韓国、半導体材料の代替検討 高品質の日本勢にリスク
- 2019/7/18 2:00
- 情報元
- 日本経済新聞 電子版
日本政府による対韓国の輸出規制の強化を受け、サムスン電子など韓国の半導体メーカーが日本以外からの材料の調達に向けた対策を急いでいる。
日本企業は先端材料で世界シェアの8割超を握るとされ、韓国が代替品を確保するには長い時間がかかるとみられる。
ただ韓国側は日本に依存し続けるあやうさを認識した。日本企業は長期的にシェアが低下するリスクを負うことになった。
韓国政府は17日、規制強化に対応する総合対策を近く発表すると表明した。すでにサムスンは規制対象品目の「フッ化水素」で日本製品以外の品質性能の試験に着手。
日本製素材と同じ品質の半導体がつくれるか検証する。同業のSKハイニックスも同様の試験を開始したもようだ。
フッ化水素は半導体の母材となるシリコンウエハーに回路を形成した後、不要な膜を取り除くのに使われる。
サムスンは韓国、中国、台湾の各メーカーから仕入れ、2~3カ月後に試験結果が判明する見通し。
ただ韓国半導体大手の幹部は「仮に結果が良好でもすぐ調達先に選ぶわけではない」という。
背景には、韓国など世界の半導体大手が日本企業の材料に依存している現実がある。
国際半導体製造装置材料協会(SEMI)によると、約5兆8000億円(2018年)の半導体材料の市場規模のうち、日本勢のシェアは50%。高性能半導体を作るために使う、利益率の高い先端材では80%超とみられる。
シリコンウエハーでは信越化学工業とSUMCOの2社で世界シェアの6割を握る。
今回の規制対象であるレジスト(感光材)は半導体の基板上に塗布し、特殊な光を当て回路パターンを基板に転写するのに使う。JSRや東京応化工業など日本勢が9割のシェアを占める。
日本勢が強い理由の一つが素材の特性だ。家電やスマートフォンと違い分解できないため、製造ノウハウを分析しづらく模倣が難しい。
輸出規制が強化されたEUVレジストは回路幅が10ナノ(ナノは10億分の1)メートル未満と、1本の髪の毛の1万分の1より細いパターンを正確に転写するのに必要だ。
特殊な光に対する感度など高い品質が求められる。
日本勢が8~9割のシェアを握る高純度のフッ化水素にもノウハウが詰まっている。樹脂の生産に使う場合は不純物を1000分の1以下に抑えれば済むが、高性能な半導体製造向けは1兆分の1以下の水準が求められる。
芝浦工業大学の田嶋稔樹教授は「ヒ素などの不純物は温度による分離だけでは取り除くことが難しく、特別な方法が必要だ」と話す。
フッ化水素は毒性や腐食性が高く、取り扱う設備にも安全性が求められる。田嶋教授は「特殊合金などを使った設備が必要になる。日本は1970年代から半導体生産に取り組み各社が独自のノウハウを持つ」と話す。
ダイキン工業はフッ化ポリイミドの原料である「6FDA」というフッ素化学品を製造し、国内の化学メーカーに供給する。
フッ素は他の物質とくっつきやすい性質があるが、ダイキンは不純物を除去し純度の高い化学品をつくる技術に強い。フッ化ポリイミドは今回の規制対象だが、ダイキンの原料は対象外だ。
シティグループ証券の池田篤氏は「レジストなどは半導体メーカーにあわせた完全なオーダーメード品で、製造ラインに合わせた成分構成の擦り合わせや作り込みなどに日本メーカーの強みが生きている」と話す。代替が難しく利益率が高い素材が多いという。
中国や台湾でもフッ化水素をつくっている。台湾・僑力化工(サンリット・フルオロケミカル)は「一部の韓国企業に昨年から本格供給を始めている」という。
一方、中国勢は慎重な姿勢だ。09年から半導体向けフッ化水素を生産する中巨芯科技のマーケティング担当者は「日本品質に追いつくのは相当な時間がかかる。
(現状の中国企業の水準では)完全には代替できない」と打ち明ける。浜化集団は「複数の韓国企業と交渉中だが、正式な契約は結んでいない」という。
サムスンとSKは当面、日本との取引を続けることに軸足を置くとみられるが、韓国国内には「日本は輸出規制を恣意的に運用する恐れがある」(韓国メディア)との受け止めがある。原材料を一国に依存するリスクに直面した韓国企業は調達に支障が出る事態に備える。
かつて中国がレアアース(希土類)の輸出規制を強化した際、日本企業が第三国での開発などに動いた例もある。
日韓の問題が長引けば、日本に代わる調達先が生まれるリスクが常につきまとう。(ソウル=山田健一、広州=比奈田悠佑、後藤宏光、福井健人)
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