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月姫リメイク(2)原理血戒と大規定・下
筆者-Townmemory 初稿-2023年6月3日
後編です。
前半を読んでからここにお越し下さい。
前編はこちら。
月姫リメイク(1)原理血戒と大規定・上
クリックすると筆者が喜びます
死徒社会は人の命を上位者につぎつぎ献上していくねずみ講になっている。
このねずみ講システムで、全人類の命を最終的に一か所に吸い上げる。
そうしてできた命のかたまりを人型に成型したら、朱い月は「余は満足じゃ」かなんか言ってそこに乗り移るだろう……という話の続きから。
●遺伝子を吸うという新しい設定
死徒たちは人間の血が食料なので、手下たちに人間の血を集めさせる。
という基本設定が、月姫リメイクのホテルのシーンで、アルクェイドによって語られました。
これはだいたい既存の吸血鬼のイメージ通りだし、同人版の月姫のころからある設定だと思います。
が、同シーンで、
「吸血鬼が血を集めるのは、人間の遺伝子を集めるという側面もある」
という新たな説明が追加されました。
ねずみ講システムで、血と同時に遺伝情報を集めてる。
吸血鬼は食事として、人間の血を集める。
吸血鬼は肉体を維持するため、人間の遺伝情報を集める。
なぜ、後者の設定が必要なのか、疑問に感じました。
『月姫』という作品は、前者の「食事のため」という設定だけで、じゅうぶんに物語を支えられます。
じっさい、同人版の旧『月姫』は、遺伝子うんぬんの設定がなくても成立していました。
これについて私は、
「最終的に、集めた全人類の遺伝情報を元にして、朱い月の肉体を生成する予定だからだ」
というふうに想像します。
死徒社会ねずみ講システムは、血を一か所に集めると同時に、全人類の遺伝情報を一か所に集めることもできそうです。
人間の遺伝情報が、壊れていく死徒の体を補って再組成することを可能とするなら、過剰に集められた人間の遺伝情報が、新たな架空の人体ひとつをまるごと組成することも可能であるはずだ。
それは人類全部の遺伝子を材料に作った人体だ。ただの人体じゃない。
朱い月は、過去と現在の、全人類の全遺伝情報を持つ1個の人体を作りたい。それはいってみれば究極の一つの人体であろう。
そこに自分が乗り移りたい。
遺伝情報の一か所には一つの情報しか入らないのであって、そこに「全人類の遺伝情報」が入るなんておかしくない? という感じもしますが、しかし、奈須きのこさんは、「マルチ遺伝子存在ですが何か」くらいのことは平然といいそうな人だ。
●フランス事変
1989年、フランスのとある町で、原理血戒を有する祖が5名とロアが一度に集まるという事件が起こりました。
主催はロアで、目的は何らかの儀式とされている。
ロアはアルクェイドが来るのを待っていたと思われるふしがある。
アルクが来るのを待つあいだ、街では祖たちによる大虐殺が行われた。
ロアの中からこれを見ていたシエルは以下のように言っている。
ロアの儀式は、ロアがずっと(何回もの転生の中で)計画してきたことで、これが実現すれば、この街ひとつどころではない、もっと大きなものが崩壊することになる、と彼女は言う。
この儀式は、アルズベリで予定されているものとほぼ同種のもので、大目的は「現行の世界のありかた=テクスチャーのひっぺがし」でいいと思います。ひっぺがしたらこの世はおおむね崩壊するでしょう。
アルクェイドが光体になったとき、足元にブラックホールぽいものができて、地表にあるものがどんどんしまっていかれちゃう現象が起こったでしょう。
ようはあれを人為的に起こそうとした。
地球上を全部サラ地にして、人類も全部滅んでしまえという悪だくみを実行しようとした。
本稿の説では、原理血戒は「現行の世界のありかた(テクスチャー)を書き換える能力」としている。
テクスチャーを書き換える能力を持った存在が大勢集まって、テクスチャーをひっぺがす恐ろしーい悪だくみをするという想定なので、いろいろ話の筋を通しやすい。
祖が5名(ないし6名)集められているのは、「あの街一帯のテクスチャーを大勢でよってたかって別の原理で塗りつぶす」必要のためだろうと思えます。
(それ以外にも別の理由はありそう)
たとえば、儀式には、街ひとつぶんくらいの面積をまるごと別の原理で書き換える必要がある。それによって、現状の世界で一番強固な「現行のテクスチャー」の力を弱める。
そしてこの「書き換えられた部分」を切れ込みにして、全地球のテクスチャーをひっぺがすとっかかりにするとかね。
他の考え方では、現行のテクスチャーが朱い月の復活を妨害しているので(という仮定)、いったん別の原理で塗りつぶしておく必要があった、とかでもいい。
ロアはたぶん、朱い月などどうでもいいと思っているかもしれないけれど、集めた祖たちは「朱い月の復活のために」という建前のもと集まっているだろう。
もちろん、祖としては単純に朱い月に血と遺伝情報を献上したいから、でもいい。
(あ、いや、ロアは朱い月をどうでもいいと思ってないほうがいいかな? このへんは後の課題としておきます)
月姫リメイク以前の旧設定に基づくアルズベリ儀式関連の話題はこちらで詳しく語っていますので、意欲のある方はどうぞ。
TYPE-MOONの「魔法」(5):第六法という人類滅亡プログラム
ところで。
なぜロアはそれをしようとしたのか。
●ロアがフランス事変で求めたもの
稿をあらためて別のページで取り上げるつもりですが、『歌月十夜』をはじめとする旧設定資料で、「儀式には祖が六人必要」と書いてある。
ロアが呼びよせた(と推定の)祖が5人。
それにロアを足して六人なのだと思います。
(注:別の説を第四回で提案します)
ロアは原理血戒を持っていないし祖でもないのですが、アルクェイドをつかまえて能力ごと自分のものにし、原理血戒を持ってるのと同じ状態になろうとしたんじゃないかな。
繰り返しになりますがアルクェイドにテクスチャーを剥がす能力があるのはシエルエクストラルートで明らかになっている。
本稿の説では、祖が5人も6人も必要なのは「現実を侵食する能力者がたくさんほしい」からなので、それに類する能力をアルクェイドから奪うことができればロアを6人目として頭数に入れられる。
ロア本人の大目的は「アルクェイドを自分のものにする」だったと思います。
ロアの人生の目的は「人類が最後に出す結論を知ること」。
ところが道半ばで「その最終結論とはアルクェイドの姿だ」と思ってしまった。
なので、彼の動機は「アルクェイドを手に入れること」にすりかわっている。
そして「人類が最後に出す結論とはアルクェイド」なので、アルクェイドさえ手に入れたら、「もう人類はべつに存続しなくてよい」。
(「手に入れる」が具体的にどういうことなのかについてはのちのエントリにて)
さらに。ロアさんは、物語の端々でほのめかされることですが、「そろそろ転生、やめたい」と思ってるふしがある。マーリオゥが「あいつたぶん転生したくないんだわ」みたいなこと言ってましたでしょう。
ロアは別人に転生することで生きながらえる吸血鬼なので、人類が滅んで転生先が存在しなくなったら、みごと転生やめて死ぬことができます。
かれの謎めいた回想(ネロらしき人物との会話)でも、そういった思想を語っていました。「人類が滅んだら、私の転生も終了で結構だ」と。
ロアはアルクェイドを手に入れて人類を滅ぼせば、「人類の最終結論を手に入れて」「死ぬ」という、かれの二つの望みが同時にかなうことになる。
あとは、抜け殻か何かになったアルクェイドを朱い月がどうしようと別段どうでもよろしい。
私はロアをそういう人物とみています。
なんと、ロアが抱えていたのは
「絶対に死ぬことができない境遇にある自分が、いかにして人生をまっとうし、死ぬか」
というテーマだったことになります。
これはシエルが抱えていたテーマとまったくおなじものだ。
「絶対に死ぬことができない呪いを抱えた人物が、どういう答えを出すのか」
そういうテーマが、この物語には伏流水のように流れており、同じテーマを持った人々が別々の答えを出すところに、味がある。
私の読みはそのようなものです。
そして、マーリオゥもじつはこのテーマを持ってるんじゃないか、と私は思うのですが、これについても稿をあらためることにします。
●現行のテクスチャーはだれが敷いたの?
なんとここからが本題。これまでは前置き。
原理血戒とは、「現行の世界のありかた(テクスチャー)」を、自分の原理で上書きする能力のことである。
死徒および朱い月は、最終的に、「現行の世界のありかた(テクスチャー)」をぜんぶ新しいものに敷き直すことを目的としているのである。
という、
ここまで語ってきた仮説を、ひとまずOKだとして下さい。
とすると、自然とこういう疑問が浮かんでくる。
「いま敷かれている“現行の世界のありかた(テクスチャー)”は、いつ、だれが敷いたの?」
●誰が決めるのか
これを、「誰が敷いたとかはない。自然に発生したものだ」と考えて済ませることもできます。
だけど、
「いまある世界のありかたや、物理法則は、特定の誰かの『原理』が地表にびっしり貼り付けられたものである」
「死徒二十七祖や朱い月がやっていることは、それに対する異議申し立てである」
とするほうが、ストーリーとして魅力的だと思うんですね。
このストーリーの場合、以下のような言い方が可能になります。
「この物語は、『世界のありかたを誰が決めるのか』という闘争の物語である」
●大規定
今ある世界のありかたや物理法則は、いつ、誰が、どうやって決めたのか。
私が思う答えは、「主の大規定」です。
シエルルートで、シエルに「黒鍵って何?」と尋ねると、黒鍵がなんであるのか、どうして吸血鬼に効くのかをスゴイ勢いで教えてくれます。
そこに「主の大規定」というワードが出てきます。
まとめると「主の大規定」というものがあり、それを物理的にたたっ込むと吸血鬼は死ぬ。
なんで主の大規定をたたっ込むと吸血鬼は死ぬのか。
それは、主の大規定の正体が、「主という人が自分の原理をもとにして世界中に敷いた、“現行の世界のありかた=テクスチャー”」だからである。
という考えです。
主の大規定は、現行の世界のありかたや物理法則を一意に定めたものである。
その既定の中に、「不死者などというものはこの世に存在しない。人間は死んだらただ死ぬのである」と書いてある。
だからふつう、人間は死んだらただ死ぬ。生き返ったり死体のまま動いたりしない。
ところがこの世界はたまにちょっとバグることがあって、吸血鬼や屍鬼がうっかり存在してしまうことがある。
(ノエルが祖のことを「この世の故障(バグ)みたいなヤツら」と表現している)
そういう「この世のバグ」に対して、「大規定では、不死者などありませんぞ」という「現行の正しいルール」を物理的にたたきこむ。
すると、叩き込まれた部分が「現行のテクスチャーの物理法則」に即したものに直る。
現行のテクスチャーの物理法則は「不死者などない」と規定しているので、不死性が消滅し、吸血鬼にダメージがとおる。
●主とはだれか
シエルは聖堂教会という宗教の吸血鬼狩りエージェントです。
そのシエルが「主」と呼ぶ人物は、聖堂教会の創始者、教祖でしょう。
すなわちこの説では、
「現行の世界のありかたを定義したのは聖堂教会の教祖であり、現行の物理法則は教祖の原理が元になっている」
ことになる。
この想定の場合、シエルの属する聖堂教会が吸血鬼退治をおこなっているのは、ただ単に「人類にとって脅威だから」ということにとどまらない。
シエルたちにとって、
「この世のありかたは、私たちの主が定めたもうたものである」
「しかるに、主の定めに反した吸血鬼というものがいる」
「その吸血鬼たちはあまつさえ、主の定めた世界の形を自分好みに改造しようとしている」
ノエルに「この世のバグみたいな奴ら」と呼ばれた祖たちは、現行の世界=主の大規定をひっぺがして書き直し、「バグこそが正しい世のありかたである」という状態を作ろうとしている。
「そのようなことは許してはおけない」
というのが、聖堂教会にとっての真の動機だということになる。
シエルたち聖堂教会、とりわけ代行者が、本当にフォーカスしているものは、
「現行の世界のありかたを、現行のまま守ること」
彼女たちが守ろうとしているものは、いま人類たちがこうだと思い込んでいる世界そのものである。そういうことがいえそうです。
さて。
そうなると、シエルたちの「主」は、たった一人でこの世のありかたを確定させたとんでもなくすごい人だったことになる。
祖ですら不可能なそんなことをひとりでなしとげるその人物はいったい何者だ。
聖堂教会はあきらかにカソリックのキリスト教を参照した存在ですから、主とは現実世界でいうところのイエス・キリスト。ジーザス・クライストだ。
(以下、シエルのいう「主」のことを「ジーザス・クライスト」と呼称します)
ジーザス・クライストはどうして、「この世のありかたや物理法則を一意に定める」なんてことができたのだろう。
それは、ジーザスが「第一魔法」の魔法使いだからだ。
というのが私の解です。
●第一魔法ダイジェスト
第一魔法の正体が何で、ジーザスはどうやってそれを獲得し、獲得した力でいったい何をしたのかについて(の私の説)は、以下の記事に全部まとめてあります。
TYPE-MOONの「魔法」(1):無の否定の正体
こいつを読んでいただくのが一番確実で誤解がないのです。なので意欲のある方はどうぞ。
ですがまあ、大変なので、以下ダイジェストで記述しておきます。
(注:後半、月姫リメイク仕様にちょっとアレンジしています)
まず大前提として、第一の魔法使いは紀元(西暦1年)ごろ生まれたという情報がある。ジーザスさんも西暦1年生まれ(伝)だ。
私たちの(現実の)世界というものは、つきつめていえば、「本当に実在する」のかどうかわかりません。
私というものは、実は誰かの夢の登場人物かもしれない。その夢を見ている誰かは、別の人の夢の登場人物かもしれない。その夢を見ている別の誰かも、さらに別の人の夢の人物かもしれない。その別の人は、私の見ている夢の登場人物かもしれない。
我々は、「現実というものはある」と思い込んでいるが、上記のようなものであることを誰も否定できないのです。
これを一言で言うと、「この世は夢まぼろしにすぎず、実は無かもしれない」。
ジーザスは、世界が実在することを証明しようとした。
この世という閉じた系の「外側に出て」世界を見ることで、実在を確かめようとした。
ジーザスがそうしてみると、世界の外側に「根源」があるのを発見した。
TYPE-MOON世界観の「根源」は、存在を存在させている力そのものです。ジーザスは、根源がこの世を「確かに存在させている」のを確認した。
この世はたしかに存在することがわかった。
この世が無ではないことがわかった。
だから第一魔法は「無の否定」と呼ばれる。
さて、ジーザスは根源に到達したので、根源由来の巨大な(ほぼ無限の)エネルギーを自分のものにできました。
その巨大なエネルギーを使って、地球上の全表面にまんべんなく広げたのが「大規定」、すなわちジーザス本人の原理を全地球のテクスチャーとしたもの、だと考えます。
ジーザスは根源接続者なので、根源のエネルギーを使ってテクスチャーを一意に定めることができた、という解法なのですね。
ジーザス以前の世界は、(字義どおりの)物理法則としてはいまの世界と似ていたと思いますが、はっきり定まってはおらず、ときどきゆらいでいた(と想定)。
また、世界中のさまざまな地域で、それぞれ独自の世界観が地表に貼り付けられていて、ある地域で絶対に不可能なことが別の地域ではだれでもできる基本技能だったりするなんてことがあった(だろう)。
ジーザスは、世界中でゆらぎ、まちまちだった「世界のありかた」「世界のルール」「法則」をひとつに統一した。
(ついでに根源を父なる神として擬人化した宗教を広げた)
それらのルールは基本的に、人間が生きやすく、発展しやすい方向性になっていた。
その統一ルールの中に、「人間を含めた生き物は生きて死ぬものだ。不死人というものはありません」と書いてある。
だからその文言を物理的につっこんでやると吸血鬼は死ぬか傷つく。「不死人というのはあるんですよー」という勝手な原理で動いてる奴に、「不死人はない、おまえはもう死んでる」という原理を打ち込むわけだから。
だから黒鍵はちゃんと刺されば真祖も傷つけられる。
(と思う)
●この物語は何であるのか
この月姫リメイクの物語は、
「この世界が何であるのかを私が決める」
と思っている者たちの闘争の物語である、というのが私の考えです。
約2000年まえ、ジーザス・クライストが
「この世界が何であるのかを私が決める」
「すなわち人が決める」
と言って、世界のかたちをひとつに定めた。
いまも、ジーザスの弟子たちが、その世界のかたちを守ろうとしている。
しかしこの世界には、ジーザスの定めた決まりに真っ向から反する吸血鬼という存在がいて、ジーザスの決めた世界のかたちに異議申し立てをしている。
「私が、私たちが、世界のかたちを別のものに決めなおすのだ」
そういってさまざまな暗躍をしている。その暗躍のひとつの形がフランス事変であろう。
フランス事変は失敗したが、吸血鬼たちは同じことを何度でもやろうと考えているだろう。
アルズベリで同じことをやる予定があるし、ロアは月姫の舞台である2010年代の日本で、人類にとって致命的な何らかの陰謀を実現しようとしているだろう。
(ロアのいう「私のパンティオンを起動させるのだ」のパンティオンはローマの万神殿。神々が集う場所。「世界とはこういうものだ」と決めるのが神だとしたら、「世界のありかたはこれから私が決めるのだ」と思ってる祖は神のようなもの。もし仮に、ロアの陰謀がフランス事変の再現なら、祖が6名集う場所は「万神殿」といえるだろう)
(ただ、このシリーズの後の回で提示しますが、ロアの陰謀はフランス事変の再現ではない可能性も高いです)
以上が、私の目にうつった、この物語の世界観です。
●私たちと奈須きのこさんの世界観
吸血鬼たちは、それぞれ自分の偏った世界観で、現実の世界を書き換えようとしている者たちだ、という話をしました。
ならこういうことが言えるんじゃない?
ちょっと失礼な表現になってしまうかもしれませんが、
「我々の現実世界において、いちばん偏った世界観を持ってるのは奈須きのこさんだ」
なんせ、ここに出てくるような独特きわまる月姫の世界観を、たったひとりで考えたと推定されるのですものね。
奈須きのこさんは、我々が見知っている現実の物理法則やしくみをほとんどまるごと無視して、独自の「原理」……世界観にもとづいた物語をつくりあげて発表する。
それは、
「この現実というのは実は誰かに押し付けられたまやかしかもしれなくて、本当はこうなんじゃない? というか、こうであってもいいって思わない?」
という悪魔のささやきとともに、われわれに影響力を行使して、新たな原理の版図を広げようとしているようにも見える。
構造が同じなんだ。
じつは我々も、
「この世界が何であるのかを誰が決めるのか」
という闘争を、行っているのではないか。
たとえば、私たち読者にしても、『月姫リメイク』を読んだ結果獲得した解釈がひとりひとり違うし、謎に対する答えもちがう。原作を読んでそこから作った同人誌の内容も、解釈違いで人々が戦争しちゃうくらいちがう。
なぜ違うかといえば、私たちはひとりひとり持ってる原理が違い、それぞれ偏った世界観を持ち、自分の原理に支配された状態で作品を受け取っているから。
私たちの読みや、私たちの作品作りは、それぞれの原理を押し立てて広げようとする、祖たちの国盗り合戦みたいなものだ。コミックマーケットは万神殿だ。
同人出身の奈須きのこさんは、ひとつの原作から無限に異なる同人誌がひろがっていくさまを見てきた作家だ。
そういう人が、「それぞれ違う世界観がせめぎあいをする」という「世界観」をもって、それを作品化するのは、必然かもしれないというのが、私の世界観です。
まずはこんなところで。細かい謎については別の投稿にて。
続きます。
続き。
月姫リメイク(3)ロアの転生回数とヴローヴに与えた術式
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月姫リメイク(2)原理血戒と大規定・下
筆者-Townmemory 初稿-2023年6月3日
後編です。
前半を読んでからここにお越し下さい。
前編はこちら。
月姫リメイク(1)原理血戒と大規定・上
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死徒社会は人の命を上位者につぎつぎ献上していくねずみ講になっている。
このねずみ講システムで、全人類の命を最終的に一か所に吸い上げる。
そうしてできた命のかたまりを人型に成型したら、朱い月は「余は満足じゃ」かなんか言ってそこに乗り移るだろう……という話の続きから。
●遺伝子を吸うという新しい設定
死徒たちは人間の血が食料なので、手下たちに人間の血を集めさせる。
という基本設定が、月姫リメイクのホテルのシーンで、アルクェイドによって語られました。
これはだいたい既存の吸血鬼のイメージ通りだし、同人版の月姫のころからある設定だと思います。
が、同シーンで、
「吸血鬼が血を集めるのは、人間の遺伝子を集めるという側面もある」
という新たな説明が追加されました。
ねずみ講システムで、血と同時に遺伝情報を集めてる。
「彼らの肉体を構成する遺伝子は、長生きすればするほど、力を付ければ付けるほど原子の増大に耐えられなくなる。力を増やし続けないと崩壊してしまうクセに、力をつけすぎると自己のカタチーーー“秩序”を保てない」『月姫 -A piece of blue glass moon-』 4/火炎血河Ⅰ Note.吸血鬼と長い話の続き。
「それを補うためにはどうするか?
簡単よ。他から、自分のような異常な秩序ではない、正常な秩序をとりこんで、失われていく秩序を補完していけばいい」
(略)
「ようは、人間の血を吸って、その遺伝情報を取り込むことで自身の肉体を固定してるってコト。
死徒にとって吸血は食事や力の貯蓄(プール)であるのと同時に、存在のために必要不可欠な行為なの」
吸血鬼は食事として、人間の血を集める。
吸血鬼は肉体を維持するため、人間の遺伝情報を集める。
なぜ、後者の設定が必要なのか、疑問に感じました。
『月姫』という作品は、前者の「食事のため」という設定だけで、じゅうぶんに物語を支えられます。
じっさい、同人版の旧『月姫』は、遺伝子うんぬんの設定がなくても成立していました。
これについて私は、
「最終的に、集めた全人類の遺伝情報を元にして、朱い月の肉体を生成する予定だからだ」
というふうに想像します。
死徒社会ねずみ講システムは、血を一か所に集めると同時に、全人類の遺伝情報を一か所に集めることもできそうです。
人間の遺伝情報が、壊れていく死徒の体を補って再組成することを可能とするなら、過剰に集められた人間の遺伝情報が、新たな架空の人体ひとつをまるごと組成することも可能であるはずだ。
それは人類全部の遺伝子を材料に作った人体だ。ただの人体じゃない。
朱い月は、過去と現在の、全人類の全遺伝情報を持つ1個の人体を作りたい。それはいってみれば究極の一つの人体であろう。
そこに自分が乗り移りたい。
遺伝情報の一か所には一つの情報しか入らないのであって、そこに「全人類の遺伝情報」が入るなんておかしくない? という感じもしますが、しかし、奈須きのこさんは、「マルチ遺伝子存在ですが何か」くらいのことは平然といいそうな人だ。
●フランス事変
1989年、フランスのとある町で、原理血戒を有する祖が5名とロアが一度に集まるという事件が起こりました。
主催はロアで、目的は何らかの儀式とされている。
ロアはアルクェイドが来るのを待っていたと思われるふしがある。
アルクが来るのを待つあいだ、街では祖たちによる大虐殺が行われた。
ロアの中からこれを見ていたシエルは以下のように言っている。
……崩壊の時間まで、あとわずか。『月姫 -A piece of blue glass moon-』 8/孵化逆II Note.1989年
崩壊とは街の事ではなくて、もっと大きなものに向けられたものだった。
わたしの中にいる「私」がずっと積み上げてきた事業の結実。
ロアの儀式は、ロアがずっと(何回もの転生の中で)計画してきたことで、これが実現すれば、この街ひとつどころではない、もっと大きなものが崩壊することになる、と彼女は言う。
この儀式は、アルズベリで予定されているものとほぼ同種のもので、大目的は「現行の世界のありかた=テクスチャーのひっぺがし」でいいと思います。ひっぺがしたらこの世はおおむね崩壊するでしょう。
アルクェイドが光体になったとき、足元にブラックホールぽいものができて、地表にあるものがどんどんしまっていかれちゃう現象が起こったでしょう。
事象収納:EX『型月稿本』P.42
星の地表で育ったモノを概念的、かつ物理的に収納する能力。
惑星の地表に発生したあらゆる創作物―――テクスチャーの没収。
神霊でいうのなら『権能』レベルの異能だが、惑星が持つ機能なのでスキルというよりシステムである。
光体になったアルクェイドの足下に表れた重力圏は地球全土のテクスチャーを収納するだけの規模を持っている。
ようはあれを人為的に起こそうとした。
地球上を全部サラ地にして、人類も全部滅んでしまえという悪だくみを実行しようとした。
本稿の説では、原理血戒は「現行の世界のありかた(テクスチャー)を書き換える能力」としている。
テクスチャーを書き換える能力を持った存在が大勢集まって、テクスチャーをひっぺがす恐ろしーい悪だくみをするという想定なので、いろいろ話の筋を通しやすい。
祖が5名(ないし6名)集められているのは、「あの街一帯のテクスチャーを大勢でよってたかって別の原理で塗りつぶす」必要のためだろうと思えます。
(それ以外にも別の理由はありそう)
たとえば、儀式には、街ひとつぶんくらいの面積をまるごと別の原理で書き換える必要がある。それによって、現状の世界で一番強固な「現行のテクスチャー」の力を弱める。
そしてこの「書き換えられた部分」を切れ込みにして、全地球のテクスチャーをひっぺがすとっかかりにするとかね。
他の考え方では、現行のテクスチャーが朱い月の復活を妨害しているので(という仮定)、いったん別の原理で塗りつぶしておく必要があった、とかでもいい。
ロアはたぶん、朱い月などどうでもいいと思っているかもしれないけれど、集めた祖たちは「朱い月の復活のために」という建前のもと集まっているだろう。
もちろん、祖としては単純に朱い月に血と遺伝情報を献上したいから、でもいい。
(あ、いや、ロアは朱い月をどうでもいいと思ってないほうがいいかな? このへんは後の課題としておきます)
月姫リメイク以前の旧設定に基づくアルズベリ儀式関連の話題はこちらで詳しく語っていますので、意欲のある方はどうぞ。
TYPE-MOONの「魔法」(5):第六法という人類滅亡プログラム
ところで。
なぜロアはそれをしようとしたのか。
●ロアがフランス事変で求めたもの
稿をあらためて別のページで取り上げるつもりですが、『歌月十夜』をはじめとする旧設定資料で、「儀式には祖が六人必要」と書いてある。
ロアが呼びよせた(と推定の)祖が5人。
それにロアを足して六人なのだと思います。
(注:別の説を第四回で提案します)
ロアは原理血戒を持っていないし祖でもないのですが、アルクェイドをつかまえて能力ごと自分のものにし、原理血戒を持ってるのと同じ状態になろうとしたんじゃないかな。
繰り返しになりますがアルクェイドにテクスチャーを剥がす能力があるのはシエルエクストラルートで明らかになっている。
本稿の説では、祖が5人も6人も必要なのは「現実を侵食する能力者がたくさんほしい」からなので、それに類する能力をアルクェイドから奪うことができればロアを6人目として頭数に入れられる。
ロア本人の大目的は「アルクェイドを自分のものにする」だったと思います。
ロアの人生の目的は「人類が最後に出す結論を知ること」。
ところが道半ばで「その最終結論とはアルクェイドの姿だ」と思ってしまった。
なので、彼の動機は「アルクェイドを手に入れること」にすりかわっている。
そして「人類が最後に出す結論とはアルクェイド」なので、アルクェイドさえ手に入れたら、「もう人類はべつに存続しなくてよい」。
(「手に入れる」が具体的にどういうことなのかについてはのちのエントリにて)
さらに。ロアさんは、物語の端々でほのめかされることですが、「そろそろ転生、やめたい」と思ってるふしがある。マーリオゥが「あいつたぶん転生したくないんだわ」みたいなこと言ってましたでしょう。
ロアは別人に転生することで生きながらえる吸血鬼なので、人類が滅んで転生先が存在しなくなったら、みごと転生やめて死ぬことができます。
かれの謎めいた回想(ネロらしき人物との会話)でも、そういった思想を語っていました。「人類が滅んだら、私の転生も終了で結構だ」と。
ロアはアルクェイドを手に入れて人類を滅ぼせば、「人類の最終結論を手に入れて」「死ぬ」という、かれの二つの望みが同時にかなうことになる。
あとは、抜け殻か何かになったアルクェイドを朱い月がどうしようと別段どうでもよろしい。
私はロアをそういう人物とみています。
なんと、ロアが抱えていたのは
「絶対に死ぬことができない境遇にある自分が、いかにして人生をまっとうし、死ぬか」
というテーマだったことになります。
これはシエルが抱えていたテーマとまったくおなじものだ。
「絶対に死ぬことができない呪いを抱えた人物が、どういう答えを出すのか」
そういうテーマが、この物語には伏流水のように流れており、同じテーマを持った人々が別々の答えを出すところに、味がある。
私の読みはそのようなものです。
そして、マーリオゥもじつはこのテーマを持ってるんじゃないか、と私は思うのですが、これについても稿をあらためることにします。
●現行のテクスチャーはだれが敷いたの?
なんとここからが本題。これまでは前置き。
原理血戒とは、「現行の世界のありかた(テクスチャー)」を、自分の原理で上書きする能力のことである。
死徒および朱い月は、最終的に、「現行の世界のありかた(テクスチャー)」をぜんぶ新しいものに敷き直すことを目的としているのである。
という、
ここまで語ってきた仮説を、ひとまずOKだとして下さい。
とすると、自然とこういう疑問が浮かんでくる。
「いま敷かれている“現行の世界のありかた(テクスチャー)”は、いつ、だれが敷いたの?」
●誰が決めるのか
これを、「誰が敷いたとかはない。自然に発生したものだ」と考えて済ませることもできます。
だけど、
「いまある世界のありかたや、物理法則は、特定の誰かの『原理』が地表にびっしり貼り付けられたものである」
「死徒二十七祖や朱い月がやっていることは、それに対する異議申し立てである」
とするほうが、ストーリーとして魅力的だと思うんですね。
このストーリーの場合、以下のような言い方が可能になります。
「この物語は、『世界のありかたを誰が決めるのか』という闘争の物語である」
●大規定
今ある世界のありかたや物理法則は、いつ、誰が、どうやって決めたのか。
私が思う答えは、「主の大規定」です。
シエルルートで、シエルに「黒鍵って何?」と尋ねると、黒鍵がなんであるのか、どうして吸血鬼に効くのかをスゴイ勢いで教えてくれます。
そこに「主の大規定」というワードが出てきます。
偉大なる主の『大規定』……その文言を読み上げ、聞かせる事で亡者は主の愛を知り、この地上から消え去ります」『月姫 -A piece of blue glass moon-』 10/空の弓II Note.黒鍵ってなに? と訊いてみる
「あれは刃のように見えますが、実際は『聖言』なんです。
死者を悼み、葬(おく)る規定(ことば)を基にして作られた、教会の秘蹟。
日本風に言うと、そうですね……ありがたいお経と思ってください」
(略)
「死徒をはじめとする『完全に人間ではなくなった』モノたちには、言葉による退去は敵いません。
(略)
ですのでーーー私たちは魂ではなく肉体そのものに聖言を刻みつけ、正しいルールに書き換える。
汚染された魂は救えませんが、肉体だけは聖言によって人に戻る。
『不死』という虚無の孔(ドア)に鍵をさして、回すように。
聖典武装を受けた死徒は、その部分だけでもかつての肉体を『思い出し』、消滅します」
まとめると「主の大規定」というものがあり、それを物理的にたたっ込むと吸血鬼は死ぬ。
なんで主の大規定をたたっ込むと吸血鬼は死ぬのか。
それは、主の大規定の正体が、「主という人が自分の原理をもとにして世界中に敷いた、“現行の世界のありかた=テクスチャー”」だからである。
という考えです。
主の大規定は、現行の世界のありかたや物理法則を一意に定めたものである。
その既定の中に、「不死者などというものはこの世に存在しない。人間は死んだらただ死ぬのである」と書いてある。
だからふつう、人間は死んだらただ死ぬ。生き返ったり死体のまま動いたりしない。
ところがこの世界はたまにちょっとバグることがあって、吸血鬼や屍鬼がうっかり存在してしまうことがある。
(ノエルが祖のことを「この世の故障(バグ)みたいなヤツら」と表現している)
そういう「この世のバグ」に対して、「大規定では、不死者などありませんぞ」という「現行の正しいルール」を物理的にたたきこむ。
すると、叩き込まれた部分が「現行のテクスチャーの物理法則」に即したものに直る。
現行のテクスチャーの物理法則は「不死者などない」と規定しているので、不死性が消滅し、吸血鬼にダメージがとおる。
●主とはだれか
シエルは聖堂教会という宗教の吸血鬼狩りエージェントです。
そのシエルが「主」と呼ぶ人物は、聖堂教会の創始者、教祖でしょう。
すなわちこの説では、
「現行の世界のありかたを定義したのは聖堂教会の教祖であり、現行の物理法則は教祖の原理が元になっている」
ことになる。
この想定の場合、シエルの属する聖堂教会が吸血鬼退治をおこなっているのは、ただ単に「人類にとって脅威だから」ということにとどまらない。
シエルたちにとって、
「この世のありかたは、私たちの主が定めたもうたものである」
「しかるに、主の定めに反した吸血鬼というものがいる」
「その吸血鬼たちはあまつさえ、主の定めた世界の形を自分好みに改造しようとしている」
ノエルに「この世のバグみたいな奴ら」と呼ばれた祖たちは、現行の世界=主の大規定をひっぺがして書き直し、「バグこそが正しい世のありかたである」という状態を作ろうとしている。
「そのようなことは許してはおけない」
というのが、聖堂教会にとっての真の動機だということになる。
シエルたち聖堂教会、とりわけ代行者が、本当にフォーカスしているものは、
「現行の世界のありかたを、現行のまま守ること」
彼女たちが守ろうとしているものは、いま人類たちがこうだと思い込んでいる世界そのものである。そういうことがいえそうです。
さて。
そうなると、シエルたちの「主」は、たった一人でこの世のありかたを確定させたとんでもなくすごい人だったことになる。
祖ですら不可能なそんなことをひとりでなしとげるその人物はいったい何者だ。
聖堂教会はあきらかにカソリックのキリスト教を参照した存在ですから、主とは現実世界でいうところのイエス・キリスト。ジーザス・クライストだ。
(以下、シエルのいう「主」のことを「ジーザス・クライスト」と呼称します)
ジーザス・クライストはどうして、「この世のありかたや物理法則を一意に定める」なんてことができたのだろう。
それは、ジーザスが「第一魔法」の魔法使いだからだ。
というのが私の解です。
●第一魔法ダイジェスト
第一魔法の正体が何で、ジーザスはどうやってそれを獲得し、獲得した力でいったい何をしたのかについて(の私の説)は、以下の記事に全部まとめてあります。
TYPE-MOONの「魔法」(1):無の否定の正体
こいつを読んでいただくのが一番確実で誤解がないのです。なので意欲のある方はどうぞ。
ですがまあ、大変なので、以下ダイジェストで記述しておきます。
(注:後半、月姫リメイク仕様にちょっとアレンジしています)
まず大前提として、第一の魔法使いは紀元(西暦1年)ごろ生まれたという情報がある。ジーザスさんも西暦1年生まれ(伝)だ。
私たちの(現実の)世界というものは、つきつめていえば、「本当に実在する」のかどうかわかりません。
私というものは、実は誰かの夢の登場人物かもしれない。その夢を見ている誰かは、別の人の夢の登場人物かもしれない。その夢を見ている別の誰かも、さらに別の人の夢の人物かもしれない。その別の人は、私の見ている夢の登場人物かもしれない。
我々は、「現実というものはある」と思い込んでいるが、上記のようなものであることを誰も否定できないのです。
これを一言で言うと、「この世は夢まぼろしにすぎず、実は無かもしれない」。
ジーザスは、世界が実在することを証明しようとした。
この世という閉じた系の「外側に出て」世界を見ることで、実在を確かめようとした。
ジーザスがそうしてみると、世界の外側に「根源」があるのを発見した。
TYPE-MOON世界観の「根源」は、存在を存在させている力そのものです。ジーザスは、根源がこの世を「確かに存在させている」のを確認した。
この世はたしかに存在することがわかった。
この世が無ではないことがわかった。
だから第一魔法は「無の否定」と呼ばれる。
さて、ジーザスは根源に到達したので、根源由来の巨大な(ほぼ無限の)エネルギーを自分のものにできました。
その巨大なエネルギーを使って、地球上の全表面にまんべんなく広げたのが「大規定」、すなわちジーザス本人の原理を全地球のテクスチャーとしたもの、だと考えます。
ジーザスは根源接続者なので、根源のエネルギーを使ってテクスチャーを一意に定めることができた、という解法なのですね。
ジーザス以前の世界は、(字義どおりの)物理法則としてはいまの世界と似ていたと思いますが、はっきり定まってはおらず、ときどきゆらいでいた(と想定)。
また、世界中のさまざまな地域で、それぞれ独自の世界観が地表に貼り付けられていて、ある地域で絶対に不可能なことが別の地域ではだれでもできる基本技能だったりするなんてことがあった(だろう)。
ジーザスは、世界中でゆらぎ、まちまちだった「世界のありかた」「世界のルール」「法則」をひとつに統一した。
(ついでに根源を父なる神として擬人化した宗教を広げた)
それらのルールは基本的に、人間が生きやすく、発展しやすい方向性になっていた。
その統一ルールの中に、「人間を含めた生き物は生きて死ぬものだ。不死人というものはありません」と書いてある。
だからその文言を物理的につっこんでやると吸血鬼は死ぬか傷つく。「不死人というのはあるんですよー」という勝手な原理で動いてる奴に、「不死人はない、おまえはもう死んでる」という原理を打ち込むわけだから。
だから黒鍵はちゃんと刺されば真祖も傷つけられる。
(と思う)
●この物語は何であるのか
この月姫リメイクの物語は、
「この世界が何であるのかを私が決める」
と思っている者たちの闘争の物語である、というのが私の考えです。
約2000年まえ、ジーザス・クライストが
「この世界が何であるのかを私が決める」
「すなわち人が決める」
と言って、世界のかたちをひとつに定めた。
いまも、ジーザスの弟子たちが、その世界のかたちを守ろうとしている。
しかしこの世界には、ジーザスの定めた決まりに真っ向から反する吸血鬼という存在がいて、ジーザスの決めた世界のかたちに異議申し立てをしている。
「私が、私たちが、世界のかたちを別のものに決めなおすのだ」
そういってさまざまな暗躍をしている。その暗躍のひとつの形がフランス事変であろう。
フランス事変は失敗したが、吸血鬼たちは同じことを何度でもやろうと考えているだろう。
アルズベリで同じことをやる予定があるし、ロアは月姫の舞台である2010年代の日本で、人類にとって致命的な何らかの陰謀を実現しようとしているだろう。
(ロアのいう「私のパンティオンを起動させるのだ」のパンティオンはローマの万神殿。神々が集う場所。「世界とはこういうものだ」と決めるのが神だとしたら、「世界のありかたはこれから私が決めるのだ」と思ってる祖は神のようなもの。もし仮に、ロアの陰謀がフランス事変の再現なら、祖が6名集う場所は「万神殿」といえるだろう)
(ただ、このシリーズの後の回で提示しますが、ロアの陰謀はフランス事変の再現ではない可能性も高いです)
以上が、私の目にうつった、この物語の世界観です。
●私たちと奈須きのこさんの世界観
吸血鬼たちは、それぞれ自分の偏った世界観で、現実の世界を書き換えようとしている者たちだ、という話をしました。
ならこういうことが言えるんじゃない?
ちょっと失礼な表現になってしまうかもしれませんが、
「我々の現実世界において、いちばん偏った世界観を持ってるのは奈須きのこさんだ」
なんせ、ここに出てくるような独特きわまる月姫の世界観を、たったひとりで考えたと推定されるのですものね。
奈須きのこさんは、我々が見知っている現実の物理法則やしくみをほとんどまるごと無視して、独自の「原理」……世界観にもとづいた物語をつくりあげて発表する。
それは、
「この現実というのは実は誰かに押し付けられたまやかしかもしれなくて、本当はこうなんじゃない? というか、こうであってもいいって思わない?」
という悪魔のささやきとともに、われわれに影響力を行使して、新たな原理の版図を広げようとしているようにも見える。
構造が同じなんだ。
じつは我々も、
「この世界が何であるのかを誰が決めるのか」
という闘争を、行っているのではないか。
たとえば、私たち読者にしても、『月姫リメイク』を読んだ結果獲得した解釈がひとりひとり違うし、謎に対する答えもちがう。原作を読んでそこから作った同人誌の内容も、解釈違いで人々が戦争しちゃうくらいちがう。
なぜ違うかといえば、私たちはひとりひとり持ってる原理が違い、それぞれ偏った世界観を持ち、自分の原理に支配された状態で作品を受け取っているから。
私たちの読みや、私たちの作品作りは、それぞれの原理を押し立てて広げようとする、祖たちの国盗り合戦みたいなものだ。コミックマーケットは万神殿だ。
同人出身の奈須きのこさんは、ひとつの原作から無限に異なる同人誌がひろがっていくさまを見てきた作家だ。
そういう人が、「それぞれ違う世界観がせめぎあいをする」という「世界観」をもって、それを作品化するのは、必然かもしれないというのが、私の世界観です。
まずはこんなところで。細かい謎については別の投稿にて。
続きます。
続き。
月姫リメイク(3)ロアの転生回数とヴローヴに与えた術式
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しかしユミナの件といいコルネリウス・アルバが「シュポンハイム"修道院"次期院長」だったのといい、時計塔と聖堂教会は元々かなり近い組織だったのでは
……イングランド国教会がローマから分裂した時に魔術組織として独立した?
閉じた島国だから古い神秘が残っているというのは、新世界として不完全であることを意味しますし
ああ、ほんとに、全部おっしゃるとおりだと思います。
ユミナジーザスほぼ同一人物説をとるなら、魔術協会と聖堂教会は「同一人物が設立した」くらい言えてしまいます。
根源が聖堂教会の神なら、教会と協会が仲悪いのは「神に手を触れて、あまつさえ力を奪おうなどけしからん」みたいなことかもしれませんね。