ところが、このような操作をいろいろなタイミングや条件で行うと、バラバラにされた細胞のなかで、ごく限られた極めて稀(まれ)なケースとしてこんなことが起こった。自分が何になるべきかわからないながら、分裂することだけはやめずに生き続ける細胞がいたのだ。つまり無個性なまま、永遠の自分探しを続ける旅人である。これがいわゆるES(胚性幹)細胞だった。 . . . 本文を読む
彼は度々、ブラウンズ投手陣のふかいなさをマイクを通して口にしたそうだ。怒ったのは選手の奥様方。彼女らは球団に電話をかけ、「ディーンにそれを証明させろ」と迫ったという。球団側は当初、もちろん取り合わなかったが、9月半ばに37歳のディーンと1㌦で契約する。婦人会がうるさかったこともあるが、ディーンもその気。なにより低迷する集客に、刺激を与えたかったようだ。 . . . 本文を読む
『二十一世紀に生きる君たちへ』は、地元東大坂の教科書会社の求めで書いた短い文章で、小学校6年生の教材だった。「長編小説を書くぐらいのエネルギーが要った」と話したという。生原稿には、おびただしい推敲(すいこう)の跡があり、分かりやすく書こうとした気迫が伝わってくる。
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自分たちの学説を、世界中全ての国に普遍妥当するものと信じたアダム・スミスに始まる古典派経済学の部分的で単純な拡大解釈によって「新古典派」あるいは「新自由主義」と称された学派の唱導したグローバリズムの実態が、砂上の楼閣を金殿玉楼にみせかけようとしたウォール街による金融帝国主義であったことも、今や大方の目に明らかになった。 . . . 本文を読む
八雲ことラフカディオ・ハーンは明治23年に40歳を目前にして日本にやって来た。家族もいない。ニューヨークの文壇で少しは知られた作家だったが、華々しく活躍していたわけでもなかった。おそろしく無器用で、あちこちにぶつかりながら生きているようなハーンに、ちょうど40歳になろうとしていた私は共感を覚えたのだった。 . . . 本文を読む
ふと立ち寄った骨董屋のウインドーに1個の指輪が置かれていた。一見して前世紀のものであり、しかもフランス製だとわかった。店の人に頼んで、飾り棚から出してもらって、しげしげと眺めた。精巧な細工は指輪の裏側にまで施されている。まだプラチナやホワイトゴールドが現在ほど普通に使われてはいなかった時代のものなので、ローズカットのダイヤは金と銀とで装飾されていた。 . . . 本文を読む
異質で相反する要素の和らかな共存を図って、2つの焦点を持つ楕円形の国家を形成したい、というのが天武天皇の願った理想の和の国の姿であった。伊勢神宮において旧宮と新宮の敷地が隣接し、20年毎に神儀(御神体)がその間を往復する……という奇跡的な遷宮制度の創始者も天武天皇である。 . . . 本文を読む
大人になってからも、相変わらず涙もろい。しかも、いつもぼんやりしている。意味もなくじっと戸外の景色を眺めている時間が長い。そんなところが、どうやらみょうな人たちにつけこまれるらしい。ときどき、もうずっと昔に死んでしまった人の姿を街で見掛けたり、家の中に誰か知らない人がいる気配を感じることがある。 . . . 本文を読む
派手な金満家は世間からよく言われない。永守重信さんが家を建て直した時のことだ。「米国人は『ワンダフル、おめでとう。お前、成功してよかったな』と素直に祝福してくれますが、日本人は難しい。『こんな立派な家を建てて、うちにモーターをよほど高く売りつけているに違いない』と勘ぐる人もいますよ」 . . . 本文を読む
僕たち人間には、未来を見通すことは残念ながら不可能です。この世界には必ず不確実な部分があり、それが確実なものと混在している(この状態を「偶有性」といいます)からです。その中で生きていくために大切なのは、何が起こるかわからないという不確実性を、不安に感じるのではなく、楽しいと捉(とら)えることができるかどうかだと思います。 . . . 本文を読む
「昭和前期の国家」つまり昭和初年から終戦までの日本を書きたい、という司馬の意欲は強かったが、ついに書かなかった。長編小説の主人公になりうる人物がなかったともいわれている。山形さんも「書くに値する人物がいないんだ」という言葉を聞いている。司馬は結局、随筆や紀行などに専念して「晩年」を迎えたが、こうした作品群でものんきな世間話は書けなかった。 . . . 本文を読む
あのとき私は中学2年生だった。国語の課外授業の一環として、同級生とともに教師に引率され、詩人の西脇順三郎を訪ねた。今から考えるとまったく赤面の至りだが、私は西脇の眼をじっとみつめて尋ねた。「先生はどうして詩を書くのですか?」。これには西脇も困ったようだ。無知な小猿みたいな中学生を相手に、詩論など語れるはずもない。ふっと、あきらめたように溜息をついて口を開いた。 . . . 本文を読む
――水深の深い海には「生物ポンプ」とでも呼ぶべき特殊な生態系が存在する。その生態系は、地球温暖化の一因になる空気中の余剰炭酸ガスをポンプのようにして間断なく深海層に運んでおり、地球の気温上昇を抑えるのに役立っている――。本庄さんは20年前から立てていたこんな仮説をついに数値で実証しました。 . . . 本文を読む
司馬遼太郎さんが寅さんファンだったことはあまり知られていない。司馬の蔵書は約6万冊。文字通り万巻の書をひも解き、濃密な取材を積み重ねたうえで、創造と想像の弓を引き絞って書く。司馬の長編小説は命を削るような作業の果実だった。そんなハードな仕事から離れて司馬は随筆、評論、紀行などを次々に取材、執筆する合間のひととき、テレビを見た。 . . . 本文を読む
シナプスとは、脳細胞同士がコミュニケーションを取るための脳細胞の接合部で、1つの脳細胞が受けた刺激を別の脳細胞に伝える役割を果たし、このシナプスが1人ひとり独自のパターンを生み出す回線をつくっている。だから、繰り返し現れる個々の行動パターンを知るには、この回線について知る必要がある。 . . . 本文を読む