2020年の6月以降、神奈川県の三浦半島や横浜で異臭の通報が相次いでいます。それを受け、一部では「大地震の前兆ではないか」という声が上がっています。なかでも、立命館大の高橋学特任教授は、異臭は大地震の前兆だと断定し、「内務省がまとめた文書に、関東大震災の直前に、三浦半島の城ヶ島と浦賀で異臭騒ぎがあったと記録されている」といったことを、週刊誌で何度も繰り返しコメントしています。
地震頻発と異臭騒ぎに関連…“異常事態”の日本列島で何が?(日刊ゲンダイ 2020年9月28日)
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/279216
「戦前の内務省の記録によると、1923年の関東大震災の直前、浦賀(横須賀市)や三浦半島南端の城ケ島で異臭がしたといいます」(高橋学教授)
小泉環境相も関心、神奈川県内での異臭騒ぎの正体は(夕刊フジ 2020年10月6日)
https://www.zakzak.co.jp/soc/news/201006/dom2010060009-n1.html
「1923年の関東大震災の記録にも地震の前に三浦半島付近から異臭がしたという記述がある」(高橋学教授)
…しかし、実際にはそのような記録はなく、デマだと思われます。以下に説明します。
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実は、今回の異臭騒ぎの前から、「関東大震災の発生後(発生前ではない)に、海底からガスが出ているのが観測された」という話は、よく言われていたのです。
内務省社会局が編纂した『大正震災志』という資料の附図に、「大正十二年九月一日大震後相模灘水深変化調査図」というものがあり、城ヶ島や浦賀の付近に「瓦斯噴出」「一時瓦斯噴出ス」と記載があるのです(下図、赤丸参照)。


…ここで注意すべきことは、まずこの資料は、「大震後」という資料名からも分かるように、関東大震災が発生した後に、地震による地殻変動を調査するために出した測量船による観測であるということです。1923年9月1日の地震発生後から翌年の1月中旬までの測量成果であることも、きちんと明記されています。つまり、地震の「前兆」としてガスが噴出していたわけでは全くないということです。
また、この記録には「瓦斯噴出」とあるだけで、「異臭」がしたとは全く記載されていないですし、異臭「騒ぎ」があったなどということもどこにも記載されていないのです。
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高橋学教授は週刊誌で、「内務省の記録によると」と「城ヶ島や浦賀で」異臭騒ぎがあった、と言っていますので、ほぼ間違いなくこの資料のことを言っていると思われるのですが、「地震の直前に異臭騒ぎがあった」と勝手に思い違いをして、よく確かめもせずに各週刊誌に吹聴しているようです。
つまりは、「関東大震災の前に異臭騒ぎがあったという記録がある」という高橋学教授の話は、デマだと思われます。本ブログでも何度も紹介しているとおり、高橋学教授はこれまでも週刊誌などでデタラメな話を繰り返しておりますので、少なくとも高橋学教授が別の何らかの一次資料をきちんと引用して提示しない限りは、「関東大震災の前に異臭騒ぎがあった」という話を信じる理由は何もないと思います。
なお、この高橋学教授は、立命館の文学部の教授で、災害リスクマネージメントがご専門であり、地震学が専門ではまったくないということも、付け加えておきます。