長島 潤 Sing a mindscape

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石川達三「幸福の限界」

2022-02-26 09:52:00 | 

再読のための覚え書き


幸福の限界

石川達三(1905-1985


夫の戦死の報せを受けて、省子は、幼い子どもを連れて実家に戻ってきた。


その妹の由岐子は、姉の結婚を女中奉公だと断じ、自由を求めていた。


彼女たちの母、敦子は、善良な夫、峯三との生活に、幸福を見出せないでいた。


娘たちの姿に女としての不幸せを見た敦子は、ある決心を実行しようとする。


「あの子を手放してやろう。一人きりで行かせてやろう!娘は傷ついてもどって来るだろう。しかし意外に美しい幸福を、私たちの見たことも触れたこともない幸福を、手にとり頭にかざして帰って来るかも知れない」



2022.2.24読了


幸福の限界

新潮文庫

昭和29330日初版発行

昭和32121014


# #読書 #文学 #文庫 #石川達三 #幸福の限界






石川達三「泥にまみれて」

2022-02-24 08:38:00 | 

再読のための覚え書き


泥にまみれて

石川達三(1905-1985


結婚して1年と7ヶ月の娘の園子は、夫が芸者遊びをしたことに傷つき、実家に帰ってきたが、父と母は追い返してしまう。


母の志乃は、身勝手な夫との20年の闘いとその精神的遍歴を、娘に語って聞かせる。


「恋愛と結婚の喜びに陶酔していたお前が、いま突然に陶酔の夢をたたき破られてしまった。お前は眼が醒めたのです。人生というものは愛情の陶酔の中にあるのではなくて、現実の悲しい風景のなかで闘いながら生きて行く現実の自分のなかにあるのです」


・・・・・・・・・・・・


石川達三、初読み。父権主義、マチズモな作家と聞いていて敬遠していたが、読んでみたら決して男尊女卑なわけではなく、描かれた男と女の心のベクトルは、真を突いているように思われる。


箴言のちりばめられた作品。



2022.2.23読了


泥にまみれて

新潮文庫

昭和29515日初版発行

昭和3232012

旧仮名遣い


# #読書 #文学 #文庫 #石川達三 #泥にまみれて






田村泰次郎「肉体の門・肉体の悪魔」

2022-02-23 09:36:00 | 

再読のための覚え書き


肉体の門・肉体の悪魔

田村泰次郎(1911-1983


《肉体の悪魔》

佐田は、日本軍の下士官として、中国山西省での作戦に従事していた。


そこに、看護婦と称する中国人の女たちが、捕虜として連れてこられた。


佐田は、その中の一人、張沢民の美しさに惹かれ、やがて二人は相思相愛の仲になる。


しかし、張沢民の正体は、中国八路軍の女工作員だった……


「人間の愛情は、何と勝手で、利己的なのだろう。君とまだ一言も口さえもきかないのに、もう私は君を対象として一つの夢をつくりあげ、その夢の実現のためにのみ、私は君を必要とするのだ」


・・・・・・・・・・・・


田村泰次郎、初読み。「肉体文学」などと言われていて、さぞどぎついのだろうと思い、敬遠していた。


けれど、読んでみたら、どの作品もどの作品もなんと丁寧に心の機微が描かれていることか。俄然、他の作品も読みたくなった。


肉体の門・肉体の悪魔、他5



2022.2.22読了


肉体の門・肉体の悪魔

新潮文庫

昭和23915日初版発行

昭和31102014

旧仮名遣い


# #読書 #文学 #文庫 #田村泰次郎 #肉体の門・肉体の悪魔






ブールジェ「死」

2022-02-21 09:10:00 | 

再読のための覚え書き


ポール・ブールジェ(1852-1935

木村太郎訳


戦時下のフランス、マルサル医師は野戦病院で働いていた。


恩師であるオルテエグ医師は、神経外科医として傷病兵たちを精力的に治療するが、自身は不治の病に侵されていた。やがてそれは、彼のまだ年若い妻に告げられることになる。


妻の従兄弟で有能な将校であるエルネストは戦地で負傷、彼らの病院に運ばれる。妻との関係を疑うオルテエグ医師は、その肉体とともに精神も瓦解してゆく。


マルサル医師は、この三角関係と関わりながら、死とは何かという生命の根源的な問いに触れてゆく。


「この世に誰か苦しんでいるのがある限り、そしてその者に対して私たちに何か少しでもよいことがしてやれる限り、この世を去ることは、それは逃亡することです。そしてこの戦時には、この世界中の不幸の中では、到る所に、苦しんでいる人間がいます」



2022.2.20読了


新潮文庫

昭和27515日初版発行

昭和43122020

旧仮名遣い


# #読書 #文学 #文庫 #ブールジェ #






山本有三「無事の人」

2022-02-19 00:59:00 | 

再読のための覚え書き


無事の人

山本有三(1887-1974 


戦争が激化し始めた頃、宇多は、海岸近くの宿に逗留していた。


頼んだ「あんま」が腕のいい人なので、素性を聞くと、失明する前は大工だったという。


やがて、宇多はそのあんまの為さんと馴染みになり、為さんは自らの波乱に満ちた境遇を語り始めるのだった。


「おかしな話ですが、仕事に身を入れると、ちょいちょい無事でねえことが起こるんですよ。わっちゃあ、無事なんてえものは、なんでもねえこった。欲せえかかなきゃ、ひとりでに、そうなってくんだ。こんなこたあ、わきゃあねえと思ってましたが、どうして、どうして、こんなむずかしいものはござんせんね」


・・・・・・・・・・・・


不幸続きの為さんに、禅寺の和尚が、「無事の人になれ」と言う。作品の中ではその意味について触れていないが、禅宗における「無事是貴人」とは、「どんな境遇にあっても、あたりまえのようにこなしていける人こそが貴ぶべき人である」ということなのだそうだ。


山本有三は、その代表作の「路傍の石」の印象や、または子供向け教養書に携わったことから、もし少年少女文学の作家と思われている向きがあるとしたら非常に惜しい。


特にこの「無事の人」はぜひ手に取ってほしい小説だと思う。



2022.2.18読了


無事の人

新潮文庫

昭和2965日初版発行

昭和316105


# #読書 #文学 #文庫 #山本有三 #無事の人