なお、彼らは「民事警察」で、凶悪犯罪は「刑事警察」に引き渡す仕組みになっている。中国の「民事警察」は所掌が非常に広くて、あらゆる困り事の相談窓口になっていること、庶民が強気で訴え出ること、何でも撮影してネットに上げる風潮など、中国社会の世相が分かる点も面白かった。

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