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(政治断簡)領土交渉、アイヌ民族の問い 編集委員・松下秀雄

2016-12-19 | アイヌ民族関連
朝日新聞 2016年12月18日05時00分
 10年前に亡くなった萱野茂さんは、アイヌ民族でただ一人、国会議員を務めた人だ。参議院の会議録を開くと、日本とロシアの北方領土交渉をこう評していた。
 「北方領土はアイヌの国だった。持ち主であったアイヌの頭越しに、おれのだ、おれのだと引っ張り合いしているように聞こえるわけです」
 萱野さんは択捉島の地図を示し、ここには314のアイヌ語地名が載っています、四島の島名もすべてアイヌ語、アイヌ民族の先祖が住んでいたところですと説いた。
    *
 日ロ両国は、アイヌ民族の地に国境線を引いて囲い込んだ。歴史を調べると、彼らがなめた辛酸が浮かぶ。たとえば1884年、日本は北千島の住民を色丹に強制移住させる。生きる糧を失い、病に苦しみ、大半が命を落とす。
 重い民族の原体験。私がその立場なら、日本政府や「和人」側が島々を「日本固有の領土」という時、心穏やかにいられるだろうか?
 萱野さんのあと、もっとも議席に近づいたアイヌの人は民族史研究者の多原香里さん(44)。2007年の参院選では62万票を得た。夫の故郷、スイスで暮らす多原さんに電話してみた。
 「ええ、私も萱野先生と同じ感想です。先住民族のアイヌが領土交渉の蚊帳の外に置かれ、無視されている」
 多原さんも「固有の領土」論に手厳しい。そんな「ありもしない」主張を続けたことが、交渉停滞の一因とみる。代わりに唱えるのが、アイヌ民族が権利を主張し、日本への返還につなげる方法だ。
 アイヌに限らず、過酷な体験を強いられた先住民族。だが、次第に権利が認められてきている。07年に国連で採択された先住民族の権利宣言には、奪われた土地や資源に対する権利が記された。北方領土の先住民族、アイヌが交渉に加わって権利を唱えれば、ロシアも否定しがたいのでは? ロシアは多民族による連邦国家で、憲法に「人口の少ない先住民族の権利を保障する」と書くのだから……。
 「誰のものでもない歯舞群島の小さな島をアイヌに渡し、エコツーリズムの拠点にできたら」と思うけれど、四島を独占するつもりはない。目的は、ともに領土問題の解決にとりくみ、差別や偏見を除くこと。「単一民族国家」かのような意識が残るこの国も多民族・多文化からなりたつ、と知らせることだ。多原さん、いまだ「100%の国民として受け入れられていない」と感じているのだ。
    *
 領土問題を考えると、「日本とは何か」「日本人とは誰か」に突きあたる。
 きっと、返還が実現した時も、同じ問題に直面するだろう。いま島に暮らす人たちをロシアに追い返すとか、言葉や文化を奪って同化するといった乱暴なやり方は、21世紀には採りえない。
 言葉も習慣も違う人を受け入れ、「私たち」という意識を育み、支えあう。多民族・多文化共生へ、意識や仕組みを切り替える。問われるのはその点ではないか。
http://digital.asahi.com/articles/DA3S12711711.html?_requesturl=articles%2FDA3S12711711.html&rm=150
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