見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

民事警察の人びと/中華ドラマ『警察栄誉』

2024-05-06 21:58:08 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『警察栄誉』全38集(愛奇藝他、2022年)

 中国の視聴者レビューサイト「豆瓣」で、2022年ドラマの最高得点を獲得した作品だが、なんとなく自分の好みでないような気がして手を出さずにいた。今年4月、『甘くないボクらの日常~警察栄誉~』のタイトルで日本向けのDVD-BOXが発売されたが、ラブコメ路線を想像させる宣伝ビジュアルに対して、いや、そういうドラマじゃないし、という不満のコメントをSNSで見かけた。それで、逆に興味が湧いて、視聴を始めたのである。

 舞台は架空の都市・平陵市(ロケ地は青島)、ほどほどに発展した地方の中級都市の設定である。八里河派出所に4人の新人警察官が実習生として配属された(日本でいう派出所より規模が大きく、食堂もあり、おそらく20~30人が勤務している)。王守一所長は、警察の伝統に従い、4人の新人の師父を定める。北京大学の修士を卒業した秀才の楊樹には、頭脳より武闘派の曹健軍。農村育ちの趙継偉には、地域コミュニティの御用聞き担当・張志傑。殉職した警官を父親に持つ夏潔(女性)には、かつて夏潔の父親を師父としていた程浩。何かと目端の利く李大為(張若昀)には、出世と無縁の老警察・陳新城(寧理)。

 新人たちは、人情の機微が分からず、四角四面に対応して住民の不興を買ったり、逆に住民の個人生活に深入りし過ぎたり、功名心に駆られて危険を犯したり、はじめは失敗の連続。そのたびに所長は、上司の命令に必ず従い、規律ある行動を取るのが警察の本分であることを繰り返し言明する。夏潔の母親は、夫の殉職を苦い思い出として、娘が危険な現場に出ることを恐れており、師父の程浩も王所長も、夏潔の扱いに慎重にならざるを得ない。夏潔自身はそれが不満。李大為も母親と二人暮らしで、自由人の父親は、李大為が幼い頃に家出していたが、なぜかその父親が戻ってくる。夏潔と李大為は、仕事だけでなく、家庭(親子関係)の悩みにも直面することになる。

 こうして若者の悩みと成長を描いて最終話まで行くのかと思ったら、全然違った。新人たちは、比較的早い段階で警察の一員らしい行動を身につける(親子関係の解決はもう少し先)。そこから、むしろ師父たちの「仕事と家庭」に焦点が移ってゆく。李大為の師父・陳新城は単身生活。妻は一人娘の佳佳を連れて離婚し、資産家と再婚していた。しかし佳佳が義理の父親から性的ハラスメントを受けていることが分かり、陳新城は佳佳を引き取って、父娘水入らずの生活を始める。この過程では、年齢的に佳佳に近い李大為が、悩みの多い師父にアドバイスする立場になっていて、愉快だった。

 楊樹の師父・曹健軍と妻・周慧の家庭生活は円満だったが、周慧の母親は、二人の娘のうち、稼ぎのよい妹婿を贔屓にしていた。妹婿が買春容疑で摘発されても、それを揉み消す力のない曹健軍を軽蔑するばかり。妻と自分の面子を立てるため、なんとか仕事上で大きな功績を上げ、栄誉を得ようとする曹健軍。だが、酒席の後、レストランの駐車場で車を移動させようとして接触事故を起こしてしまう。飲酒運転の罪が確定し、警察は免職に。派出所の同僚たちは、寛大な措置を願い出るが、王所長は、警察は法を執行する立場であるからこそ、原則を曲げてはならないと説く。そして曹健軍には、過去を忘れて生きろと諭し、民間の警備員の職を紹介する。しかし警察の日々を忘れることができない曹健軍。

 【ネタバレ】その頃、八里河派出所では、陳新城と李大為がずっと追ってきた連続女性強姦殺人犯の証拠が整い、いよいよ隠れ家に踏み込むことになった。そこに武器もなく防具もない一民間人の身で、一緒に参加させてほしいとやってくる曹健軍。断り切れずに許してしまう陳新城。結果、李大為の命を守って凶弾に倒れたのは曹健軍だった。そして、曹健軍の棺は八里河派出所に迎えられ、同僚の敬礼に送られて墓地へ出発していった。

 この結末は、予想できたが辛かった。曹健軍は、警察官としても、ひとりの人間としても理想から程遠い、ダメなやつなのだが、それだけに愛おしい存在だった。八里河派出所の面々は、いずれも現実世界の隣人のような人間味があり、味わい深い登場人物が多かった。王所長は、いつもテキトーなことを言っているようで、部下をよく見て最適な指導法を考えている。教導員の葉葦(女性)が、一時、父親の介護で離職を考えるのも、いかにもありそうな話だった。ベテランの警察官も、ふつうに仕事と家庭の間で、悩みながら生活しているのである。

 なお、彼らは「民事警察」で、凶悪犯罪は「刑事警察」に引き渡す仕組みになっている。中国の「民事警察」は所掌が非常に広くて、あらゆる困り事の相談窓口になっていること、庶民が強気で訴え出ること、何でも撮影してネットに上げる風潮など、中国社会の世相が分かる点も面白かった。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

持つべきものは仲間/中華ドラマ『大理寺少卿游』

2024-03-17 23:55:57 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『大理寺少卿游』全36集(愛奇藝、2024年)

 原作はマンガ「大理寺日誌」でアニメ版もあり、日本にもファンが多いことは伝え聞いていたが、私はこのドラマで初めて作品世界に触れた。舞台は唐・武則天の時代の神都・洛陽。刑罰と司法を所管する大理寺の面々が活躍する。大理寺の若きリーダー李餅(丁禹兮)は、マンガとアニメでは人間の衣服を着た白猫の姿で描かれる。ドラマ版の李餅は、基本的には人間の姿だが、猫のように動きは俊敏、猫並みの視力と嗅覚の持ち主。時々、猫の顔になったり、まれに完全に猫の姿に変身することもある。

 田舎育ちの陳拾は、生き別れの兄を探して上京し、洛陽城で不思議な猫に出会う。この猫こそ実は李餅。李餅は前の大理寺卿・李稷の息子だが、かつて何者かに父親を殺害され、さらに葬儀のために故郷へ戻る途中を襲われ、気づいたときは奇妙な体質(半人半猫?)を獲得していたのだった。その頃、神都は妖猫出現の噂に動揺していた。李餅は、妖猫事件の真相を解明したことで聖人(皇帝)に引き立てられ、大理寺少卿に任じられる。李餅は自分の秘密を知る陳拾を連れて大理寺に入る。

 李餅を待っていたのは、明鏡堂の仲間たち。お調子者の王七(女装が得意)。官話が苦手な胡人の阿里巴巴(実は富裕な西域国の王子)。つねに不運を呼び込む星まわりの崔倍。従軍経験のある武闘派の孫豹。抜群に有能とは言えないけれど、仲間思いの彼らが、チームワークでさまざまな難事件を解決に導く。ただ、中盤までは、どの事件も本当に解決なの?という疑問を残して進んでいくので、ちょっとフラストレーションが溜まった。ポーカーフェイスの金吾衛将軍・邱慶之とか、やはり半人半猫の残忍な怪人・一枝花とか、気になるキャラは見え隠れするのだが、どう決着するのか、なかなか分からなかった。

 【ネタバレ】終盤は怒涛の種明かし。李家を襲った刺客・黒羅刹の正体は、陳拾の双子の兄だった。刺客を放ったのは宮廷の大官である上官大人。さらにその背後には永安閣と呼ばれる元老たちがいた。彼らは、子墟国に伝わる不老不死の法を求めて同国との戦争を起こし、秘密を握る怪物・一枝花を捕えようとしていたのである。彼らの意図に気づいた大理寺卿・李稷は、邪魔者として始末された。

 邱慶之は李家の奴僕として育ったが、李稷は彼の才能を愛し、李餅とは知己の間柄だった。子墟国との戦いに志願した邱慶之は、辺境の地で一枝花を知る。その後、邱慶之が再び一枝花に出会ったのは、まさに李餅が黒羅刹に襲われた直後だった。邱慶之は一枝花に李餅の命を救う方法を請い、一枝花は李餅を半人半猫の妖怪に変えてしまう。以来、邱慶之は李餅を人間に戻す方法を探していた。そして、自分の命と引き換えに手に入れた霊薬の石を李餅に託して事切れる。

 李餅は一枝花に取引を迫る。永安閣の元老たちの罪状を証言するなら、この石をお前に与えよう。石はひとつしかない。李餅は、自分が普通の人間でないことをすでに明鏡堂の仲間たちに知られていた。けれども彼らは全く動じなかった。彼らにとって李餅は李餅なのだ。神と呼ばれ、妖怪と蔑まれてきた一枝花は、敗北を認めて人間に戻ることを選択する。この結末は全く予想外で、かなり感動した。

 明鏡堂の面々は、それぞれ人に言えない秘密やコンプレックスを持って登場し、それを乗り越えていく。李餅さえも、半人半猫という秘密がバレることを極度に恐れていたのだが、ありのままを仲間たちに肯定されることで、確固とした自己肯定感を獲得する。いや~ほんと、終盤はみんな強くなって、的確な判断で動けるようになっていて、私は母親目線で感心した。文字を知らなかった陳拾が、檄文を書いて市井の人々を動かし、李餅と仲間たちを助けに来るのもよかった。邱慶之(魏哲鳴)の死だけが報われなくて悲しい。

 本作では、若い俳優さんたち(90年代生まれ)をたくさん新しく覚えた。李稷(于栄光)とか上官大人(連奕名)とか、要所に渋い俳優さんを使っているのもよかった。大理寺のもうひとりの少卿・上官檎(女性)も好きだった。任敏にしては癖がないキャラクターで、阿里巴巴の憧れの存在。ほかにも明鏡堂メンバーと関わる女性キャラは、いることはいるが、甘い恋愛モードはほぼ無し。男子たちの「明鏡堂少一箇人、就不是明鏡堂了」(ひとりでも欠けたら、明鏡堂じゃない)というフラットな友情が、スカッと気持ちのいいドラマである。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

時代は変わり、歳月は続く/中華ドラマ『大江大河之歳月如歌』

2024-02-10 11:45:37 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『大江大河之歳月如歌』全34集(東陽正午陽光影視、2024年)

 2018年公開の第1部、2021年公開の第2部に続く第3部。おそらくこれが完結編になるのだろう。1993年、宋運輝は東海化工を追われ、彭陽という田舎の農薬工場勤務を命じられる。新しい同僚たちからは暖かく迎えられるが、工場の経営は振るわず、やがて停業命令が下る(国営なので政府から)。東海化工に呼び戻されかけた宋運輝は、別れ際に中年女性の技術者・曹工から託された資料に目を通すうち、彭陽工場を救う希望を見出して戻ってくる。それは、竹胺という物質を用いた新しい安全な農薬を製造することだった。最終的に、屋外の農地で使用する農薬としては成功できなかったものの、家庭用の殺虫剤として製造ラインに乗せる見通しが立ち、彭陽工場は存続を認められる。

 この竹胺プロジェクトの段は「プロジェクトX」風味もあり、見ていて胸が熱くなった。彭陽工場の副工場長・老王(黄覚)とその下の優秀な女性技術者・曹工(劉丹)、曹工を支える夫の老斉(寧文彤)は、おなじみの名優さん揃いだった。

 個人経営者の道を歩む楊巡は、梁思申を事業協力者として、東海市に新たな商業施設を建設しようと奮闘するが、二重帳簿を用いていたことが梁思申に見つかり、協力関係は破綻。失恋の打撃で荒れる楊巡だが、少しずつ事業への意欲を取り戻していく。その楊巡を、データ処理と的確な提案で助けるのが経理担当の女性職員・任遐迩(xia er 読めなかった)。彼女の能力と人柄に惚れ込んだ楊巡は猛烈なアタックをかけるが、地道な生き方を望む任遐迩は戸惑うばかり。それでも最後は幸せいっぱいの結婚式を挙げる。やったね! 饅頭(マントウ)売りの少年時代を思い出して、親戚のおばちゃん気分で感涙にひたった。楊巡は、亡き両親に代わって弟や妹の成長を助け、家長の役割も立派に果たしていくことになる。

 梁思申は、東海化工に戻った宋運輝に自分の気持ちを打ち明け、宋運輝も彼女を受け入れる。梁思申の両親に育ちの違いを心配されたり、梁思申が仕事の関係で一時アメリカに帰国したり、事件はいろいろ起きるが、賢い二人は着実に新しい道を歩み始める。

 そして雷東宝は、電線を製造販売する雷霆工場を郷鎮企業として立ち上げ、広州交易会に潜り込んで海外に販路を拡大し、股份有限公司(株式会社)に成長させる。雷総(雷社長)と呼ばれ、つきあいで高級酒を飲み歩き、高価な外車を乗り回すようになり、最初の妻・宋萍萍の面影のある若い女性秘書・小馮に手を出して妊娠させる。実は、現在の妻・韋春紅が子供を産めない身体であると分かった後の話で、いったんは妻を労わる態度を見せていたのに解せない。どうしても自分の子供がほしい、と春紅に懇願するのだが、この気持ちは中国人的に「分かる」んだろうか。夫の不実が許せない春紅は、子飼いのチンピラたちに小馮のマンションを襲撃させる(うわなり打ち?)。その結果、小馮は赤ん坊を置いて姿を消してしまい、東宝は赤子の小宝を連れて春紅と元の鞘に収まる。

 それでも雷東宝は、郷里の小雷家村の人々には、冠婚葬祭のお祝い金や老人の生活手当を欠かさなかった。しかし1997年、アジア通貨危機の影響が中国にも及ぶ。雷東宝は、小雷家村の福利厚生よりも雷霆工場の資金繰りを優先し、工場の成長を継続することが、最後には小雷家村の利益になると主張するが、村人たちの怒りは爆発する。抗議に押し寄せた村人たちに囲まれた雷東宝は地面に昏倒する。中風(脳卒中)だった。

 その後の雷東宝は、意識は戻ったものの、言語障害、運動障害を発症して社会復帰は不可能となる。雷霆工場の事業は整理され、小雷家村の老朋友でもある史紅偉たちが分担して引き継ぐことになった。小雷家村への福利厚生は停止(事実上の廃止)。韋春紅は、かつて楊巡が育った家屋を譲り受け、介護が必要な東宝と赤子の小宝を連れて移り住む。たぶん東宝の老母の生活も彼女が支えなければならないので、韋春紅、それでいいのか?と思ったが、どこかで「私は古い女だから」と言っていたように、これが彼女の選んだ幸せなのかもしれない。このドラマは、前に進む、成功を勝ち取る人間だけを称揚するものではないのだ。

 雷霆工場の破綻の直前、現下の経済状況を全く理解できていない雷東宝を、義理の弟である宋運輝が厳しく諫める場面があるのだが、「你的文化程度、学習能力」ではこの問題に追いつけない、という物言いが、率直すぎて胸に刺さった。ふと、ドラマ『覚醒年代』で陳独秀が言っていた「現在の保守派は過去の進歩派、現在の革新派も未来には保守派となる」が頭に浮かんだりもした。雷東宝役の楊爍さんは、この結末を知っていてこの役を引き受けたのかなあ。スタイルもよく紳士服モデルもできるイケおじ系の俳優さんなのに、最後はよだれかけをされて介護される姿が凄絶だった。

 ラストシーンは、雷東宝の発病から半年後くらいだろうか。韋春紅と雷東宝のもとに、楊巡夫妻、宋運輝夫妻が訪ねてくる。幼い子供たちも交えた和やかな食卓。楊巡が「敬生命、敬生活、敬我們的這箇時代」(生命に、生活に、我々のこの時代に)と乾杯を促す。第3部のエンディング曲『敬敬』につながり、かつ映像的には第1部の冒頭がよみがえる演出に涙。ほんとによい大河ドラマを見せてもらった。

 ただ、第3部は(当局の方針である話数制限に応えるため)かなり削られた部分があるらしいのは勿体なかった。私が好きだった登場人物のひとり尋建祥は、最終話に「我媳婦(うちの嫁)」というセリフがあるのだが、そこはドラマの中で見たかった。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

中年刑事の再生/中華ドラマ『三大隊』

2024-01-21 23:46:13 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『三大隊』全24集(愛奇藝、2023年)

 1998年、寧州市警察の「三大隊」は、凶悪犯の王大勇と二勇の兄弟を追っていた(三大隊は隊長の程兵のほか6人の刑事チームとして描かれている)。住民を巻き込んだ路上の大乱戦の末、ついに二勇を捕まえたが、王大勇は逃してしまう。程兵による尋問の最中、二勇は容態が急変して死亡。程兵は責任を問われ、傷害罪で11年の懲役刑に服することになる。

 2007年秋(刑期を9年6か月に短縮されて)程兵は出獄。しかし妻は娘の桐桐を連れて離婚し、別の男性と再婚していた。三大隊はすでに解散。刑事を続けていたのは最年長の老馬と最年少(女子)の林頴だけで、老馬は停年を迎え、ほかの4人は刑事を辞めて転職していた。程兵ら三大隊の面々が師父と慕う七叔は、脳梗塞で倒れて老妻の介護を受けていた。王大勇の行方は知れず、程兵の同僚で「二大隊」の隊長だった潘大海は支局長に出世した今も事件を忘れていなかった。

 程兵は、かつて王大勇事件に関係した六子の洗車場に拾われ、仕事の合間にひとり王大勇の足取り捜査を開始する。刑事を辞めた三大隊の面々も、程兵を手伝おうと集まってくる。王大勇は雲南省の瑞麗から国外の察邦(架空の地名、ミャンマーあたり)へ逃亡。ここで高価な翡翠の原石を強奪し、中国国内に戻ったことが判明する。さらに程兵は雪深い東北地方に赴き、田舎町の入浴場や森林地帯の監視人小屋を訪ね、そこで得た手がかりをもとに四川省の綿陽へ。単独捜査の開始から4年目、顔を変え、名前を変えて潜伏中だった王大勇をついに発見し、逮捕に導く。

 …とまとめてしまうと、執念の犯人逮捕が主題のようだが、私は、少し違うところにドラマの面白さを感じた。若い頃の程兵は、家庭を顧みずに仕事に邁進していた。その上、幼かった娘が一番父親を必要とする時期に刑務所に入ってしまい、桐桐(周子玄)は「殺人犯の子」と蔑まれて育った。彼女は、出獄した程兵を父親と認めず、絶縁を言い渡す。一方、王大勇の手がかりを求めて、程兵は王二勇の遺した娘・苗苗(任敏)に接近する。やはり父親の愛情を知らずに育った苗苗は、詐欺集団の手先をさせられており、程兵を洗脳合宿に誘い込む。程兵に助け出され、真面目な生活を始めようとした苗苗だが、偶然から、程兵の目的を知ってしまう。裏切られたと感じた苗苗は程兵を殺そうとするが、刃を振り下ろすことができない。二人は全ての真実を知った上で、父娘のように生きていこうとする。けれども程兵が実の娘・桐桐に抱いている悔いと愛情を知った苗苗は、QQ(メッセージツール)で桐桐に連絡を取り、実際に会って、程兵の気持ちを告げる。この、心に傷を負ったどうしの少女二人の交流が、私にはドラマ最大の見どころだった。苗苗役の任敏は、大体いつも面倒くさい役柄だが、何を演じさせても可憐で透明感があって、巧い。

 程兵は、途中、七叔の死に遭って自暴自棄になり、王大勇の捜査を諦めて、酒場の用心棒に成り下がる時期もあるのだが、10年を超えて家族ぐるみのつきあいの続く三大隊の仲間たちと、新しい「家族」となる苗苗の存在に助けられて再生する。七叔の遺言「好好生活」は、中国ドラマではよく聞く表現なんだけど、正しく、そして愉快に生きる、日常を大切にして生きる、みたいな意味になるのかな。

 最終話、逮捕された王大勇は尋問室で程兵と対峙し、こんなに長い年月を費やして、もし最終的に自分を捕まえることができなかったら、意味があっただろうか?と冷笑的に尋ねる。程兵は答える。我々は結果を生きるのではなく過程を生きる(不是活箇結果、而是活的過程)、その過程の中でさまざまな問題を解決する、だから結果がどうであっても意味はあった(値得)と。本作は、まさに生きる「過程」を描くドラマだったと思う。だから、旧三大隊メンバーの家庭の事情とか、犯人逮捕という目的から見れば、冗長な描写も多いのだが、最後は全てのキャラに愛着が湧いていた。

 程兵役の秦昊、いろんなドラマ、いろんな役柄で見ているのだけれど、本作はかなり好き。王大勇役の陳明昊は、序盤はいいんだけれど、最後は整形で顔を変えた設定で(特殊メイク?)のっぺりした顔で出てくるのが残念だった。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

古装SF・ホラー・アクション/中華ドラマ『天啓異聞録』

2024-01-18 23:20:12 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『天啓異聞録』全12集(愛奇藝、2023年)

 年末年始に楽しませてもらったドラマ。明の天啓年間、錦衣衛の一員である褚思鏡は、山海関を超えて、雪の積もる遼東地方に赴いた。この地方で奇妙な疫病が流行っており、感染した者は妖魔の餌食になるという噂を確かめるためである。褚思鏡は寧遠城で楊公公に拝謁したあと、韃官(モンゴル系)の伯顔とともに沿岸の寧海堡に向かう。寧海堡の周辺には、烏暮島の島民が出没していた。彼らの動きを怪しんだ褚思鏡と伯顔は、夜の海を泳いで烏暮島に渡る。島で二人が見たものは、皮膚が鱗化する奇病に苦しむ島民、長老とその弟子、黒衣の集団、謎の少女、そしてクモ形の怪物…。

 長老と島民たちは、島の秘密が外に伝わることを恐れ、伯顔を捉えて幽閉する。褚思鏡は、謎の少女・沈淙の助けを得て、舟で海上へ逃れる。その褚思鏡を助け上げた大型帆船の艦長はフランキ(ポルトガル)人のアンジェリカ。彼女の兄は、かつて烏暮島で怪物に出会って命を落としたと伝えられていた。彼女は島でトカゲ形の怪物を捕獲し、帰国の途につこうとするが、黒衣の集団に襲われ、帆船は大破し、再び島へ流れ着く。その頃、幽閉先を抜け出した伯顔は、トカゲ形の怪物の正体が、沈淙の父親・沈譲であることを知る。沈譲は、まだ意志の力で人間の形に戻ることができた。

 一方、褚思鏡は、横公という神を祀る異教集団に捕まり、怪物になるための薬水を飲まされる。朦朧とした意識の中で、2年前、この地で消息を絶った双子の弟・褚思鈺が近くにいて自分を呼んでいることを感じる。

 【ネタバレ】少しずつ明かされる謎。万暦年間に烏暮島の近海に隕石が落ちた。そこから何らかの病原菌が流れ出し、徐々に海産物を汚染していったのである。烏暮島では魚を食べることを禁忌にしていたが、それを破った者から奇病が広まった。2年前、明軍の兵士だった沈譲は、戦いに敗れて故郷の烏暮島に戻ってきたが、妻の蘇沐冉の様子がおかしいことに気づく。蘇沐冉は横公に忠誠を誓い、怪物を操って人々を支配しようとしていた。その野望を阻止したのは、島に滞在していた褚思鈺である。蘇沐冉と褚思鈺は崖上から海に落ちたが、蘇沐冉の遺体しか見つかっていなかった。

 蘇沐冉の野望を受け継いだのは、長老の弟子、賀子礁だった。彼は、蘇沐冉の能力を受け継いだ沈淙に怪物を操らせ、島民と褚思鏡らを襲う。父親の沈譲は命を賭けて島民たちを守り、愛娘の沈淙をも救おうとする。しかし賀子礁の弟・賀六渾は、混乱する沈淙に再び怪物を操らせ「尊主」に会わせようと、彼女を連れて海の底に消える。

 褚思鏡、伯顔、アンジェリカらは、舟で海に乗り出し、珊瑚礁の中の洞窟に踏み入る。ひとり夢幻境に迷い込んだ褚思鏡は、弟の褚思鈺と対面するが、その正体が、弟の姿を借りた別の何者かであることを見破る。褚思鏡は、その何者かに向かって、自分が沈淙に代わってここに残ることを申し出る。褚思鏡は海底の洞窟に残り、他の人々は無事に帰還する。その後、母国へ向かうアンジェリカの船には沈淙の姿があった。

 う~ん、最後はよく分からないまとまり方だったが、全体的におもしろかったからいいか、という感想である(海底で褚思鏡の前に現れたのは、隕石とともに地球に到達した宇宙生命体なのかな?)。舞台はずっとどんよりした雪景色の海辺、暗い画面、奇病の原因となる魚が思わせぶりにビチビチ跳ねていたり、ホラーな雰囲気もよい。怪物との戦いは、重心の低いリアリティのあるアクション(武侠ファンタジー的な超人技は見せない)で手に汗握った。

 俳優さんが私の好きな演技巧者揃いだったのもポイントが高い。褚思鏡/褚思鈺二役の黄軒は少し体重を増やしたかな。私はイケメン枠だと思っているのだが、劇中で「叔叔(おじさん)」と呼ばれていて苦笑してしまった。伯顔の呉樾を見たのは初めてかもしれないが、大好きになった。沈譲の蘆芳生さんは父性を感じさせる役が似合う。半分トカゲになりかかっていてもカッコよかったが(笑)、完全なトカゲ男はデジタル合成なのかな。どうやって撮っているんだろう。アンジェリカは台湾国籍の張榕容さん。映画『黒猫伝』の楊貴妃を演じた方だが、全然雰囲気が違っていて驚いた。

 なお、視聴者投票サイトの評価はあまり芳しくない。中国の視聴者は、こういう荒唐無稽なドラマ作品をあまり好まないように思われるが、昭和の特撮ドラマで育った私には大好物なので、嘘八百を大人の俳優が真面目に演じるドラマ、どんどん作ってほしい。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

新しい古典の誕生/映画・ゴジラ-1.0

2024-01-02 20:03:41 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇山崎貴監督・脚本『ゴジラ-1.0(マイナスワン)』(TOHOシネマズ日本橋)

 年末年始休暇のうちに映画館で映画が見たくなって、大晦日の朝に見てきた。事前に私が仕入れていた情報は「敗戦後すぐが舞台」「朝ドラ『らんまん』の主役コンビ、神木隆之介くんと浜辺美波さんが主演」「神木隆之介くんは元特攻隊員」「ゴジラが怖い」くらいだったが、とてもおもしろかった。

 大戦末期、特攻隊として出撃した敷島浩一(神木隆之介)は、搭乗機の故障のため、大戸島の守備隊基地に不時着する。しかし整備兵の橘(青木崇高)は故障個所を見つけられず、敷島が特攻逃れのために故障を偽ったのではないかと疑う。その晩、基地は巨大な怪獣「呉爾羅(ゴジラ)」に襲われる。橘は敷島に、零戦に装着されている20ミリ砲でゴジラを撃つよう懇願するが、敷島は恐怖で撃つことができず、敷島と橘以外の整備兵は全滅してしまう。

 終戦。東京に戻った敷島だが、両親は空襲で亡くなっていた。ぼんやり暮らしていた敷島のところに、戦災孤児である赤子の明子を連れた典子(浜辺美波)という女性がころがり込み、奇妙な同居生活が始まる。典子と明子のために仕事を探していた敷島は、機雷の撤去作業の職を得て、掃海艇に乗り込む。

 1946年、ビキニ環礁で米軍による核実験が行われる(ゴジラが巨大化・凶悪化するには、やはりこれが必須なのね)。1947年5月、巨大生物が日本に向かって移動していることが観測される。日本政府は混乱を恐れて、国民に事実を秘匿したまま、ひそかに迎え撃とうとするが全く歯が立たない。上陸したゴジラは、熱線で東京中心部を壊滅的に破壊し、典子も行方不明になってしまう。

 占領下で独自の軍隊を持たない日本は、民間人のみでゴジラに立ち向かうこととなり、駆逐艦「雪風」の元艦長・堀田は、元海軍関係者を集め、作戦への参加者を募る。科学者の野田は、ゴジラを相模湾の海溝に沈めて急激な水圧の上昇を与え、さらに海底から海上へ引き揚げて減圧を与える作戦を提案した。敷島は、自分が戦闘機でゴジラを誘導することを申し出、日本に1機だけ残っていた戦闘機「震電」の整備のために橘を呼び寄せる。

 【ネタバレ】ついに日本再上陸を目指すゴジラが出現。堀田らは作戦を遂行するが、急激な加圧も減圧も効かない。敷島は、爆薬を搭載した震電でゴジラの口の中に突っ込む。爆破成功。そして敷島は、特攻直前、パラシュートで脱出していた。帰還した敷島は、典子が病院で待っていることを知る。

 本作で敷島個人および日本という国が体験する、失敗→自責→困難の克服、というのは、ある種、古典的な作劇パターンだと思うが、分かっていても劇中人物と一緒に怯え、手に汗握り、最後は涙してしまう。困難の克服が「特攻」のやり直しではなく、敵を撃破して、かつ生き延びるという描写なのがとてもよい。最後、生きていた典子に再会した敷島は、典子にすがっておんおん泣くのだが、神木くん、女性にすがって泣く姿がこんなにさまになる俳優もいないのではないか。

 敷島が新しい人生に踏み出すには、典子の存在が不可欠だったが、より大きな意味を持っているのは、整備兵の橘である。大戸島の一件以来、敷島の臆病さを罵り、軽蔑していた橘が、震電に脱出装置を取り付けて、敷島に引き渡すのである。神木くんと青木崇高さんといえば、大河ドラマ『平清盛』では義経と弁慶の主従役だった、などと古い記憶まで呼び覚まされて、感慨にふけってしまった。今後、本作がテレビ放映等で親しまれ、ゴジラ映画の古典の位置を占めてくれることを願ってやまない。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

後に残る者たちへ/中華ドラマ『一念関山』

2023-12-31 20:17:19 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『一念関山』全40集( 檸檬影業、愛奇藝、2023年)

 架空の王朝を舞台にした武侠劇。中原では、梧国・安国という2つの強国が覇権を争っていた。戦いに敗れた梧国皇帝は安国の捕虜となり、安国は梧国に対して、十万両の身代金を携えて迎帝使として皇子を寄こすよう要求する。迎帝使の人選に苦慮した梧国宮廷は、皇帝の異母妹で、母親の身分が低かったため、冷宮で育った公主の楊盈を皇子礼王と偽って送り出すことにした。

 梧国の秘密警察組織である六道堂の堂主・寧遠舟は、礼王の護衛として旅に同行することになった。一行には、六道堂の仲間たちのほか、寧遠舟の表妹を名乗る謎の美女・任如意が加わっていた。如意はもとの名を任辛と言い、安国の秘密警察・朱衣衛の左使をつとめた伝説の刺客だった。しかし7年前、敬愛していた安国皇后が何者かに殺害される事件に出会って以来、安国を去り、皇后殺害に関わった人々への復讐を続けていた。たまたま梧国に潜入して寧遠舟を知り、「自分の子供の父親になってほしい」と迫る。如意は亡き皇后の遺言「男性に惚れてはいけない。しかし子供は持つべき」を忠実に守ろうと考えていた。はじめは如意を持て余していた寧遠舟だが、次第に二人は惹かれ合っていく。

 【ややネタバレ】如意は、皇后殺害の首謀者が安国皇帝そのひとであり、大皇子も二皇子も真実を知りながら、見て見ぬふりをしていたことを知り、彼らを血祭りにあげた後、朱衣衛で各種の汚れ仕事に従事させられていた仲間たちを解放する。六道堂の人々は、安国に囚われていた梧国皇帝の奪還に成功、しかし帰国を急ぐ途中、北方の異民族である北盤人の襲撃を受ける。安国の二皇子が天門関を開いて、中原に北盤人を招き入れてしまったためだった。梧国皇帝は戦死。多大な犠牲を出した一行は合県城に籠城する。

 安国では前皇帝の死後、赤子の新帝が即位し、かつて如意を師父として武芸を磨いた李同光が摂政王となった。楊盈は、自分が女性であることを明かし、両国の和睦のため、李同光に嫁ぐことを望む。二人を中心とする援軍が合県城に到着するが、北盤人の攻撃は厳しさを増す。梧国には皇帝戦死の報が届けられ、皇弟・丹陽王が即位する。新帝は直ちに援軍を派遣するが、合県の民衆を守るため、六道堂が払った犠牲は大きかった…。

 【ネタバレ】本作は11月28日に配信が始まり、ゆるゆる楽しんでいたら、12月18日に最終話が配信された翌日、日本語サイト「Record China」に「武侠ドラマ『一念関山』の結末に視聴者から不満噴出」というニュースが掲載された。よせばいいのに本文を読んでみたら「メインキャラが全員戦死」とまで書かれていた。このドラマ、序盤は如意と寧遠舟の不器用な恋のゆくえを、六道堂の面々+楊盈がキャッキャうふふで見守るラブコメ古装モードが全開なのだ(あまり得意でないので途中リタイアしようと思ったくらい)。たまにシリアス展開も混じるけれど、全員戦死ってどういうこと?と思っていた。

 それが30話くらいから急降下で地獄展開に入る。六道堂の仲間たち、銭昭、孫朗、元禄、于十三だけでなく、メインキャラの次くらいの人たちも(鄧恢~)、北盤人との戦いで次々に命を落としていく。寧遠舟は、乱戦の中から李同光を救出するのと引き換えに凄絶な戦死を遂げる。李同光は、師父の如意に一途な思慕を寄せ続け、寧遠舟には嫉妬の炎を燃やしていたのだが、最後の最後は、師丈(先生の夫)、寧大哥、と呼びかける。武侠ドラマって、成長する少年少女が主人公となるケースが多いと思うのだが、本作は、すでに自我の確立した如意や寧遠舟が主人公で、李同光や楊盈など次世代の若者に教えを残し、成長を助けて死んでゆく物語とも言える。如意は爆弾を隠し持って北盤狼王の幕屋に赴き、自爆テロを仕掛ける。寧遠舟のいない世界に生き続けたいという望みはなかったのだろう。覚悟を決めた如意(劉詩詩)は凄絶で美しかった。為すべきことを終えてこの世を去った者たちは、どこかで楽しく暮らしていると言いたげな終わり方だったけど、やっぱり辛いなあ。

 本作のアクションシーンは見栄えがしてカッコいいのだが、カッコよさの基準が、映画やアニメからゲームに移行しているように思われ、古い人間としては、ちょっと違和感も感じた。出演者では、『虎鶴妖師録』で覚えた何藍逗さん(楊盈)、陳宥維くん(元禄)の活躍を見ることができて嬉しかった。本作の収穫、李同光を演じた常華森くんと于十三の方逸倫さんとは、また違う作品で会うことを期待したい。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

画家と刑事のバディ/中華ドラマ『猟罪図鑑』

2023-12-10 22:43:39 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『猟罪図鑑』全20集(愛奇藝、檸檬影視、2022年)

 中国では2022年公開。日本でも同時期から『猟罪図鑑~見えない肖像画~』のタイトルで知られているのは、そうか、国際版プラットフォームで日本語字幕版が配信されているためか、と気づき、いい時代になったなあと思う。檀健次くんの出演作、最近見ていなかったのだが、『蓮花楼』で10年ぶりくらいに肖順堯さんを見て、同じMIC男団の檀健次くんの最近作を見たくなり、本作を見てみた。

 舞台は中国南方の北江市(ロケ地は厦門)。美術学校の教師を勤める青年画家・沈翊は、市警察分局の模擬画像師(似顔絵師)の職を引き受けるが、刑事隊長の杜城は反発する。7年前、杜城の恩師の雷刑事が何者かに殺害される事件が起きた。当時、画学生だった沈翊は、事件の鍵を握る女性の顔を見たはずなのに、絵に描くことができなかったのだ。雷刑事の事件は今なお未解決で、杜城はずっと犯人を追っていた。しぶしぶ沈翊を受け入れた杜城だったが、沈翊が天才的な画力を発揮し、真摯に捜査に取り組む姿を見て、あっと言う間に「同僚」と認め、「朋友」になってしまう(笑)。

 作中に描かれる事件を、順番どおり【ネタバレ】込みでメモしておく。(1)マンション殺人事件。外売配達員が証言。(2)美容整形外科医の殺害。お客の女性を性的にもてあそんでいたことが判明。(3)高校の校庭で白骨化した遺体が見つかる。10年前に失踪した女子学生の日記から、彼女の学園生活を解き明かす。(4)死刑囚の女性が何度も証言を変更し、共犯者の恋人をかばっていた。(5)旧弊な大学教授を父親に持つ少女が男友達に誘拐され、自力で逃げ出す。(6)妻と幼い娘を残した父親の失踪。被害者に見えた女性には別の顔があった。(7)DV男性から逃れた元妻のもとに男性が現れる。(8)幻覚剤を飲まされて性的暴行を受けた女子学生の証言を読み解く。(9)沈翊の恩師である老画家が妻とともに自殺する。発端は息子を騙ったAI詐欺だった。(10)杜城のお見合い相手となった女性モデル。写真の顔が切り取られる事件が起きる。(11)配達物による連続爆破事件。(12)人身売買組織の首謀者と見られていた女性「M」が遺体で発見される。市警察本局から派遣された路刑事は杜城の行動を疑うが、沈翊らは杜城への信頼を堅持する。そして、情報セキュリティサービス会社の社長が、人身売買組織の黒幕であったこと、雷刑事の殺害にも関与していたことを突き止める。最後は杜城と沈翊が、警官の職務にかける決意を新たにして幕。

 天才・沈翊は、曖昧な証言から犯人の似顔絵を描き出すだけでなく、幼少期の写真や、時には白骨から人物の容貌を推測するとか、ちょっと無理があるんじゃないか、とも思ったが、まあ面白いからいいことにする。扱われる事件の多くが、女性を加害者・被害者とするもので、古いタイプの痴情のもつれとかではなく、非常に現代的な「女性の困難」を題材にしているのが、興味深かった。あと、AIフェイク画像とか、情報セキュリティ企業が市民の個人情報を盗もうとしているというテーマは、ずいぶん現代的だと思った。

 檀健次くんの演じた沈翊は、画力については天才だが、温厚な常識人で、むしろちょっとドン臭いところもあってかわいい。金世佳が演じた杜城は体育会系の単純率直な好男子で、二人の凸凹バディ感(身長差がよい)がこのドラマの最大の魅力だろう。また、杜城をはじめ北江市警察分局の面々はいつも仲が良さそうで、ジェンダーと年齢のバランスもよく、警察ドラマにありがちな一匹狼の問題児もいなくて、理想的な職場に感じられた。悲しい事件もあるが、全体としては気持ちの明るくなる刑事ドラマである。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

人生の黄昏に/中華ドラマ『漫長的季節』

2023-11-25 22:47:30 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『漫長的季節』全12集(企鵝影視、2023年)

 今年前半、中国で大ヒットを記録したサスペンスドラマ。見たいドラマが途切れた隙をねらって、一気に見てみた。確かに上質なヒューマンドラマだが、豆瓣(視聴者投票)9.5は高すぎではないかと思う。いまWOWOWで『ロング・シーズン 長く遠い殺人』のタイトルで放映中なので、視聴中の方は、以下の【ネタバレ】を避けていただくのが無難である。

 ドラマは、2016年と1997-98年の2つの時間軸を行ったり来たりしながら進む。2016年、東北地方の樺林市に住む初老のタクシー運転手・王響は、まもなく大学受験を迎える息子の王北と二人暮らし。王響の義理の弟・龔彪も、同じタクシー運転手の仕事を始めようとしていた。しかし、龔彪が購入した車と同じナンバーの車が人身事故を起こしたため、車を警察に差し押さえられてしまう。王響と龔彪は独自捜査に乗り出し、偽造ナンバープレートをつけた車を探し出す。王響は、あと一歩で犯人を取り逃がしてしまうが、トウモロコシ畑の中に消えていった犯人の後ろ姿は、王響が1998年の事件以来、ずっと追ってきた姿だった。

 1990年代、王響は樺林鋼鉄工場で蒸気機関車の運転士をしながら、妻と息子の王陽の三人で暮らしていた。王陽は詩人になることを夢見るロマンチスト。地道な就職を望む父親とは意見が合わないが、両親の愛情は理解している。あるとき、王陽は、衛生専門学校の女子学生・沈墨と知り合う。沈墨は街の「娯楽城」(ナイトクラブ)でピアノ演奏のアルバイトを始め、王陽も従業員として潜り込む。二人は次第に親しくなるが、実の両親を失い、養父の虐待を受けて育ってきた沈墨は、王陽の愛情を素直に受け止めることができない。

 ある日、樺林鋼鉄の宿舎街のゴミ箱から、バラバラ殺人の遺体の一部が発見される。指先の特徴から、遺体の主は沈墨であることが確認され、王響は息子の事件との関わりを案じる。黙って家を抜け出した息子を追ってきた王響は、夜の線路上で「犯人」と接触し、息子を返してほしいと頼むが、翌日、王陽は郊外の川で遺体となって発見され、王響の妻も息子の葬儀後に自ら命を絶つことになる。王響は、沈墨の実の弟・傅衛軍を疑う。聾唖者で孤児院育ちの傅衛軍は、姉には優しいが無頼な青年だった。しかし事件を担当した刑事の馬徳勝は、傅衛軍は監獄に入っており、王陽は自殺だと主張して譲らなかった。

 2016年、息子殺しの「犯人」らしき人物を目撃した王響は、今は警察を退職した馬徳勝を通じて、傅衛軍の近況を調べてくれと頼む。傅衛軍は獄中で自殺していた。そして、脳血栓を発症して呂律も回らなくなった馬徳勝は、18年前に見逃していた事件の謎を解き、王響は「犯人」の正体と、王陽がやはり自殺だったことを知るのである。

 …こうまとめてしまうと全く面白くない。実際は、もっと多様な人物が、ミステリーの主旋律とは全く無関係に喜んだり悲しんだり、惹かれ合ったりぶつかったりする様子が、これぞ人の世という感じで、じんわり面白いのである。主人公の王響は、いかにもこの時代の東北地方の工場技師にいそうな、怒りっぽい頑固おやじ(しかし職場では幹部に気を使っていたりする)で、妻の羅美素はそんな夫に逆らえない、気弱な(息子には優しい)田舎のおばちゃんである。この時代には珍しい大学出の龔彪は、王響の妻の妹・黄麗茹に一目惚れし、龔彪を利用しようとした黄麗茹の打算を承知で結婚するが、家庭生活はうまくいかない。刑事の馬徳勝は、2016年には無事に退職して、ペットの小型犬を可愛がり、趣味(ラテン系ダンス!)を楽しんでいるようである。

 1998年の事件に巻き込まれ、姿を消してしまう人々がいる一方、王響・龔彪・馬徳勝の三人は、2016年まで生き延びるが、すっかり高齢者となり、あちこち身体の不調を抱えている。もうひとり、王響と仲の悪かった保衛科長の邢建春も生き延びるが、老化を免れない点は同様である。そして老年期の彼らにも、容赦なく不幸が襲う。老・病・死の悲哀を笑いとばしながら、さらに深まる乾いた悲哀がこのドラマの魅力ではないかと思う。

 97-98年の服装とか髪型とか、田舎っぽいダサさに手抜きがないのに加えて、2016年の変化の役作りがすごくて、龔彪役の秦昊さん(体重10キロ?20キロ?増)は、はじめ別人だと思った。馬徳勝役の陳明昊さんのはじけたダンサー衣装はズルい。若者世代では、王陽役の劉奕鉄くん、傅衛軍役の蒋奇明さんを覚えた。王北を演じた史彭元くんは『隠秘的角落』の厳良なんだな。気づかなかった。2016年の王響のもとになぜ王北がいるのかは、最終話で明かされる。全体は、救いのない運命に囚われた人々の暗い物語だが、前を向いて進もうとする王響には救いがある。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

2023東京国際映画祭で『ゴールド・ボーイ』『満江紅』を見る

2023-11-03 22:04:40 | 見たもの(Webサイト・TV)

■金子修介監督『ゴールド・ボーイ』(10月29日、ヒューリックホール東京)

 東京国際映画祭で気になる映画が上映されるのを知って見てきた。『ゴールド・ボーイ』の原作は、中国・紫金陳のベストセラー小説『壊小孩』。2020年に『隠秘的角落』(バッド・キッズ)のタイトルでドラマ化され、日本にもたくさんファンのいる作品である。これを日本人監督が、どのように換骨奪胎して映像化するのか、とても興味があった。「ガラ・セレクション」で1回限りの上映だったが、運よく抽選に当たって見に行けた。

 舞台は沖縄に設定されており、ドラマ(中国南方)の雰囲気によく似ていた。登場人物の名前も原作を参考にしているのが面白かった。ドラマで秦昊が演じた陰険な殺人犯・張東昇役は岡田将生。いつカツラを外すのかと思って見ていたが(笑)こちらは最後まで美意識を崩さない役柄だった。主人公・朝陽(あさひ)を羽村仁成、普普にあたる夏月を星乃あんな、厳良にあたる浩を前出燿志。オーディションで選ばれたということだが、3人とも巧かった。夏月は、ドラマの普普に似せつつ、普普よりも重要な役柄になっている。逆に浩は、ドラマの厳良ほど深い描かれ方をしていないのが残念だったが、尺の関係で、朝陽の物語に絞らなければならないのは仕方のないところだと思う。

 映画は、途中からドラマとは異なる展開に向かうが、これはこれで面白かった。最後まで緊張感が途切れず、楽しめたと思う。ドラマで好きだった葉おじさん(蘆芳生)にあたる警官を演じたのは江口洋介。ドラマとは違うかたちでだが、ある意味、朝陽を救う役割だったと思う。

■張藝謀(チャン・イーモウ)監督『満江紅(マンジャンホン)』(10月31日、シネスイッチ銀座2)

 本作も「ガラ・セレクション」だが、週末のチケットを取り損ねて、火曜の夕方、定時で在宅勤務を終えてダッシュで見に行った。中国では今年の春節映画として大ヒットした作品である。南宋の紹興年間、岳飛の死から4年後、岳飛の政敵であった宰相・秦檜は、宿営地で金国の使者と会談に臨もうとしていた。その前夜、金国の使者が殺害され、密書が失われてしまう。宰相府の総管・何大人は、二人の兵士、張大と孫均に捜査を命じる。密書には、秦檜が金国と通じている証拠が書かれているのではないかと思われた。

 ここからが、謀略・かけひきの連続。敵の多い秦檜には、忠義な部下と見せかけて、実は秦檜の失脚を狙い、命を狙う者が多数しのんでいたのである。(途中省略して)ついに秦檜にまみえた孫均は、秦檜の命を奪うことはせず、代わりに岳飛の辞世の詩(詞)を暗唱することを強要する。岳飛が牢獄の壁に書き残した詩を知るのは秦檜だけだったのだ。楼上で秦檜が吟ずる「満江紅」は兵士たちの隊列に伝えられ、彼らは声を揃えてこれを復誦した。こうして岳飛の絶唱「満江紅」が今に伝わったわけだが、映画の中では、さらに一ひねりした展開が加わっている。

 ネタバレは控えるが、剣で脅された秦檜が、しぶしぶ「満江紅」の暗唱を始めると、次第にその詞に酔って愛国の情が激していくのが面白かった。雷佳音は、こういう情けない小者を演じるときが大好き。中国の歴史ドラマ・映画を見ていると、最大の見せ場が文学作品の名作(主に韻文)と結びついていることが多いのが、とてもうらやましい。日本の文学(韻文)は、こういう述志・述懐の伝統が弱いと感じる。

 登場人物はどんどん死ぬが、機知に富んだセリフや演技の応酬で笑えるシーンも多い。いや、客席からは笑いが絶えなかったように思う。何大人(張訳)と武大人(岳雲鵬)はずっとお笑い担当。張大(沈騰)も真面目にやっているのに笑える。どう見ても年下の孫均(易烊千玺)を「三舅」と呼ぶ関係なのも面白い。ドラマでおなじみ、郭京飛、余皑磊が出演していたのも嬉しかった。易烊千玺くんは22歳か~すっかり大人の男性を演じられるようになっていて刮目した。

 日本語、英語に加えて中国語字幕があったのはありがたかった。見せ場の「満江紅」、やっぱり原文の文字を追いたかったので。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする