路上の宝石

日々の道すがら拾い集めた「宝石たち」の採集記録。
青山さんのダンスを原動力に歩き続けています。

◆”Blue Suede Shoes”って・・・、どんな靴!?

2007-10-17 13:47:22 | ALL SHOOK UP
さてさて、『ALL SHOOK UP』開幕まであと2ヶ月ほどになりました。CDに掲載されているsynopsisをちょっと読んだだけなので、登場人物の人間関係が錯綜しながらスピーディーに展開していくストーリーに追いついていくのがやっと、というのが正直な感想なのですが、やはりエルヴィスの名曲ぞろいのCDを聴いていると、1曲1曲がステージ上で、どんな演出で披露されるのか、本当に楽しみになります。今日は、そんななから、この1曲をセレクト。”Blue Suede Shoes”です。

たたみかけるようなギターの音が印象的なイントロに続き、“Well, it’s one for the money, two for the show, three to get ready, now go , cat, go.”と、冒頭からChadを挑発するかのような、威勢のよいEd(Natalie)の歌声が響くこの曲ですが、この冒頭のワンフレーズの歌い方を聴いただけで、Natalieのroustaboutへの変貌ぶりが伝わってくるかのようです。「何をしたっていいけれど、俺のブルー・スエード・シューズだけは踏んでくれるなよ!」そんなことを歌っていくこの曲ですが、『ALL SHOOK UP』1曲目の”Love Me Tender”を歌っているNatalieの声を彼女のスタンダードだと思ってこの曲を聴くと、そのギャップに驚かされます。Natalie役というのは、かなり歌い方に幅が求められる役どころなのかもしれない、そんなことを思います。東京のステージで、花影アリスさんがどんな歌声を聞かせてくださるのか、CDを聴いていると、すごく楽しみになってきます。曲の途中、Chadとのデュエットになるところがあるのですが、そこからどんどん盛り上がり、最後、Ed、ChadにGuysが加わってコーラスになり、”blue suede shoes”を連発するところなんて、最高ですよね。かなりノリのいい曲なので、ファンとしては、このシーン、青山さんが歌って踊るシーンだったらいいな、なんて思ったり。

・・・で、この曲を初めて聴いたとき、ふと疑問に思ったのが、「blue suede shoesって、どんな靴!?」ということでした。「ブルーのスエードの靴」が、どうして曲のタイトルにまでなっちゃうのか?そして、「何をしたっていいけれど、俺のブルー・スエード・シューズだけは踏んでくれるなよ!」とまで言わせているblue suede shoesには、どんな意味が込められているのか?ということが気になってしまったのです。

まず、BW版『ALL SHOOK UP』の黄色いCDジャケットにも描かれている、バイクに二人乗りしてthe open roadを行くNatalie(Ed)とChadのイメージ、あちらを思い浮かべていただきたいと思います。
Chadの後ろにNatalieが乗っている、のではなく、Natalieがバイクを運転して、その後ろにChadというのが、カワイイですね。ドレスのようにも見える白いブラウスを風にはためかせて、ブルージーンズをはき、バイクにまたがるNatalieですが、その足元に眼を移すと・・・。彼女が履いているのは、どうやらblue suede shoes?もしかしたら、単にブルーのスニーカーということなのかもしれませんが、第1幕でこの曲”Blue Suede Shoes”が歌われるシチュエーションを考え合わせると、やっぱり彼女が履いているのは、「ブルーのスエードシューズなのかな?」という気がしてきます。

ジャケットに描かれたこのイメージは、おそらくフィナーレをイメージして描かれたものだと思います。そこへと至る前に、変身するNatalieを中心に、紆余曲折いろいろとある、というのが、この『ALL SHOOK UP』の面白いところ、という気がします。Chadへの密かな恋心を抱くNatalieは、最初、彼の気をひくために、自動車修理工のオーバーオールを脱ぎ捨て、ドレスを着るということですが、Chadは、そんなNatalieには眼もくれず、なんと代わりにMiss Sandraに恋をしてしまう・・・。そこで、Chadのことを諦められない彼女は、彼に近づくために大胆な秘策を考案。それは、Chadのようなroustaboutな扮装で変装し、彼のsidekickとして、彼のそばに常に寄り添うというもの。このとき、バイクにまたがって登場するNatalie(Ed)が、歌うのが、この曲”Blue Suede Shoes”だということです。

ネットをあちらこちらサーフィンしてみたところ、エルヴィスの曲として定着しているこの曲には、なるほどおもしろい背景があるようではないですか。(もう皆さん”Blue Suede Shoes”で、検索済みでご存知かもしれないですね。)エルヴィスが歌ったこの曲は、1956年9月にリリースされたようですが、実はこの曲、元々は1955年末にCarl Perkinsが録音し、翌年1月21日にリリースされたものだったそうです。そもそもこの曲が誕生したきっかけは、1955年の秋、Johnny CashがPerkinsに、兵役時代に出会った軍隊仲間の話をしたことだったそうです。Cashのその友人は、軍隊で定められたスエードのブーツ(←ブルーだったかどうかについては、諸説あるようです)をいつも念入りに手入れしていたのだそうで、「この靴」の話をベースに1曲作れないか?と、Perkinsに持ちかけたそうです。(このときのエピソードに関しては、また諸説あるようで、私が他に見つけたものでは、「Cashが食堂の列に並んでいるときに聞いた”Don’t step on my blue suede shoes.”という言い回しをベースにして」という情報がありました。)

その靴について、何も知識がなかったPerkinsは、どうやって曲を作ろうか、と考えあぐねていたようですが、その数日後の12月4日に、テネシー州で演奏していた彼は、たまたまステージ近くで踊っていた一組のカップルのやりとりから、この曲の着想を得ます。パートナーの女の子は、とてもカワイイ娘であったのに、一緒に踊っている男の子はなんと!自分の履いているおろしたてのblue suede shoesがダンスの途中に踏まれて傷まないように、この女の子に注意をしていた、というのです。あんなカワイイ女の子よりも、自分の新品の靴のことを気にかける男がいるなんて!そのことに触発されたPerkinsは、一気にこの曲を書き上げたのだそうです。「たかが靴一足」が、眼の前でダンスを一緒に踊っている女の子よりも大事だなんて!Perkinsの受けた衝撃は、かなりのものだったに違いない、と想像してみるわけです。この男の子が取った挑戦的な態度は、当時の若者のあこがれだった「反抗・反逆」の精神につながるクールさとセクシーさをイメージさせたのかもしれないし、曲づくりに悩んでいたPerkinsに大きなインスピレーションを与えたのではないでしょうか。ちなみに、Perkinsは曲を書き上げた当初、”suede”を間違えて”swade”と綴っていたぐらいで、この靴については、具体的に何も知らなかったのだそうです。

・・・で、そんな背景のあるこの曲を、当時のPerkinsやエルヴィスが歌ったとしたら・・・。当時の女子は、エルヴィスとのダンスシーンを妄想して、つれないエルヴィスに熱狂して、「私にその青い靴を踏ませてよ~」と黄色い声を発したでことでしょう。実際に、1957年には、Larry Williamsの”Short Fat Fannie”「チビの太ったファニー」という曲に、”Whenever I’m around her I’m on my p’s and q’s「彼女のそばにいるときは俺はいつもおとなしくなっちまう」/She might step on my blue suede shoes「彼女は俺のブルー・スエード・シューズを踏むかもしれないな」”というフレーズがあるそうです。(←何とも刺激的な歌詞ですね~)他の曲でこの言葉”blue suede shoes”がどんなふうに使われているのかを見てると、確かに当時の人々がこの言葉に抱いていた感情というのが読み取りやすいかもしれません。また、Williamsのこの曲には、他にも”Heartbreak Hotel”,”Tutti Frutti”,”Hound Dog”などのエルヴィスの曲に関連した言葉が使用されています。

また、普通の人が大切にするはずのものなんかは、当然のように捨て去り、自分の靴のことを一番にして、歌ってしまうエルヴィスに、当時のオーディエンスは、ロックの反逆魂を読み取ったはずで、女子だけでなく、男子にとっても憧れの存在となりえて、ヒット間違いなし!だったのではないでしょうか。実際にこの曲の歌詞においては、曲の誕生エピソードにもあった「女の子」が、他のスゴイことに置き換えられているわけです。例えば、”Well,you can knock me down,step on my face,slander my name all over the place.”「俺を打ちのめしたっていい、顔を踏みつけたっていい、悪名を世間に流したっていい(でも、俺のこの靴だけは踏んでくれるな)」とか、”Well,you can burn my house,steal my car, drink my liquar from an old fruit jar.”「俺の家を燃やしたっていい、車を盗んだっていい、酒を盗み飲みしたっていい(でも、俺のこの靴だけは踏んでくれるなよ)」という具合です。「たかが靴一足」の話なのにねぇ~、スンゴイ熱いよ!Perkins(エルヴィス)!とちょっと呆れる部分がありますが、どうでもいいはずの「たかが靴一足」と比べられているものがスゴイから、そんなスゴイものよりも「たかが靴一足」にこだわりを持って大切にしているように歌うエルヴィスに、オーディエンスは、ノック・ダウンだったのかもしれません。漠然と、ROCK魂って、こういうことなのかもしれないな、そんなことも思ったり。普通の人からしたら(第三者からしたら)一見どうでもいいような、うすっぺら~いもののために、がむしゃらに突っ走ってしまう・・・、確かにカッコいいかもしれません。(当時のオーディエンスに感情移入してみるわけです。)

そんなROCKの古典的名作であったこの曲、実際にも、ブルース、カントリー、ポップスという、すべてのマーケットを制覇した初のロカビリーレコードのひとつということで記念碑的な作品だったそうです。1956年1月にリリースされたPerkinsによるこの曲は、ローカルな成功を収め、カントリーチャートで受け入れられた後は、ポップスやR&Bのマーケットも狙えそうだと、プロデューサーのSam Phillipsは考えたそうです。そしてビルボードが、この曲をポップス市場での有望株であるとみなすと、カヴァー曲が出始め、エルヴィスのヴァージョンも56年2月にレコーディングされ、彼のファースト・アルバム『エルヴィス・プレスリー登場』の第1曲目に収録されたそうです。Perkinsのオリジナルは、ミリオン・セラーの大ヒット、エルヴィスの”Heartbreak Hotel”と同時期に、ビルボードにチャートインしたそうです。しかし、Perkinsにちょうど運が向いてきた1956年3月21日、ペリー・コモのショーの収録のために、ニューヨークへと向かう途中で、Perkinsは交通事故に合い、重傷を負います。幸い命は助かったということですが、皮肉なことに、入院中のPerkinsは、病室のテレビで、自分のヒット曲”Blue Suede Shoes”が、Elvisによって歌われていたことを知ったということです。ちなみにElvisは、56年に3回(2/11,3/17,4/3)、この曲をテレビの全国放送で演奏しているということです。(←You Tubeでいくつか映像が見られますよね。)また後にエルヴィスは、この俺でもPerkinsのオリジナルには勝てない、と語っていたとか。

それで、このPerkinsやエルヴィスによる”Blue Suede Shoes”についてあちらこちらで読んでいると、当時の文化に詳しくはない私のような者でも、当時のオーディエンスが、この曲にどんな想いを抱いていたのかが、なんとなくわかるような気がしてきます。この曲の誕生秘話にあった「女の子よりも自分の靴を大切にする男の子」というイメージからさらに発展して、どうやら”blue suede shoes”という言葉とこの曲には、「これだけは絶対に譲れない!」という自分のプライド(自尊心)とかアイデンティティーに関わってくるようなものを、当時のオーディエンスは読み取っていたようです。なかには、この曲”Blue Suede Shoes”こそROCK魂の象徴だ、というような記事もあり、それらを読んでいると、当時のオーディエンスの気分を追体験できるような気がしてきます。Cashが軍隊で出会ったスエード・ブーツを手入れしていた友人のエピソードから、”blue suede shoes”のイメージは、この曲のヒットとともに、段階を経て飛躍し、この靴の旅もスタートから随分と遠くへ来たものだなあ~、と当時の文化を知らない私などが見ていても思ってしまう部分があります。「衣裳」にまつわるイメージや言葉って、往々にしてそういうところがあると思いますし、そういうところが興味深いと思っています。まさに、「靴に歴史あり、ですな」という感じで。この曲のヒットから約50年経った今日でも、Elvisと言えば、”Blue Suede Shoes(blue suede shoes)”という認識が定着しているようです。そのことのひとつの例として、全編エルヴィスの曲を使った、その名も”Blue Suede Shoes”というバレエを見つけました。コチラ。男性ダンサーが皆、”blue suede shoes”を履いて踊ってます。振り付けは、Dennis Nahatという方のようです。「エルヴィス→ロックンロール→blue suede shoes」という認識は、かなり一般的になっていることのひとつの例かもしれません。そして、この『ALL SHOOK UP』というミュージカルが上演されて、この曲が歌われることにより、この青い靴の歴史に新たな1ページが加えられることは、間違いなさそうです。

話を『ALL SHOOK UP』に戻します。さきほどもちょっとふれたとおり、ロック魂を象徴するような、ある意味「男くさい」ともいえるこの曲を、『ALL SHOOK UP』では、第1幕後半で、Natalieが歌います。自分のことには興味のないChadの気をひくために、roustaboutである彼と同じような扮装をして、Edとして彼の前に現れるときに歌われるということです。このときのEdやChadが具体的にどんな衣裳に身を包んでいるのか、まだネットその他のところで画像を見つけられていませんが、CD解説書一番最後のページの写真で、2幕冒頭”All Shook Up”を中央でギターを持って歌うChadも、足元をblue suede shoesできめています。Chadのroustaboutなイメージというのが、やはり”Blue Suede Shoes(blue suede shoes)”に凝縮されているからこそ、NatalieがEdに変わるその場面で、この歌が歌われるのかな、という気がします。実際の劇場においてNatalie(Ed)の足元がこの靴なのかはわからないし、仮にそうだとしても、きっと視覚的にとらえられるかどうか、というほどの小さい面積のものでしょう。でも、現代の観客にもきっとblue suede shoesのこうしたイメージが定着しているからこそ、このシーンでこの曲が歌われることによって、広い劇場を埋め尽くすたくさんの観客に、効果的にNatalieの変身をアピールできるのではないでしょうか。


Blue suede shoes/青いスエードの靴。少なくともこの場面でのNatalie(Ed)にとって、この靴は、本当の自分を隠して、大好きなChadのそばにずっといようと、彼のsidekickとなるために履いたもののはず・・・。でも、さきほどもご紹介したCDジャケットの図では、Chadの後ろにNatalieではなく、Natalieの後ろにChadが乗っています。”Blue Suede Shoes”のシーンからは一転して、まるで、ChadがNatalieのsidekickとして寄り添っているかのようですね。Blue suede shoes/青いスエードの靴は、もしかしたら、「本当の自分」を隠すための靴、であると同時に、「本当の自分/自分の中の譲れないもの」と向き合うための靴なのかもしれません。『ALL SHOOK UP』のsynopsisを読んでいる限り、この曲の歌われるあたりから、登場人物ひとりひとりのストーリーが動き出していく印象があります。それはきっと、ChadとNatalieを中心に、青いスエードの靴の不思議なチカラによって、彼らひとりひとりが、自分の中の「譲れない何か」と向き合っていくからかもしれないですね。

日本ではまだまだ、ダンスと言えば、「赤い靴」ですが、こんなおしゃれな「青い靴」を履いて、ダンスを踊る。そんな手も・・・、ありかもしれませんね。だって、『ALL SHOOK UP』は、”A NEW MUSICAL COMEDY”ということですから。

左の画像は、Las VegasにあるElvis-A-Rama Museumのサイトで見つけた、エルヴィスのblue suede shoesの写真です。
CDジャケットでNatalieの履いている靴のデザインは、これに似ているかも。
右の画像は、物好きな私が買ってしまった『ALL SHOOK UP』のピアノ・ボーカル用の楽譜集(笑)から、”Blue Suede Shoes”のページです。
高校時代、軽音楽部に所属していて、ギター持って歌っていたことがあるんです。「楽譜が来ると、気合の入り方変わって、歌い方変わるね~」と、当時はよく噂されていました。
この楽譜集、どんな感じで演奏するべきか、各曲1ページ目に注意書きが書いてあります。
例えば、”Blue Suede Shoes”は、rockabilly。
1曲目の”Love Me Tender”は、tenderly。
”All Shook Up”は、driving soul groove。
”A Little Less Conversation”は、sexy funk、といった具合。
更新が滞っていたら、昼間からCDかけながら、歌でも歌ってんだなあ~、と思ってください。自分で言うのもなんですが、要するに、ヒマです。(笑)
ネットで調べると、歌詞を掲載しているページもたくさんあり、とても参考になりますが、CDかけて楽譜持って歌うのも、なかなかよいです。皆様にもおススメです。

"Blue Suede Shoes"の曲の歴史については、コチラが詳しいページで、参考にしました。



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